No.527359

真・恋姫†無双 外史短編 「流星群」

テスさん

真・恋姫無双の二次創作です。

【注意】

 この作品には残念ながら、下ネタが含まれております。

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2013-01-03 22:44:08 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:9942   閲覧ユーザー数:8255

真・恋姫†無双 外史短編 「流星群」

 

 

 それは誰もが寝静まった肌寒い夜の出来事。

 

 上着を着込んで、明かりを手に厠へと急ぐ。冷たい廊下は温もった身体を一瞬で凍えさせ、足音を煩いほどに響かせた。

 

「うぅ、さすがに冷えるな……」

 

 縮こまった身体が徐々に寒さに慣れ始め、白い息を追い掛けるように顔を上げたとき、夜の空を引掻くように一筋の流星が強い光を放ちながら落ちていく。

 

 普通なら一秒も経たずに消えていくのに、数秒かけて流れていくのは珍しい。

 

 今度流れたら願い事でもしてみるかな……

 

 空を見上げながら回廊を歩き、水路に架かる小さな石橋を渡れば厠はすぐそこにある。

 

 足を踏み外さないように石橋を渡り、再び空を見上げて歩く。

 

 ――そして、再び夜空に一筋の光が走った。

 

「華琳が休みくれますように! 華琳が休みくれますように! 華琳が休みくれますようにっ!」

 

 ――言えた! 凄いじゃん、俺!

 

「よくもまぁ、そんな下らない台詞を私の前で吐けたものね。褒めてあげる」

 

「……えっ?」

 

 視線を下ろしたその先には、金色の髪を解いた華琳様がいらっしゃいました。

 

 華琳の瞳が不気味に輝く。釣り上がった口元から白い息を漏らしながら、羽織った布の襟元を強く握り締めると、

 

「……そう。一刀はそんなに休みが欲しいのね」

 

「いえ、そういう訳では……」

 

「別に構わないのよ? 休みたいならずっと休んでくれても」

 

「いやっ、最近ちょっとだけ、ちょーとだけ忙しいかな~って思ってない、思ってませんから! 魏のため、皆のため、そして愛しい華琳様のために、この北郷一刀、全身全霊で職務に励む所存であります! ――敬礼!」

 

 すると華琳は耳に手を当てて……

 

「何ですって?」

 

 ――ここでまさかのスルーーーッ!?

 

「何か、言ったかしら?」

 

「な、何も! って、華琳さん。やっぱり怒ってる?」

 

「上を向いて私の前まで歩いてきたと思ったら? 『休みくれますように』って、どういう神経をしているのかしら?」

 

 ぎゅっと足を踏まれ、近距離で舐め上げるように俺を睨みつける。

 

「いや、そ――」

 

「――しかも三回!」

 

 怒ってる、怒ってる!

 

「えぇ、怒っているわ。いくら背が低いからって、顔を上げて見えない振りして言わなくてもいいでしょ!? 嫌がらせにも程があるわよ!」

 

「嫌がらせって、そんなことする訳ないだろ! そういうのを必要以上に気にしていて、恥しがったりするのもまた華琳の魅力であって、今だって本当は――」

 

 既の所で本音を堪える。でも――

 

「……本当は?」

 

「いや、これ以上はちょっと……」

 

「一刀、言いなさい」

 

 華琳が見逃してくれるはずがなかった。

 

 どこまでも吸い込まれてしまいそうな彼女の青い瞳に見詰められて、一体誰が争えるだろうか。

 

「だ……抱きしめたいなって」

 

 本音を口にした途端、押さえ込んでいる気持ちがみるみる溢れてくる。

 

「それから?」

 

 それだけでは飽き足らず、心の壁をベリベリと剥がして、恥しい部分を曝け出そうとする華琳。きっと剥がしたら剥がしたままで放置するに違いない。

 

「言いなさい」

 

「華琳に、キスしたいなって……」

 

「それから?」

 

 だから彼女にすべてを曝け出す前に――

 

「――い、言い訳させてくださいっ、お願いだから!」

 

「まぁこの辺りで良いでしょう。言ってみなさい。と、その前に――」

 

 厠の扉に手をかけて俺を睨みつける。

 

「……覗くと分かってるでしょうね」

 

「覗かない、覗かない。音だけで十分」

 

 出来る限り爽やかに言ってみたのだが……

 

「街の治安を預かる警備隊の隊長とは思えない台詞ね。本気で解任を考えた方がいいのかしら」

 

 どん引きされないのは最早一種の諦めなのだろうか。華琳は軽快な口調で洒落を利かせながら、厠へと入っていった。

 

 鍵の閉まる音が一際大きく響くと、誰もいない静かな世界が戻ってきた。

 

 再び俺は空を見上げる。中庭から覗く空は満天の星が散りばめられていた。きっと城壁の見張り台には、無数の星に包まれると言っても過言では無い絶景が広がっているに違いない。

 

「相変わらず凄いよな。都心じゃ絶対見れない光景だし ――そうだ! このまま華琳を誘って……、って明日も忙しいから無理か」

 

 もう夜も遅い。それに身体を冷やして風邪を引いては元も子もない。

 

 折角華琳と出会ったのに、諦めるしかないのか……

 

「一刀」

 

「ん、どうした?」

 

「貴方は本気で私を怒らせたいのかしら?」

 

「すいませんでした……」

 

 急いで中庭へと移動することにした。

 

 *  *  *

 

「待たせたわね、一刀」

 

 明かりを持った華琳がこちらへと歩いてきた。

 

「さっきから空ばかり気にしているようだけど、どうしたの?」

 

「あぁ、これだけ星も多いと、流れ星も流れるかなって思ってさ」

 

「流れ星?」

 

 華琳は何故と言わんばかりに、真面目な表情で問いかけてくる。

 

「俺の国のおまじないに、流れ星が消える前に願い事を三回唱えると、その願いが叶うってのがあってさ」

 

「へぇ~、面白いわね。それであの願い事だったと」

 

 華琳は妙に納得したあと、その表情がほんの少し和らぐ。

 

「でもここじゃ流れ星は凶兆と捉えられているわ。そして今のような状況を指すのだと、私は思うのだけれど?」

 

 ――たっ、確かに!

 

「では、北郷一刀に罰を与えます」

 

 彼女は少し楽しそうに罪状を告げた。

 

「流れ星が流れて、私が三回願い事を唱えられるまで……、厠へ行くことを禁じます」

 

「華琳の前で、桂花みたいな痴態を晒せと!?」

 

「あら、ご褒美だったかしら? 一刀がだらしのない声を出して私に強請る姿。胸が熱くなるわね」

 

 なんて、華琳はそれを想像したのが可笑しかったようだ。くすくすと笑いながら上着の紐を緩めると羽織っていた布を脱ぎさった。

 

「ちょっと華琳さん? 風邪引きますって」

 

「そうね。風邪を引いては大変だわ。だから――」

 

 俺の懐へと潜り込んで身を寄せてきては、俺の腕をその小さな身体に巻きつけた。

 

「――ッ!!」

 

 華琳がもぞもぞと動くたびに、彼女の髪から漂う仄かな香りと柔らかくて温かな感触に、胸が締め付けられていく。

 

「……華琳っ」

 

「私を暖めながら、ね」

 

「――華琳ッ!」

 

 隙間なく重なるように、背後から求めるように抱きしめる。

 

「甘えても駄目よ、今日はそんな気分じゃないんだから」

 

「無理」

 

「我慢しなさい。これは罰よ? この状況で失態を晒すようなことがあれば……」

 

「流れ星早く流れないかなー!」

 

「そう、一刀は私から離れたいのね……」

 

「――どうしろと!?」

 

「冗談よ」

 

「あっ、このまま華琳を連れて厠へいくってのは……?」

 

「悲鳴でも上げてみようかしら。……聞きたい? 結構貴重だと思うのだけれど」

 

「遠慮させてって、流れ星……」

 

「えっ、どこ――?」

 

 と、言ってる間に流れ星は消えていった。

 

「あら、残念」

 

「あの、華琳さん。焦らしは無しの方向でお願いします」

 

「そう、残念ねって言ってる傍から、また流れ星? 一刀が厠へ行けますように。一刀が厠へ行けますように。一刀が厠へ行けますよ~~~~にって……嘘でしょ?」

 

 驚くことに華琳が三回、どう考えても叶える気の無い願い事を唱えたあとでも、流れ星は物凄い光量を放ちながら遥か彼方へ流れていった。

 

「…………」

 

 華琳の憤る声が微かに聞こえる。

 

 いや、どう考えても普通じゃないけど、取り敢えずこの居心地の良さから緊急脱出せねば俺の命が危うい!

 

「えーと、華琳さん? 厠へ行ってきてもよろしいのでしょうか?」

 

「そ、そうね。好きにするといいわ」

 

「……なぁ華琳?」

 

「何?」

 

「その、もし良かったらもう少しだけ付き合ってくれると嬉しいんだけど?」

 

「……はい?」

 

「ほ、ほら! こんなに流れ星が流れるも珍しいだろ? だからもう少し――」

 

 ほんの少し強く、華琳を抱きしめた。

 

「……一緒にいたいのなら、一緒にいたいって言いなさいよ。バカ」

 

 *  *  *

 

 華琳に上着を渡して厠で用を足していると、慌てるように近付いてきた足音が扉を隔てた向こう側で立ち止まった。

 

「一刀、いる!?」

 

「華琳?」

 

「今すぐでてきなさい!」

 

「む、無茶言うなよ!」

 

「なら私がそちらへ行くわ!」

 

 そのまま扉を開いて中に入ってきた。

 

「華琳さーーーーん!?」

 

「鍵くらいって、そんなことより大変よ一刀」

 

 華琳の真剣な声に身構える。

 

「何か遭ったのか?」

 

「遭ったに決まってるでしょ! じゃないと――! だから早く済ませなさい!」

 

「いや、我慢してたから――って、どうしたんだよ?」

 

「どうしたもこうしたも、天変が起こっているわ!」

 

「…………てんぺん?」

 

 あっ、天変地異の天変か。外に出ようとすると……

 

「あっ、今外に出ては……」

 

 華琳は引き止めようと伸ばした手を引っ込めた。……はいはい。ちゃんと洗います。

 

 外に出て柄杓で溜めていた水を掬って手を洗い、手拭で拭きながら天変を確かめようと見上げれば、一筋の光の矢が後ろへと通り過ぎていった。

 

「……へっ?」

 

 また空に一粒の光が生まれ、こちらに向かってきては通り過ぎていく。それが一つ、二つ。三つ、四つと十秒に満たない間に。

 

 まるで降り始めの雨のように、流星が降り注いだ。

 

「……ちょ、華琳! これは凄いぞ! 本当に!」

 

 俺は中庭に出て、大きく手を広げて星の雨を味わう。

 

「一刀? 一体、何が起こっているの? 知っているならこの状況を説明して頂戴」

 

 そう言って、華琳が上着を持って俺の傍までやってきた。

 

「流星群だよ! まさかこの目で見れるなんて夢にも思ってなかった!」

 

「りゅ、流星群!? 一刀、率直に問います。それは無害なのかしら?」

 

「断言はできないけど、ほぼ無害」

 

 華琳が空を見上げる。その横顔はすでに落ち着きを取り戻していた。

 

「……何故こういうことが起こるのか、簡単でも構わないわ。私に説明できるかしら?」

 

 華琳はそう言って俺に上着を着るように促す。それに俺は袖を通すと華琳を呼ぶ。

 

「ありがとう、華琳。さぁ、こっちにきて」

 

 懐に収まった華琳がずっと空を見上げていたので、遠慮なく華琳を求める。

 

「こ、こらっ、この非常時にっ。もうっ、早く説明なさい!」

 

 ……怒られた。

 

「了解。でも俺も余り詳しくは説明できないから、そういうものだと思って聞いて貰えると助かる」

 

「……分かったわ」

 

 となると、地球から説明しなきゃいけないのかな?

 

「俺達が今立っている大地、俺のいた国じゃ地球って言うんだけど――」

 

 落ちていた木の枝を拾って、足下に置いた行灯の近くに”まる”を描いて、”地球”と書いた。

 

「この字の通り、俺達は大きな球体の上に立っているんだ」

 

「球体ね。なら反対側はどうなるのかしら? 落ちていくのかしら?」

 

 華琳は俺の腕を取って差し棒を南極点に指すと、そのまま線を下向きに落とした。

 

「物を落とすと地面に落ちるだろ?」

 

「どこに立っていても、同じことが起こる訳ね。じゃないと困りますものね。次に行きましょう」

 

 ――今の、俺を試したっぽいな。

 

「あら、どうしたのかしら? 一刀先生」

 

 まさか華琳からそんな風に言われるなんて!

 

「――でも華琳が生徒になったら、先生、どんどん追い詰められそうだよな」

 

「そんなことないわよ」

 

 華琳がクツクツと笑い、続きを促す。

 

 その”地球”の周りにもう一つ、包み込む大気の円を描いて……

 

「地球は大気に包まれているんだ。流れ星ってのは、どこからか飛んできた石が地球に落ちて、大気中で燃えて光を放つ現象なんだ」

 

「……石が大気中で燃えて、光を放つの?」

 

 華琳は石を落として、そんな事を言う。

 

「華琳、手を……」

 

 そう言って、俺は華琳の冷たくなった手を両手で包み込んで擦り始めた。

 

「どう? 熱くなった?」

 

 しばらく黙り込んでいた華琳が頷いた。

 

「なるほど、安全である理由はそのほとんどが大気との激しい摩擦で燃え尽きてしまうから。だが極稀に燃え尽きないものもあり、零ではないために『ほぼ』がつくのね」

 

「正解。そして落ちたときは落ちてきたときで、運が悪かったと開き直るしかない」

 

「不安になるだけ無駄ってことね。一刀みたいに子供のようにはしゃいだ方がまだましね」

 

 そう言って、華琳は地面に描かれた絵図を見詰めたあと……

 

「一刀。流れ星は大気すら存在しない空間を飛んできた。違うからしら?」

 

「……華琳、恐ろしい子っ!!」

 

「ふふっ、私を誰だと思っているの」

 

「先生が良いからだろ?」

 

「言ってなさい。でも今日に限って何故こんなに……」

 

「たぶん地球の近くを彗星が通り過ぎたからじゃないかな。箒星って言った方が分かりやすいのかな」

 

箒のような、長い尾の付いた流れ星を地球の傍に描く。

 

「箒星は塵を撒き散らしながら地球の傍を通り過ぎていくんだけど、その塵が地球に沢山飛んできたんだ」

 

「一刀、私を少し隠して頂戴」

 

「ん?」

 

 華琳は反転するように身体を動かすと、俺の背中を回廊へと向け、俺の胸に顔を埋めてしばらくそのまま動かなくなった。

 

「……華琳?」

 

 しばらくして、遠くから幾つもの足音が徐々に響いてくると、兵士達が廊下を慌ただしく走ってくる。その先頭には……

 

「真桜じゃないか? そんなに慌てて何かあったのか?」

 

「あっ、その声は隊長!? やっと見つけた! って……こんな時に何やってますのん!!」

 

「何かあったのかと聞いているのよ、真桜」

 

 二人のときとは明らかに違う華琳の声に、自然と背筋が伸びる。

 

「げっ、その声は大将!?  いや、空、空!! 慌てるなっちゅう方が無理ですって。夜番の兵士なんか、ほとんど腰抜かしてもーて」

 

「……非常時に腰を抜かす? 曹魏の兵も地に落ちたものね。真桜」

 

「あ~、いや……その……」

 

「華琳が――んんっ!」

 

 引き寄せられ、華琳の柔らかな唇に触れた。華琳が舌の先で俺の唇をなぞり、それを合図に二人で舌を絡ませていく。

 

「ちょっ! こんな一大事に勘弁して~なぁ……もぉ~」

 

「ぷはっ……。一刀、誰が口を利いて良いと言ったのかしら?」

 

 瞳で『黙っていなさい』と伝えてきたあと、華琳は真桜に助言を始めた。先ほどとは違い、穏やかで優しい声で――

 

「将の貴女がそんなに取り乱してどうするの。まずは深呼吸して周囲の状況をしっかり確認なさい。ほら……何も起きてないわ」

 

「いやっ、まぁ~~……確かに。でも良く分からん状況に皆ビビってしもーて……」

 

「そうね。なら流星が一つでも地面に落ちたら、北郷隊全員に休暇を与えましょう。そう皆に伝えなさい」

 

「それ、ほんまでっか!?」

 

「えぇ、絶対に落ちないから」

 

 期待に満ちた面持ちで真桜達が夜空を見上げたところに、容赦なく絶望の淵に突き落とす華琳。

 

「うわわぁぁぁっ! 期待させといて、大将酷過ぎるわ!」

 

 真桜が崩れ落ちるその姿をみて、華琳は悪戯な笑みを浮かべる。

 

「このあとどうしたら良いのか、真桜なら分かるわよね?」

 

 華琳が懐の中でもぞもぞと反転すると、凭れるように空を見上げながら俺の胸に頭を擦りつけてくる。あまりの可愛さについ彼女を抱きしめると、真桜が控えていた兵士達に向かって叫ぶ。

 

「隊長が中庭で逢引きして、ちゅっちゅちゅっちゅするくらい安全やって夜番の兵士に伝えーっ! 復唱! 隊長の阿呆、種馬、変態――っ!!」

 

『隊長の阿呆、種馬、変態!!』

 

「どさくさに紛れて俺の悪口かよ!?」

 

「うむ!」

 

「えっ、頷くの!?  華琳さん、そこで頷いちゃうの?」

 

「なら背中越しに伝わってくる硬い物は何かしら?」

 

「皆、いつもとは違う夜だけど心配ない。俺のように、普段通りで大丈夫だ!」

 

「隊長、上手いこと言ったつもりでもそれはちょっと――」

 

 ないわ~っと、真桜が顔の前で手を振ると、華琳が追い討ちをかける。

 

「私の前でも普段通りなのは貴方くらいよ」

 

 その一言で真桜達が動く。

 

「大将、一応、職質さしてもらいますけど……、襲われてます?」

 

「そうね。否定はしないけど大丈夫よ」

 

「なら結構ですわ。お邪魔しました。んじゃ、いくでー!」

 

 真桜達が去って、再び静けさが戻ってきた。

 

「お疲れ様。でもあんな理由で皆納得するのか?」

 

「納得するでしょうよ。魏の種馬が普段通りなのに、そんな中自分達は震えている。想像するだけで馬鹿らしくなるわよ? きっと――」

 

 二人の時間はここまでだと華琳が離れていく。手に持った羽織を再び纏い振り向いた。

 

「そろそろ行きましょうか。私達の姿がないと皆心配しているでしょうし。一刀もあとで王座の間に顔を出しなさい」

 

 そう言って華琳は歩いていった。

 

 * * *

 

 凶兆と伝えられる流星が無数に駆ける。そんな中、華琳はこの状況を天の国では願いを叶える好機だと、興行で留守にしている張三姉妹を除く将兵達に告げた。つまり各々の捉え方次第で吉兆にも、凶兆にもなりえるのだと皆に説いた。が、解散を言い渡しても中々動こうとしない者達を前に肩の力を抜いて言った。

 

「揃いもそろってそんな不安な顔をしてないで、少しは一刀を見習いなさい。魏の種馬は普段通りよ。ねぇ、真桜?」

 

「はいー。中庭で大将に後ろから抱きついて何かを押し当てていたようなので、念のため職質させて頂きましたぁ♪」

 

 風が風のように去っていった。

 

 稟も鼻に手を当ててその場を後にした。

 

 桂花は案の定怒りを露わにすると普段通りに罵倒を始め、沙和は立ったまま眠っていた凪をつれて軍議の間を後にした。

 

 流琉は真夜中でも容赦なく罵倒される一刀に少し同情し、助け船を出した。

 

「兄さまは何をお願いされたんですか?」

 

「あ、ボクもそれ気になるかも!」

 

 季衣もそれに同調した。が、北郷一刀が言葉を濁したため、桂花から悲鳴にも似た罵倒を受ける。

 

 それを見て霞は大笑いすると、真桜と共に流琉と季衣を連れて出ていった。

 

 部屋には、華琳と桂花。そして春蘭と秋蘭の夏侯姉妹が残った。

 

 そんな中いまだ一言も口を開かない春蘭に、心配になった秋蘭が問いかけた。

 

「どうしたんだ姉者? さっきから一言も発していないが」

 

「いやな? 正直大丈夫だという実感が湧かんのだ……」

 

「先ほど華琳様が仰ったように、流星は燃え尽き、この大地に落ちることはないのだそうだ」

 

「華琳様が言うのだからそうなのだろうが……」

 

 言葉を濁す春蘭を見て、華琳が構わないからと続きを促した。

 

「はぁ、言うべきか迷っていたのですが……」

 

 そう言って、桂花をチラリとみる。

 

「な、何よ」

 

「最初に言っておくが、馬鹿にするなよ?」

 

 そうつけ咥えて、春蘭は言った。

 

 ――北郷の仲間が大量にやってきたのではないか、と。

 

 その一言に透かさず、馬鹿じゃないの? と鼻で笑った桂花とは裏腹に、華琳と秋蘭の二人が言葉を詰まらせた。

 

 二人の雰囲気に、桂花は底しれぬ不安を感じ取る。

 

「えっ……? ちょっと、何なのよ。どういう意味よ。秋蘭、何か答えなさいよ」

 

「あ、いや……その、だな……」

 

 華琳がここで一つ手を叩いて王座から立ち上がった。

 

「ハイ! この話はお終い! 寝ましょう!」

 

「えっ、華琳様――!? どういうことなんですか!?」

 

 置いてけぼりを喰らう桂花を見かねて、春蘭と秋蘭が言った。

 

「桂花、真実を知らないことも大事だと思うぞ」

 

「姉者の言う通りだ。ですが華琳様――」

 

「この馬鹿馬鹿しくも捨て置けない問題に、私は頭を痛めなきゃいけないのかしら? 一刀、答えなさい」

 

 そう言って、前から歩いてきた華琳と擦れ違う。彼女を視線で追い掛けながら一刀は答えた。

 

「放置で大丈夫。例えもしそうだとしても華琳と出会ったときのようにすぐに捕まるだろうし、報告で上がってくるはずだ」

 

 その答えに華琳は満足したようだ。

 

「ということよ。春蘭、秋蘭。安心したかしら?」

 

 両名揃って頷いて、華琳の後に続いて王座の間から出ていった。

 

 残ったのは桂花と一刀の二人だけ。

 

「……な、何よ」

 

「寝るか……」

 

「誰が腐れ外道の変態と一緒に寝るものですか!」

 

「誰も一緒にとは言ってないだろ――!?」

 

「ふんっ、腐れ外道の変態は否定しないのねって――それ以上近寄らないで! 妊娠しちゃうでしょ!」

 

 桂花は両手を向けて、早口で捲し立てる。首を小刻みに横に降って拒否する。

 

 拒否しながらも二人は揃って出口へと歩いていく。

 

 そして王座の間は暗闇に閉ざされたのだった。

 

 

 あとがき

 

 本日1月3日の夜から、しぶんぎ座流星群がピークというニュースを見て、前々から暖めていた短編を投稿しようと思います。

 形になったのが去年の夏ごろでして、季節外れで流星群。しかも下ネタ。受け付けない人も多いだろうなぁと迷っていたのですが、下ネタ注意報を発令しつつ、この時期ならまぁ大丈夫だろうと判断しました。

 春蘭、一刀が天の御使いだと、よく覚えていたねっと褒めてあげてください。

 

 さて、昇龍伝の近況ですが、ちと悩んでます。

 孫呉編になり雪蓮と交友関係を築くのですが――

 この雪蓮の扱いに非常に困っています。まだ彼女は王様ではないので性格はちょっと違うかなぁと、雪蓮と小蓮の性格を足して二で割った感じにしました。フリーダムが売りの雪蓮も、たまには乙女させてみるのもありかなぁっと……で、一刀が浮気しそう(ぁ

 いや、浮気せざるを得ないのかなぁ~と。

 星も英雄として、女性としての魅力があるにせよ、孫呉の王の全身から滲みでるカリスマには負けてしまうのかなぁと、どうしたのものかーと、悩んでおります。

 

 遅くなりましたが、ここで新年のご挨拶。

 昨年は皆様の期待に添えず、ご迷惑をおかけしました。

 忙しい日々が続く毎日で、筆を進める気力が失われがちです。怠惰な自分を叱咤しつつ少しでも更新できればと思います。

 本年もお付きい頂けると嬉しいです。どうぞよろしく。


 
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