No.543355 とある傭兵と戦闘機のお話~(SW編第一話)はやい、すごい、そしてあつ~い雪下 夾矢さん 2013-02-12 17:47:34 投稿 / 全2ページ 総閲覧数:3462 閲覧ユーザー数:3278 |
こっちに来てから一日目
ようやく歩けるようになった私はハンガーに来ていた
「ここかな?・・・」
ガチャッとドアを開けた瞬間、むわっと熱気が私の体を包む
暑い・・・とにかく蒸し暑い・・・
「ようフィリア、もう歩いて大丈夫なのか?」
「うん、もうほぼ全快だから機体見に来た」
「ふうん・・・機体は変わってないな~」
「そりゃあ私の相棒だもん、他に代わりは居ないよ」
スタスタと、熱気こもるハンガーを歩いていく
シートがかけられている発進ユニットの前で私は止まった
そして暗褐色のシートを取り除くと、ストライカーの形になった私の機体が固定されていた
両翼の紺色のペイント、ガルム隊のエンブレム
「久しぶり」
そう呟いて、私は機体の整備を始める
この姿をもう一度拝もうとは夢にも思わなかった
「それにしても暑い・・・」
服はIS学園の制服のままだけど、流れる汗は滝の如し
「お前それ暑くないか?」
「そりゃあ暑いよ」
「じゃあ脱ぎゃいいじゃんか」
シャーリーは下着姿でそう言ってきた
「それもそうだね」
同じく制服を脱いで下着姿になる
そのままイーグルを装着してエンジンを起動させる
ゴォォォォォォッ
少し軽めにジェットエンジンを回して具合を確かめる
「相変わらず凄い音だな~」
「まあジェットエンジンってそういうものだからね」
シャーリーもストラーカーのエンジンに点火して回し始める
レシプロとジェット両方のエンジン音と振動、風圧がハンガー全体を揺らす
「ん~いい感じいい感じ」
「今日も絶好調だな~私のマリーンエンジンは」
二人でそのままエンジン出力を上げる
「シャーロットイェーガー大尉!!フェイリールド大尉!!」
ん?呼ばれた?
「おはようございますバルクホルンさん」
「おはよう・・・って違う!!二人ともそんな格好で何をやっている!!」
「何って」
「エンジンテストですけど・・・」
「違う!!今は戦闘待機中だぞ。ネウロイが来たらどうするつもりだ!!」
「だってハンガーでエンジン回すと暑いじゃないですか」
「ほら、あちらも」
シャーリーの目線の先には、ハンガーの梁で暑そうに寝っ転んでいるルッキーニの姿があった
前も思ってたけど、アレでよく落ちないねルッキーニ
「全くお前達はいつもいつも・・・」
「へぇ~カールスラント軍人は規則に厳しいってか、どうなんだ?ハルトマン」
何故かハンガーでフラフラと歩いていたハルトマン中尉が歩みをやめる
「あっつい・・・」
と、完全下着姿で言った
ぐったりという言葉がふさわしいなあの表情
「相変わらずだね、ハルトマン中尉」
「あれ!?フィリアじゃんか~久しぶりぃ~!!」
「うん。久しぶり~」
横で言い合いをしている二人は置いといて、笑いながら握手する
「相変わらず仲がいいねあの二人」
「いつもの事だよいつもの事~」
手を横に振りながらため息を付いてる
この光景も懐かしいとしみじみ思う
と、二人で仲がいい喧嘩を繰り広げている大尉二人を眺めながら笑っていると
ハンガーに一台のトラックが入ってきた
何やらストライカー発進ユニットらしきものを運び入れているみたいだ
「お、なんだろアレ」
ハルトマン中尉が何やら資料を見ながら坂本少佐と話し合っている所に行く
それに私もついて行った
「ほう・・・これがカールスラントの新型か」
「正確には試作機ね。Me 262 V1 ジェットストライカーよ」
ハンガーに持ち込まれた赤い機体は、他のレシプロストライカーとは少し違った形状をしていた
固定主翼の部分に筒が一本ずつ付いている。明らかにこれは・・・
「ジェット?」
「ハルトマン中尉?」
「どうしたんだその格好は?」
「おはようございます少佐、中佐」
一応軍がらみだから挨拶をする
「おはようございます」
「おはよう、お前もどうしたんだ?」
「いえ、少し気になって」
まじまじと機体をみつめていると、バルクホルンさんがやってきた
「うん?何だこれは?」
「ジェットストライカーだって」
「ジェット?研究中だったアレか?」
どうやら研究中だった事は知ってたみたいだ
バルクホルンさんは少しいぶかしげに機体を眺めている
「今朝ノイエ・カールスラントから届いたの。エンジン出力はレシプロストライカーの数倍
最高速度は、時速950km/h以上とあるわ」
やはり性能は第五世代戦闘機には大きく劣るものの
レシプロからジェットへと移行する技術の進歩具合が窺える
「レシプロストライカーに取って代わる新世代の技術ね」
確かにその進歩は凄い
それこそ、機体に求められる性能・形状・特性の項目が数百項目になる程に
でもこの時ぐらいからだろうか
パイロットの体が機体の性能に追いつけなくなるのは
「これは?」
するとバルクホルン大尉が、一緒に運ばれてきた大砲に注意を向ける
「ジェットストライカー専用に開発された武装よ」
え、この大砲持って飛ぶの!?
「50mmカノン砲一門。他に、30mm機関砲四門・・・?」
50mmって・・・ほぼ対空砲じゃんか
30mmにしてもイーグルの20mmバルカンよりも口径が大きいし
というか・・・私のイーグルでもライフル一丁と予備弾薬百発、剣二本でギリギリなのに
初期のジェットエンジンってかなり燃費が悪かったと思うけど・・・大丈夫なんだろうか?
それからまたシャーリーとバルクホルン大尉がそのストライカーを巡って仲良し喧嘩が始まった為
私はストライカーの整備に戻った
機体を装着し、再びエンジンを起動させる
「んー特に問題なさそーーー」
ーーーやめてーーー
頭に直接響くような小さな声
即座に私はエンジンを切って耳を澄ませる
すると私のイーグルとは違うジェットエンジンの、空気を吸い込む音が聞こえてきた
ヒュィィィィィン・・・
ジェットエンジン特有のタービン音は、ただただ周りの皆を驚かせている
どうやらあのジェットストライカーはルッキーニが着けてるみたいだ
だがーーー
「んにゃぁぁぁぁぁッ!?」
いきなりルッキーニが飛び上がり、装着解除して私の発進装置の横に隠れる
「ど、どうしたの?」
その様子は本当に怯えるように、涙を目蓋にためてうずくまっていた
「どうしたんだ?ルッキーニ」
シャーリーも喧嘩をそっちのけでルッキーニの元に駆け寄ってきた
「なんかびびびってきた・・・」
「「びびび?」」
勘・・・なのだろうか
それともあのストライカーに何かあるのか
「あれきらい・・・シャーリー、履かないで・・・」
訴えるように、ルッキーニはシャーリーに呟いた
「「・・・・」」
シャーリーが”どう思う?”って感じに視線を送ってきた
やめておいた方がいいーーー
私は何も言わずに首を縦に振った
「やっぱ私はパスするよ」
シャーリーはルッキーニの意志に従ったようだ
それにしてもさっきのは何だったんだろう?
他のメンバーには聞こえてないみたいだし
ふと、私は自分のストライカーに目を落とした
「・・・まさかね」
私もストライカーの装着を解除して服を着る
とにかくバルクホルンさんにも伝えないとーーー
「まあ見ていろ・・・私が履くッ!!」
私の考え遅く、バルクホルンさんはジェットストライカーを装着しエンジンを発動させる
「凄い・・・」
ジェットエンジン特有のタービンが回転する音と共に
それは回転数が多くなるに伴い轟音へと昇華していく
あれ?特に問題ないように見えるけど
「どうだ。今までのレシプロストライカーで、こいつに勝てると思うか?」
「何だと!?」
あ~あ~あ~また始まっちゃったよ
それから上昇能力、武装搭載量、スピードについて
ジェットストライカーとレシプロストライカーで勝負をする運びとなった
~翌日~
「そりゃぁぁぁぁッ!!」
「くぅッ!!」
今日行われたのは上昇勝負
その機体での最高到達高度を競う勝負となっていた
もちろん、結果はバルクホルンさんとジェットストライカーの勝利
レシプロエンジンとジェットエンジンとでは、やはり出力が桁違いだと感じる
「シャーリーさん、12.000メートルで上昇が止まりました。バルクホルンさん、まだ昇ってます。凄い・・・」
「ほへ~」
サーニャとユーティライネン中尉も驚いているみたいで、口をぽかんと開けなが見ていた
ちなみに、私は予備の零式艦上戦闘脚にて飛行テストをしながらそれを見守っていた
「・・・フィリアさんは大丈夫ですか?」
「うん、一応飛べるみたいだし・・・戦闘は無理そうだけど」
それは私の魔法力が全然回復していない証拠だった
離陸時に少しフラ付いていたらしいし
「まだまだ前みたいにはいかないか~」
「おまえまだ魔法力が完全に回復してないんだろ?休んでなって」
「ありがとうユーティライネン中尉」
「だ~も~!!エイラでいいって!!」
「わかった、エイラ」
「それでイイそれで」
「さて、お腹すいたしそろそろ戻ろうか」
「そうだナ」
「・・・わかりました」
それから私達は一緒に基地に戻って昼食を取る事にした
ちなみに昼食はバターポテトだった
シンプル・いず・ベスト。芳佳達の腕もあって最高に美味しい・・・うま~
そして午後
今回は機体の搭載量勝負という事で
シャーリーは機関銃のBARとその予備弾倉を十個程装備していた
「そんなに持って、飛べるんですか~?」
「私のP-51は万能ユニットだからな。いざとなればどんな状況にだって対応できるんだ」
ほ~っと関心しながら説明を聞いていると
「待たせたな」
後ろから声をかけられて振り向く
「!?」
そこには専用カノン砲と機関銃、弾薬を完全装備にしたバルクホルン大尉がいた
ええ~やっぱりバランスおかしいよ・・・
「おいおい、そんなんで飛べる訳ないだろ・・・」
「フッ・・・問題ない」
それにしても重装備が様になってるなこの人
そして、今回のターゲットはダミー飛行船一機
風によって常時ゆらゆらと空をさまよっている目標である
というか・・・全体的なスペックがレシプロ機を大幅に上回ってるから
理論的に言えばシャーリーに勝機はないんだよなぁ・・・
軽く出来レースを見てる感があったけど、シャーリーの勝負好きな性格を知っているから
私はシャーリーを応援していた
結果は・・・もちろんバルクホルン大尉の勝利だったけど
「夕食は肉じゃがですよ~」
と、勝負をしていたシャーリー達の事を考慮してか、芳佳はハンガーで夕食を作っていた
私も夕食作りに参加して手伝いをしている真っ最中
「そういえば、ブリタニアに居た時にあったブルーベリージャムってフィリアちゃんが作ったんですよね」
「あ~・・・そんな事あったな~」
ナイフでじゃがいもの皮むきをしながら、前の事を思い出す
「お陰で実家からのブルーベリーがおいしくて日持ちするものに変わりました~」
横で同じくニンジンの皮むきとカットをこなすリーネがペコリと頭を下げてきた
「そっか・・・あれから一年近く経つんだね・・・」
実感が湧かない。というか、私から見れば三ヶ月程度だから
芳佳も随分しっかりしてるし、リーネも前みたいにオドオドしなくなったし
「成長したね~二人とも」
「も~フィリアちゃんっ、言ってる事がお姉さんみたいですよ?」
「実際に歳は上だけどね~」
「一年前のあの時は、本当にありがとうございました」
頭を下げるリーネ
「あ~昔の事は気にしない気にしない。今大丈夫ならそれでオッケーだよ」
昔話に花を咲かせていると、件の二人が戻ってきた
「あっお帰りなさ~い」
「お疲れ様です・・・」
「お帰り~」
「は~また負けちまったよ~」
と、ため息と満足げな顔をしながらシャーリーは戻ってきた
だが、私の意識はその後ろに付いて帰ってきたバルクホルン大尉に向いていた
大尉は俯いて、何も言わずに黙々と発進ユニットに機体を格納していた
まずい・・・想像以上に消耗してる・・・
私の予想は、悪くも的中していたみたいだ
私と芳佳は大尉の所にできあがった肉じゃがを持って行った
「バルクホルン大尉、夕食です」
「・・・ああ、そこに・・・置いておいてくれ・・・今は・・・休みたいんだ・・・」
一応笑顔を作っているつもりなんだろうが、その顔には元気がなかった
「芳佳、先に戻ってて」
「あ、はい」
芳佳が戻った事を確認して、私はバルクホルン大尉と向き合った
「大尉・・・いえ、バルクホルンさん」
「・・・何だ・・・?」
「あまり無理をなさらないでください・・・」
「・・・ああ・・・」
私は返事を確認して、皆の元へ戻った
「ドラム缶でお風呂?」
「はい。ここってお風呂が無いんで、それで疲れを取ってもらおうと思って・・・」
「ふぅん・・・ドラム缶がねぇ・・・」
目の前に転がっている緑色のアレが風呂になるのか?
「これは坂本少佐が教えてくれたんです」
「ああ、なんだそういう事か」
少佐ならありうるし、そういう事も考えそうだ
それなら早速準備しないとね
ドラム缶を立て、上蓋の部分を取り除く
それを屋外に運んでいってレンガの上に置いた
「これで後はお湯を沸かすだけです」
「単純~・・・でも一人が限界だね」
「あと三つお願いします」
「了解~」
「だぁ~・・・ドラム缶が風呂になるなんて大発見だな~」
結局、風呂に入るのは私と芳佳、シャーリーの三人だけだった
他のメンバーはストライカーの調整などで入れないそうだ
「坂本さんがリバウに居た頃はよく使ったそうですよ~」
「でも本当にお風呂になってるんだね~」
と、ここで芳佳のドラム缶風呂にルッキーニが飛び込む
バシャバシャと狭いドラム缶ではしゃぐルッキーニは、どうやら元気になっているらしい
「あんまり暴れると、ドラム缶ひっくりかえるよー・・・」
風呂に浸かりながら私はあのストライカーの資料に目を通していた
「勉強熱心だな~おまえ」
「いや、ちょっと気になる事があったから・・・」
資料に目を戻す
やはり資料のデータ・・・魔法力の消費量はほぼレシプロタイプと変わらないと書いてある
しかし、バルクホルンさんの消耗具合を見てもそれはありえない
整備班の人は優秀だから機体の整備を怠ったりはしないだろうし
整備に問題がないのなら・・・設計そのものに欠陥があるのかもしれない
「はぁ~っ・・・まずいなぁ~・・・」
資料を服の方に放り投げ、ドラム缶風呂に体を浸けながらため息を付いた
「バルクホルンさんも入ればいいのに・・・」
元々、芳佳がこの風呂を提案したのはバルクホルンさんとシャーリーの疲れを癒したいという理由からなのだが
バルクホルンさんは真っ先に部屋に戻っていってしまった
「放っときゃいいさ・・・」
「何だか、今日はいつもより疲れていたみたいですよね・・・」
「きっとあいつのせいだよ!!」
「え?、だれ?」
「あの、がお~っていうやつ!!」
「ジェットストライカーの事?」
「そう!!それ!!」
やっぱりルッキーニの勘は正しい
と、そこで私はシャーリーにある事を聞いた
「シャーリー、ちょっと質問いい?」
「ん?なんだ?」
「魔法力を使い果たすとどうなるの?」
「ん~・・・良くて気を失う程度。ひどいと命に関わることもあるな・・・つい先日のおまえみたいな感じだな」
「そうなんだ・・・」
あんなに辛いんだ・・・
さらに翌日
私の魔法力はほぼ回復し、体力も元に戻った
今日はスピード勝負・・・二人で同時に離陸してその後最高速度で勝負するという運びだ
「あれ?フィリアも勝負するの?」
「いや、ただ感覚に慣れたいだけだから参加はしないよ」
ストライカーになったイーグルを足に装着し、エンジンを始動させる
頭の中に流れてくるシステムのイメージ
一緒に置いてあったゴーグルを装着すると、HMDの表示が現れる
「・・・多目的ディスプレイ起動」
私がそう言うと、空中投影ディスプレイが表示される
これは機体の改修を受けた際に追加されていた未来の装備
偵察カメラ、赤外線、NV映像を拡大・縮小させる事ができる
「えっこれ・・・写真が何も無い所に浮かんでますよ!?」
そっか・・・この時代はまだラジオの時代だった。物珍しい所の問題じゃないよね・・・
「芳佳、こっち向いて?」
「あ、はい」
ヘルメットのカメラ部分に指をさして写真を撮る
「オッケー。芳佳、こっちにおいで」
「はい。あの、何をしてたんですか?」
芳佳の方にディスプレイを向ける
「わわっ私だ!!しかも色も付いてる!!」
それを手に取ろうとして、空振る芳佳
「そろそろ始まりますよ~」
リーネが呼びに来てくれた
「リーネちゃん!!見て見て!!」
それから少しばかり写真の話になってしまった
ああ・・・恐らくシャーリー達の勝負はもう始まってーーー
ーーーやめてーーーあの子はまだーーー
そしてまた、頭に直接響く声
また幻聴かーーーそう思った瞬間、私の背中に嫌な感じが突き抜けた
「芳佳ッ!!リーネッ!!伏せて」
「「へ?」」
魔法力を最大限に流し込み、エンジンを始動させる
ゴォォォォォォォッ
「緊急発進ッ!!」
機体固定ロックが解除されると同時にアフターバーナーを点火して急速離陸を敢行する
「「きゃあぁぁぁぁぁっ!?」」
ドフッ
加速した私の視界を一瞬水蒸気の塊が覆う
最高速度に達した私はハンガーを一瞬で抜け、大空へと舞い上がる
と、自動飛行物体追尾設定の偵察カメラが海面に急速降下をするバルクホルンさんを捉えた
「間に合えぇぇぇぇぇ!!」
間一髪、海面まであと数センチの所でバルクホルンさんを抱える事に成功した
「バルクホルンさんっ、バルクホルンさんッ!!」
揺さぶっても返事がない
ぐったりと、顔色も血の気が引いて白くなっている
「おい、どうしたんだ!?」
シャーリーが戻ってきて心配そうにバルクホルンさんを見る
「多分魔法力をギリギリまで喰われたんだと思う、これに」
私は赤い機体に目線を向ける
「まじかよ・・・そんなやばい代物なのか?こいつ・・・」
「とにかくシャーリー、基地に戻ろう」
「お、おう・・・」
「フィリアちゃん、どうしたんですか・・・ってバルクホルンさん!?」
「魔法力切れで気を失ってる。芳佳、医務室に連絡取って!!」
「は、はいっ!!」
「リーネ、このストライカーを発進ユニットに格納!!間違っても装着したりしないように!!」
「え、あ、はい!!」
私は自分のストライカーを格納し、バルクホルンさんを医務室に運んだ
「それじゃあ芳佳、後はお願い。中佐に報告してくる」
「あ、はい!!」
芳佳と医務担当医に大尉を任せ、私は中佐の所に駆け足で行く
途中でシャーリーと会って一緒に報告に行くことになった
「わかりました。以後、ジェットストライカー及び専用武装の使用を禁止します」
ミーナ中佐は電話を取って内線を開いた
「整備班に繋いでください・・・はい・・・ジェットストライカーを使用禁止、及びそれを封印
以降、指示なくストライカーを触った者に関しては身柄を拘束します」
通話を終えた中佐は少し慌てて書類を掻き集める
「トゥルーデは?」
「今は医務室で寝てる。まだ意識が戻らないんだ」
「わかりました。シャーリーさんは事情の説明を」
会話しながら二人は執務室を出て行った
恐らくバルクホルン大尉の所に向かったのだろう
だが、私は中佐とは反対方向に向かった
ハンガー構内
「ーーーだから!!----だっつってんだろ!!」
「何を言う!!----であると何度説明すればいいのだ!!」
ん~なんか整備班の連中二人が言い合いしてる
ここは上官として喧嘩は止めるべきなのだろうか
とりあえず近づいて様子を窺ってみよう
「だークッソ話が通じねーな!!このキマジメ・ハミルトンが!!」
「口を慎め!!カルクチ・ダウェンポート!!」
なんか殴り合い始まったんだけど・・・おお、ガタイのいい方の右フックが入った
「なにやってるんですか?」
とりあえず近くで笑いながら見物してる整備の男性に聞いた
「あ、嬢ちゃん生きてたのか!?」
と、思ったらブリタニアの時、正門でラリー達と一緒にマロニー傘下の兵士フルボッコにしてた警備兵さんだった
というか、一緒にこっちに配属されたんですね
「まあ、なんとか」
「そうか・・・ならラリーの野朗は元気なんだな」
「まあ、アイツなら向こう30年は元気ですよ」
本当だから仕方がない
「で、なにしてるんですか?」
「あー新入り二人がいつも通りに喧嘩してるからその見守りだ」
ちなみに現在進行形でボコボコと殴り合いが続いているけど
「止めないんですか?」
「止めても止めてもキリが無いんだよ。何かしら下らん事で喧嘩してるからな」
と、ここで私は話を本題に移した
「ジェットストライカーについては?」
「あーその事についてアイツ等は喧嘩してるんだよ・・・おい、新入り二人!!」
警備の人が取っ掴み合っている二人を呼ぶ
「ちょっと待ってくれ、もう少しでカタぁ付きそうなんだ」
「貴様・・・仮にも俺達より上官だ。命令には従った方がいい」
二人は渋々と言った体で殴り合いを止め、少し腫れぼったい顔と鼻血を拭いながら服装を整える
「それでどうなったんだ?ストライカーの封印方法」
「俺はがっちり鎖で巻いて溶接しようと思ったんだが・・・」
「それでは緊急時に使用できない。私は新たに封印ユニットを製作するべきと考えます」
「だから、それじゃ時間が掛かり過ぎるっつってんだろ」
また二人が睨み合う・・・仲悪っ
「それなら鎖でガッチリ巻いてから二重に施錠。これでオーケーだ。いいな?返答は認めない」
「ぐっ・・・」
「了解しました」
ガタイのいい方は不満げに、華奢な方はきっちりと返事をする
「さて嬢ちゃん。中佐に報告しに行くからこの場は任せる」
「了解しました・・・」
と、警備兵さんは廊下に続く扉を重そうに開けてその奥に消える
残されたのは私と二人の新人整備兵
「あ~またオヤジの機嫌損ねちまったよ・・・どうしてくれんだハミ公よ」
「だから貴官の所為だと何回言えば・・・」
どうやらさっきの喧嘩は冷めたみたいで、二人とも落ち着いていた
「で、アンタもウィッチなのか?」
「あ、はい」
「だから何回言えば・・・まあいい、お名前よろしいでしょうか?」
やっと自己紹介
「俺は アルヴィン・H・ダウェンポート 階級は中さ・・・おっとこっちじゃ新入り整備兵だ」
ん?今何か聞こえかけた気が
「私は アレン・C・ハミルトン 階級は新入り整備兵であります」
「フィリア・フェイリールド 階級は大尉です」
二人に握手を交わして、私はジェットストライカーに向かった
「あー使うなよ大尉殿、そいつぁ使用禁止命令が出てるからな」
「あ、いや、そういう事じゃなくて・・・」
ストライカーに手をかざす
するとストライカーと私の体が光を帯びる
少し軽めに、魔力を注いでエンジンを始動させる
キュィィィーーーー
ある程度、タービンの回転数が上がってエンジン音が一気に増した瞬間
私の魔法力を始動時の二倍以上に吸い込んでいく
やっぱりと、もう少し魔法力を喰わせていると
「おい!?手を放せ!!」
と、体を抱えられてストライカーから離される
「何をしてるんです!?さっき使用禁止の命令が出たばかりなのに」
「いや、ちょっと調べたくて・・・」
降ろして貰った私は再びストライカーに手を触れ、今度は感覚を研ぎ澄ます
冷たいーーー拒絶
使わないでという意思表示
それが直に、心に響くように伝わってくる
「・・・何か解かったか?」
「いや、別に・・・」
とりあえず、自分のストライカーの所へ歩み寄る
再びシートが掛けられた状態で格納された私の機体
「アンタ、その機体のパイロットなのか?」
「はい、私の相棒です」
シートを取り、もう一度機体を確認して調整を始める
「F-15だと!?アンタ何者だよ!?」
驚く事に、この新人整備兵さんはイーグルの事を知っていた
「イーグル知ってるって事は向こうの人?」
「ウスティオの国籍マークにこのエンブレム・・・地獄の番犬・・・ガルム!?」
しかもガルムを知っているらしい
「おいおいガルムって言やあ・・・円卓の鬼神!?この娘っ子が伝説のパイロットだと!?」
わーなんかどんどん素性が暴かれていく~・・・
まあ、ばれた所でこの世界じゃ意味を成さない名前だけどね
「はあ・・・元ウスティオ空軍第6航空師団第66飛行隊・・・ガルム隊1番機を担当してた。TACネームは ”サイファー”」
と、タグを見せながらあっちの自己紹介
「嘘だろ・・・確かに女パイロットってのは噂になってたが・・・
俺はオーシア国防空軍第108戦術戦闘飛行隊サンド島分遣隊 ウォードッグ
TACネームは ”チョッパー”ーーーだったが・・・」
「?」
「ノヴェンバーの上空でクソッタレ副大統領演説の為に防空任務、展示飛行をやってたんだが
敵戦闘機の襲撃を受けたんだ・・・防空任務に就いていたのは俺達の隊だけ
増援まで六分、俺達は戦った
だが、増援が来た時8492飛行隊とかいう飛行隊の所為で増援は撤退して行きやがった」
「!?・・・なぜ?」
「簡単な事ですよ・・・8492飛行隊というのは元ベルカのエース部隊を集めたアグレッサー飛行隊です
しかし実体はベルカの亡霊、戦争の真意に近づくウォードック隊の存在を抹消する為に手を回していました
私は、そこの派遣将校を務めておりました。環太平洋戦争・・・ベルカ戦争から15年後の事です」
環太平洋戦争・・・ベルカ事変と呼ばれる謎に満ちた戦争
私はそれを真剣に聞いていた
「そして、俺の機体は被弾しちまった・・・下は市街地、機体を安全に落とせる場所なんざ存在しない
俺は、唯一機体を墜とせるような広さを持つ副大統領が演説をしていたスタジアムに機首を向けた
確実な落下コースを取ったのを確認して、エジェクションレバーを引いた
だが、電装系統が死んでキャノピーが飛ばなかった」
「・・・・・」
「何回引いても反応せず、諦めた俺は急降下・・・落下だったのかもな。曖昧で覚えていないが、俺は操縦桿を握り締めた
その時視界が雲みたいな真っ白になって、気が付いたらこの世界・・・ロマーニャ海岸に寝転んでいたって訳だ」
やはり同じように飛ばされてきている
「私は、そうして敵対したウォードック隊を追って分断されたベルカを繋ぐトンネルに飛び込んだ
そして、もう少しで追いつく所で友軍のユーク機と衝突・・・私が覚えているのはここまで
後は、ダウェンポートと一緒だ」
という事は、二人とも ”墜落”の瞬間に飛ばされたという事になる
でも、この世界に居るという事は ”まだ死んでいない” という事の説明になる
私がここに居て、一回戻れたのがその証拠だから
「でも、それって二人共敵同士だったんでしょ?」
殴り合いじゃ済みそうもないのに・・・
「まあ、確かにそうだが・・・もう済んじまった事だしよ、責めても仕方ねえよ
それによ、こいつは素直に説明してくれたからな。まあ、隠しっぱなしだったら殴り飛ばしてたけどな」
「そういうのは殴る前に言いたまえ・・・まあ、私もウォードッグ隊に救われた人間の一人なのかもしれないな」
と、二人は顔を見合わせて笑う
何だかんだで、この二人はいい感じにやっていけそうだ
「しっかしよ、お前はいいのかよ?」
「何がだ?」
「だってよ、まだ1歳行かない娘さん居たんだろうが。悔いはねーのか?」
「え!?」
子供を残して来たのか・・・
「戻る事ができるのなら戻るさ・・・しかしその術もわからないのにどうしろというのだ?」
少し悲しそうに、悔しそうにハミルトンさんはハンガーの天井を見る
「人生をやり直せるのなら・・・やり直したいものだな・・・」
「そうだな、少なくとも
それでも、傭兵だって自由に夢を見る事ぐらい・・・
「俺は傭兵ってやつは大ッ嫌いだが、あんたとは気が合いそうだ」
「・・・それはどうも」
「しかしあのアグレッサー飛行隊を撃墜した本人か・・・少し話をいいか?」
「え、え~・・・」
このハミルトンって人目が光ってる。絶対ジャーナリスト気質だろうね・・・
「先にストライカーの封印をお願いします」
この世界の現行最新鋭機・・・世界初のジェットエンジン搭載機はその高性能と引き換えに
大量の魔法力を消費させる諸刃の剣だ
それに過剰な程の重装備、重武装を施した為にさらに追加の魔法力放出
その燃費の悪さは、この基地のエースパイロットの手に余る程の代物だった
「そうだな。それにしても、こっちのストライカーとかいう装備は向こうの戦闘機に似た形してんな」
「性能や特性も共通のようだな・・・このジェットストライカーMe262についても。しかも燃費が悪いって点はしっかり同じと来た」
ストライカーに封印用のチェーンを巻きつけながら、二人は会話を続ける
それから巻き方に試行錯誤しながらする事数十分、ようやくストライカーの封印が完了した
シートを被せて使用禁止の張り紙を張り、ようやくため息を付きながら腰を近くの箱に降ろす
「そんじゃあ質問いいか?」
「答えられる事はどうぞ」
質問されるような事はしてないけど
「あんた、何で傭兵になったんだ?」
うーん・・・
「基本的には私は軍属・・・だったんだけど、ある日の所属不明機の本土急襲の時にさ
敵機25機、味方機17機・・・相手がフランカーなのに対してこっちはF-16
それも補給が万全に済んでない状態で空に上がる羽目になった
訓練を修了したばかりの私達は必死に戦ったけど、敵機の殲滅と私以外の味方機の全滅という苦い結果に終わった
それから私は、本土奇襲の緊急時に増援も出さない無能上等の軍上層部に嫌気がさして軍を辞めた
そんな場所に居たら、命がいくつあっても足りないからね」
私は真実を話した
「同僚を一度に全て失い、一人だけ残ってしまった私はスカウトで傭兵になった
理由なんてない。それが一人で戦う為、生きる為に再び私は操縦桿を握った。それから間もなく、その戦争は始まった」
「・・・ベルカ戦争だな」
あの空を思い出して、私は少し俯いた
ヴァレー基地に召集がかかった頃には戦況は著しく悪く、ウスティオのほぼ全域を侵略され基地自体は地形のお陰で攻撃を受けていなかった
そして配属されて三日、とうとう敵の爆撃機が基地を目指して接近していた
同時に、それがラリーと組んだ最初の作戦だった
それから二人に終戦までの話をして、逆に質問する
「二人は何で軍人になったんですか?」
「俺は単純に、職が無かったからだよ。特に理由なんざ無い。あんたと同じで生きる為にパイロットになった」
「私は父が軍人だったからその影響で私も軍人になった。正直軍人にならなかったのなら、私はジャーナリストになろうと思っていたよ」
二人とも、軍人になった経緯は違えど、戦争に巻き込まれたのには変わりなかった
「こんなご時世だ。みんな何か抱えて生きてんだよ」
そんなダウェンポートさんの言葉は、私の心に強く残った
そんな昔話と雑談をしていると、基地内部につながるドアが開いた
「おう、お前らちゃんと仕事したか?」
さっきの整備班長さんだった
「もう済ませちまったぜ」
「錠前の鍵はどうします?」
と、二人が前に出る
「あーそいつは中佐の所に持っていかねーとな。嬢ちゃん、頼めるか?」
「わかりました。あと、私の機体の整備は二人に任せてよろしいでしょうか?」
「う~ん・・・確かにこの新人二人は飲み込みは早いが・・・まあ嬢ちゃんのいう事だ。何か考えがあるんだろ?
お前等上官命令だ。この嬢ちゃんの専属整備兵になりな」
「「了解!!」」
二人とも快く受けてくれたみたいだ
「すみません勝手言って」
「いいって事よ。嬢ちゃんには俺達の”居場所”を守ってくれた大恩があるからな。せめてものお返しになれば幸いだ」
そう言って整備兵おじさんはオイルまみれの顔で元気な笑顔をつくる
「さて、頼んだぞ」
「はい」
急いで私は中佐の元へと向かった
「失礼します」
ドアを開けて執務室に入る。中で待っていたのは中佐と少佐だった
「ああフィリアか、ジェットストライカーの方はどうなった?」
「一応鎖を巻いて二重施錠して封印、念のために使用禁止の張り紙を張りました。バルクホルン大尉の方は?」
「命に別状は無い。が、消耗が激しいゆえに今もベットの上だ」
「そうですか・・・」
事前に防げなかったのは私の責任だ
とりあえず命に別状が無いのが唯一の救いだ
「ご苦労様・・・」
「それと、誠に勝手ながら新人整備兵二人を私の専属整備兵としました」
「・・・理由は?」
「私一人では機体の整備が間に合わないからです」
真実でもあり、嘘でもある
「でもお前の機体、構造が全く違うのに新人に任せて大丈夫か?それとも新人に何か特別な技能でもーーー」
「あっち側の人間です」
少佐の言葉を遮って、真実を告げる
すると二人共納得したように顔を見合わせた
「解かりました。しかし待遇は変えられませんから」
「わかってます」
と、私は敬礼をして部屋を出て行く
それにしても、私のような人間が他に居るとは思わなかった
もしかしたらこの世界のどこかに、まだ同じような境遇の人も居るのかもしれない
少し気になったが、とにかく今は目の前の事だ
翌日
意識が回復したバルクホルンさんは体力回復の為、一週間の自室待機を命じられたんだけど・・・
「ふッ・・・ふッ・・・!!」
目の前の大真面目堅物軍人さんは何故か梁で懸垂をしてトレーニングをしていた
この人何で自室待機にさせられたのか理由を解かってないでしょ
「バルクホルン大尉、何をしているんですか?」
とりあえず、質問してみる
「あのストライカーを持て余してしまったのは私が弱いからだ・・・」
懸垂しながら、背を向けたまま大尉は答えた
「あのストライカーは戦局を変える力を持っている・・・お前もその力を解かっているだろう」
確かにジェットストライカーは、従来のレシプロストライカーを遥かに凌駕する性能を持っている
イーグルも然り、それに乗る私も当然知っている
「私が強くなれば・・・強くならなければならない・・・」
「その為ならーーー」
「死んでもいいって言うのかよ!!」
途中、私の言葉を遮ってシャーリーが怒鳴る
振り向こうともしない、シャーリーが怒っているのは見なくてもわかる
私自身、もう限界点突破しかけているのだから
「祖国奪還の為なら・・・クリスを守れるのなら・・・!!」
限界・・・今なんて言った?
「いい加減にーーー」
「ふざけるのもいい加減にしろ!!」
今度は私がシャーリーの言葉を遮る
もう言葉が戻っていようと関係ない
「大尉!!祖国の為だとかはどうだっていい!!そんな事よりもクリスちゃんを守る?
自分の命も守れない子供風情が強がるのも大概にしろよ!!」
「・・・やめろ・・・」
「私がクリスちゃんを助けた時、クリスちゃんが何よりも心配してたのはアンタなんだぞ!?
あの歳で両親を目の前で失い、一人残された彼女は道で泣いてたんだぞ!?
私が助けなかったらアンタは間に合ってたのか?答えろ!!」
「やめろ・・・」
押し黙る大尉は動きを止め、小刻みに震えていた
でも関係ない
「そんな事で空軍のエース?笑いも出ない冗談はやめろ!!アンタはエースでも何でもない、ただの臆病者だ!!」
「やめろ!!」
瞬間、大尉は体を反転させて私の胸ぐらを掴み上げる
ギリギリと、私の首を絞める力は強くなっていく
「おい!!何してんだよバルクホルン!!」
「・・・手を・・・だすな・・・」
シャーリーが止めに入ろうとするが、それをけん制する
「・・・ーーーだっていいだろうが・・・」
意識が朦朧としてくる
それでも、私は続ける
「・・・い・・・つづければ・・・あのこだって・・・」
と、私の朦朧としていた意識はとうとう失った
「おいフィリア、フィリア!!」
倒れたフィリアは呼んでも叫んでも、反応する気配はない
「・・・あ、ああ・・・」
自分の手を見つめるバルクホルンは息がつまり声を出せていない
「何やってんだよお前は!!」
思わず手を出したシャーリーはバルクホルンの頬を力いっぱい殴った
倒れたバルクホルンは起き上がる事もせず、ただただ呆然としていた
「やばいって・・・とにかく運ばないと」
急いでフィリアの体を抱えたシャーリーは医務室へと向かった
「わかりました、後は任せて下さい!!」
医務室の医師にフィリアを預けて容態を見守る
「かなり危険な状態です・・・目を覚まさない可能性も否定できません」
「・・・何とかしてくれ・・・頼むよ・・・」
私は願った
戻って来い、戻って来いと
だが、そんな間もなく基地の警報が鳴り響いた
「ネウロイ・・・くッ・・・」
私は戦闘待機要員だった為すぐに出撃しなくてはならなくなった
全く・・・お前はいつも無茶ばかりであるな
真っ暗な意識の中、妙に聞き覚えのある声が聞こえてきた
「なんだよ・・・悪い?」
まあ、我には人間の考える事なんか理解に硬いのだからな
その声は、私の魔法力の源・・・使い魔の声だ
「全くだよ・・・でも人間なんてそんなもんだけどね」
そんなもので片付けれるほどに、人間というものに価値など存在しない
お前、まるで自分は人間ではないというような口ぶりだな
「う~ん・・・人間であって人ではない・・・かな」
だからこそ、私はお前に興味を持った
「何故?」
ヒトとしての幸せ、そしてあの感情を我に喰わせてまで空を求めるお前がな、
「何を言っているのかよく解からないね・・・」
私はお前だ、それと同時にお前は私だ
「あっそう・・・・で、何しに来たの?」
私が死にかけているのを私が黙って見ているとでも思ったのか?
「それもそうか」
で、どうするんだ?
「・・・まあ、どうでもいいかな」
自分の命なんて安い
そんな事誰よりも解かっているから
全く・・・だがお前をここ死なせる訳にはいかないのでな
目覚めよーーー紡ぐ使命を持つ者よ
「う・・ぐ・・・げほっ・・・!!」
血を吐きそうな勢いで咳き込んで、私は目覚めた
「っ・・・起きた!!」
何故かぐるっと私を囲うようにしてシャーリー、ハルトマン、芳佳が私を見ている
体を起こそうとして、止めた
「よかった・・・本当によかった・・・!!」
芳佳が涙を流しながら抱きついてきた
そうか・・・戻ってきたのか・・・・
と、ここであの後の事を聞いた
ネウロイ出現の為にシャーリーは出撃
しかし旗色悪くシャーリーが諦めかけた時、通常のストライカーを身につけたバルクホルン大尉が加勢
ネウロイの撃退に成功したらしい
自ら立ち直れたのか・・・命を懸けて責めた甲斐があった
そして芳佳の後ろには、バルクホルンさんが何か言いたいような顔をして立っていた
「フィリア・・・済まない・・・」
頭を下げてくる
上半身を起こした私はそんな大尉に手招きをする
「・・・何だ・・・」
手の届く距離まで寄ってきた大尉を、私はゆっくり抱きしめた
「っ!?」
そして、声に出せなかった部分をもう一度彼女にささやく
「弱くても、いいんですよ・・・生きていればそれだけで・・・クリスちゃんだってそう思っているはずです」
「・・・・・」
「あの子と、仲間の事を思うのなら・・・強さじゃなく、生きる事を最優先にして下さい。強さなんて、生き延び続ければそれが強さなんですから」
「・・・解かっている・・・すまなかった・・・」
堪えきれず涙を流す大尉は、心からその事を解かってくれたみたいだ
「いいですよ・・・仲間を守れるのならこんな安っぽい命なんてくれてやりますから・・・」
私の命と大尉の命は重さが違う
背負っているものの違い、それが私の命の価値の無さを意味している
私は死んだところで戦死者としてカウントされない・・・都合のいい人間だから
優しく大尉の頭を撫でる
「フィリアって凄いよ・・・私でもあそこまでは怖くてできないから・・・ごめん」
ハルトマンが頭を下げてくる
はて、私は彼女に頭を下げられるような事何かしたっけ?
「全くだ・・・でもまあ戻ってきたんだ。やっぱり凄いよお前は・・・」
シャーリーが私の頭にぽすっと手を置く
というか、私がバルクホルンさんの頭を撫でて、その私の頭をシャーリーが撫でているという変な状況だ
「まあ、中尉にバレてないだけましかもね」
「そうだな」
医務室の医者さんはこれがバレたらどうなるかを予想して中佐に報告をしていなかった
バレてたらと思うと鳥肌と冷や汗が半端じゃなく出てくる
「ありがとうございます」
「いえいえ気にしないで、それより早く戻らないとミーナさんが勘ぐるわよ?」
「そうだね~ミーナって勘鋭いからね~」
あははははと皆で笑う
「クシュンッ!!・・・誰か私の噂してるわね・・・」
執務室でバルクホルンへのの罰を考えているミーナがくしゃみをしてそれを再び考える
「そういえば彼女がじゃがいもを持ってくるって言ってたわね・・・丁度いいわ、罰はじゃがいもの皮むきで」
パンッと手を叩いて笑顔になったミーナは椅子から腰を上げた
ハンガー
今はバルクホルン大尉が”無断出撃”という命令違反でジャガイモの皮むき十二人分という罰を黙々とやっている最中だが
「それにしても、バルクホルンが命令違反なんてしたのは初めてじゃないか?」
ビクッ
「お陰でネウロイを倒せたんだ・・・少しは多めに見てやってくれよ」
なだめるシャーリー
「規則は規則です!!全くもう・・・所でフィリアさん?」
「は、はいっ・・・」
「あなた、今の今まで何をしていたのですか?」
あああああああしまったぁぁぁぁぁ!?
一応私も戦闘待機要員だったのを忘れてた
「・・・寝ていました!!」
敬礼をビシッと決めて思いっきり報告
まあ、寝てたのは本当だから大丈夫とは思うけど・・・
「寝坊してたの・・・そう・・・」
ん?何で中佐は少し安心したような顔してるんだろ
「まあ、今回は免除してあげましょう」
「ありがとうございます」
実際ミーナは何が起きたか知っていた
何故知っていたのかは・・・まあ、この人ですから
「皆さん、お騒がせして申し訳ありませんでした」
と、後ろから聞こえた控えめな声に振り向く
するとハルトマンとよく似た・・・メガネをかけた少女が居た
「ハルトマンが謝る事ないだろ・・・」
シャーリーは別人なのかわかってないらしい
「あ、いえ・・・私は・・・」
うん、話し方違うし雰囲気も違う
ハルトマンの双子の姉妹あたりかな
「みなさ~ん、夕飯の支度が出来ましたよ~」
と、芳佳とリーネが山のように盛られたジャガイモ料理を運んできた
「・・・じゅるり」
「おい?お前大丈夫か?」
正直昼食抜いてるからお腹空っぽ通り越して気力ないんだよね
「それじゃあいただきます」
とにかく腹が減って仕方が無いため、口に茹でジャガイモを放り込む
口いっぱいに、ホクホクとした食感と少し塩が利いたジャガイモの風味が広がる
「うん、うまい!!」
「ありがとうございます~。ハルトマンさんもどうぞ~」
と、メガネをかけた方のハルトマンにフライドポテトを薦める芳佳
「いただきます」
「あれ?メガネなんてかけてましたっけ?」
「はい、ずっと・・・」
「お~おいしそ~!!」
ハルトマン(眠 が芳佳に寄りかかった
「あ、こっちのハルトマンさんもどうぞ・・・へ?」
と、ここで皆同時にハルトマンが二人居る事に気が付いた
「あれ、うるすら?」
「はい、姉さま」
「「「姉さま!?」」」
ふむぅ・・・やはり妹さんか
「紹介するわ。こちらは ウルスラ・ハルトマン中尉 エーリカ・ハルトマン中尉の双子の妹さんよ
彼女は、ジェットストライカー開発スタッフの一人なの」
ふむ、彼女がか・・・
「バルクホルン大尉、この度はご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした
どうやらジェットストライカーには、致命的な欠陥があったようです」
「まあ、試作機にトラブルは付き物だ。気にするな」
「いえ、大尉がご無事で何よりでした・・・あの子は本国へ持って帰ります」
「その為にわざわざ来たのか?」
「ええ・・・代わりといっては何ですが、お騒がせしたお詫びにジャガイモを置いていきます」
彼女が目を向けた先にはジャガイモが入っているふたが開いた箱が一つ
もう二つも同じようにみっちりジャガイモなのだろうか・・・なんか多すぎない?
「・・・まあ時間かけて調整してあげれば、あの子はまた空に上がる事ができるから」
「はい・・・え、あなたは?」
おっと、私は正規のメンバーじゃないもんね
「私はーーー」
と、いきなり基地の警報が鳴った
「敵襲!?いくら何でも早すぎるぞ!!」
「出せる機体は!?」
「全機出撃後の調整整備に入ってる為、使用可能なストライカーがありません!!」
「何ですって!?」
と、中佐は私の方を向いてアイコンタクトをとって来た
「はいはい、わかりましたよ・・・ダウェンポートさん!!ハミルトンさん!!」
「「おうよ(了解)!!」」
二人に声を掛けて出撃準備をする
「一体何を・・・っ!?」
シートを剥がして、二人は出撃チェックを行っていた
「あの機体は・・・何ですか!?」
「んー、まージェットストライカーってやつだね」
それを一言残して、私はストライカーを装着する
「エンジン始動・・・各機体コントロール系統に異常なし」
ゴーグル型HMDを装着して機体とリンクさせる
「兵装確認・・・セーフティーロック解除を確認」
「マスターアームコントロールの切り替えに異常なし」
「各員、姿勢を低くして衝撃に備えてください!!」
「オールクリアだ。You have control」
やっぱり補佐が居ると助かるなぁ・・・それじゃあ
「I have control ガルム1 テイクオフ!!」
ガチャンとストライカー固定アームが解除され、私は滑走を開始した
推力最大、アフターバーナーを作動させて急加速
ハンガーを出た私は夕焼けの空に飛翔した
「あんな機体が存在していたなんて・・・」
口を開けて、ただ呆然とするウルスラはハンガーに残された全員を見る
「相変わらず、離陸するだけでこの風圧かよ~」
「仕方ないだろう、それがあいつの機体の性能なのだから」
皆、何事も無かったかのように料理を食べている
「え、えええ・・・」
「うるすら~」
「な、何でしょうか姉さま」
「あいつがね、あの ”蒼の霞”なんだよ?」
「あ、あの人が一年前の・・・幻想の英雄!?」
因みに、蒼の霞というのは前ブリタニア決戦時に現れた所属不明の一人の魔女の通称である
ネウロイの群れを一掃し、そのまま空に消えた謎のウィッチ
まるで空に消える雲のように、陽炎のように
存在が霞んだ蒼い長髪の銃剣狙撃手
噂だけが残されていたが、その噂のウィッチが実在していた事をウルスラは信じていなかった
「あいつは強いからな~もうネウロイ撃墜してるんじゃないかな」
ズドォォォォン・・・
と、言った矢先に基地を轟音が揺らした
フィリア視点
空腹を満たす作業を邪魔した罪は重いぞネウロイよ・・・
とにかく腹が減った私は、早々に終わらせて帰りたかった為に魔法力を完全開放
ついでに先ほどのゴタゴタのストレスを上乗せして一撃の下にネウロイを葬った
と、言うわけで帰還後の事後報告
「敵は一機、500メートルクラスの大型タイプでした」
「そう・・・それで?」
「面倒だったんで一撃で沈めました」
「あ、相変わらず凄いわね・・・ご苦労様」
「ね、ネウロイを一撃でって・・・」
あ、ウルスラっていう人口開けたまま何でこっち見てるんだろう?
「どうかしました?」
「あ、いえ・・・そのストライカーはどうしたんですか?」
「どうしたもこうしたも・・・私の相棒です」
それから詳しく話を聞かせてくれとか何とかで言われたんで・・・
「データ収集は却下、それで分解して元に戻せる保障はないでしょ?」
「う・・・でも、世界平和の為に協力してもらえませんか?」
「う~ん・・・とりあえずダメです」
「と、とりあえずって・・・」
「だから、さっきも言った通りですよ。あの子をうまく調整してあげた方が即戦力に繋がる
構造が全く違う機体のデータを取るよりそっちの方が効率的だし研究費も無駄に消費されない」
「は・・・はい・・・」
「それにあの子はまだ飛びたいって言ってるから、立派な機体にしてあげるんだね」
機体は物を言わないが、なんとなくそんな気がした
「は、はいっ。この子を立派にしてみせます」
「んーオーケー。それじゃあがんばってね」
会えるかどうかはさておき、私は応援しようと思う
彼女が帰る際には基地全員で手を振って見送りをした
こうして、世界初のジェットストライカーは本国へと戻っていった
またいずれ、大空にその轟音を響かせる時が来るまで
さてさて最初はお姉ちゃん&シャーリー回となりました
そしてエスコン要員とは、死んだはずのチョッパーとトンネラーです
まあ、この二人はいろんな場面で活躍させるつもりなのです
更新不定期と駄文、誠に申し訳ありませんが
善処します故よろしくお願いします
あと、初期投稿の本文の方は随時改稿予定なので
気が向いたらそっちも読んでもらえると幸いです
それとSW本編のタイトル
かたい(劣化ウラン弾)はやい(連射速度)ものすご~い(威力)・・・って
アヴェンジャーの事ですね分かりま・・・っとこんな時間に来客か?
意見感想募集中
それではよろしくお願いします
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早速飛ばされた先で待っていたのは、世界で最初に実戦投入された戦闘機・・・のような形をしたストライカーだった
しかしこのストライカーには重大な欠点があったのだった
あたふたする間もない主人公はとにかく基地を走り回る