No.579337

真・恋姫†無双~家族のために~#1影はすぐそこに

九条さん

前回の作品のタイトルに『#0プロローグ』を追記しました。
今後各話に『#○○サブタイトル』を書くことにします。

それでは第一話をどぞ

2013-05-23 16:03:39 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:4198   閲覧ユーザー数:3581

 今日は雲がまったくなくて、お日様が元気に顔を出している穏やかな日だ。

 こんなにいい天気の日はよく分からないけど元気がでてくる。だから今日も元気に挨拶するんだ。

 

 そう思って僕は息を思いっきり吸った。……直後にむせたのはご愛嬌だよね。

 

 「父様(ととさま)(かかさま)、おはよーございます! 」

 

 「おぅ。おはよう(しん)

 

 「ふふっ。おはよう深ちゃん」

 

 笑顔で挨拶を返してくれた人たちが、僕の父様と母様だ。

 

 

 父様はこの邑の入り口を守る仕事をしているんだって。そして邑で時々見かける兵隊のお兄さん達からは、力持ちとか怪力っていう言葉をよく聞く。父様はみんなから慕われている自慢の父様なんだ~。

 母様は作物を育てている責任者なんだって。僕がどんな質問をしても何でも答えられる凄い人。

 

 

 

 

 そうそう、まだ僕のことを紹介してなかったね。

 

 僕の名前は黒繞(こくじょう)、字は幽明(ゆうめい)。真名は深。今は四歳。

 三歳のときから母様に読み書きを教えてもらってるんだ。最初の頃は父様から遺伝した怪力を抑える練習をしてたな~。力を込めるとすぐに筆が折れちゃって……母様は笑いながら許してくれてたけど、僕は物凄く悔しかった。最近になってやっと自分の名前が書けるようになった。邑にいる同い年の子達でもここまで書けるのはいないと思う。僕のささやかな自慢なんだ~。

 

 四歳になってからは母様のお手伝いや、邑にいる友達と兵隊さんの物真似をしてる。いつも見つかっては逃げているけど、兵隊のお兄さん達も楽しんでるみたいだからいいよね。

 

 

 今日は父様も母様もお仕事が休みみたいで、久しぶりに三人で邑のなかを歩き回ることになったんだ。

 その楽しさもあって、今日はいつもより元気が溢れてるみたい。

 

 

 「父様、母様! は~や~く~」

 

 「そんなに急がなくても大丈夫だぞー」

 

 「あらあら。転ばないように前を向きなさい」

 

 駆け足で進んでは、少し遅れる父様と母様に催促するように話しかける。

 

 

 

 

 それを何度か繰り返したとき、僕はふと思い付いて邑の入り口に向かって駆け出した。

 

 入り口にいた兵隊さんはまだこっちに気付いていないみたいだ。なら今のうちに……。

 

 「お坊ちゃま。ここより先は出てはいけませんと何度言えば分かるのです。危険なのですから邑の中にいてください」

 

 止められた。どうやら入り口には二人兵隊さんがいたみたいで、もう片方の人は気付いていたらしい。

 

 「僕は坊ちゃまじゃない! 幽明って名前があるんだから、ちゃんとそう呼んでよ! 」

 

 「はいはい。では幽明様、危険ですのでお下がりください」

 

 これもいつものやり取り。

 

 大人の人達は僕のことを『坊ちゃま』とか『幽明様』って呼んでくる。友達のみんなみたいに深くんとか深ちゃんって呼んでくれない。

 

 前に父様と兵隊さんが話しているところをこっそりみたことがあるんだけど、そのとき父様のことを様付けで呼んでたのを覚えている。もしかしたら僕が思っているよりも父様は偉い人なのかもしれない。

 

 だから僕はまだ、邑の外には出たことがない。

 みんなは危険だと言うけれど、今まで一度だって賊が来たって聞いたこともないし、すぐ近くにあるらしい森に行くぐらいいいと思うんだけどなぁ。

 

 

 「ちぇ~。あ、父様達も来たし戻るね~。次は通らせてもらうからね! 兵隊のお兄さん! 」

 

 そう言って苦笑する兵隊のお兄さんを残し父様のもとへ向かう。

 

 「こらこら、あんまり困らせるんじゃないぞ」

 

 「は~い」

 

 

 その後はお団子を食べたり近所の人と話したり、邑の子供達が集まって一緒に遊んだ。途中で疲れて寝ちゃって、家に帰ってきたことを知らなかったりもしたけどね。

 

 

 僕はこんな毎日がずっと続くと思っていたんだ。あの日が来るまでは……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 --七日後

 

 

 人目に付かない場所に影が二つ見える……。

 一人は直立していて威厳を感じさせる。もう一人はその人の前に跪いている。

 

 

 「黒然様」

 

 「様子はどうだった」

 

 「近隣の邑が一つ、賊によって焼き払われました」

 

 直立している男はぎりっと歯軋りをしたが、それを押さえ込み話の続きを促す。

 

 「賊はそのままこちらへと向かっている模様です」

 

 「そうか……報告ご苦労。これからゆっくりと休んでもらいたいところだが、生憎と人手が足りなくてな……五人ほど細作を選抜し放ってくれ。それが終わったら休んでくれていい」

 

 「はっ」

 

 そう言って一人は姿を消す。

 

 

 「これまでなんとか守ってこれたが……いや、弱気になってはいかんな。あの子だけはなんとしてでも守らなければ」

 

 そうして彼も闇へと消えていった。


 
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