ーー目を開けると、そこは一面真っ白の世界だった
「……ここ、どこだ」
再度辺りを見回してみるが結果は変わらず、ただ白い世界が見えるだけ。聞こえてくるものは自分の吐く息のみだ。
「ようやく目が覚めたようですね」
「っ! 誰だ」
突然後ろから声を掛けられ振り向くと、柔らかな微笑を浮かべた女性がいた。
腰にまで届きそうな長い黒髪。服はこの世界と同じ白い和服だと思う。帯がなければほとんど同化しているように見える。そしてこちらを見つめる青い瞳。
先ほどの問いが聞こえていないのか、彼女は何も答えない。なので再度同じ質問をする。今度はきちんと聞こえるように声を大きくして。
「あんたは誰だ」
声が聞こえたからなのかは分からないが、彼女は笑みを濃くしたように見えた。
「何度も言わなくても聞こえていますよ。ここには私とあなたしかいませんから。まずは名前から、私の名前は項羽と申します。以後お見知りおきを」
「項羽だって!? 項羽って言ったら西楚の覇王を言われた武将だろう。そもそも俺の時代では死んでいるんだぞ? そんな人間が、こんなわけの分からない場所にいるはずがないだろう!」
そうだ。彼の武将はとっくの昔に死んでいる。しかも項羽は男のはずだ。
「いいえ。あなたの言っている項羽で間違いありませんよ。まぁ今は名前なんて気にする必要はありません。そんなことよりも、ここがどこだか知りたくはないのですか?」
たしかにそうだ。それよりも現状把握を優先したい。彼女が安全かどうかは別としてだが。
「何かあんたは知っているみたいだな。それを教えてくれるというのか?」
「はい。私はあなたにその説明をするためにここに来ましたので」
そう言って一度こちらに目礼をした。
「まずはこの場所のことを。ここは、あなたのいた世界ととある世界を繋ぐ橋のような場所です」
「とある世界?」
「ええ。今は詳しく話せませんのでとある世界とだけ。そしてあなたにはこれから、向こうの世界に行っていただきます」
詳しく話せないということは確実に何かを知っているな。しかし……まずは全てを聞いてからか。
俺はわざと聞こえるように舌打ちをしてから、彼女に話の続きを促した。
彼女は苦笑しながらも話を続ける。
「別に何かを成して頂きたい訳ではありません。ただ、あなたには向こうの世界の行く末を見届けて欲しいのです」
「結果はどうなるかは知らないが、とにかく生き延びろっていうことか?」
「そういうことになります」
とにかく生き延びる。
こんなよく分からない世界に来て、項羽と名乗る女性に出会い、今度は違う世界に行って欲しいと言われる。普段なら鼻で笑う話だが、実際帰る方法も分からない。彼女は何かを知っているはずだが素直に教えるとも思えない。
「もうそろそろ時間ですね」
「なに?」
ふふっと笑いながらこっちを見る項羽。そして徐に手を掲げた途端、何も無かった俺の足元に紋章が浮かび上がり光が漏れ始める。
「なんだ!?」
「それは転生陣と呼ばれるものです」
転生だと? おいおいそれってまさか……。
「その通り。赤ん坊から始まりますよ。ふふっ」
「そんなこと聞いてねぇぞ!」
「えぇ。言ってませんでしたので」
こいつ……最初と性格が変わってるだろ! 猫被ってやがったのかよ!
そんなことをしている間に、漏れ出す光しか見えなくなっていく。もはや目の前にいる項羽の顔さえも見えない。
「お前、今度会ったら一発殴ってやるからな! 覚悟しとけよ!」
「はいはい。それでは行ってらっしゃいませ、■■様」
その言葉を最後に一際輝く転生陣。やがてそれも収束するとあとに残ったのは項羽ただ一人。
「まぁ、転生される時点で記憶が封印されてしまうんですけどね」
そう言って微笑む項羽。
「終わったのかしらぁん。項羽ちゃん」
聞いた途端、顔をしかめたくなるような声が聞こえてきたが彼女は平然と言葉を返す。
「ええ、何事もなく無事に終わったわ。それよりも貂蟬。あなたまでこんなところに来てしまうと、この外史への影響を抑えきれないわよ?」
「そのへんは大丈夫よぉぉん。声だけだからぁん」
「はぁ。ならいいけど……私はもう戻るわ。あとはなるべく干渉しないようにしましょう」
そう言って彼女は姿を消した。
その日、荊州にあるとある邑で新たな命が生まれた。
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ここは無数に存在する外史のひとつ。
一刀が天の御使いとして降り立つ20年ほど前、彼はここに誕生した。
彼はどんな道を歩むのか・・・新たな外史を、彼の生き様を見てみようか。
ーーーーーー他サイト『小説家になろう』でも同一ユーザ名で投稿を行っています。