No.579412

真・恋姫†無双~家族のために~#2迫り来る足音

九条さん

#2迫り来る足音 です。

なんだか書いているうちに長くなってしまったので続いてしまいました。

※ちなみにここでの一刻は30分で計算しております。

2013-05-23 19:47:42 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:2973   閲覧ユーザー数:2606

 今日はお昼なのに夜みたいに真っ暗。お日様は雲に隠され今にも雨が降ってきそう。

 兵隊さん達も朝から慌ただしく走り回ってる。普段はこんなに邑で見かけないのに……一体どうしたんだろう。

 

 走り去っていく兵隊のお兄さんの向こう側。ふと、見慣れた服装の男を見つけた。

 あれ? あれは父様?

 朝早くに出かけて行ったのにどうしたんだろう。

 

 「とーとーさーまー! 」

 

 声を掛けたら手を振ってこっちに向かってきた。

 いつもの笑顔じゃなくて、ちょっと難しい顔をしてる。

 

 

 

 「今日も元気だなー、深。ところでお母さんを見なかったか? 」

 

 「母様? 母様なら少し前に作物が気になるからって行って出て行ったよ~。お手伝いするよって行ったら、今日は大丈夫よって言われたけど……」

 

 言いながら少し落ち込んだ。今まで一度も断られたことがなかったからだ。幼い心はそれだけで不安にさせられる。

 

 「ははっ。そうか、落ち込むな。今日はお父さんもお母さんも忙しくて、お前の面倒をちゃんと見れないだけだ。別に邪魔っていうことじゃない。だから大人しく家で待っていてくれよ? そして元気な声で迎えてくれればいいんだ。お前の笑顔はみんなを元気にしてくれるからな」

 

 「へへっ……そうかな。じゃあ大人しく待ってる! 」

 

 先ほどとは打って変わって元気な笑顔を見せる深。

 

 「そうだ、その笑顔だ! それと深。お前にこれを預けておく。ちょっと待ってろよ」

 

 そう言って男は懐から取り出したものを深の首に掛けていく。

 

 「これは? 」

 

 「これはお守りだ。絶対になくすなよ? 」

 

 「なくさないよ! 」

 

 それは印だった。印の持ち手側に太い紐が通るぐらいの穴が開いていて、そこに紐が通せるようになっている。そこにはすでに紐が通されていて、深の首に掛けると、ちょうど鳩尾の少し上にくるような高さになっていた。

 

 「それを持って家のなかで待ってろよー」

 

 そして彼は来た道を戻っていった。

 

 

 

 僕は父様が見えなくなるまで見送った後、渡されたお守りを首に掛けたまま服の中に仕舞った。

 

 「母様はいつ帰ってくるかな……」

 

 「お~い! 深ちゃ~ん」

 

 通りの反対側から僕を呼ぶ声が聞こえる。振り向くとそこには、邑の子供達が集まっているみたいだった。

 

 

 「どうしたのー? 」

 

 僕は問いかける。四、五人が集まるのならわかる。いつものように遊んでいるんだろう。

 だがここにいるのは邑の子供全員だった。

 

 「なんかみんな忙しいみたいでね~」

 

 目の前の女の子が話す。

 隣にいた男の子が続きを補足してくれる。

 

 「だからみんなで集まってなにかしようと思ってなー」

 

 「なにかってなにさ。というより父様が家で大人しくしろって言ってたよ? 」

 

 「うげ、深の家のお父さんか……ならここは大人しく家にいるかなー。なんか雨も降りそうだし」

 

 僕の返事に男の子が返す。その会話を聞いていたみんなは、そうだねー雨降ったら大変だもんねーと言いながら帰る気配を見せている。

 

 「せっかくみんなが集まったけど、今日は帰るか! 深も悪かったな、呼び止めちまって」

 

 「ううん、いいよ。僕も遊びたかったけど、この雲じゃあね」

 

 「そうだな・・・んじゃみんな帰るぞー! 」

 

 「はーい」

 

 「じゃあね、深ちゃん」

 

 「じゃあねー、深くーん」

 

 みんな別れの挨拶をして帰っていく。それを見送りながら僕も家に帰った。

 

 

 

 

 

 

 しばらくすると母様が帰ってきた。

 

 「母様、おかえりなさい」

 

 「ふふっ、ただいま。良い子にしてたかしら? 」

 

 ちょっと疲れてるみたいだけど大丈夫かなぁ。

 

 「うん!お昼に父様が母様を探しに来たみたいだけど、それ以外は家で大人しくしてたよー」

 

 父様と聞いて明らかに母様が顔を顰めた。すぐ元の笑顔に戻ったけど。

 

 「お父さんが……あら? あなた、その首に掛けているものは? 」

 

 「お守りだって! 父様が預けてくれたんだ~」

 

 そう言った途端、母様は口を押さえ俯いてしまった。

 

 「母様……泣いてるの? 」

 

 「っ……いいえ、大丈夫よ~。じゃあ私達はお父さんが帰ってくるまで準備(・・)をしてましょうね」

 

 「準備? 」

 

 「ええ、準備よ」

 

 そう言った母様の目は、今まで見たことないほどの力強さが宿っていたように見えた。

 

 

 

 

 

 

 四刻ほど経ったとき、それは突然やってきた。

 

 まず最初に気付いたのは僕だった。外が少し騒がしくなったんだ。

 そのすぐ後に母様の体が一瞬びくっと緊張した。

 

 僕が外に出ようとすると……。

 

 「家に居なさい!! 」

 

 え? ……今のは母様?

 

 こんな大きな声を出す母様は見たことがなかった。だから僕は何も言えずに椅子に座りなおしたんだ。

 

 「大きな声を出してごめんなさいね。でも、お願いだから今だけは言うことを聞いてね」

 

 と、母様は僕を抱き寄せる。どうやらまだ泣いているみたいだ。母様のそんな顔は見たくない。僕が泣きそうなときにしてくれたように、僕は母様の頭を撫でることにした。

 

 しばらくすると母様の涙は止まったみたいで、『ありがとうね』とか細い声で言われた。

 

 

 

 雨はまだ降ってはこない。だがもう、すぐそこまできているようだった……。

 

 この世界にとって今までが非日常で、これから起きる事が日常だとは僕はこれっぽっちも思っていなかった。

 

 

 

 

 

 『悪夢はまだ始まったばかりだ』


 
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