「そこで止まんな、それ以上はアタシらの領域だ・・
アンタ目端が効いて気も回る、その上腰が軽い癖に、重心が低すぎる。
アタシが言ってることわかんだろ・・・
そんなヤツに、はいそうですかって、アホ面晒してテメェのとこの王様ノコノコ差し出すかよ」
愛らしいメイド服姿の幽の口から出てきたのは、この上なく冷たく暗い言葉。
だが、その一言で比呂は内心舌を巻く。
この赤毛の少女は、従者などではない・・・外見に騙されていたが、こいつはとんでも無い手練の戦人だ。
一瞬で、此方の戦力を見抜いた・・・いや、そうではない。
周囲の人間を、全て警戒していたのだ・・・料理を取り分け配りながら、宴の空気に溶け込みながら。
幽はこう言っているのだと、比呂は正確に理解した。
お前のような得体の知れない手練を、我が主に近づけさせる筈がないだろう、と
近寄らせろというのなら、信用に足る証を示し、自分を退かせろ。
そうでないのなら・・・一歩も近寄らせはしない。
「もっと解りやすく言ってやればいいか・・・コホン、
私どもの連れが大変失礼なことを、御気分を害されませんでしたでしょか。
宴の席、酒の席でのことでございます、どうぞ水に流していただけますよう、皆様にお酌などさせていただけますでしょうか」
ニッコリと笑いながら、穏やかな声色の丁寧な口調に豹変する幽
先程まで、刃の様な目付きで睨んでいた警戒心の塊のような・・・
手練の戦人、と評した・・・何をするか解らない相手に、麗羽や月に、自分より近い間合いに入られる。
その事を想像して、首筋の裏がじれるような感覚。
そんな比呂の目の前に、黒く塗りつぶされたような・・・異形の右腕が握る杯が二つ、差し出される。
杯には酒が満たされており、どちらも未だ使われていない。
そこまで読み取った所で、男の声が低く、深く耳を打つ。
「良い余興だった。
宴の余興にしては地味だが、今日は花が主役だ、添える程度で無ければ花が霞む」
たった一言、一影がそう言っただけで
幽から感じられる、山嵐のように逆立っていた警戒の刺は身を伏せ。
同時に、耳を垂れた子犬のように、心配そうに一影を伺う。
「ばかね幽、アンタが必要なこと必要なだけやったって一影は褒めてるんじゃない。
やり過ぎだったら、黙らされてるでしょ、そんくらい解んなさいよ。
そっちのあんたも、いつまでぼーっとしてんの
宴の余興だったんでしょ、杯を受けるの、受けないの、はっきりしなさいよ男のくせに」
矢継ぎ早に文句の山を積まれながらも、そこには嫌味がない為、腹がたつより先に、良くこれだけ並べ立てられるものだと、妙に感心しながら、比呂はその感覚に何処か懐かしいものを感じ・・・表情を綻ばせる。
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突発イベント的なコラボは、思いついたままに書いているので
ある意味で非常に勉強になります。
どなたか一人でも面白いと思っていただけたら、僥倖です。