「あら、何故ってせっかくのお酒ですよ
一番の美女は、魔王様のところから離れないですから
こうしているのに、随分なご挨拶ですねぇ。
美酒は美女が注いでこそ美酒足りえる、こんなことは子どもでも知っている事でしょうに」
七乃の楽しそうな笑顔と笑い声に、高覧が気色ばむのを見て、悠が自らの額を抑える。
これが天然で、というのなら可愛いものですが・・・
この人は、全て計算尽くで火種を放りこむから嫌なんですよね・・・
「でしたらご心配には及びませんよ、此方にも美女は揃っていますから」
これは七乃によって引き出された言葉、この場の雰囲気を崩さぬためにも、悠はこう答える他にない。
次の攻め手によって、七乃が何を狙って居るのかが見えるだろうが、状況はかなり劣勢と言わざるをえない。
なにしろ・・・悠は現状、唯一絡める男性なのだ。
七乃がその気なら、そこを上手く利用し此方をいくらでも好きに追い込める。
「そうみたいですねぇ、どなたも劣らずの美女ぞろい
田豊さんはわざわざ遠出しなくても、美しい花を愛でられたのに
どう言った心境の変化なのかなぁと、ちょっと思ってしまったものですから」
内心で悠は小さな溜息をつく、元々正面きって此方に喧嘩を売ってくるつもりはないのは解っていた。
最初の七乃がチクリと嫌味を言ったのも、それでありながらその後の比呂の行動に何も言ってこないのも、これで納得がいった。
つまり、この人は・・・楽しく酒を飲む分には構わないが、此方に迷惑をかけるな
そうなる前に、お前が何とかしろ、と名指しで釘を刺しに来たわけですか。
出来ないなら、此方で対処しますよと
にこにこした笑顔を向け、その笑顔の下に実力行使という脅しを隠しながら、というのがなんとも七乃らしいといえばらしい。
確かに、斗詩一人で抑えるには少々心もとないですが
猪々子はともかく、今日の姫は何時もと感じが少し違うので、大丈夫でしょうけどねぇ
「一人でそっと花を愛でるというのも、趣があっていいものですが
咲き誇る花を、どれ程に美しいのか皆に見せたいと思うのは
幸福なるものの・・・驕り、と叱られることではないでしょう」
悠のその答えに満足したのか、調子っはずれの明るい笑い声をあげながら、七乃がごく自然に悠の空いた杯を酒で満たす。
「花がそれで一層輝きを増すというのなら、尚の事と」
軽く肩をすくめる様にして、杯を目線に上げ。
杯越しに、視線を交わし合う七乃と悠、小さく目礼し合うと悠は杯を空け、七乃は音もなく立ち上がる。
「あ、そうそう」
立ち去りかけたところで、悠を振り返り・・・
「ところで田豊さん、そちらの集団ではどの方が一番の美女とお考えです」
小さく舌を出した七乃の顔が、彼女の主の通りなと相まって。
実にぴったりの感想を、悠が心の中で呟く。
・・・悪魔ですか、貴女は。
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