7月初旬
私は部屋でのんびり本を読みながら過ごしていた
読んでいる本のタイトルは、”姫君の青い鳩”
図書室で本棚を眺めていてふと目に入った赤い冊子だが
それは何故か強く私を引き込んだ
ピピピッピピピッ
と、端末の着信音が本の世界から私を引き戻す
「もしもし」
「よう相棒、まだ生きてるか」
電話はラリーからだった
「その言葉、くせなの?」
「癖って訳じゃないが、まあ旧友への挨拶だ」
「まあそれはいいんだけど。要件は?」
「おう。お前の機体の処理についてなんだが・・・」
機体の処理・・・それは私の機体を解体する事だ
元々中古・・・パイロットを失った機体を引き取ったものだが
耐久年数を満たそうとしているのだ
耐久年数は・・・言わば機体そのものの寿命
「イヤだ。私はあの子は手放さないから」
「何度も言わせるな。お前のイーグルの基礎フレームはもう限界だ
ベルカ戦争の時から整備の連中に言われてただろ?
近代改修したからって基礎は変わらない。お前の機体はもう、
航空機としての寿命を迎えようとしているんだよ」
「だからってその前に翼を奪うの?」
「違う、お前のイーグルはもう十二分に戦った。もう休ませてやれって話だ」
ベルカ戦争よりも前から、イーグルは私の相棒だった
思い入れのある機体だから
「お前が乗っている機体で空中分解事故なんか起こしたら
それこそ、俺は司令やお前の親父さんに顔を向けられなくなる」
司令は三年前に退役し、数日後に自宅で息を引き取ったらしい
イーグルアイ・・・ベルカ戦争時、私達ガルム隊のAWACSのオペレーターで
私の父が命と引き換えに守った友人
私は父が死ぬ前に何回か会った事があるみたいだ
記憶を探り、父がKIA認定となった時に私に教えてくれた人
それが、自然とイーグルアイと重なる
ああ、そうだったんだ・・・と少し心の濁りが晴れた気がした
天国かどうかは知らないけど、父によろしくね・・・
「頼む・・・機体を手放してくれ」
「・・・わかったよ」
通話を終え、私は端末をベットに放り投げて部屋を出た
「・・・・・・」
私は、暗いハンガーに格納されている自分の機体を眺めていた
F-15C 通称”イーグル”
もう一緒に飛ぶ事はない自分の相棒は、何も言わずにただ静かにそこに鎮座していた
でも、一緒にいた時間はかけがえもない私の思い出だから
「ありがとう・・・私をここまで乗せて来てくれて」
機首部分を軽く撫でながら、私は呟いた
金属の冷たさが、私の手に痛いほど伝わる
「だから、もう休んでいいからね・・・」
コックピットを覆っているキャノピーを開け、シートに座る
慣れ親しんだ操縦桿、スロットル、計器の配置
私は、シートに座ったまま目蓋を閉じる
そして、機体ごと謎の浮遊感に包まれて意識を失った
~千冬視点~
米軍総司令から連絡があり、
フェイリールドの機体を引き渡す事になった
そして確認しようと格納庫に行った私を待っていたのは、機体ではなく唯の静寂だった
「アイツ・・・まさか機体を持ち出したのか?」
だがハンガーのシャッターを見るに最近開閉された形跡はない
まるで、そこから忽然と姿が消えてしまったかのように
そして残されている一枚の羽
白いーーー真っ白な羽
ハトのような柔らかな羽ではなく、肉を食らう獰猛な鷲のように、力強くしなやかな羽
「・・・・・」
私はそれを手に取り、総司令から聞いた事を思い出してみる
”アイツが突然居なくなる事があるかもしれないが
その時は探さずにただ待っていればいい
必ずアイツは生きて帰ってくるからな”
最初、私にはフェイリールドに失踪壁でもあるのかと思ったが
どうやら別の何からしい
「まあ、連絡ぐらいは済ませておくか」
端末を開き、ナターシャの電話番号を選択する
「・・・もしもし?」
「ああナターシャ、織斑だ」
「あら珍しいじゃない、貴女から呼び出しだなんて」
「すまんな、ちょっと総司令に伝言を頼めるか?」
「オーケー、どう伝えればいいかしら?」
「そうだな・・・”渡り鳥は霧の中へ”とでも伝えてくれ」
~フィリア視点~
ざざあん・・・ざぁっ
周囲からは波が押し寄せる音が聞こえる
頬から感じる地面の感触は、コンクリートではなく砂のそれだった
「・・・うっ・・・」
暗い場所ーーーハンガーに居たはずの私の目には太陽からの日差しが容赦なく差し込む
「ここ何処だろう・・・」
なぜ、私は外にいるのだろうか
なぜ、私は寝てしまったのだろうか?
そしてーーー右手にはあのライフルを握って
「とにかく起きなきゃ・・・」
体を起こそうとするも、力が入らずに砂に顔を埋める
両足は重くて動かない
「・・・眠いーーー」
そして、疲労感と共に私の意識も溶けていった
~芳佳視点~
501が再び再結成されて、やる事が多くなった私達だけど
私とリーネちゃん、ペリーヌさんは一年軍から離れていたから
その空白を埋める為に修行に行ってました
その時ネウロイが現れたけど三人で撃退する事ができました
それで、私達は海岸線を飛んで景色を楽しみながら帰っています
「ブリタニアもきれいだったけど、ロマーニャも同じくらいきれいだね~」
「そうだね~」
お昼を過ぎるくらいの時間だから、太陽の光を反射して海面がキラキラと宝石のように輝いてる
「全くあなた達は・・・戦闘の後なのに元気ですわね・・・」
「あれ?・・・人かな?」
リーネちゃんが海岸で何かを見つけたみたいで
私達は指を刺した方向を目で追いかける
「う~ん・・・遠すぎて見えない」
「私もですわ・・・」
「あれ?・・・あの人って・・・!!」
リーネちゃんが急降下して海岸に向かう、待って~
段々と、地面が近づくにつれて
砂浜に寝ている人を見つけた
「やっぱり!!」
「あっ!!」
「この人は!!」
寝ている人の顔を見てすぐに分かった
「フィリアちゃん!!」
一年前に一緒に戦った
守ってもらったその人だった
「大丈夫ですか!?」
でも意識が無く、足にはあのストライカーが装着されてる
「とにかく基地に運ぼっ」
「うんっ」
でも・・・なんか前より身長が低い気がする
「芳佳ちゃん!!」
「わかった。私は容態を見てみるね!!」
「こちら第501統合航空戦闘団所属ペリーヌ・クロステルマン中尉。ロマーニャ基地、応答を」
「{こちら第501統合航空戦闘団ロマーニャ基地通信班、どうなさいました?}」
「ミーナ中佐に繋いでください、緊急案件です!!」
「{了解、繋ぎます}{こちらミーナ・ディートリンデ・ヴィルケよ。どうかしたの?ペリーヌ・クロステルマン中尉}」
「任務から帰還途中の海岸砂浜で、フェイリールド大尉と思しき人物を発見しました
しかし意識が無いみたいなので、救護班を呼んでください!!」
「{っ!?分かったわ。すぐにそちらにトゥルーデを送ります}」
無線からミーナ中佐の声が聞こえてる
フィリア視点
「・・・うっ・・・」
体に力が入らない
動けない
何が起こったかがわからない
目蓋が重い
でも状況ぐらい把握したいという一心で、私は重い目蓋を開ける
目が霞んでよく見えないが、どうやら室内のようだ
石造りの壁に一つの窓があり、ふっと薬品の匂いが鼻に入る
ここはーーー何処だろうーーー
芳佳視点
「どうやら魔法力を限界まで消耗しているようですね・・・しばらくは起きれないと思います」
バルクホルンさんにフィリアちゃんを担いでもらって基地に戻って、医務室のベットに寝かせています
「とにかく、起きるまで安静ですから病室には入らないで下さい」
「わかりました」
「はい。起きたら連絡をお願いします」
「わかりました。それでは」
パタパタとボードで仰ぎながら医務担当の女医さんは机に視線を戻した
「それでは宮藤、戻ってミーナに報告しに行くぞ」
「あ、はいっ」
バルクホルンさんが扉を開けようとドアノブに手をかけた時
「・・・うっ・・・」
仕切りのカーテンの向こうから微かに聞こえた声
「あ、思ったより早く意識が回復してるみたいですね」
女医さんがカーテンを開け、私とバルクホルンさんも後に続く
「聞こえているのなら手を握ってください・・・はい、いいですよ。喋れますか?」
「・・・は・・・い・・・」
「フィリアちゃん!!」
「こらこら一応お医者さんなんだから騒がないの、宮藤軍曹」
「芳・・・佳・・・?」
「はい、覚えてますか?」
「隣に・・・いるのは・・・大尉?」
「ああ、そうだ。それより大丈夫か?」
「さっきよりは・・・大分・・・マシになりました・・・」
フィリアちゃんはかなり辛そうだったけど体を起こしてくれました
「・・・久しぶりだね・・・元気にしてた?」
ゆっくりと私は頭を撫でられて、少し恥ずかしい気分です
「お前こそ、元気にしてたか?」
「もちろんですよ・・・あなたも、また死に急いでたりしてない・・・ですよね?」
「無論だ。私を誰だと思っている?」
はははっと笑いながら、私達はお話を続けます
フィリア視点
どうやらまたあの世界に飛ばされたらしい
ここに芳佳達がいるのがその証拠だ
「という事は・・・ここはブリタニア?」
「いや、お前達が消えてからすぐ501は正式に一度解散したんだ」
それから色々あった事を聞いて
再び501がロマーニャで結成されたと
「そういえば皆元気にしてるの?」
「ああ、元気どころの問題じゃーーー」
大尉が言いかけた途端、部屋のドアが勢いよく開く
「フィ~リア~っ!!」
ぼふっとベットに飛び込んできたのは、501メンバーで一番元気なルッキーニだ
「お~ルッキーニ、元気そうだね」
「うにゅ~・・・本物のフィリアだ~」
顔を私の胸元に埋めて気持ちよさそうにしている
「よおフィリア!!元気にしてたか~?」
続いて入ってきたのはシャーリーだ
「うん、ちゃんと元気だったよ」
「そりゃ何よりだ。しっかし話し方まで完全に変わってるな~」
「そりゃあどこかの鬼上官にきっちり仕込まれたからね」
「誰が鬼上官ですって?」
ピシィッとその場の空気が凍りつく
「ハハハハハハハハハハ失礼しましたッ!!」
「うふふ、冗談よ。お久しぶり、フィリアさん」
入り口から入ってきたのは、このメンバーの総まとめ役のミーナ中佐だった
相変わらず毒々しい笑顔で何よりデス・・・
「はっはっはっ!!久しぶりだなフィリア」
豪快に笑い飛ばすのはやっぱり坂本少佐
様子を見る限り、というかこの人程病気に程遠い人は居ないか
「よっ」
「お久しぶりです・・・フィリアさん・・・」
「ユーティライネン中尉にサーニャも、元気にしてそうだね」
「それは今の貴女よりは元気ですわ!!」
いつの間にか居たクロステルマン中尉が腰に手を当てながらツッこむ
「ってそれもそうだね」
また皆で笑う
皆元気にしてたみたいだった
「ところでハルトマン中尉はどうしたの?」
「あいつは向こうと同じ、いつも通り寝てるよ」
「変わらないね~ほんとに」
気が付けば、ハルトマン中尉以外の全員がこの場に集まっていた
久しぶりだと思いながら考えてみる
どうしてまたこっちにとばされたんだろうか
でも・・・これで探せる
「あ!!私の機体!!」
「心配するな。既にハンガーに格納してある」
「そうですか・・・よかった」
「と、言うわけでーーー」
「?」
「おかえりなさい、フェイリールド大尉」
中佐は柔らかな笑みを浮かべて言ってくれた
「ーーー・・・ただいま帰還致しました」
こうしてーーー
彼女の戦いは再び違う世界へと変わった
それは約二ヶ月ほどの短い期間だが
彼女は再び世界の空を駆け抜ける
今度は自分の”過去”を探す為に・・・
タイトル変更です
予告と全然違う・・・
ちょっと(じゃないかもしれないけど)
ストライクウィッチーズの世界へ寄り道です
この際にISしかご存知ない方にも興味を持って頂ければ幸い
エースコンバットシリーズにも同文です
あと、エスコン要員を増やします
誰が増えるかはお楽しみということで
意見感想募集中
次回、世界初ジェットエンジン搭載機の実戦投入時のお話です
よろしくお願いします
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(とある傭兵と戦闘機)よりタイトル変更です
夏休み・・・それは彼女にとって重要な過去を探す旅になるーーー