第二章 『三爸爸†無双』 其の十四
本城 皇帝執務室
【紫一刀turn】
風の懐妊が分かってからほぼひと月。
華琳、蓮華、桃香、思春のお腹が『丸々』という表現が似合う様になり、愛紗のお腹もそこまででは無いがかなり大きくなった。
俺たちの執務室はひと月前と比べ窓を開け放って仕事が出来るくらい暖かい季節となり、窓の外には新緑が眩しく輝いている。
俺たち三人はというと、華琳達の陣痛が今日にも有るかもしれないとそわそわして仕事が手につかない状態。
俺たちの机の正面には冥琳の机があり、その席の丞相様が時々俺たちを睨んでくる。
そんな午前の静かな空気を破る足音が聞こえて来た。
「丞相様!北郷様!大変っス!!じゅ、荀彧様が失神して倒れたと報告が来たっス!!」
「「「「桂花が倒れたっ!!?」」」」
部屋に飛び込んで来た追っかけの緊急報告に俺たち三人、そして冥琳も立ち上がった!
華琳達の例が有るので、毎月みんなが診断を受けるようになった今は、つわりで倒れるということは無いはずだ。
現に愛紗も風もつわりが来る前に妊娠の確認をしている。
「まさか賊が侵入したのか?」
口にした冥琳自身もその可能性は低いと思っているだろう。
出産間近の三王が居るのだ。現在の城内城下の警備は戦の最中以上の厳しさになっている。
特に春蘭の勘の冴が最近鋭く、今なら万全の愛紗と試合しても圧勝するのではないかと思わせる程だ。その春蘭が気付かない訳が無い。
「状況は分からないっスが、場所は華佗先生の所の医務室だそうっス!」
「「「「は?医務室??」」」」
はて?医務室と言うと貂蝉と卑弥呼も居そうだが、今更桂花があの二人を見て失神するとは思えないし・・・・・とにかく医務室ならまずは一安心だ。
「取り敢えず様子を見に行こう。」
まさか以前みたいに蛇に驚いたとかじゃないよな。
問題の医務室まで来てみると、結構な人数が先に集まっていた。
「おお、主たち。現れましたな。」
星の様子がいつも通りなので、どうやら深刻な話にはなっていないみたいだ。
「一体何が有ったんだ?俺たちは桂花が倒れたとしか聞いて無いんだけど。」
「おや?これは報告に手違いが有りましたかな?私は桂花が懐妊の診断を受けて、嬉しさのあまり気を失って失禁したと聞いて駆けつけたのですが・・・」
「人を翠みたいに言わないでよっ!!」
「なんであたしが出てくるんだよっ!!」
連続ツッコミが入ったが・・・・・・桂花はもう意識を取り戻しているのか。それに、星は今重大な事を言ったぞ!
「「「桂花が・・・・・・懐妊・・・・・・」」」
その意味が頭に染み渡るまで五秒ほど。
俺たち三人が一歩踏み出すとみんなが道を開けてくれた。
「「「桂花っ!!」」」
医務室に飛び込んだ俺たち視界に・・・・・・ナンダコレ?
ゴワン!という音と共に顔面に激痛が!
「「「グゲッ!!」」」
その後も痛みに目が開けられない俺に、次々と何かがぶつかってくる。
「死ねっ!!この精液っ!!」
どうやら俺たちは桂花から遂に精液そのものと認定されてしまった様だ。
物がぶつかるのが収まり目を開けると、俺たちの足元には様々な鈍器が落ちていた。
ああ、さっきのはこのでっかい花瓶か。よく割れなかったもんだ。
視線を上にすると、寝台の上で上体を起こして息を切らした桂花が居た。
その寝台の横には六人の妊婦さんが苦笑している・・・・・いや、風は普通にニコニコしてるけど・・・。
「これくらいは許してあげなさいね、一刀♪」
顔は苦笑してても声は心底楽しそうだな、華琳。
「それはまあ、いつもの事だし・・・」
この程度で目くじらを立てる様じゃ、ここでは生活していけないって。
それに、慣れてくると桂花のこの態度も可愛く感じるんだよな。
「・・・・・ちょっと、あんた・・・・・私に言う事が有るんじゃないの?」
未だ息が整わない状態の桂花に睨まれた。
「「「ああ♪懐妊してくれてありがとう、桂花♪」」」
「私は謝罪を要求してるのよっ!!!」
更に椅子を投げ付けられた。
【桂花turn】
うぅ・・・・・ついに恐れていた事態になってしまったわ・・・・・。
いくら華琳さまのご命令とは言え、こんな男に体を許してしまうなんて・・・・・あぁ、華琳さまは何故このような仕打ちを・・・・・。
はっ!これは華琳さまが私にして下さる究極の『お仕置き』なのでは!!
身体の奥まで汚された私が悶え苦しむ姿をご覧になる華琳さま・・・・・あぁ、お許し下さい、華琳さま・・・そのような目で私を見ないで♪
「楽しそうな妄想をしている処をスマンが桂花。おぬし、困った事をしてくれたな。」
「はぁ?なによ星。」
「おぬしの所為で今回の賭けが流れてしまったではないか。」
カケ?・・・・・最近私が胴元をしたのは『あいつら三人の中で誰が最初に刺されるか』っていうのだけど・・・・・・・・・ああ。
「次は誰が妊娠するかって雪蓮が始めたやつの事?」
「「「ちょっと待て!俺たち初耳だぞ、それ!」」」
ちっ!さっきのでも仕留められなかったか。
「冥琳!雪蓮はっ!?」
「既に逃げられた・・・・・まったく、執金吾が賭けの胴元をするなんて・・・街中でその手の話が盛り上がっていると思ったらそういう事だったのか。」
興味が無かったからアレだけど、そんなに盛り上がっていたのね。
「そんな中で枠外の桂花が懐妊してしまったおかげで賭けが流れてしまったのだ。おぬしも胴元をする人間なら空気を読め。」
「なんで私がそんな事言われなくちゃならないのよ!私だってこいつらに文句が言いたいのにっ!!」
「確かにまだ文句は言っておらんな。鈍器を投げつけて『死ね!』と言っただけだ。」
「「「それって文句より酷くないか?」」」
なんか雑音が聞こえるわね。
「一刀に死なれるのは困るわね。私はこの子、眞琳が一刀と遊ぶところが見たいのだから。」
華琳さま・・・・・・・・そんなにこの男の事を・・・・・。
「それに桂花、貴女のお腹の子も一刀の子。私は今、貴女をとても身近に感じるわよ。」
「え・・・・・・華琳さまがそのように感じてくださるなんて・・・」
あいつらも少しは役に立つわね。
「ぶっちゃけ、風を含めて今のところ七人とも同じですけどねぇ~。」
・・・・・・・・今、風が何か言ったけど、気にしちゃダメよ、私。
「それにこれからもっと増えるのだからな。だからこそ賭けが出来るワケだが。」
「そういや、星。さっき桂花は枠外だって言ってたけど、星自身はどうなんだ?」
「それが心外な事に私は『大穴』でして・・・・・・はて、何がいけないのでしょうな?」
星と精液がまだ何か話してるけど、どうでもいいわ。
これからは華琳さまと寝起きを共にして、一日中一緒に居られるのだから・・・・・後はこのお腹の子がせめて女の子であることを祈るばかりだわ・・・・・。
【エクストラturn】
この騒動の数日後、眞琳達が生まれた。
季節は夏、そして秋が過ぎ、冬になり桂花は長女、
皇帝執務室 (時報代理:眞琳 一歳三ヶ月)
【紫一刀turn】
「ようやく残暑も去って過ごしやすくなったなぁ。」
「みんなの水着姿も来年までおあずけか・・・・・残念だ・・・」
「妊婦さん専用の水着も用意できたから良かったな。暑さしのぎと運動不足解消の一石二鳥で・・・・・ん?廊下を走ってくる音が聞こえないか?」
俺たち三人は会話を中断して耳を澄ますと、間違いなく人が走る音が近付いて来ていた。
「「「何だろう?」」」
俺たちが気になって扉を開けると。
「この無責任孕ませ男おおおおっ!!」
「「「グボゥッ!!」」」
桂花の声と同時に投げつけられたでっかい花瓶が俺たちの腹を直撃した。
高さが1メートルぐらいあって結構重いのに、よく桂花がこんな物持って走って来たな。
「死ねっ!死ねっ!このっ!!このっ!!」
腹を押えて
「ちょ・・・ま・・・」
「ど・・・どうして・・・」
「痛てっ!痛てっ!」
「やっぱりあんたたちみたいな無責任孕ませ男は死ぬべきだったのよっ!!」
なんか懐かしい呼び方だな。
「おいおい!昔ちゃんと否定した上に、今は金桂のお守りだってしてるじゃないか!」
「「紫、以前にも言われた事有るのか?」」
「凪たちが入隊した頃にな。」
ちなみに桂花のストンピングはまだ続いている。
「あれは孕ませ無責任男でしょ!今は無責任孕ませ男よっ!!」
「「「どう違うんだ?」」」
「今のあんたたちは何も考えずに次々孕ませまくってるって事よっ!よくも私をまた妊娠させてくれたわねっ!!」
なにい!桂花に二人目!?
あ、ようやく蹴りが止まった。
「そんなに孕ませたいなら、私じゃなく色ボケ姉妹でも相手してなさいよっ!!」
「色ボケ姉妹って・・・・・姉妹が多くて誰の事を言ってるか分からんぞ?」
「桂花・・・お前、今のは一気に敵を増やす発言だぞ・・・・・」
「大体からして、前回も今回も華琳の『お仕置き』が原因・・・・・」
「五月蝿いっ!!無責任どころか華琳さまに責任を擦り付けようだなんて!最低よっ!!」
そんな!俺たちだって桂花が可哀想だからって抵抗したのに・・・・・まあ、結局はしちゃったけど。
「とにかく!先ずは私に言う事があるでしょっ!!」
「「「桂花・・・・・ありがとう・・・」」」
「だから謝罪を言いなさああああああああああいっ!!」
またしても椅子を投げ付けられた。
本城 後宮談話室
【桂花turn】
「桂花ってばズルいよぅ!ボクらだって兄ちゃんの赤ちゃんが欲しいのにっ!!」
「そうよっ!桂花ってば妊娠出来る食べ物とか食べてるんじゃないの!?」
「それって美味しいのか?鈴々も食べたいのだ!」
「焙じ茶が良いって聞いたことあるけど・・・・・」
「あああーーーっ!!もう!うるさいわね!!私は別に好きで妊娠した訳じゃないわよっ!!」
季衣だけじゃなく小蓮に鈴々、それに流琉まで!
「大体あんたたちが子供を作るなんてまだ少し早いわよ!」
「ええ~!?でも、この中で桂花が一番チビじゃん!」
「チビって言うなっ!!」
まったく!こいつら気が付いたら背が伸びて・・・・・鈴々なんて雨後の竹の子みたいに大きくなって・・・・・。
「おっぱいも一番小さいのだ!」
「うわ!バカッ!!」
「鈴々!それは!!」
「鈴々さん!それ禁句っ!!」
「出てけえええええええええええええっ!!!」
あ、あいつらああああ!少しばっかり胸が大きくなったからっていい気になってんじゃないわよっ!!
小蓮なんか、あんなに熱心な貧乳党幹部だったってのに!よくも裏切ってくれたわねっ!!
「桂花!またおぬしやってくれたな!」
「今度はなによっ!!」
「おおっと・・・・・荒れておるな、桂花。」
「なんだ、星じゃない・・・・・・もしかして、また賭けの話?」
金桂を身籠った時にもそんな話したわね。
「う、うむ・・・・・そうなのだが・・・・・まあ、それはいいか。しかしおぬし、主たちとそれほど頻繁に致しておる訳ではないのだろう?」
「当たり前でしょう!!この間だって華琳さまに久しぶりにお仕置きされて・・・・・」
「ふむ・・・ならば余程肌が合うのか・・・・・」
「ちょっ!!気持ち悪いこと言わないでよっ!!」
あいつらと肌が合う!?私が一番合うのは華琳さまよっ!!
「いや、邪魔をした。用事を思い付いたのでこれで失礼するが・・・・・子供に罪はない。慈愛しろよ。」
「え?な、なによ、星・・・・・」
私の言葉が耳に入って無いのか、真剣な顔で部屋を出て行く。
「・・・・・これは賭けの対象を追加した方が面白いかもしれんな・・・・・」
「ちょっと待ちなさいっ!!それどういう意味よっ!!」
【エクストラturn】
次の年の初夏。桂花は次女、
皇帝執務室 (時報代理:眞琳 二歳十一ヶ月)
【紫一刀turn】
コンコンと扉を静かにノックする音が聞こえ、俺たちは「どうぞ」と言ったが部屋に入ってくる気配がない。
不思議に思い暫く扉を眺めていると、再度コンコンとノックされた。
もしかして両手が塞がって荷物をぶつけてノックしてるのかな?
顎で荷物を押さえていると声が出せない事もあるし。
同じ考えに至った俺たちは急いで扉を開けた。
そして目に入ったのは案の定大きな荷物・・・・・はて?この花瓶見覚えが・・・あ!!
ズゴン!という鈍い音と同時に脳天から激痛が尾てい骨まで突き抜けた!
「痛ってええええええええっ!!」
俺が頭を抱えて踞ると、続けてズゴン!ズゴン!と音が聞こえ、緑と赤も踞る気配を感じる。
何とか薄目を開けて相手の足だけを見ることができた・・・・・この足は・・・やはり桂花か!
しかし、出来たのはそこまでで、桂花は花瓶を振り下ろす手を止めず、無言で続けざまに何度も俺たちを花瓶で殴り続けた。
「「「らめえええ!死んじゃううううう!!」」」
ドコドコドコドコドコドコドコドコドコドコドコドコドコドコドコドコドコドコドコ!!
場を和ませようと思って言ったが逆効果だった。
「「「えっと・・・・・・三人目?」」」
「ええ!そうよっ!!」
桂花が殴り疲れたおかげで、ようやく鈍器地獄から解放された俺たち。
桂花の息が整った処で訊いてみたら、予想通りの返事が帰ってきた。
「私が後宮に移ってからもう丸三年になるのよ!あと三ヶ月くらいでようやく自室に戻れると思ってたのにっ!!」
今の後宮では、子供の授乳状況に合わせて自室に戻る時期を決めているそうなのだ。
どうやら一歳三ヶ月が目安となっているらしい。
桂花の二人目の銀桂がこの間一歳の誕生日を迎えたばかりだから、確かに大体それくらいか。
「今でも私は『後宮のヌシ』とか言われてるのに、最低でもあと二年は後宮から出られないのよっ!!どうしてくれるのよっ!!」
「どうすると言われても・・・・・」
「今回の妊娠は華琳のお仕置きじゃ無く、桂花の勘違いが原因だし・・・・・」
「・・・まあ・・・・・俺たちも久々に桂花とできて嬉しかったのは認めるけど・・・・・」
あ!成程、俺たちが華琳に『長い間桂花とはご無沙汰』と言ったのが原因って事になるのか・・・・・それを『桂花は使えない』って言ったと思われた訳だし。
「「「スマン・・・桂花・・・」」」
「?・・・・・ようやく自分の非を認める気になったみたいね!」
「「「今度からはきちんと俺たちが誘うから・・・・・」」」
「謝罪する場所が違うでしょっ!!!」
しまった。また椅子が飛んでくる・・・・・・。
後宮談話室
【桂花turn】
「銀桂の時が九ヶ月で今回が一年か・・・・・間隔が少し開いたな。」
「ちょっと!何よその言い方は・・・・・・まるで次が有るみたいじゃない!」
また星がやって来てそんな事を言い始めた。
もう三人目なんだからこれ以上はいらないでしょ!
「いや、既に城内ではおぬしの事を『魏の肌馬』と呼ぶ者達が居るのだぞ。」
「だ、誰よ一体!?そんな事を言う奴は呪い殺してやるんだからっ!!」
「人の口に戸は立てられぬさ。しかし、主たちもあれだけ皆から搾り取られて、尚おぬしを孕ませるとは流石『種馬皇帝』と呼ばれるだけはあるな。」
「そ、そんなに頻繁にしているの?あ、あいつら・・・・・」
「おや?桂花もついに嫉妬する様になったか?」
「ち、違うわよ!最近のあいつらの行動がまた掴めなくなったから・・・・・次が無いように対策を立てる為よ!」
な、なによ星の奴!ニヤニヤして!
「ふむ、成程・・・・・おぬしこんな話を知っているか?男は貯まった精を全て出し切ると、最後は煙が出ると言われているのを。」
「煙が出る?」
「そして更に赤玉が出ると、もう二度と精を放つ事が出来無くなるそうだ。つまり男として終わってしまう訳だな。」
「あ、赤玉ぁ!?」
そんな物をアレから出すなんて、つくづく男って非常識な生き物ね。
「赤玉を出されてはさすがに私も困るが、これから先も皆の行動は変わらぬだろうから煙を出させるのは容易いかもしれん。」
そ、そうよ!あいつらの精を子宮に受けなければ孕むことは無いのだから、あいつらが迫ってきたら先に煙が出るまで攻めてやればいいんだわ!
「貴重な情報をありがとう、星!ふふふ・・・見てなさい、次からは返り討ちにしてやるわ!」
【エクストラturn】
その年の冬。
桂花は三女、
皇帝執務室 (時報代理:眞琳 三歳九ヶ月)
【紫一刀turn】
後宮に造った桃園の桃が咲き始め、春の到来を告げた頃。
「「「・・・・・・・・・・・」」」
「・・・・・何か言いなさいよ・・・」
俺たちの目の前には例の花瓶を頭上に構えた桂花が居た。
「「「うん・・・・・そろそろ来る頃かと思ってた。」」」
ふた月前に丹桂が生まれ、産後の桂花の体調が戻った頃に桂花から挑戦状が届いた。
その日は珍しく他の女の子から誘いが無く、俺たちはその挑戦を受けたのだ。
「それじゃあ覚悟は出来ているわね・・・・・」
桂花から挑んできてこの仕打ちは理不尽と思わないでもないが、これで桂花の気が済むなら安いものと割り切る事にした。
「「「お手柔らかに・・・・・」」」
俺たちの返事を待たずに桂花は既に振りかぶっていた。
「「「ぶべっ!!」」」
横一列に並んだ俺たちの顔面に花瓶がヒットした。
それだけの長さのある花瓶を、桂花はよく振り回せるな。昔は持ち上げる事すら出来なかったのに。
以前は俺たちへの怒りが火事場の馬鹿力を出させていたみたいだが、前回辺りから子育てで培った体力が加わっている様だ。
『母は強し』と言うが、こういうのも当てはまるのかな?
「これでまた一年以上後宮から出るのが伸びたじゃないっ!この間なんか眞琳さまが金桂に『金桂ちゃんのお家』って仰っていたのよっ!!私はそれを聞いて愕然としたわっ!!」
あぁ・・・・・確かに聞いた事が有るな。
「「「いっそのこと後宮に定住するか?」」」
「ふざけんじゃないわよっ!!」
お約束の椅子が飛んでくる。
これも甘んじて受け入れるか・・・・・。
後宮桃園
【桂花turn】
パン!パン!と美羽が目の前で手を叩いた。
「みうおねえちゃん。なにしてるのぉ?」
「してゆのぉ~?」
「うむ、金桂、銀桂。妾もおぬしらのような子が授かるように拝んでおるのじゃ。」
「それでなんで私に手を合わせるのよ!?」
美羽もあんな子供だったのにこんなに大きく・・・・・特に胸が・・・・・。
「言うた方が良いのか?」
「お願いだから言わないで・・・・・」
解ってるわよ!それでも否定したいのよ!
あいつらを殴っても気が晴れないから、子供達とちょっと散歩に出たっていうのに。
「のう、桂花。おぬしは主さま方がそんなに気に食わないのかえ?」
「はっ、何を今更。私が男嫌いなのは周知の事実でしょ。まあ、あいつらは他の男共に比べて少々使える程度ね。」
「大陸を統一して皇帝となった男でも物足りないとは、強欲な女じゃな、桂花は。」
「ち、違うでしょ!大陸を統一したのは華琳さまたち三王で、あいつらは只のお飾りに据えただけよ!」
「そうかの?今でこそ三国が晋の旗の下にまとまっておるのが当たり前じゃが、そう出来たのは主さま方がおってこそではないのか?」
「う・・・・・・・それは・・・」
確かに反董卓連合の前に同盟を組めたのはあいつらが居たから・・・・・あいつらが居なければ乗り越えられなかった危機も幾つか在ったのは認めるわ。
「華琳自身から聞いたが、この国は今や主さま方の為にある国じゃと言うておった。詳しい話は妾が懐妊した時に教えてくれるとも言うておったがな。」
美羽はまだ、華琳さまがお書きになった『孟徳外史考』を知らなかったっけ・・・・それでもあいつらの事を特別な存在と感じているのね。
「ど、どんなに業績が有っても馬が合わないって有るでしょ・・・・・」
「成程のぅ・・・・・馬が合わなくとも肌は合うのじゃな。四人も子を授かるのじゃから。」
「ちょ、ちょっと!子供達の前で何言い出すのよ!!」
「のう、金桂、銀桂。おぬしらは主さま・・・爸爸の事は好きかえ?」
人の話を無視しないでよ!
「爸爸!だーいすきー♪」
「らーいすきー♪」
「子供は素直じゃのう♪それに引き換え母親は・・・・・・はぁ・・・」
な、なに溜息なんて吐いてるのよ!
「主さま方の事を改めて見ることじゃな。曇った
「ど、どういう意味よ、それはっ!」
「金桂、銀桂。また今度一緒に遊ぶのじゃ。またな♪」
「みうおねえちゃん、またね~。」
「まらね~♪」
ま、また無視して!
「丹桂もまたなのじゃ♪」
「あ~♪」
子供の相手は上手いんだから・・・・年下のくせに、言いたいこと言ってくれるじゃない・・・・・。
「おお!桂花!やっと会えた♪」
美羽が居なくなったと思ったら今度は星?
「なによ?また文句でも言いに来たわけ?」
「そう警戒するな。今日は礼を言いに来たのだ♪」
「は?お礼?」
「おお、金桂、銀桂♪丹桂もいるな♪親子揃って仲が良くて実に素晴らしい♪」
な、何、こいつ?異常に浮かれてるじゃない・・・・・。
「金桂と銀桂にはこれをやろう♪からくり夏侯惇将軍とからくり関羽将軍だぞ♪天下一品武闘会会場の台座付きだ♪」
「そんなの子供が喜ぶわけ・・・」
「うわぁ♪ありがとうー、せい媽媽♪」
「うわー♪ありあとー♪」
喜んでるわ・・・・・子供の趣味って時々わからなくなるわね・・・・・。
「後宮へ桂花宛に珍しい菓子や果物を届けさせて有るから、遠慮なく食べてくれ♪そうそう、今回は偶然にも主たちに言い寄る者が居ない時に当たってしまったが、なに、皆の行動を把握しておけばもうこの様な事は無いと思うぞ。」
成程、前回の助言のお詫びのつもりなのね。良い心懸けだわ。
それに今回は星が言う通り偶然が重なったからよ・・・・・あいつらの情報を把握しきれなかった私の落ち度でも有るけど・・・・・。
「今度こそあいつらをギャフンと言わせてやるわっ!!」
お腹の子が産まれる頃には、あいつらも今回のことを忘れてるに違いないわ。
【エクストラturn】
その年の晩秋。
桂花は四女、
後宮 桂花私室 (時報代理:眞琳 四歳七ヶ月)
【紫一刀turn】
連翹が生まれてから二ヶ月が経ったある日。
俺たちはメイド隊の女の子からの報告で桂花の五人目の懐妊を知った。
先月桂花が俺たちの所へやって来たのが懐妊の原因となったのだが、前回の挑戦状の事を考えてみると、桂花のこの行動は昔の落とし穴の延長のようだ。
華琳が眞琳を身籠った頃から、城内に罠を仕掛けなくなった桂花が直接行動に出たという事なのだろう。
そうと分かっていても、いや、そうと分かるからこそ桂花の行動が可愛く感じてしまう。
しかし、今回はさすがに桂花も落ち込んだんだろうな。
俺たちは桂花の部屋の前に立ちノックをした。
「「「桂花、俺たちだ。入ってもいいか?」」」
直ぐに返事がない代わりに、少し待ってから鍵を外す音が聞こえ、続いて扉が開かれた。
「・・・入んなさいよ・・・子供達は華琳さまが見てくださっているから居ないわ。」
下を向いているため桂花の表情は判らないが、やはり落ち込んでいるな。
正直、花瓶の攻撃も覚悟してたんだが。
部屋の中に招かれ最初に目に付いたのはその花瓶だった。
庭への入口も兼ねた窓の隅に置かれた花瓶には何本かの木の枝が活けてある。
まだ硬い芽も春になれば花を咲かせることだろう。
「あぁ、その花瓶?華佗が気に入ったのならって、くれたのよ。」
気に入り方が形や柄ではなく、殴りやすさという理由だったら嫌だな。
「何も言わなかったけどちゃんと来たのね・・・・・来なかったら今度こそ孕ませ無責任男って呼んでやったのに・・・」
「そりゃ来るに決まってるだろ。」
「それはお腹の子があんたたちの子だから?」
「それも有るけど、純粋に桂花が心配だったからだ。」
「・・・・・あんたたち・・・・・この間は私がどんなつもりで会いに行ったか解ってるのよね。」
「そりゃまあ・・・・・お互い長い付き合いだからな。俺たちを負かしたかったんだろ?」
「少し違うわね・・・・・赤玉が出るまで攻めてやるつもりだったわ。」
赤玉?・・・・・・もしかして打ち止めの時に出るって言われているアレか!?
「「「怖いこと言うな・・・・・」」」
「でも、結局は煙も出なかったじゃない・・・・・あんたたちあの日は三日前から連続で何人も相手していて、もう限界だった筈なのに・・・・・何故よ!?」
確かにあの時は既に限界を迎えていた。それこそ煙が出るんじゃないかと思うくらいに。
「桂花だから・・・・・かな。連翹がお腹の中にいる間はそういう事しなかったから・・・・・その、嬉しくなっちゃってさ・・・」
実は数ヶ月前に俺はこういう時の為の最終兵器を手に入れていた。
華琳と眞琳を連れて行った茶店で、お土産として貰った『夜菓子』。
あれ以来この『夜菓子』には何度も今回のような危機的状況を救われて来たのだ。
「私だからって・・・・・これまで散々あんたたちの事を嫌いだって言い続けてきたのに・・・」
「「「俺たちは桂花の事を嫌いだと思ったことは無いし、口にした事も無いけどね。」」」
「・・・・・・・ばか・・・・・この絶倫変態男・・・・・」
うわっ!け、桂花が顔を赤くして・・・・・鬼ツンが遂にデレた!!??
「た、確かにあんたたちから嫌いだと言われた事は無いけど・・・・・・・とも言われた事も無いわ・・・・・」
微かな声だったが俺たちの耳にはしっかりと聞こえた。
顔を赤らめて上目遣いの桂花に、俺たちは真剣な顔で口を開く。
「「「愛してるぞ、桂花。」」」
「・・・・・・・やっと言ったわね・・・・・この変態・・・・・」
「「「やっと言わせてくれたな♪」」」
おまけ壱
桂花の長女
一歳
後宮談話室
【エクストラturn】
「さあ、金桂。華琳さまよ。か・り・ん・さ・ま。」
「あ~?」
その日、桂花は金桂を椅子に座らせ、一生懸命に話し掛けていた。
そこに金桂よりひと月後に生まれた
「ん?何をしているのだ、桂花?」
「金桂に言葉を教えてるのよ。邪魔しないで!はい、金桂。もう一度行くわよ。か・り・ん・さ・ま。」
「あー♪」
金桂は桂花の口の動きが面白いのか笑って手を叩いていた。
「なあ、桂花。いくら何でも赤ん坊には難しいと思うのだが・・・・・」
「大丈夫!華琳さまを愛する私の子供よ。必ず言えるわ!第一声は何としても『かりんさま』って言わせるの!」
「・・・・・その根拠はどうかと思うが・・・・・」
「か・り・ん・さ・ま。」
「ま~ま~」
「なにっ!?」
「まーまーじゃなく、か・り・ん・さ・ま・よ。」
「ちょ、ちょっと待て、桂花!今、金桂が!」
「だから邪魔しないでって言ってるでしょ!!」
どうやら桂花は熱中するあまり気が付いていない様だった。
「はぁ・・・・・もう好きにしろ・・・・・」
冥琳は諦めてその場を離れた。
背後からはしつこく桂花の『か・り・ん・さ・ま』が聞こえて来る。
冥琳は自分が抱きかかえる冥龍を覗き込んだ。
「・・・・・しぇ・れ・ん・・・・・」
「なに?どうかしたの、冥琳?」
「!!」
ひょっこり姿を現した雪蓮が
「い、いや!なんでもないっ!!気にするな、雪蓮!!」
「???変な冥琳。」
おまけ弐
長女 金桂 四歳二ヶ月
次女 銀桂 二歳十ヶ月
三女 丹桂 一歳三ヶ月
四女 連翹 四ヶ月
後宮 桂花私室
【紫一刀turn】
「おーい!もうみんな桃園に集まってるぞ。」
今日は桃園でのお花見の日だ。
桂花の所が中々現れないので心配になって見に来たんだけど・・・。
「わかってるわよ。いま、連翹のオシメを変えてるところなの。」
そういう事か。それじゃあしょうがない。
「れんぎょうちゃん、おもらしー♪」
「おもらしー♪」
「連翹は赤ちゃんだからしょうがないの。金桂と銀桂は眞琳が心配してたから先に行っててもいいぞ。」
「まりんおねえちゃん?」
「おねえちゃん?」
はは、二人揃って小首を傾げてる。
銀桂が金桂の真似をして同じポーズをするから可愛いんだよな。
「こら!眞琳さまって言いなさい!」
「まりんおねえさまー♪」
「おねえさまー♪」
金桂と銀桂はそう言って笑いながら、桂花から逃げ出して走って行った。
「丹桂は爸爸と媽媽と一緒に行こうな~♪」
「あ~、ぱ~ぱ~♪」
俺は丹桂を抱き上げて桂花が連翹のオシメを変え終わるのを待つ。
その待っている間に俺はこの部屋を満たす甘い香りを深く吸い込んだ。
香りの元は、あの花瓶に活けられた木に咲く『連翹』。
しかし、この花瓶・・・・・あれだけ乱暴に扱われていながらヒビどころか欠けもしてないな。間違いなく陶器なんだけど・・・なんか耐熱タイル並みの強度じゃないか?
それはまあいいとして、その花瓶の横には鉢に植えられた『金桂』『銀桂』『丹桂』が新緑の葉を芽吹かせていた。
こちらは秋の花なので今はまだこんな感じだが、花瓶の中にはもう一種類の花が咲いている。
それは『
「なによ?ニヤニヤして。」
「いや・・・桂花が『お母さん』してるなぁと思ってさ。」
「当然よ。子供の数では紫苑より多いんだから。」
「そうだよなあ。あの壊滅的だった料理も改善されたしな♪」
「あ、あれは料理の知識が無かっただけよ!」
何しろ『魚を卸す』という言葉すら知らなかったからな。しかし桂花がその気になれば料理の知識を覚えるのはあっという間だった。
作るのは手先の不器用さを知識で補ってる感じがアリアリの料理だけどね。
桂花が連翹のオシメを変え終わったのを見計らい、俺は笑って歩き出す。
「見てなさい!今に華琳さま並みの料理を作って、あんたたちをギャフンと言わせてやるんだから!」
連翹を抱いた桂花は、俺の隣に並んで俺の顔を見上げて睨んでいた。
あとがき
明けましておめでとうございます。
桂花の話は長くなる予感はしてたのですが・・・・・
まさかここまで長くなるとは。
雷起はツン系のキャラって入り込み辛いのですが
一度転ぶと深みにハマる傾向にあるようです。
桂花の子供達の真名ですが補足しますと
『桂花とは木樨属における全ての亜種・変種・品種を総括するものである。』
と、有りましたので
これをヒントにして決めました。
金桂=薄黄木犀
銀桂=銀木犀
丹桂=金木犀
連翹と黄梅も木犀属の木です。
六人目以降はオリーブとかライラックかもしれませんw
おまけ壱は本編を書いている最中に思いついたので入れちゃいましたw
《次回のお話&現在の得票数》
☆桔梗 18票
という事で次回は桔梗に決定しました。
以下、現在の得票数です。
蓮華 12票
七乃 10票
白蓮 10票
詠 10票
凪 9票
朱里+雛里8票
猪々子 8票
流琉 8票
月 7票
ニャン蛮族7票
小蓮 7票
亞莎 6票
数え役満☆シスターズ6票
穏 5票
明命 5票
焔耶 5票
秋蘭 5票
斗詩 3票
二喬 3票
春蘭 3票
音々音 3票
華雄 1票
※「朱里と雛里」「美以と三猫」「数え役満☆シスターズ」は一つの話となりますのでセットとさせて頂きます。
リクエスト参戦順番→ 蓮華 凪 朱里+雛里 猪々子 穏 桔梗 白蓮 亞莎 流琉 七乃 ニャン蛮族 小蓮 詠 焔耶 明命 数え役満☆シスターズ 秋蘭 月 斗詩 二喬 春蘭 音々音 華雄
過去にメインになったキャラ
【魏】華琳 風 桂花
【呉】雪蓮 冥琳 祭 思春 美羽
【蜀】桃香 鈴々 愛紗 恋 紫苑 翠 蒲公英 麗羽
引き続き、皆様からのリクエストを募集しております。
リクエストに制限は決めてありません。
何回でも、一度に何人でもご応募いただいても大丈夫です(´∀`)
よろしくお願い申し上げます。
Tweet |
|
|
21
|
4
|
追加するフォルダを選択
明けましておめでとうございます。
得票数17の桂花のお話です。
懐妊確認後五人分+おまけ二本です。
続きを表示