小さな手を引いてきて、自分の隣りに座らせ。
取皿に溢れるほどの料理をのせて、はい、と差し出す。
「・・・あの、私こんなに・・・」
此方の顔色をうかがうような、控えめな声に、大仰にため息を付いてから
その幾らかを自分の皿に移して、再度同じ仕草を繰り返す。
弱々しい、下から覗き込むような視線。
無言でまだ多すぎると訴えかけられるのに、詠ははっきりと首を振った。
「ダメよ、ちゃんと食べなさい。
自分で気がついてないだろうけど、貴女不摂生がたたって体調を崩しかけてる。
慣れない旅をしていたのでしょう、そんな体調でそんな食生活を続けていたら大病を引き込むわよ。
肉は食べたくないみたいだけど、少しでも無理して食べなさい」
きっぱりと断言をする、強いもの言い。
初対面の相手にここまで言い切られ、普段であれば何も言い返せなくなるどころか
どんな顔を向ければいいのかすら、わからなくなってしまう月だったが・・・
相手の言葉が、きつく一方的であるにもかかわらず、本当に自分の体のことを心配してくれているのを感じ取り、はい・・・と小さく頷いて取皿を受け取る。
ほら首筋なんか日焼けしたらみっともないわよ、と沙のように薄く柔らかい布を、まるでヴェールのように髪に留め、やれ手ぬぐいだ、やれお茶だと新婚夫婦のように甲斐甲斐しく月の世話を焼いていく詠。
「あの、どうしてそんなに気にかけてもらえるのですか」
まず肉を最初に食べて見せ、ふと月が詠に尋ねる。
言われて詠もはたと動きを止める。
「・・・なんでかしらね、何だかそうするのが当たり前みたいで、自然にやってたわ」
詠の本気で不思議がっている表情に月が思わず吹出す。
「ちょっとなによ、笑うことないでしょ。
大体ねアンタがこう、ぽややーんとして見てると心配になるからってのは絶対にあるんだからね」
小さく指先で口を抑えながら、品よく笑う月。
「たしかにそうですね」
笑いながらそう答えてしまう月に毒気をすっかり抜き去られ、重ねて言い返してやろうと構えていた詠が肩透かしを食らい
小さくため息を付いてから月に、ちょっと拗ねたような顔を見せる。
「もういいわ、なんだか言い返してるボクが馬鹿みたい。
あーもー、零してるじゃない、笑ってないで、うごくなー」
二人の様子にそれとなく気を向けていた一影が、白襟巻きのうちで微かに唇を歪める。
なんだかんだと言いながら、詠は世話焼きで、何でもきっちり出来てしまうだけに、そうでない相手を見ると思わず手を出してしまうのだ。
それが、相手によってはうまくいかないこともあるが、あの二人なら大丈夫だろうと、意識を目の前の男に向ける。
女男と幽はいっていた、直感力に優れる幽だけにその言葉はある一面において正しいのだろう。
視力を失った一影には、比呂の外見は見えない。
だが、幽が外見だけど相手を総判断したとは思えない
かといって、筋肉隆々の大男をさして女男とも言わないだろう。
つまりは・・・あいも変わらずこの世界の将には、女にみえる将しかいないということか。
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今日一日で、三日分くらい文章考えて悩んだ気がします。
どなたかお一人でも面白いと思っていただけたら僥倖です。