「次の任務は、地球に向かって貰う」
「話すのは別に勝手だが……デルタの野郎はどうしたよ? クライシス」
相変わらず行儀の悪い格好で座っているZEROは、No.3の席を指差しながらクライシスに疑問を投げかける。そう、現在No.3の席には、本来なら座っている筈であろうデルタの姿が無いのだ。普段なら誰よりも先に会議室に到着している筈のメンバーが見当たらない事で、他のメンバーもこれには違和感を感じざるを得なかった。
「彼には今、ちょっとした所用を言いつけてある。お前達が気にする事ではない」
「所用ですか? 団長、それって一体…」
「気にする事ではないと、そう言っているだろう?」
「…はい」
デルタに言いつけられた所用について内容を問おうとした二百式だったが、クライシスによってそれは遮られる。デルタの行方は分からずじまいだったものの、ひとまず任務に関する話を進めようと竜神丸が資料を取り出す。
「ロストロギアの反応があった場所は、第97管理外世界の地球……その海鳴市です。そのロストロギアは持ち合わせている性能からして、回収して問題の無い代物と思われます」
「! 海鳴市だと…」
「そしてもう一つ……未だ、海鳴市にて活動している不正転生者が数名ほどいらっしゃいます。そういった者達も全て、一人残らず排除しなければなりません」
「おいおい、まだ不正転生者が潜んでやがるのかあの街には…」
「関係無いな。そいつがどういった人材であれ、始末する他ありはしない」
「なら、今回は私も向かおうかしら? 久しぶりに里帰りしたいところだったし」
手に持っている資料を見ながら、朱音が楽しそうに語る。
「朱音さんが向かうとするのであれば、俺も向かいましょう。そろそろ運動がしたかった頃だ」
「姉貴が向かうんだったら俺も…」
「Unknownには引き続き、モンスター退治の方に専念して貰う。お前を海鳴市に向かわせれば、コジマの被害が確実に甚大になってしまうだろうからな」
「何、だと…!? 何故だ…何故誰も、コジマの有能さを分かってくれない…!! コジマは全てを緑化してくれる、とても素晴らしい物だというのに…!!」
(((((アンタだけだよそう思ってんのは)))))
床に手を付いたまま沈んでいるUnknownに対し、ほとんどのメンバーは同じような事を思っていた。ただし口にするとUnknownがコジマについてうるさく語り始めるだろうから、メンバー達は敢えて何も突っ込まない。
「げんぶとFalSig、ルカも共に向かえ。それ以外のメンバーは引き続き、自分の今やるべき任務に専念しろ」
「ふん。どうせ喰えないと思ってはいたが、ストレス溜まるぜ…」
ZEROを始めとするメンバー達が会議室から出て行く中で、ガルムは竜神丸に小さい声で語りかける。
(なぁ竜神丸、デルタさんがここにいないのって…)
(大方、デルタさんの頭を冷やさせる為でしょうよ。それで一体何処に向かわされたのかは、流石の私にも理解しかねますが…)
某次元世界…
「場所は……こっちか」
生い茂る森林の中を、デルタは一人で歩き続けていた。一度はクライシスに歯向かった彼がこうして森の中を歩かされているのには、とある訳があった。
(クライシスの野郎……俺に一体、何をさせようってんだ…)
「目が覚めたか、デルタ」
「…テメェ」
昨日。
「気分はどうだ? まぁ、お前の返事は大体予想もつくが」
「黙れ……こちとらイライラが収まらねぇんだよ、テメェみたいな裏切り者の所為でなぁ!!!」
デルタは苛立ちのあまり檻に自身の頭をぶつけるも、それを見たクライシスは表情をピクリとも変える様子を見せず、小さく溜め息をつく。
「お前は言っていたな。復讐さえ遂げられれば、それで良いと」
「…それがどうした?」
「お前が憎んでいる時空管理局は、裏では腐っていたとしても、多くの世界がその管理局によって平穏を保たれているのも事実だ。管理局が破滅に追い込まれるという事は、それらの次元世界が混沌に陥れられるのと同じ意味を持つ……すなわち、多くの次元世界に更なる惨劇を招かねないという事だ」
「何の話をしている…!!」
未だ鋭い目付きで睨みつけるデルタだが、クライシスはそれを無視して語り続ける。
「私が言いたいのは……デルタ。お前一人の力で全てを破滅に追い込められる程、この世の中は甘くないという事だ」
「!?」
クライシスは懐から一枚の紙切れを取り出し、それをデルタに渡す。
「…何だこれは」
「そこに書かれている場所に行け。そこでお前は、ある人物と出会い…」
「己の非力さを、実感する事になるだろう」
「…チッ!!」
デルタは苛立ちを発散するかのように、近くの大木を蹴り折った。その際、木々に止まっていた野鳥が一斉に飛び立つ。
「俺が非力だと……“蟲”の力で、まだ届かないってのか…!!」
デルタはブツブツと呟きながら、目的の場所までひたすら進んで行く。
そして、彼の目的地である洞窟にて…
『……』
一人の“存在”が、古代壁画に手を添えているのだった。
ミッドチルダ、機動六課本部。
「…はぁ」
フェイトは自室のベッドに寝転がったまま、顔を枕に伏せていた。彼女がここまで元気が無いのも、全ては一週間以上前の出来事が原因だ。
(キリヤ……どうして……どうして、あなたが…)
リニアで出くわした、旅団メンバーとの戦闘。その最中、謎の黒騎士によって敗北した戦士の正体が自分のよく知る人物だった事に、彼女は驚きとショックを未だ隠せずにいた。
「フェイトちゃん、そこにいる?」
扉をノックする音が鳴り、なのはが部屋へと入って来た。手にはコーヒーの入ったマグカップが二つ握られている。
「なのは…」
「はい、フェイトの分」
「…ありがとう」
起き上がったフェイトは差し出されたコーヒーを受け取り、彼女の隣になのはが座ってコーヒーを一口だけ飲む。
「やっぱり、まだ落ち着けないよね……まさかあの時の現場にキリヤ君までいたなんて」
なのはも、キリヤの事は知っていた。何せ自分達は小学生の頃、そのキリヤとも同じクラスの生徒として仲も良かったのだから。
「信じられないよ……何でキリヤが、あのOTAKU旅団の一員なんかに…」
「多分、これからもまた出くわす事があると思う……その時に、彼から聞かなきゃね。どうしてOTAKU旅団に所属しているのかを」
「…私は、キリヤを連れ戻したい。悪鬼や白き暴君のような犯罪者がいる組織なんかに、キリヤをいさせちゃいけないんだ」
「連れて帰ろう、私達の手で!」
「…うん!」
そんな二人の会話を、ミナキは部屋の扉の前でコッソリ聞いていた。
(やっぱり……この世界はもう、私の知る物語とは違う…)
彼女は転生者として、現実世界に再び生まれ落ちた。しかし彼女が得ていた知識はもう、ここから先の戦いでは何の役にも立ちはしない。
(…いや、そんなのは関係ない! 私は戦うだけよ……こんな私の為に優しくしてくれた、なのは達の為になら…!!)
その時…
「何やってるんですか? ミナキさん」
「ッ!?」
突如、ミナキの後ろからクリウスがやって来た。突然声をかけられた事で、ミナキは思わずビクッと反応する。
「ク、クリウスさん!? 何故ここに…」
「いや、むしろ私が聞きたいんですがねぇそれ……まぁ良いでしょう」
クリウスは首を傾げつつもミナキに対してそれ以上は追求せず、コホンと咳き込んでから用件を告げる。
「なのはさんやフェイトさんも連れて、部隊長室まで来て下さい。八神部隊長が、あなた達をお呼びですよ?」
某次元世界、とある廃れた街…
「総員、散開!!」
「「「「「ハッ!!」」」」」
『グギャオォォォォォォォォォォォォンッ!?』
とある黒ずくめの戦闘部隊が、次元の裂け目から出没したモンスター達の殲滅に取り掛かっていた。彼等の的確な対処により、モンスターは次々と殲滅されていく。
「隊長、こっちはもうじき終わりますぜ!!」
『早く終わらせてくれよ。アタイもバケモン退治ばっかりで、ちょいと疲れを取りたいからさ』
「了解ですぜ…とっ!!」
部隊の兵士は隊長と思われる人物に連絡を取ってから、自身に向かって来るマミーやグールをマシンピストルで蜂の巣にする。
「あ~あ、いい加減この任務も飽きてきたねぇ~」
モンスターと戦闘部隊が戦っている場所から少し離れた位置にて、少女らしい容姿を持った女性は首をコキコキ鳴らしつつ愚痴を零していた。
サイドテールで結ばれた長い金髪。学生を思わせるかのような服装。しかもそのブラウスはボタンをいくつか外しており、その大きな双丘もより目立っている。
モンスターが大量に出没している戦場において、明らかに釣り合わない格好をしているこの女性が何故ここにいるのかというと…
「殲滅完了しました、葛城隊長!!」
そう。この女性こそが、戦闘部隊を率いる隊長だからだ。
「おし!! 泣く子も黙る葛城特戦隊、本部まで帰還するよ!!」
「「「「「イエス、マム!!」」」」」
女性―――
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いざ、派遣任務へ