No.677324

新・戦極†夢想 三国√・鬼善者を支える者達 第027話

今の心境。

「さてバイト行くか。でも出発まで少し時間あるなぁ……小説でも投稿するか」

↑ガチでこう思って投稿しましたww

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2014-04-08 15:38:21 投稿 / 全10ページ    総閲覧数:1062   閲覧ユーザー数:972

新・戦極†夢想 三国√・鬼善者を支える者達 第027話「次の一手」

反董卓連合が終わり半年以上の月日が過ぎ去り、完全なる群雄割拠の時代に突入した際、一番最初に動いたのは袁本初であった。

彼女は幽州の公孫瓉を破り、徐州に侵攻。

その地を収める劉玄徳は、自分を慕う民を引き連れ叔父の収める荊州へと逃亡した。

陶謙より譲り受けたその土地を捨て、他の土地への逃亡を進言された際は、人徳を考える彼女のこと、軍師である諸葛亮の進言も頑なに拒み続けたが、その劉備を動かした人物は、彼女の一が家臣である関雲長であった。

彼女は言った。

「これから時代を導くであろう指導者がこの様な場所で倒れていいはずがない。陶謙もそれを望んでいる」っと。

その進言に彼女は病む終えず従って、徐州の地を後にした。

空となった徐州の地を狙うは、曹操、袁紹、袁術であったのだが、袁術は孫策のクーデターにより国を追われ、曹操と袁紹の二大巨頭が徐州の地を巡り官渡にて火花を散らすのだが、それはまた別の話。

時代の渦が渦巻いているこの状況に、重昌は次の一手を指すのであった。

まず彼は胡花を筆頭とし、一刀、椿(愛紗)を漢中に向けて使者を送った。

漢中の張魯である絢香と同盟を結ぶためだ。

一刀達は交渉の末、重昌と絢香の話し合いの席を設け、二人は漢中にて同盟結んだ。

絢香の話曰く、重昌の敵地に堂々と赴く姿勢に感服し、また成長した妹の姿を見れたことがなにより嬉しかった様だ。

これにて重昌は、北は長安から西は西涼、そして西南は漢中と基盤を固めたのであるが、彼の望みはこれだけでは収まらなかった。

次に彼は荊州の劉表と同盟を結び、長安・漢中・江陵の三国同盟我策していたのだ。

荊州の隣国には劉表と敵対する呉が控えているが、孫策である雪(雪蓮)は袁術を追い出し、呉を取り戻した後、領内の安定に力を注いでいるため動くことは出来ない。

自分の娘、雪としての加えてはあの江東の小覇王『孫伯符』の厄介さを知っている重昌は、劉表と盟を結ぶは今しかないと考え、行動を開始した。

だが両陣営にも不穏な動きもあった。

「お館様、何故です!?何故劉表の様な輩と手を結ぼうなどと考えているのです!?」

影村陣営でこの同盟に真っ先に意を唱えた者は、呉出身である蓮華であった。

彼女の母親孫堅は劉表によって殺されている。

その反論もわからないまでも無かった。

「落ち着け、姫。状況を読むことを忘れるな」

重昌が蓮華のことを『姫』と呼ぶは、彼女がまだ半人前であるからであり、本当に名を呼ぶときは彼女が一人前の武将となってからということにしている。

「今官渡にて曹操と袁紹が激突しようとしている。その戦いどちらが勝っても双方大きな被害を出し、また勝った方は敗者の領地を飲み込み、国力を安定させれば、どちらも大きな勢力となることは間違いない。袁紹は公孫瓉を破り後方に敵はおらず、君の姉・孫策は今呉の領内安定を計っている為、曹操に関しても彼女の収める許昌側の後ろにも敵はいない。また我々には洛陽を攻める大義名分も無い。いずれこの地にも、官渡で勝利した軍勢が押し寄せて来るのも時間の問題だ。だから今は自国周りの地固めに入り、後顧の憂いを断つ必要がある」

そう言われると蓮華も「しかし」っと言いながら渋ってしまうが、重昌は話を続けた。

「まず第一に母親の仇と言うが、孫堅と劉表、まずどちらが先に手を出してきたのかね?」

彼女は思考した。

あの頃は自身の元服の儀も終えて間もなく、妹の孫尚香も物心付き始めた頃に、母親である孫堅は江東一帯の地を完全に我が物にし勢いが乗っている時であった。

そのまま荊州をも飲み込み、天下に覇を唱え、皇帝に目通りを願い出て漢王朝を完全復活させようと考えていたのだが、満ち潮あるものいずれ引き潮も来る。

孫堅の軍師であった泊地は彼女に自制を促したが彼女は聞き入れず、せめて自分の監督下の下ということで二人は荊州へ出陣した。

だが二人は劉表の策略にかかり、泊地は重症で片足が再起不能となり、孫堅は戦死したのだ。

「劉表は自国に攻め入ってきた敵を排除したに過ぎない。君が劉表の立場であればどうする?自国に住まう民のために全力で相手を潰そうとするのではないのか?」

「し、しかし、劉表は友である私の母を討って以来、人を寄せ付けなくなり、自己中心的な存在となったと聞きます。果たして我らの言を聞き入れるでしょうか?」

実を言うと、当初孫堅と劉表は同じ漢室に忠する者としてそれなりの関係を築いていたのだが、彼らの間にも色々あったようで。

蓮華がそう意見すると、重昌は「それだ」と言い、鉄扇を蓮華に向けた。

「一昔前の劉表は、確かに自分以外を信じない自己中心的な人物になっていただろう。だが、その様な人物に成り下がろうとも、あの広大な荊州の土地を統括していたのだ。わかるか?つまり、”ほぼ一人の案件”で荊州を管理していたのだぞ?これほどの優秀な人物を味方に加えることが出来れば、大陸南の基盤は安定する。さらに加え、一刀が荊州に在籍した期間の間にも、彼の疑心暗鬼は大変溶けていると聞いている。つまり、味方に引き込むのは今しかないと言うことだ」

また蓮華が「しかし」と言おうとすると、一刀は蓮華の肩を叩いて自制を促す。

「蓮華、君もいずれ王として立つ身なんだろ?重昌さんの行うことを見ておくといいよ。見ることもまた学ぶことさ」

一刀の説得を受けて蓮華は潔く身を引き、重昌と一刀はアイコンタクトでニヤリと笑ってみせる。

「なお、会合の際の私の同伴者には皇甫嵩、護衛には華雄を付ける。仲介人には北郷を任命し、三国同盟の一人である張魯殿の手助けとしては関と姜維を置く。さらに末席に晴景を連れて行く。姫、お前は恋歌の傍に付け。以上で軍議を閉会する」

※忘れた方の為に;関=椿(愛紗)、晴景=恋歌

鉄扇をパチンと鳴らすと、重昌は席から立ち上がり足早に軍議室から出て行くが、それを追いかけるようにして雅が彼を追いかけていった。

残された重昌がいない軍議室では、ザワザワと何かを話しだした。

「まさか恋歌様を持ち出すとはね」

「今回の同盟の件、義兄上は本気なのだろう」

三葉と虎が話すように、皆それぞれ恋歌の話題に持ち切りになってしまうが、新参者である蓮華と思春は恋歌のことは重昌の正室ぐらいしか知識はないので、一刀にその話を持ちかける。

「一刀、晴景……様とは、一体どんな人物なの?」

「……重昌さんが俺たちの父親であるなら、恋歌さんは母親。影村陣営一の武の使い手であるに加え、俺たちの裏の当主だよ」

それを聞くと、一番最初に食いついてきたのは思春であった。

「それはおかしい。私は以前、影……お館様の家に蓮華様と共に訪れた時始めて会ったが、何というか、始めて訪れた我らにも良くしてくれ、確かに謙虚で聡明なお方という認識はしているつもりだが、とても芸達者という印象は無かったぞ?」

普段気難しい思春がここまで人を褒めるのも珍しいものであった。

しかしそう思うのは思春だけに限らず、蓮華も同じ意見であった。

「思春、重昌さんに仕える武将とはそれぞれ手合わせはしたよね?だったら思春が思う人を5人強い人をあげてみて」

そう言われ、思春が一番最初に浮かんだ将は愛紗であった。

前回の外史の際に、彼女の強さはよく知っている。

それに加え、以前の愛紗の武は、『誰かの信念を叶える物』であったにしろ、自らの信念持ち合わせていないような様な気がしていた。

その仮初感も抜けきり、何段も成長した武の前では思春も呆気無く膝を地につかされてしまった。

次に浮かんだのは虎である。

全てを飲み込むが如くの威圧感と、その圧倒的な闘牙(気)の前には為すすべもなくやられた。

こと『統率』においてならば重昌を超えるのではないのかと確信している。

次に浮かんだのは瞳である。

彼女の縦横無尽に繰り出す攻撃と、弓技術は全武将の中でも群を抜いている。

特に大の男が3人がかりでも持ち運ぶことが困難である鉄で出来た剛弓を自在に操り、鉄砲?なるものを使わせようものであれば手がつけられなくなる。

そしてまた浮かんだのは一刀の妹である三葉。

先に挙げた武将程の派手さは無いが、”漆黒の暗殺者”とは彼女と言っても過言ではなく、夜間の戦闘においては彼女の右に出るものはいない。

最後に浮かんだのは一刀だった。

口惜しいが、彼は以前の様な守られてばかりの一刀ではないことは判り、彼の戦い方は持久戦であった。

どんなに有効的な攻撃を加えようとも、一刀はそれを受け流し、隙が出来ようものであれば、必殺の一閃を繰り出して相手を沈める。

そんな男に成長を遂げていた。

他にも柑奈を思い浮かべたのだが、生憎まだ手合わせをしていないのではっきりとした実力は分からずじまい。

少なくとも挙げた前者達に拮抗する実力者であることは理解していた。

今思い浮かんだことをそのまま一刀に伝えると、まさか自分が入っているとは思ってもみなかったのか、頬を掻いて顔を赤らめる。

「ホントに俺が皆と一緒に競える立場にいるのかどうかは置いておいて、今挙げた五人の得意分野はそれぞれ力、気合、神速、暗殺、分析。戦闘において恋歌さんはその全てを実行出来る人なんだ」

一刀の言っていることが理解出来ず、思春も自分でもマヌケに思うほどの声で「は?」と言ってしまった。

「まぁ、そんな反応になるよね。信じられないけど冗談じゃなく事実だよ」

「えぇ!?それなら一刀、何故晴景様は戦場に出ないの?悔しいけど、お館様と組ませたら鬼に金棒じゃない」

放心している思春に代わり、その疑問を蓮華が代弁する。

「そうだね。でも理由があるんだ」

「理由?」

「重昌さんの家に行った時に二人の赤ん坊がいたのは覚えている?」

「えぇ、あの玉のように可愛い子達ね。その子がどうかしたの?」

「母親はそれぞれ恋歌さんと柑奈さんなんだけれど。そこに理由があるんだ」

「ど、どんな?」

二人は前のめりになりながら一刀の答えを待った。

「『子育てが忙しい』って」

また彼の言っていることを二人は理解出来ずにいる。

ただ判ったことは大物はやることも大きいことである。

「結論として、今回の同盟は重昌にとって一番の懐刀であり最大の妻である恋歌さんを持ち出したと言うことは、それだけこの同盟が重要になるってことさ。蓮華も見ておくといいよ。重昌さんが大事に保存している、恋歌さんという宝剣を」

一方その頃重昌を追いかけた雅の方は、廊下を歩く重昌の前で片膝を付いていた。

「お館様、何故です。何故私のような者に警護を?」

雅は疑問に思っていた。

まだまだ自らの力量は、先に重昌に仕えていた一刀達の比べるところではないと。

明らかな役不足。

何故その自分にその様な大役がまわってきたのかと。

重昌は雅を連れて廊下を出て庭を歩き、ベンチの様な長椅子に腰掛けて雅を隣に座らせた。

「雅、確かに今回の長安、漢中、江陵の三国同盟の会合に君の様な武将が列席にいるのは役不足かも知れない。私や月に忠誠を誓ってくれている君のことだ。私達を良くない風に言う輩が言おうものであれば、きっと真っ先に手が出るだろう」

その問いかけに雅はグウの音も出なかった。

洛陽の事件以来、雅は重昌の下で更なる修行を重ねて、猪は大分改善されたが、それでも時に感情に任せた行動もしがちであった。

特に重昌が紅音を側室に迎えた時、彼を疎ましく思う輩が何処かで重昌の陰口を流していた際に、雅が率先してその者達を捉え、半殺しにまで追いやったという事件も起きていたのだ。

「怒ることも大切だ。人間なのだから悼みもするし涙も流す。だが戦場においては将たるもの、いついかなる時も冷静に戦場を分析する力や、時に仲間を切り捨てる冷徹さも必要になる。ならばそれらはどうやって学ぶ?私塾か?師からか?違う。結局はそういったものは戦場ででしか学ぶ術はない。今回、君は三国同盟という名の『戦場』の中で、劉表という名の『大器』を目の当たりにする。だがこれはこれから君が将として駆け引きを行う上で良い機会になるに違いない。それだけは保障しよう」そして彼は立ち上がり、少し背中を伸ばす。

「しっかりと精進しろよ」とセリフを残して、重昌はそのまま去っていった。

雅は椅子の背にもたれながら空を見上げて、覚悟を決める為にただ当日のことを頻りに思考した。

その翌日、一刀はこの会合を実行に移すために、一人荊州に向かい、彼が荊州に着くと早速劉表は一刀のことを出迎えてくれた。

「北郷殿、懐かしいの。遠路はるばるよくこの荊州に参られた」

城門の前にて劉表は待っており、その後ろには彼の下に落ち延びた劉備や関羽達旧劉備軍の将兵の姿もあった。

一刀は馬から降りて地に膝を付けて礼をとった。

「劉表様、息災そうでなによりでございます。今日私は友としてこちらに参ったのではございません。影村の将として参った者ですから、その様な歓迎など……」

その姿を見た劉表は直ぐに馬を降りて一刀の手を取って両手で包み込むように握手をした。

「何を言うか。私と貴方との仲じゃないか。ささっ、とりあえず中に」

歩いて城に案内する劉表を見て、劉備たちも馬を降りて彼らの後についていくのであった。

その晩は劉表の計らいで宴会となり、宴席には音楽が鳴り、美女達が踊った。

「ははは、北郷殿飲んでいますか?」

「えぇ頂いていますよ。江陵の酒は美味いですからね」

「それは何より。踊り子達も美人揃いでしょう?……どうです?あの娘辺りを今夜の閨に――」

「いやお気遣いはありがたいのですが、あi…椿に叱られますので」

ここにも同じ『愛紗』の真名を持つ者がいたので、一刀は咄嗟に言い直す。

「それもそうか。いやぁ、愉快愉快。北郷殿と飲むとホントに酒の飽きがこない」

また高らかに笑い飛ばす劉表に対して、一刀は本題へと切り出した。

「……劉表様、そろそろ本題に移らせてもらいますが……」

劉表は酒を飲もうとした酒を口に含む所で止めて、他の武将の空気を張り付き、場には宴席の音楽だけが虚しく響いていた。

「本題と言うのは?」

張り付いた空気の中、劉表は何事もなく杯に注がれた酒をまた煽った。

「それは先の文で伝えた通り、我が主、長安の影村と漢中の張魯殿との三国同盟についてです」

また劉表は話を紛らわせる様に杯に入った酒を飲んだが、それで話が紛らうわけないのでそのまま話を続ける。

「その件についてだが、はっきり言って決めかねている」

「……っと申しますと?」

「君の主を疑うわけではないが、私は会ったこともない人物は信じない質でね。影村なる人物はどのような者なのか私には判らない。噂では仁君だの悪鬼だの聞こえているし、ご存知の通りそこにいる私の所に亡命してきた姪は、影村殿のことを高く評価していない。いや、むしろ嫌っていると言っても過言ではない。私としては友として君の言を聞き入れたいとも思っているが、やはり姪の方が可愛いのも事実。どうしても姪の言を優先してしまうのだが、改めて君の口から聞こう。影村殿は仁君か?それとも悪鬼か?」

劉表が劉備の言を優先してしまうことはよくわかる。

たとえ頭で判っていようとも、劉表は劉備にとって頼れる叔父であるとともに、劉表にとっても劉備は可愛い姪なのだ。

その逆を言って「主は仁君だ」と言えば、より劉備と反発するような意見となり劉表は劉備の意見を取り、反対に「悪鬼だ」と言えば、問答無用で「やっぱりか」となり、今後劉表との関係は結べなくなる。

一刀の導き出した答えは「どちらでもない」である。

「ほう、どちらでもないとはどういうことかな?」

「劉表様は我が主が反董卓連合の際、何と呼ばれていたかご存知ですか?」

「それは噂になっていたからな。確か『鬼善元帥』っと」

「そうです。”元帥”という言葉は連合において我が主が披露した知識が賞賛され、誰かがそう言ったことがきっかけで流れた呼び名です。”鬼善”と言うのは『鬼善者』からきているのです」

「鬼善者?」

全く知らない単語が飛び出たことにより、劉表は首をかしげた。

「鬼善者とはこんな意味が含まれます。一つは『善人の皮を被った鬼』、一つは『鬼の様な善人』、一つは『善人を護る鬼』」

「何だ?結局は”鬼”ではないのか?」

「そうです。確かに我が主は鬼です。しかしこの乱世を鎮める為には誰かが鬼にならなければならないのです。優しいだけでは人は付いて来ません。親が子供に叱ることと同じです。悪いことをすれば叱る。褒めてばかりならば子供は堕落し、いつか間違った方向へ成長する。この乱世という”子供”を叱るには、それを叱れるだけの”親”が必要なのです」

「つまりどういうことだ?差し詰め私は子であり、影村という親に叱られろ……っと?」

その問いに一刀は首を振った。

「何が違う」のかと問われると、一刀は言った「一緒に親にならないか?」っと。

「親は多いほうがいい。『戦乱の火種』という子が複数いるのであれば、親が一人で面倒見切るのは大変でしょ?だから主、張魯殿、劉表様で一緒に親になろうってことですよ」

劉表は今自分が面倒を見ている領地()のことを考えた。

荊州の周りには呉がある蜀がある漢中がある。

呉の内乱が静まれば、呉の孫策は曹操のいる許昌か、この荊州のどちらかを狙う。

蜀の駄君であり、漢室の忠などとうに忘れた劉璋も、さらなる土地を求めその牙をこちらに向ければ、迎撃することは容易くとも被害が出ることは確実。

それに加えて漢中の軍が攻めてき、さらにさらに今官渡で戦いを繰り広げている曹操、袁紹どちらかの勝者がこの地を狙えば確実に大変な被害が出ることもある。

それならば長安には曹操を睨めつけてもらい、漢中には西涼の軍と協力してもらい蜀を睨みつけてもらえば、自国は呉対策だけに集中できる。

最後に劉表は顔をしかめて一刀に問いかけた。

「一つだけ答えてもらおう。劉家家宝の宝剣たる靖王伝家。何故影村はそれを折ったのだ?」

先程一刀に酒と女を勧めていたおちゃらけオジさんは消え去り、一国の主たる劉景升がそこにいた。

その威圧に決して屈すること無く一刀は答えた。

「それは折ったのではなく、失礼ですが貴方の姪の管理不足です。靖王伝家は劉家に伝わる、かの劉勝が使ったと言われる宝剣の中の宝剣。少し雑に扱おうとも、岩に叩きつけようとも簡単に折れることはありません。では何故折れたのか。それは劉備殿が剣の手入れを怠っていたからです。獲物はただ人を殺傷する為のものではありません。丁寧に扱えば獲物はその期待に必ず応えてくれ、ぞんざいに扱えばいかな宝剣でもそこいらの鍛冶屋で出来る剣以下にもなります。誰がなんと言おうとも、俺はこの考えを変えることも、劉備殿を今この件で罵倒したことも曲げません」

一刀が言葉を切ると、劉表の杯を持つ手が震えた。

「……ほう、それがもしこの同盟が上手くいかなくなり、かえって我が軍が長安に侵攻することになろうともか?」

さらなる気を放ち一刀を威圧するが、一刀は頑として考えを曲げない姿勢を示した。

やがて劉表が杯を、料理を置く台に叩きつける様に起き、右手を振り上げて一刀の背中を軽快な音を鳴らして叩くと、次には豪快に笑いだした。

「はーーはっはっは、よく言った。確かにその通りだ。実はこの話を桃香に聞いたときは、年甲斐もなく怒鳴り散らしたものだよ。あたかも影村殿が悪いように話すものだから叔父としてその頭に拳を放ったものさ。気に入ったぞ天城殿。私は君の主、影村殿を気に入った」

劉表に叩かれた背中の痛みをこらえながらも、一刀は劉表に向き直って彼の反応を改めて確かめた。

「それでは!?」

「あぁ、一度会合の席を開こうではないか」

「ありがとうございます」

「なぁに、礼には及ばぬよ。我らは友ではないか北郷殿」

「……一刀です。俺の真名は一刀です。どうか受け取って下さい」

「そうか、なら私の真名は白龍(はくりゅう)だ。これからもよろしく頼むぞ、一刀」

二人は笑顔で互の杯を鳴らすが、その光景を見ていた劉備達の心は穏やかでは無かった。

宴会は終わりへと近づき、一刀の酔いがまわり少し船を漕ぎ出すと、白龍は一刀の疲れを感じ取り「そろそろお開きにしよう」っと言って、一刀を今夜泊める寝室へと案内した。

「何から何まで本当にありがとうございます」

そう言って一刀は白龍に深々と頭を下げ、白龍は「いやいや」と言いながら一刀を制した。

「国では重責を背負いながら、こうしてまた自国成長の為に他国に単身で乗り込む魂胆。私は結構関心しているのだよ。今日の君の責務はこれまでさ。後は仕事を忘れてゆっくり休むといい」

一刀は再びお辞儀をして、自分の寝室向けて歩いていった。

彼が去った後、劉備達は白龍に対し「話がある」と呼び出した。

彼は「今日は疲れた」言って何度も拒否するが、あまりにもしつこく粘ってくるので、遂に白龍も折れて、一同は軍議室へと向かった。

「叔父さん、なんで?私、あんなに反対したのに!!」

机を叩いて声を荒げる劉備は白龍にくってかかった。

実を言うと、先程の宴席より劉備はこの同盟について異を唱えようとしていたのだが、所詮今の自分は客将。

そこで声を荒げて異を唱えれば叔父である白龍の顔に泥を塗ることにもなり、また客が一刀ということもあり、そこで何かを唱えようとも簡単に勘破されるのも目に見えているからである。

その姪の顔を見て白龍はため息を吐いた。

「桃香、よく考えてみろ。以前友好を結んでいた袁術は潰され、今また孫呉はあの孫堅の娘である孫策の下で再び大きな驚異となろうとしている。西には蜀がある。いくら主君が馬鹿でも、蜀は巨大だ。北東では曹操と袁紹の戦いが繰り広げられ、いずれこの荊州にもその驚異が押し寄せる。今ここで北の影村と西の張魯を敵に回して何になる?そうなれば一体この国は誰が守るのだ?」

「そ、それは、私や愛紗ちゃん達が命懸けで――」

「守れるのか?曹操達の驚異の前に慌てて逃げてきたお前達に」

劉備は論破できずに下唇を噛んだ。

白龍はおもむろに席を立ち、室内を歩き回った。

「関羽ちゃん。影村に仕える将の質はどういった感じだ?」

そう聞かれ、今まで目をつぶっていた関羽はスッと瞼を開け答えた。

「影村に仕える者は、将だけでは限らず、兵や文官も油断なりません。まず北郷殿に加えまして、武に長けた関椿や伊達政宗、統率に長けた上杉謙信、知が富んだ武田信廉。その他にもギラつく星の如く多くの将兵を抱え、その将来を約束された人物は数知れず。……しかし――」

「しかし?」

「悔しいですがそれらの将以上に、それらをまとめる影村は異常です。全てを見通す目を持ち、こちらの打つ手を読んでいると思いきや、こちらの手の未来を狂い無く予測してみせる。また、先に挙げた将は全て、影村子飼いの将らしいのです。それらの将を育て上げる影村は、常識を逸脱しています」

そう答える関羽は、自らの未熟さと力の足らなさを改めて確認した感じがして、顔をしかめてしまう。

何故白龍はこの様な話を関羽に問いかけたのか?

関羽は連合が解散して以来、武芸に励むだけではなく文学や軍学にも力を注いだ。

自分自身のことを”文官”と呼ぶあの男に、武将としての力量も誇りも、何もかも負けてしまっていると考えたからだ。

それからというもの、武術の鍛錬はそのまま継続し、内政の仕事は倍こなし、時間を開けては軍師である諸葛亮や龐統に教えを乞い。

都合がつかなければ自ら軍学に励んでいた。

そうした影響からか、以前よりものを論理的に見れるようにもなり、軍議の際には諸葛亮や龐統と対等まではいかないまでも、普通に意見の交換ができるほどまでに成長していた。

諸葛亮や龐統は軍師であるので、戦場の最前線に出ることはまずない。

その点、関羽であれば常に最前線に出る武将であるので、より多くの武将を接触する機会も多い。

戦線に出れ、尚且つ作戦をたてることが出来る。

関羽はその様な数少ない武将の一人へと成長していた。

「……結論として、影村陣営は将が豊富であることは判った。統治困難な西涼の地を完全にまとめあげていることに関しても、政治の手腕が高いことも認める。諸葛亮、龐統。君たちはこの同盟、反対か?」

彼は劉備軍軍師である二人に訪ね、諸葛亮と龐統、二人の小さな軍師は少し悩んだ末にその結論を出す。

「私は賛成です。影村殿の統治技能は学ぶところが多いですし、何より第二の都である長安への流通経路も確保出来ますし、荊州の国益も伸びることでしょう」

諸葛亮はそう答え、続いて龐統が答える。

「私も賛成です。連合において一の手柄である影村軍の赤い出で立ちの騎馬軍団。翠さんの話によれば『赤備え』というらしいですが、彼らのしていた装備はこの大陸において全く新しい物です。あれを私たちにも適用できれば、影村軍に及ばないでもこれからの戦いは大いに楽になります。恐らくですが影村殿のこと、他にも私たちが思いもしないような物を開発している筈です。それらを吸収する上でも、この同盟は我らに利点はあるかと」

「だ、そうだ。桃香よ、君お抱えの二人の軍師が賛成の中、お前はただ一人ワガママを言うのか?」

劉備はただ俯くことしか出来なかったが、その劉備にとっては助け舟の様に星が話に割り込んできた。

「恐れ入りますが劉表様、しg…いや、影村殿と同盟は危険過ぎます」

「それは何故だ?理由を聞こう」

「……巨大過ぎます」

その意見に白龍は面白そうに耳を傾けた。

「私は連合集結の折、一時ではありますが影村殿と交流を果たしました。確かに友として接すれば案外気のいい方です。同盟を結べば、彼はその約束を反故することなく劉表様を助け、劉表様を魚で例えるなら、影村殿は大海。きっと貴方様は何処へだって行くこともできましょう……しかし――」

「……しかし?」

「ひとたび海が荒れれば、劉表様は溺れ……きっと溺死する運命にあると思います」

部屋には沈黙が流れ、暫くすると白龍は小さく笑い出し、やがて狂った如く大きな声で笑った。

「面白い!!私が呑まれる――か。趙雲、その言しかと心に刻んだ。私は決心した。影村殿と会う!!」

はっきりとそう言った白龍に、劉備は再度自重を求めたが、白龍はまた笑った。

「狼狽えるな桃香。要するに飲まれなければいいのだろ。”大海”に――」

白龍は部屋の窓際に立ち、外から見える月を見ながらほくそ笑んだ。

「『鬼善元帥』影村、お前が『大海』であるなら、私は『龍』となりてその大海を操ってやろうぞ」

 


 
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