第百八十七技 真実
キリトSide
激しい戦いが終わり、皆が残っていた回復アイテムを使用してHPを回復していく。
俺もポーションなどの回復アイテムを飲み干して、HPを回復させた。
ほとんどの者が地面に座り込むか、寝そべっている。
俺はアスナの傍まで歩み寄り、彼女の体を優しく抱き締めた。
「アスナが無事で良かった…」
「キリトくんも、無事で良かったよ…」
周囲を見渡して仲間達の安否を確認する。
ハクヤ、ハジメ、ヴァル、ルナリオは回復を終えて、地面に座って休憩している。
シャインとティアさんは身を寄せ合いながら体を休めている。
カノンさんはクラインと風林火山のところに行っている。
エギルは黒猫団のところに歩み寄り、声を掛けている。
ケイタは震えているサチを抱き締めている。
とりあえず、仲間達が無事なことにホッと一息ついた。
「大丈夫、キリトくん? ずっと、ボスとまともに戦っていたけど…」
「俺は大丈夫だよ。それよりも……皆の
俺は辺りを見回してそう言った。戦いに勝利したにも関わらず、この場所には重苦しい空気が流れている。
「何人、やられた……?」
「……十三人だ…」
「嘘だろ…」
クラインの問いかけに俺の回答を聞いて、エギルが呆然と口を開いた。周囲にもどよめきが起こる。
「あと23層もあるんだよな…」
「俺達、本当に一番上まで行けるのか…?」
テツとロックの言葉に、誰しもが答えられなくなる。このままでは士気にも関わる。
他のプレイヤー達は、あまりの戦闘の激しさと犠牲の多さに、
動く気力がないようだ……一人、いや俺も含めて二人を除いて…。
ソイツは、今でも表情をほとんど変えることなく、ただ静かに辺りを見回している。
それはまるで、この世界ではない別のところを見ている、神の如く。
俺達にはタイムリミットがあるんだ、もうこんな茶番には付き合っていられない。
俺は速さを稼ぐために、『セイクリッドゲイン』のみを手にして動く準備をする。
「キリトくん…?」
「神霆流歩法術《
俺は足に貯めた力を爆発的に解放して、一瞬でソイツに近づき、さらに最速の片手剣スキル《ラピッドスター》を使用した。
これにより、反応が遅れた奴は剣と盾での防御に間に合わず、攻撃が命中する……はずだった。
俺の攻撃は紫色のメッセージウインドウによって阻まれた。
「キリトくん、何を……ハクヤ君?」
こちらに来ようとするアスナの前にハクヤが彼女を守るかのように立った。
周囲のプレイヤー達も騒然とするが、黒衣衆は奴を包囲する。
そして奴が動揺を押し隠すかのように、極めて冷静に口を開いた。
「……どういうつもりだね? キリト君…」
「それはこちらのセリフだ、ヒースクリフ………いや、
「「「「「っ!!!???」」」」」
俺の言葉に周囲に緊張が奔る、そして全員がその紫の表示である『Immortal Object』、不死的存在の文字に気が付いた。
「キリトくん……これって、どういう…」
アスナが俺に問いかけてくる。
「決して
システム的不死によって、奴のHPは守られている。
そしてそれを行えるのは、GM権限を持つゲームの支配者である唯一人の人間だけ、ということだ」
「いつからだね? 私が茅場晶彦だと気付いたのは…」
奴が質問をしてくる。それは、自身が茅場晶彦であることを肯定している。
「最初に思ったのは、アンタがユニークスキル《神聖剣》を使い、台頭してきた時だ。
スキルが発現してそれほど時が経っていなかったはずなのに、
アンタは上手過ぎたんだ……俺でさえ最初は手古摺ったよ。
それに圏内事件の時の情報は役に立ったが、あまりにも詳しすぎだ。
そしてほとんどの予想が固まったのは、俺との
まぁ、それが気がかりになり、アンタは75層とこの77層の攻略で俺からの疑惑を無くそうと、前に突出した。
その結果……アンタはブレスに包まれてダメージを受けたが、HPが止まったのを俺が目撃した。
そしてなにより、『他人のやっているRPGを眺めているだけということほど、詰まらないことはない』、そうだろ?」
「まったく……まさか最初の段階から目を付けられていたとは、思いもしなかったよ。
なるほど、やはりあの決闘の時の事には気付いていたのか」
「上手く誤魔化されてやっただけだ」
俺の答えを聞いて奴は苦笑した。
「本来ならば、95層に到達するまでは明かさないはずだったのだが…。
キミの言う通り、私は茅場晶彦だ……加えて、このアインクラッドの最上層『紅玉宮』でキミ達を待つ、最終ボスだ」
それを聞き、プレイヤー達が立ち上がって武器を構えた。ボスであるということに、今は特に敏感になっているようだ。
「私の前に立つのは、キミだと思っていたよ。
だがまさか、キミの仲間全員にユニークスキルが発現するとは思わなかったがね…。
《二刀流》は全プレイヤー中で最大の反応速度を持つ者に、
《斬撃》は鎌の使用者の中で最も
《神速》は最も敏捷力が高い者に、
《断空》はカタナの使用者の中で最大の筋力値を持つ者に、
《破壊震》はハンマーの使用者の中で最大の
《絶対防御》は盾を使用する者の中で最も反射神経が高い者に、
《隠者》はダガー使用者の中で最も敏捷値が高い者に、
《連撃》は細剣の使用者の中で最も技術力が高い者に与えられることになっていた。
《二刀流》を持つ者が、魔王に対する勇者の役割を担うはずだった。
ちなみに《双剣》に選ばれた者は、このゲーム内で最もPKを多く行った者に発現し、
魔王の手先として勇者に打ち取られるはずだったのだがね…」
つまり、デモントは殺されるべくして殺されたというわけか…しかも、勇者のパーティというカノンさんの手によって…。
「しかし、正体を見破られるのは予想していたが…まさかこんなに早く見破られるとは思っていなかった。
いや、これもネットワークRPGの醍醐味と言おうか…」
「貴様ぁ……俺達の、忠誠も…希望も……よくも騙したなぁぁぁ!」
血盟騎士団の幹部である一人の男が武器を抜き放って奴へと斬りかかった。
だが奴は動じることもなく、
麻痺状態のアイコンが出ている。そのまま奴は操作を続け、周囲のプレイヤー達が次々と倒れていく。
それは俺の仲間達も含まれており、アスナもだ…。
「キリト、くん…」
「アスナ!」
俺はすぐさまアスナの許に駆け寄り、彼女を僅かに抱き上げた。他の皆も倒れ伏している。
「この場で全員始末するつもりか…?」
「まさか、そんなことはしないさ。しかし、私は先に紅玉宮にて待たせてもらおう。
キミ達が強力な90層以上のモンスター達を倒し、最上層に辿り着くのを待つことにする……だが、その前に…」
奴は言葉を区切ると剣を地面に軽く突き立ててからこう言った。
「キリト君、キミには私の正体を見破った
不死属性を解除した私と一対一で勝負をしよう。
無論、キミが私に勝てばこのゲームはクリアされ、プレイヤー達は解放される…どうかね?」
俺に、そう言って提案を持ちかけてきた。
キリトSide Out
To be continued……
後書きです。
ここからは原作と似たような展開になりますが、いないはずのキャラクターが居たりするので、
セリフが違うところ注目してください。
さて、短いですがこの辺で。
次回をお楽しみに・・・。
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第百八十七話になります。
ついに、キリトが奴の正体を看破します・・・物語は、ラストスパートへ!
どうぞ・・・。