まえがき メリークリスマス!独り身で虚しく忘年会に駆り出されたsyukaです。いやー、グロッキーです。それはおいといて、コメントありがとうございます。ついに第五節に突入しました。今回から群雄割拠編です。各諸侯の動きに注目です。その前に朝廷で劉協の正体を知ってしまった一刀。どうなってしまうのでしょうか。乞うご期待!それではごゆっくりしていってください。
さて、こんにちは。北郷一刀です。ただ今劉協様の部屋にて凄く気まずい雰囲気が漂っています。劉協様の着替えの最中にうっかりお部屋に入ってしまった俺。そして劉協様の半裸を見てしまい、しかも彼、いや彼女は女であることを知ってしまった。なぜこんなにもタイミングを見計らったかのように入ってしまったのだろうか・・・。ちらりと劉協様に視線を移せば目が合いぷいっと視線を逸らされてしまう。俺はどうしたらいいんだろう・・・。
「劉協様もそろそろ機嫌をお直しください。北郷殿も悪気があって見てしまったのではないのですから。」
「それは分かってる。分かってるんだけど・・・。裸を見られた。」
「うっ!」
「馬騰や月は女だから知られてもそれほど驚きはなかったけど・・・北郷とはいえ男に見られたんだから。これは責任を取ってもらわないと気が済まないわ。」
「せ、責任ですか。」
何を要求されるんだろうか・・・不安だ。
「今度、平原を案内しなさい。」
「平原を・・・ですか。私はいいのですが、劉協様は良いのですか?」
「私が言っているんだから良いの!それと、私と二人の時に敬語は禁止!」
「いや、馬騰さんがいるじゃないですか。」
「馬騰はいいの!」
「は、はぁ。では、劉協。これで良い?」
「薔薇(そら)よ。私の真名、あなたに預けるわ。」
「ちょっ!?それはいきなり過ぎるんじゃない!?仮にも皇帝なんだから。」
「仮にもは余計よ。それに、その・・・個人的にあなたのことは気に入っているの。他に良い男が見つかるとは思っていないし見つけようとも思わないから。代わりに、あなたの真名を預けさせてもらうわよ。」
「うーん、持ち合わせているなら預けたいんだけど俺は真名も字もないからなー。」
「じゃあ、あなたのことはか・・・か・・・一刀・・・って呼ばせてもらうから」
「・・・ぷっ。くくくっ。」
「な、何よ?」
「そんなに緊張しなくてもいいのに・・・もっと気兼ねなく呼んでいいんだよ。」
「男の名前なんて呼んだことないんだから・・・出来るなら最初からしてるわよ。」
「そっか。これからよろしくね、薔薇。」
「こちらこそ、よろしく・・・一刀。・・・やっぱり恥ずかしい//」
薔薇が顔を赤らめている。なんか、皇帝っぽくないなー。謁見の間では結構な雰囲気だったのに。まぁ、こういうのも可愛い。とりあえず、彼女の頭を撫でてみる。なでなで・・・
「なんで頭を撫でるのよ?」
「なんか可愛いなーって思って。懐いてない猫みたい。」
「~~~~~//」
ん?大人しくなったな。これは続けていいのかな?なでなで・・・
「も、もう!恥ずかしいから止めてちょうだい!馬騰が見てるじゃない!」
「ふふっ、私にお構いなく続けていいんだぞ?」
「・・・いや、もう止めとくよ。薔薇の顔が真っ赤になってるからね。」
「/// 馬鹿・・・。」
俺は薔薇の頭から手を離すとテーブルに立てかけていた聖桜を取った。
「俺はこれを取りに来たんだった。とりあえず、今日はこれでお暇するよ。」
「もう帰るの?もっとゆっくりしていけばいいのに。
「洛陽に待たせている人たちがいるからね。それに、結構平原の方も少しの兵たちに任せているからそっちにも戻らないと竹簡が大量に溜まってうちの軍師が天手古舞になっちゃうから。」
「・・・そう。次来たときは時間を空けておいてね。」
「分かった。じゃあ馬騰さん、薔薇と劉弁様のことは一時お願いします。」
「任せておけ。私の目の黒いうちは十常侍どもに好き勝手はさせないよ。」
「ありがとうございます。では私はこれで。薔薇、元気でね。」
「う、うん。一刀もね。」
俺は馬騰さんと薔薇に見送られながら城を後にした。
・・・
「行っちゃった。」
「北郷のことです。またいずれ顔を出しに来ますよ。」
「そうだといいのだけど・・・。」
「それにしても劉協様はまた厄介な相手に惚れましたね。」
「厄介?」
「北郷殿は異様なほどに配下から好意を抱かれています。配下のほぼ全員と言っても過言はないでしょう。他にも董卓のとこの武官からも好意の目で見られています。他ならぬ董卓自身も一刀に惚れ込んでいるようですので。向こうの恋敵は多いですよ♪」
馬騰が少し嬉しそうに言っているのはなんで?というか一刀、そんな数の女性から好意を受けているなんて・・・侮れないわね。一見草食動物のように大人しそうに見えるのに、中身は肉食なのかしら?
「私も一人の女なのだから最善の策は尽くすわ。」
「その意気です。あの方ならうちのじゃじゃ馬娘たちも任せられるのだけど、今はバカ息子がお世話になっているから・・・どうすればいいかしら?」
「・・・けれど、そんなに多くの好意を寄せられていれば嫌でも気付くのでは?」
「あの方は例を見ないほどの鈍感なのだそうです。まぁ、英雄色を好むとも言いますし、後々は皆あの方と繋がりを持つことになるのかもしれませんね。」
「はぁ~、私も頑張ろう。とりあえず、さっき着ていたものは侍女に洗濯させておいてちょうだい。もう少ししたらまた男の格好をするわ。いつまでもこの姿ではいられないし。」
「分かりました。」
ずっとこの姿でいられればいいのに・・・これも姉様を救い出すまでの辛抱よ。早く私たちを救い出してね、一刀。この腐敗した漢王朝という名の檻から。
・・・
「皆、お待たせ。」
「ご主人様も戻ってこられたことですし、私たちも洛陽に戻りましょうか。」
「そうだね。 ? 貂蝉と卑弥呼は?」
「貂蝉さんたちは門の前に待機してもらっています。月ちゃんと恋さんはご飯の材料を買いに行くと言って市を回っています。」
「ここに来てまで買い出ししなくてもいいのに・・・。」
「なんでも洛陽とは食材の品揃えが違うとかで。」
「月ちゃん凄いよね~。私には何がどう違うのかちんぷんかんぷんだもん。」
「ご主人様、どうしますか?ここで月たちが戻ってくるのを待ちますか?」
「いや、俺たちで月を探そう。おそらく恋も一緒だから買い食いするだろうし、月に荷物持ちさせるのも気が引けるから。」
俺たちは月たちを探しに市を回ることにした。朝廷の側だからか結構賑わっているな。俺も食材探しは好きだからワクワクしてきた。
「じゃあ愛紗と桃香は東側を頼む。俺は朱里と西側を探してみるから。」
「はい。」
「ご主人様、朱里ちゃん、また後でね。」
俺たちは桃香たちが移動したのと同時に西側を探してみることにした。
「さて、月たち探し兼食材探しを始めようか。」
「ご主人様、月ちゃんたちを探すのが先ですよ?」
「分かってるよ。」
・・・
一刀たちが月たちを探している頃、平原では怪しげな一団が邑に入り込み兵たちはその対策に追われていた。
「瑠偉さん、先日平原入りしたあの集団なんだけどなんか行動が怪しいと思わない?」
「そうね。入口には見張りが二人。中で何が行われているかはまだ把握出来ていないけど、早く突き詰めて隊長達に知らせないといけないわ。」
平原では反董卓連合戦に参加せず、平原の守備を任された兵たちおよそ二百。しかし隊長たちが出払っている今、強攻策を取ろうにも下手に動くことができず立ち往生していた。
「私が洛陽に早馬を出すからその間に出来るだけ情報を集めてちょうだい。」
「分かった。」
この一団、どこかきな臭い匂いがするのよ。何かを企んでいるような。隊長、早く戻ってきてください!
・・・
「いやー、思わず結構買っちゃった。」
「なかなかいい物が揃っていましたからね。今日のご飯は豪華にできます♪」
「俺も張り切っちゃおうかなー♪」
「お二人共、今は洛陽に戻っている最中だということを忘れていませんか?」
たくさんの食材を抱えていご主人様と月。恋はさきほどいただいた桃まんをもふもふと頬張っている。はぁ~~♪
「貂蝉よ、ところであの男は今どうしておる?」
「今は比較的大人しいものよ。今回はちょっかい出来ないように厳重に見張っているからねん。けど、またろくでもないことを考えているなのよねん。いつになれば無理だと分かってくれるのかしら?」
「あやつの行動理念は理解出来ぬがいつまでも大人しくしているのも無理な話じゃろう。いざというときはあの方たちに助力を要請するしかないかの~。」
「そうね。」
「? 二人とも何の話をしているの?」
「何でもないわよん。ご主人様は今の大陸のことだけを考えてくれていればいいから。ついでに私のこともねん♪」
貂蝉のウインクを直視してしまった。これはきついな~。俺は苦笑いして行く先を再び見つめ直した。
・・・
「ただ今戻りました。」
「ただいま~。」
「はぁ、疲れたよ~。」
俺たちは洛陽に到着しとりあえず椅子に腰を下ろした。歩きっぱなしで結構疲れた。桃香と朱里は椅子にもたれ掛かってぐったりとしている。まぁ、炎天下とまではいかないがそれなりに日光を浴びながら荒野を歩いたんだ。武官でない二人は相当疲れたであろう。月はなんでかまだまだ元気だったけど。恋は家族にご飯をあげると行って家に戻った。家とは言っても城の中にある恋の部屋であるのだが。
「お~、お帰り。今帰ってきたんか?」
「霞か、ただいま。今戻ってきたところだよ。」
「朝廷はどないやった?うちは行ったことないねんから。」
「洛陽と同じくらい大きな城だったよ。ただ、まだ十常侍が暗躍してるみたい。劉協様も困っていらした。まぁ今は馬騰さんが向こうにいるから大丈夫だと思うけど。」
「そっか。とりあえずはお疲れさん。今日はゆっくりしとき。じゃあうちはもうちょいしたらまた兵の訓練見に戻るさかい。」
「うん、そうさせてもらうよ。霞も無理しないようにね。」
「心配してくれておおきに。うちは大丈夫なんやけど兵の連中がなかなか鍛錬についてこんのや。全く、自己鍛錬が足らんっちゅうねん。」
「いや、俺たち武官に合わせていたら兵たちが死んじゃうって。」
「うちらの・・・月の臣下の隊はうちと恋しかおらん。将の質は高くても絶対的に兵数が足らんのは目に見えとるさかいな。孫堅や曹操んとこが攻めて来たら終いや。せやから少しでも兵の質を上げんといかんと思うんよ。」
「けど、それで兵がついて来なくなったら本末転倒だってことは分かっているでしょ?」
「そないなことは分かっとる。分かっとるんやけどなぁ・・・。」
「まぁ、危ない時はまた助けに来るからそこまで深く考えることでもないんじゃない?」
「おおきに。せやけど、いつまでも一刀たちに世話になりっぱなしっちゅうわけにはアカンやろ。うちらかて武人や。一度や二度の危機は自分たちでなんとせなアカン。」
「うーん、困った人がいたらどうしても助けに行っちゃうからな~。月や霞たちが俺たちの将になってくれればこういう問題はなくなるんだけど・・・月の立場上それは無理だからな・・・。」
「確かにそうなったらうちもいまよりは安心できるな。月や恋も喜ぶやろうし、うちも嬉しい。そうや!一刀たちが月の臣下になるっちゅうんはどうや?」
「いやいや、俺たちも平原の相を任されているんだからそういう訳にはいかないよ。」
「にゃはは、冗談や。」
「そうですね~、華雄さんさえ見つかればうちも昔のように安定するとは思うのですけど・・・。」
「華雄か。まぁ死体は見つかっとらんのやし、どっかで部下たちとのらりくらりやっとるやろ。あいつもちょっとやそっとで死ぬようなタマやないからな。」
「元気な姿で戻ってきてくれるといいですね。」
「少し猪加減を抑えてな。じゃあうちは兵たちの鍛錬に戻るわ。月たちはゆっくりくつろいどき~。」
霞はそう言い残して謁見の間を後にした。
「では私はお夕食の準備をしてきますね。」
「月は休憩しなくてもいいの?」
「はい。一刀さんとたくさんお話できましたので元気いっぱいです♪」
「じゃあ俺も手伝おうかな。愛紗たちはどうする?」
「私は広場で鍛錬をしておきますので、夕食が出来たらお呼びください。」
「私もお手伝いしたいんだけど・・・体が重いから今日は遠慮しておくよ~。」
「私も桃香様に同じくです・・・。」
「分かった。じゃあ言ってくるね。」
謁見の間を後に愛紗は広場へ、俺と月は厨房へ向かった。
・・・
俺と月に途中で雛里も加わり三人で夕食を作り食事の時間となった。今日はなんだかいろいろあったから大変だったなー。特に薔薇のこと・・・。献帝に会ったってだけでも驚きなのにまさか女の子で、しかも真名まで許してもらえるなんて。特別何かした覚えはないんだけどね~。女の子が考えてることはよく分からん。
「主よ、何を感慨にふけっているのですか?」
「あ、ごめんごめん。ちょっと今朝のことを考えてたんだ。」
「ほう、今朝というと朝廷に赴いた時ですな。何か良いことでもあったのですか?」
「劉協様に会って、太傅になるとこだったんだよ。まぁ、断ったけどね。」
「それはまた大きな話になりましたな。それにしても主は欲のないというか、謙虚というか・・・。」
「俺たちにはまだやることがあるからね。天下泰平のためにももっと頑張らないと。」
「それはごもっとも。しかし、主は働きすぎる嫌いがあるのでな、私が見張っておかなくてはいけません。」
「それは心強い用心棒になりそうだ。」
「はっはっは!主に心強いと言われては本当にやってしまいますぞ?」
星が悪戯っぽく微笑んでいる。うーん、心強いのは本当なんだけど、俺的には守ってあげたい方だからなー・・・。
「もし危なくなったらお願いするよ。」
「御意。」
それから霞も加わって三人で飲み比べをすることに・・・。この二人、容赦ないから結構きつい。
「? 月も結構呑んでるよね?大丈夫なの?」
ペースはゆっくりだが結構な量を呑んでいる月。普段からそんなに呑んでるイメージがないからかな?
「こう見えてもお酒は強い方なんですよ?」
「せやで~、うちらと飲み比べはせーへんけど呑む時は呑むで。月が呑むときは詠や恋にねねも一緒なんやけど・・・。」
「?」
恋とねね、それに詠が部屋の隅で眠っている。顔がほんのり紅いあたり呑んではいたんだな。飲み比べしてたから他を見てる暇なかった。ちなみに、恋の横でセキトが体を丸め、詠とねねは張々を枕にしている。あれはあれで結構寝心地よさそうだな。機会があれば俺も一度させてもおらおう。
「それにしても、今日の桃香は随分と大人しいね。まだ吞んでないのか?」
俺は桃香に視線を移してみると・・・今日の標的は俺じゃなかったみたい。
「愛紗ちゃん!もっとご主人様に積極的にいかないと駄目だよ!」
「は、はぁ。」
「ご主人様はただでさえ人気なんだから、口付けの一回や二回しとかないと!」
「く、口付け!?//確かにお慕いしてはいますが私にはまだ・・・。」
「お慕いしてるならいっそのこと押し倒しちゃえ~!」
「と、桃香様!!//」
その、桃香さん。本人のいるときにそんなこと言わんでください。皆の視線が痛いです。
「愛紗さんがするなら、わ・・・私も押し倒します!」
「いや、私は押し倒すなどとは・・・//」
「雛里ちゃん!私たちも負けてられないよ!」
「あわわ・・・//」
「なんや~一刀はモテモテやな~♪」
「ちょっ、ちょっと待って!何で俺押し倒される前提なのさ!?」
「おや、それは押し倒す方が良いとおっしゃっているのですかな?♪」
「私はご主人様だったら押し倒される方がいいわ♪」
「流琉、お兄ちゃんを押し倒すと何があるのだ?」
「え!?そ、そのぉ・・・//愛紗さん、お願いします!!」
「私か!?~~~~~//」
「まぁ・・・後々分かるよ。」
「??」
鈴々が頭上に?マークを浮かべてるけど説明しようにもな~・・・。俺が押し倒すとかはないと思うんだけど・・・。将来的にはここに居る誰かと添い遂げることになるんだろうか。
「とりあえず~、じゃんけんしよ~。」
「・・・今の会話のどこからその流れに?」
「気にしな~い。」
・・・俺も深くは追求しまい。さて久々にはじまってしまいました。一刀争奪、本日の寝台は誰の手にじゃんけん。洛陽にきたら恒例行事になるんじゃなかろうな・・・。まぁ部屋が空いてないから仕方ないか。
・・・
「よっしゃー!一刀、勝ったで!」
「おー、おめでとー。」
今日は霞の部屋にお邪魔するのか。そういや初めてだな。
「よっしゃ、一刀!呑むで~!」
「いや、今相当呑んだよね!?」
「祝杯や!呑め呑め~!」
「うぐがげぼ・・・。」
呑むというより呑まされている俺。というより、俺が部屋に泊まるのって酒が祝杯に変わるものなのか。嬉しいんだけどなんかむず痒いな。
「霞さんいいなぁ。」
「へへーん、ええやろー♪」
「霞さん、一日だけ変わらない?」
「今日はうちの独占やからそれは出来へんなー。」
「ぶーっ。」
「桃香様、今日は諦めるべきでしょう。それに、霞は私たちのように平原に戻ってご主人様といられるわけではないのですから。」
「むーっ、霞さん!お手つきは駄目だからね!」
「分かっとるわい♪」
「お手つき?」
「一刀はせえんでええよ。」
「??」
はて?なんのことだろうか?よく考えても分からんし、気にしないでおこう。
・・・
「ふぅ~、結構呑んだわ~。」
「よくそれだけ呑んで潰れないよね・・・。」
「そう言う一刀も潰れとらんやんか~、酒豪になる器があるで♪」
「いや、その器は遠慮しておくよ♪」
俺はやんわりと酒豪の器という良いのか悪いのかよく分からないものを断り寝台へと身を沈めた。
「それにしても、うちが男と一緒に寝る時が来るとは夢にも思わんかったわ。」
「まだそんなこと言ってるの?霞は魅力的な女の子なんだからもっと自信持たないと!」
「一刀にそう言ってもらうんは嬉しいんやけど、うちに一刀の言葉はちときついわ~。心臓がいくらあっても足らん//」
「そうかな?思ったことを言ってるだけなんだけど。」
「それがタチ悪いんやって・・・。」
普段は男勝りのところがある分ギャップがあって可愛いなぁ。今は大人しい猫みたい。霞の喉をごろごろしてみよう。ごろごろ。
「な、なんや?ごろごろ。擽ったいわ~♪」
「その割には嬉しそうだね。」
「たまにはこういうのをええなぁ。」
「そうだねぇ。まったりするのもいいね。」
それからしばらく霞とごろごろした。霞の喉をごろごろするのはすぐにやめたけどね。
「ふぁ~。」
「もう眠いん?」
「う~ん、いつもはまだまだ起きれてるんだけどね。今日は帰ってきたばかりだし、疲労が抜けっきてないのかも。」
「それもそやね。じゃあ今日は寝とき。うちは一刀の寝顔でも拝んどくわ。」
「それは恥ずかしいから出来れば言わないで欲しかった・・・。恥ずかしくて寝れそうにないよ//」
「にゃはは♪いつも恥ずかしいこと言われとるんやから、そのお返しや♪」
「う~、そんな自覚はないんだけどな・・・。まぁいいや。霞、お休み。」
「お休みな。一刀。」
俺はそれから数分と経たずに夢の中へと旅立った。
・・・
翌朝、朝食を終えた俺たちは平原からきた早馬によって突如向こうに戻ることになった。連合の一件で離れているうちに怪しげな一団が向こうで動きを見せているらしい。あと2、3日はゆっくりできると思っていたんだけどな。
「それでは皆さん、お気を付けて。」
「月ちゃんたちも元気でね。」
「北郷、桃香、あんたたちが相なのだからしっかりやりなさいよ。」
「分かってるよ。」
「朱里に雛里、あんたたちも大変ね。こんなのが主だといろいろと苦労するだろうし。」
「私たちは軍師ですから苦労するのは当然です。無論、武官の皆さんも苦労はされているのは知っていますよ。」
「詠さんも、霞さんたちの補佐は大変ではないのですか?」
「黄巾党討伐前に比べたら結構楽になったほうよ。」
「へ~。まぁ、話もこのくらいにして、そろそろ行くよ。」
「そうですね。あまり平原の兵たちを任せるわけにはいきませんし、怪しげな一団というのも気になりますから。」
「そうだね。じゃあ月ちゃんに詠ちゃん、霞さんに恋ちゃんにねねちゃん。お世話になりました。」
「ほなな。また会った時は宴会やで!」
「一刀、ばいばい。」
「うん、またね。」
「恋殿に色目を使うななのです!」
「え~、ただ話しかけただけだよ。ねねも元気でね。」
「ふん!お前に心配される筋合いはないのです!」
「それでは、見送りはこのあたりまでしか出来ませんので。」
「分かった。それじゃあ、またね。」
俺たちは月たちの見送りを受け平原へと急いだのであった。
・・・
俺たちが平原に到着し謁見の間に入ると報告をくれた北郷隊の兵士の数人が待機していた。
「早速で悪いんだけど、今分かっている情報を教えてもらえないかな?」
「分かりました。」
怪しげな一団が平原入りしたのは俺たちが洛陽に向かってから二日後のことらしい。それから度々そこに出入りしている人たちを目撃しているのだが中を確認はしていない。見張りが二人、それを時間ごとに交代でやっているとのこと。確かにそれは普通ではない。俺たちが離れているのを知っていたかのような平原入り。関係者かどうかの判別は出来ないが、おそらく何か取引や売買が行われているのは間違いないと踏んで良いだろう。見張りを付けるくらいだからな。
「報告ありがとう。下がっていいよ。」
「失礼します。」
「さて、どうしようか。何かしているのは分かるんだけどその何かが分からないんだよな・・・。雛里、何か案はある?」
「そうですね、どなたかが市民に変装し敵の内情を探るというのはどうでしょうか。勿論、帯刀はせずにです。」
「ふむ。では儂が行こう。」
「え!?」
俺たちは一斉に卑弥呼の方に顔を向けた。この見た目で変装?無理無理。色々と目立ちすぎてるし図体的に隠しきれないでしょ。既に上半身裸みたいな格好してるし。
「結構良い案かもしれません。」
「朱里、早まるな!冷静になれ!」
「愛紗さん、私は至って冷静ですよ。卑弥呼さんは月ちゃん救出のときに変装していたようですし、万が一襲われても返り討ちにできる実力を持っているのですから。」
「確かにそうだけど・・・この目でその変装姿を見ないと納得しかねるなー・・・。」
俺の発言に貂蝉以外が頷いた。そしてその貂蝉はぐふふと微笑を浮かべている。それだけで禍々しさを感じるのは何故だろうか・・・。
「卑弥呼、一度ご主人様たちにあの姿を見せておいた方が安心するのではない?」
「ぐぬぬ、あちらの姿はちと慣れていないのだ。黄泉へ旅立つであろう一団共には惜しみなく披露出来るのだが・・・儂もか弱い漢女なのだ。ご主人様やダーリンに見せるのは・・・。」
「卑弥呼、俺からも頼む。お願いできないか?そうしなければ一刀たちも納得できないらしいから。」
華佗が卑弥呼に頭を下げた。すると・・・卑弥呼はうむ。と頷いた。
「ダーリンに頼まれればこの卑弥呼。どの姿だろうとたとえ地獄の底、たとえ大陸の果て、海底の底、どこにでも向かってやるわ!ガハハハハ!」
おー、卑弥呼がすんなりと承諾したよ。鶴の一声ならぬ華佗の一声だな。・・・貂蝉がこちらを凝視してるんだけど、気にしない。
「では支度してくるので待っておれ。」
卑弥呼はそう言うと謁見の間を出て行った。
「主よ、本当に大丈夫なのですか?私にはあまりに無理があると思うのだが・・・。」
「実は俺もそう思ってるんだけど・・・。」
「私たちはくまさんを信じればいいんですよ!ここは大人しく待ちましょう。」
「・・・流琉の言うとおりだな。」
・・・
あれから待つことおよそ10分。卑弥呼が出て行ったところから現れたのは・・・
「・・・お前、誰なのだ?」
「はわ~、綺麗。」
ひとりの女性が謁見の間に入ってきた。薄水色の長髪に巫女服を身につけている俺より少し背が低めの女性。どこか妖艶なオーラが見受けられる。
「見事ね、卑弥呼。」
「・・・。」
一同絶句。俺たちは言葉を失った。今聞こえるのは小鳥のさえずりのみ。現れた卑弥呼も何も言わないし・・・と、とりあえずこの空気をどうにかしないと!
「ひ、卑弥呼、よく似合ってるよ!」
・・・って何言ってるんだ!?これじゃないだろ俺!
「卑弥呼、何か言うことはないのかしらん?♪」
「この格好で人前に出ることになるとは・・・。なかなか恥ずかしいな。」
「・・・本当に卑弥呼か?」
「くまさんじゃない・・・大きくないです。」
「これくらいせねば変装とは言えぬだろうに。誰か分からぬからこそ変装と呼ぶのじゃ。」
これを変装と言っても良いものか・・・変装じゃなくて別人の域だぞ?というか、貂蝉も似たようなことしてたじゃないか。こっちで会った今の姿と向こうであった時の姿は全然違う。漢女って奥が深いんだな。
「と、とりあえず、偵察お願いね。」
「了解した。さーて、一つ憂さ晴らしに一組織壊滅・・・」
「ストップ!壊滅じゃなくて偵察をお願いね!」
「なーに、冗談じゃ。親魏倭王の手腕をとくとお見せしよう。」
・・・
「行ってきたぞ。」
「お帰り。どうだった?」
「一人を尋問して聞き出してきた。何やら他の村で捕まえた者を奴隷として売っているそうじゃ。」
「なっ・・・それで、そいつらはどうしたんだ?」
「怪しまれないように儂は退き、尋問した者はそのまま返したが口封じはしておいたぞ。少し脅しをかけておいたからの。」
「それは迅速に対応しなければいけませんね。」
「・・・。」
「ご主人様?」
「卑弥呼、その場所を教えて。」
「城を出て西側の端にある。角にあるからすぐ分かると思うぞ。」
「分かった。愛紗、清羅、その周辺の人払いを頼む。流琉と鈴々は隊をまとめて突撃する準備をしておいてくれ。華佗は俺が奴隷に捕まってる人を救助したときの治療準備。卑弥呼と貂蝉は奴隷を解放した後に思う存分暴れていい。」
奴隷扱いだと?人をなんだと思ってるんだ?そんなやつらは生かしておくわけにはいかない。屑同然だ。犬畜生以下。今回の仕事が決まった。そいつらの殲滅。一匹たりとも逃がさない。
・・・
「兄様、凄く怒ってます。」
「ご主人様はそのような人を人と思わないような行為をするような輩には容赦ないからな。」
「主は一度怒らせると我らでも手が出せなくなるからな。敵でなかったことを良かったとつくづく感じさせられるよ。」
「まぁ前のように暴走しないかはらはらするけどね。」
「その時は私たちが責任をもって止めるわよん♪」
「本気を出したら儂らでも苦労だろうがな。」
「私たちも早くご主人様を追うぞ!」
「愛紗よ、そう急いでも主は逃げんぞ?」
「私をからかう暇があったらその動こうとしない足を動かせ!」
「はいはい。」
・・・
「おい、ここは関係者以外立ち入り禁止だ。部外者は帰りな。」
「・・・いい奴隷が入ったと聞いたんだが?」
「へぇ、あんたも客だった訳か。なら話は早い。入りな。」
俺があのように答えると見張りはにやりと汚い笑みを浮かべて俺を中に通した。中は薄暗くまるで囚人を収容する牢屋のようになっている。ここにいるだけでムカムカしてくる。捕まっている人たちは服を破かれ、または全裸だ。特に女子供がほとんどだ。手枷、足枷をはめられ体の自由を奪われている。待っていてくれよ。すぐに助け出してやるから。
「いらっしゃいませ。本日はどのようなものをご所望で?」
「オススメは?」
「そうですね。あの娘などどうでしょうか?年は十五、六でなかなかに発育の良い体をしています。夜のお供にでもお使い出来ますよ。私も味見したかったのですが商品ですので。」
ヤバイ。今すぐにでもこの男の首を刎ねたい。けど今は我慢だ。俺は唇を噛み締めることで自制を効かせ笑みを浮かべた。
「少し品定めをしたいから二人っきりにして欲しい。いいか?」
「分かりました。ではごゆっくり。」
男が去るのを確認すると俺は女の子の方を見た。生まれたままの姿の綺麗な体だ。俺が視線を移したことに彼女が体をビクつかせている。
「俺は何もしないから大丈夫だよ。安心して。」
「・・・え?」
「すぐに助けてあげるから。」
俺はあくまでこの子を落ち着かせるように小声で語りかけた。少しでも安心できるように。
「ま、待ってください。」
「ん?」
「私の母の形見を奪われたままなのです。あれがないと、私は・・・。」
「どんなものなのか聞いてもいい?」
「短刀が二本です。母があいつらに殺される前に貰ったものですから・・・私と母の唯一の繋がりです。」
「あいつらに殺された・・・?」
「は、はい。母は武人でしたので負けるはずはなかったのですが、不意打ちで後ろから剣で刺されて・・・。そこから突然のことに呆然としていたら私は捕まりこの有様なのです。・・・ぐすっ・・・ひっく。」
女の子が泣いている。母親が殺されたのだから当然だ。親子を死別させた上に奴隷にしようとしているなんて・・・。ぜったいに許さない。釈放の余地なし。全員死刑決定。俺はとりあえず自分の拳に気を込め枷を握り粉砕して、女の子に俺の着ていた上着を乗せ、立ち上がった。
「俺の背におぶられるだけの体力はある?」
「はい。大丈夫です。」
「よし。・・・名前を教えてもらえるかな?」
「姜維です。姜維伯約。」
「姜維ね。俺は 一刀。よろしくね。」
「はい、一刀さん。」
俺は姜維をおんぶすると賊のいる場所へゆっくりと進みだした。
・・・
「朱里よ、この徐庶という者は信頼のおけるものなのか?」
「はい。元直ちゃんは私たちと共に水鏡先生の下で勉学を共にした私と雛里ちゃんのお友達なんですよ。この件が片付いたら改めて自己紹介してくれるでしょう。」
「そうか。それなら分かった。」
ご主人様が城を出てから私たちも行動に出ようとした矢先、この徐庶という者が城に来たのだ。どうやら話が漏れていたらしく、私も手伝いたいと申し出てきた。始めはどうなるものかと心配したものだったが杞憂に終わった。朱里や雛里に負けず劣らないものを持っている。これで仲間が増えるのは良いことなのだが・・・恋敵が増えることになりそうだ。
「何をぼんやりしているのですか?置いていきますよ?」
そして初対面でも物怖じしないときた。このあたりは朱里たちとは違うところだ。私もぼんやりしていられぬな。気を引き締めよう。
「それで、私たちはこれからどう動けば良い?」
「はい。北郷様が先に敵地に入っているので、正規の入口に二名。そして東西南北を囲むようにして一人ずつ将を配置します。配置についたら私か朱里ちゃんの合図で突撃してください。あちらは賊というだけの烏合の衆です。気をつけなければいけないこと言えば捕まっている人達を無傷で救出すること。以上です。」
「入口の見張りはどうする?流石にこれだけの兵で囲めば嫌でも気づくであろう?」
「そこは私にお任せ下さい。いい策があります♪」
「清羅?その策とはいったい?」
「ふふっ、内緒です。蒼さん、少し耳を貸してください。」
「お、何だ?」
「ごにょごにょ・・・。それから・・・、・・・ということです。どうですか?」
「姐さん、顔に似合わず結構えげつない事を考えるんだな。」
「ご主人様に手を焼かせてこーんな豚以下のようなことをする方たちですもの。これでも甘いと思ってるのよ?」
「・・・分かった。」
「それでは行ってきますね。くすっ、どうやっていじめてあげようかしら♪」
清羅は艷容で妖しい笑みを浮かべながら見張りのところへと歩いて行った。離れたところで愛紗や鈴々が少し引いていたとは知らずに。
・・・
「姜維、少し揺れるからしっかり捕まっておいてね。」
「はい。」
俺は捕まっている人達の枷を壊しながら賊のいるであろう箇所へと向かっている。ちなみに、捕まっている人たちには念のためにその場から動かないように伝えてある。よし、半分は回ったな。これだけ回って賊を見かけないあたり、どこかに固まっているのだろう。
「姜維、彼らがどこにいそうとか目処が立ちそうなところはない?」
「物置というか、村や町で盗んだものを置いている場所があるはずです。確か西側の一番端のところだったと思いますので、今まで見かけなかったあたりそこに集まっているのではないでしょうか?」
「そっか。じゃあとりあえずそこを目指そう。」
・・・
「ぐへへ、これだけあればもう奴隷に用はないな。さっさと売り飛ばしてどこかにずからるぞ。」
「いやいや、俺たちの慰み者として働いてもらったほうが有意義じゃーないか。快楽漬けにして女どもも喜ぶし俺たちも性欲処理にもってこい。一石二鳥だ。」
「おー、珍しく冴えてるじゃねーか。」
「俺は悪知恵だけは誰にも負けねーからな。」
「ちげーねー。ガハハ!」
とりあえず捕まった人達の枷を全て外して姜維の言う物置の前にたどり着いたんだけど・・・これまた俺をイライラさせることを話している。俺をイラつかせる検定でも作れば一級を余裕で取れるくらいに。
「姜維、この刀を持って少し離れたところで待っていてくれ。できればこのあたりにいた人たちを連れて入口付近まで離れててくれると助かる。」
「? 分かりました。」
彼女がとりあえずは俺の視界から見えなくなったのを確認するともう一度視線を扉の前に戻した。あの子の前だったからどうにか自制が効いていたけど・・・もう限界。連合の件でも結構イラついたけど今回はあれの比じゃない。爺ちゃん、婆ちゃん、一分くらいなら、リミッター外しても・・・いいよね?
・・・
「!? 貂蝉、この気は・・・もしや!?」
「えぇ~。ご主人様、どうやらぷっつんしちゃったみたいね。卑弥呼、急ぐわよん。とりあえず、愛紗ちゃんたちにも伝えて捕まっている人たちをあそこから離さないと気の奔流に巻き込まれちゃうわ。」
「承知した!」
こーれは本当にまずいわね。かげっちの覇王現界や美桜ちゃんの百花繚乱ほどではないけれど、この小さな邑でのこの質量の気の膨れ方はまずい。心が安定していない状態でリミットを外したら暴走しかねない・・・これは私が力ずくにでも止めるしかないわね。一気に駆け抜けるわよ~!ぶるあぁぁぁぁぁ!!!
・・・
「関羽よ、緊急事態じゃ!」
「どうした!?」
突然現れた卑弥呼に多少な驚いたがそのようなことを言っている暇はないらしい。こやつがこういう風に慌てている様は初めて見た。
「ご主人様の気が尋常でないほどに膨れ上がっておる。早く突入し捕まっておる者たちを救出し城まで避難させるのじゃ!下手をすれば大勢の怪我人が出るやもしれん!」
「お前がそこまでいうとは相当のものなんだろう。私もこの気の膨れ上がりには少なからず危機感を覚えていたからな。」
以前にもご主人様が暴走されたことがある。暴走している現場を見た訳ではないが、暴走後のお姿は悲惨なものだった。焦点の合っていない目、返り血で体中を血塗られ、呆然と立ち尽くしていた。あのようには二度となってほしくない。
「誰かある!」
「はっ!」
「四方を囲っている将たちに施設内に突撃。その後、奴隷扱いされている人たちの救出兼城への避難させるように伝えろ!」
「御意!」
兵が伝令に向かおうと踵を返そうとしたその時・・・施設内から爆発音とともに扉がこちらに吹き飛んできた。
「遅かったか・・・。」
吹き飛んできた扉は・・・いや、扉だったものは粉々に粉砕され、それだったとどうにか確認できるものだった。そして、その近くには白目を向き泡を吹いて気絶している賊が一人倒れている。ピクピクと痙攣しているあたり絶命はしていないだろう。
「徐庶、朱里と雛里にこの事を伝えて対策を立てること。それと城にいる清羅と星に市民が家屋から出ないように通達するように言ってきてくれ。」
「分かりました!」
「関羽よ、儂と共について来い!貂蝉と儂とお主でご主人様を止めるぞ!」
「言われずとも私も向かう!」
ご主人様、無事でいてください!
・・・
「あらあら、リミッターを外しちゃったのね。気が定まっていないあたり、これは暴走してるわ。無理に放出し過ぎている。体内の気が空っぽになって危ないわね・・・。」
「貂蝉と卑弥呼が現場におるのじゃ。心配せんでも良いのではないか?」
「あれを大人しくさせるのは二人も本気を出さないといけないからね。小さな邑じゃ分が悪い。仕方ない、出しゃばるのはあまりしたくないのだけど・・・管轤。」
「なんでしょう?」
「私を一刀のとこまで飛ばしなさい。」
「時間制限は三分。今回はそれが限界ですよ~。」
「充分だ。」
「それでは。・・・ご武運を。」
「ええ。影刀、行ってきます。」
「行ってらっしゃい。気をつけて行って来い。」
・・・
「ご主人様!・・・っ!?」
「・・・。」
「ものの見事に自我を失ってるわねん。」
「これはかなりの重度のものじゃな。この調子ではご主人様の身がもたんぞ。」
扉が吹き飛んできたところから卑弥呼と私で突入したのだが、視界に入ったものは二人の男の頭を掴み壁へと叩きつけるご主人様の姿だった。あたりは賊の血で真っ赤に染まり上がり、ご主人様本人も返り血で真っ赤になっていた。その光景だけでも一歩引き下がりたくなるのだが、それ以上に気になることが一つ。ご主人様がぶつぶつと呟いているのだ。『こいつらのせいで』と。
「貂蝉、あれはただ無意識のうちに呟いているのだろうか?」
「無意識なのでしょうね。ただ、何かこうなる原因があるはずよ。」
「ひとまずご主人様を止めるぞ!あの者たちはとっくのうちに絶命しておるのじゃ。早く正気に戻さねば心身ともに崩壊するぞ!」
「そうだな。ご主人様!私です、愛紗です!正気にお戻りください!」
私はご主人様に近づき声を掛けるが、声が届いていないのかこちらを向く素振りも見せてくれない。
「これは荒療治が必要じゃな!ひとまず意識を掠め取るぞ!」
「分かったわ。」
「ご主人様、すみません!」
私たちはご主人様を取り囲み一斉に飛びかかった。しかし・・・ご主人様がこちらに視線を向けた途端、動けなくなってしまった。気の圧力だけならここまではいかないだろう。憎悪、殺意、畏怖、狂気、負の念が巨大な気と混じり合い、波となって私たちを動きを止めている。もし動けたとしても返り討ちになるのは目に見えているし・・・どうする?
「貂蝉よ、儂の渾身の一撃であたりの気を弾くというのはどうじゃ?」
「だめよ、私たちが大丈夫でも建物が持たないわん。」
「それなら貂蝉も無理だな・・・。」
ご主人様が賊を投げ捨てると立ち上がりこちらにゆっくりと向かってきた。まずい!そう思ったその時だった。背筋に汗が凍ったと思うほどの寒気を感じた。恐怖や畏怖などではない。絶対的に立ち入ってはいけないもの。圧倒的なほどの力の差。それを気だけで感じてしまうものを。ご主人様も足を止め、気の発せられた方を凝視している。
「貂蝉、卑弥呼、手間をかけたわね。」
その声の主は先ほどの気を発したものとは思えないほどにゆったりとした声色で隣にいる二人に話しかけた。
「美桜ちゃん、助かったわん。」
「美桜殿か、久しぶりだな。」
「えぇ、久しぶり。けど、世間話をしに来たわけではないの。用があるのは・・・一刀。」
ご主人様の名を知っている?縁のあるものなのだろうか?ご主人様は肩をビクッと震わせ一歩後退した。
「私はあなたにこんなことをさせるために気の使い方を教えたわけではないわ。」
「く、来るな!」
じりじりと近づいていく彼女から逃げるようにご主人様も一歩ずつ後退していく。
「大切な人たちを守るため、そのために力を欲する。それが私たち武人の・・・北郷家の心の根底はそこにあるのは忘れてないわよね。」
「うっ、くっ・・・。」
距離が詰められていき、二人の距離は人一人分あるかないかと言ったところまで迫った。これでご主人様は退くことができなくなった。
「怒りに身を任せることが悪いこととは言わないわ。あなたにそのような気の扱い方があると教えたのも私自身なのだから。けど、使うタイミングを間違えたらいけないわ。今回はそうではなかった。分かるわよね。」
彼女の声色はまるで悪いことをした子を諭す母親のような声色で・・・その姿が優しいときのご主人様と重なったように見えた。
「けど!あいつら、捕まえた人たちを奴隷にするって!慰み者にするって!そんなの俺、許せなくて・・・姜維のお母さんも殺して・・・親子を死別させるなんて、許せなくて・・・もしあいつらみたいなのが増えて大切な皆が危ない目に遭ったら嫌で、考えるだけで怖くなって・・・。」
「バカね。」
彼女は涙を流すご主人様をそっと抱きしめた。まるで、繊細なものを触るように、愛おしいものを包み込むように。
「あなたの大切な人達はそんなに弱い人なの?」
「(ふるふる)」
「それなら大丈夫。それに、皆のピンチを救うのがあなたの役目であり心情でしょう?もし、今の自分が力不足だと思うのならもっと強くなりなさい。あなたの気の済むまでやってみなさい。分かった?」
「(こくっ)」
ご主人様から漂っていた負の気がいつのまにか霧散していた。これならもう大丈夫だな。
「よしよし。もう大丈夫よ。・・・ほら、泣かないの。男の子でしょう?」
彼女はご主人様の頭を優しく撫でた。そして、ようやく顔を上げたご主人様の瞳には『光』が戻っていた。
「あ、あーもう、久しぶりに会ったのに変なとこ見せちゃったな。恥ずかしい。」
「あなたの変なところなんて珍しいものを見れただけでここまで来た甲斐があったわ♪」
「まったく・・・。・・・、・・・ちょっと待て。」
「?」
「なんで婆ちゃんがここにいるんだよ!?ここ、古代中国だよな!?」
「私に出来ないことなんてないのよ?」
ご主人様も正気に戻られたのを確認した貂蝉と卑弥呼は二人に近づいていった。私はただただ色々なことが一気に起きすぎて呆然としている。
「美桜ちゃんに関しては深く考えない方がいいわよん♪」
「そうじゃな。歩く珍獣じゃものな!ガハハ!」
いや、自分の容姿を見て物を言えとツッコミたくなったが、この時はそれを発する言葉さえも出てこないでいた。
「あんたたちに言われたくないわね。まぁ、元に戻ってよかったわ。」
「うん、ありがとう。」
「久しぶりの再会に水を差すようで気が引けますが、お時間です。」
「!?」
私はいきなり現れた者に抜刀しそうになったが、貂蝉が片手で制してきたので上げかけた腕を大人しくおろした。・・・? どこかで見たことのあるような・・・
「あら、もうそんな時間?」
「やはりお主の仕業であったか、管轤よ。」
「美桜様の命には逆らえないので。」
「??」
「まぁ、私は『向こう』に戻るけど、何か伝えて皆に伝えておきたいことはある?」
「そうだな、俺は元気にやってます。って伝えて。それだけでいいよ。」
「分かったわ。これでようやく鞘香のイライラが少しは緩和されそうね。お兄ちゃん分が足りない!ってぼやいてたわよ?♪」
「あらら、それは怖いな♪」
「ご主人様、微塵も怖いと思ってませんよね?」
「私はこうしてあなたの元気な姿が見れただけで満足よ。」
彼女はご主人様のもとを離れると、何故か私の方に近寄ってきた。
「あなたは一刀の仲間の一人ね。初めまして、一刀の祖母、美桜です。」
「わ、私は関羽雲長です。ご主人様にはいつも助けられてばかりで・・・。」
「ご主人様、ねぇ。ふぅん・・・(ちらっ)」
「・・・なんでそんな意味深そうに俺を見るかな。」
「まぁいいわ。これからも一刀のこと、支えてちょうだいね。」
「は、はい!この関雲長、この身朽ちるまでご主人様のお側から離れません!」
「うん、ありがとう。それじゃあ・・・またね。管轤、行くわよ。」
「御意。」
美桜殿は管轤の取り出した水晶玉から放たれた眩い閃光と共に、姿を消した。
・・・
婆ちゃんが『向こう』戻ってから数刻後、夕暮れに差し掛かった頃俺たちは謁見の間に集まっていた。俺が賊の件で動いていたときに平原入りしていた徐庶ちゃんと捕まっていたところを助け出した姜維。ちなみに、婆ちゃんが戻ってからすぐに彼女の短刀は二本とも見つかり持ち主の元へと戻った。徐庶ちゃんは朱里と雛里が俺の下で軍師をしていると聞いて自分も加勢したいとのこと。姜維は恩返ししたいっていうのと、村に戻っても帰りを待っている人がいなくなってしまったから。
「元直ちゃんは私たちと水鏡先生の下で勉学を共にしていたので戦力になると思います。」
「それに、元直ちゃんはお菓子作りも上手なんですよ♪」
「雛里ちゃん、それはこの場で言うことではないようなー・・・。」
「お、お願いします!」
徐庶ちゃんがペコッと頭を下げる。俺は全然問題なし。鈴々と清羅はお菓子作りに食いついたようで俺に視線でお菓子~♪、いいですよね?構いませんよね?と語りかけてくる。目は口ほどに物を言う・・・。俺は軍師のことにもお菓子のことも興味があるからむしろ大歓迎。
「私は何も問題ないよ~。」
「俺も問題なし。これからよろしくね、徐庶ちゃん。」
「は、はい!私の真名は明里(あかり)です!これからよろしくお願いします!」
「明里ちゃん!良かったね~。」
「これからは三人一緒ですね♪」
「そうだね♪」
三人でワイワイキャアキャアお祭り状態の彼女たちはいいとして、残るは姜維。
「お主は何か出来ることはあるか?」
「母が武人でしたので、その母から受け継いだ武があります。残念ながら全ては教われませんでしたが、精一杯お役に立てる自信はあります!」
「うむ。なら私からいうことはないな。」
「同じく。」
「私もいいよ~。私も仲間が増えるのは嬉しいからね~♪」
「じゃあ決まりだな。」
「は、はい。姓は姜、名は維、字は伯約。真名は胡花(こはな)です。皆さん、不束者ですが、よろしくお願いします!」
俺たちは胡花と明里を仲間に加え、その日は宴を開くことになった。
・・・
「ただいま戻りました。」
「お帰り。一刀はどうだった?」
「元気にしていたわ。予想通り、可愛い女の子が仲間にいたわよ。」
「・・・血は争えないということか。」
「そうね。」
「母さん、あまり外史に影響を与えちゃ駄目だよ?母さんの存在はあまりに大きすぎるんだから。」
「お義母様が本気を出せば大陸の一つや二つ簡単に平定出来るんですものね。」
「あら、それは昔の話よ?今はただの美桜よ?」
「よく言うよ・・・。それに、一刀が母さんの本名を知ったら驚くだろうね。」
秦末期の武将にして、西楚覇王・・・項羽だって・・・ね。
あとがき 読んでくださりありがとうございます。今回はいつもの約二倍の量でお送りさせていただきました。そろそろ華琳や雪蓮たちも動き出しますよー!・・・たぶん。さてさて、明里こと徐庶に胡花こと姜維を仲間に加えた一刀たち。あれよあれよという間にハーレムが膨れ上がっていきます。最終的に一刀の嫁が何人になるか不安になってきますね~。それでは次回 第五節:袁術ちゃん 首を洗って 待ってなさい♪(五・七・五) でお会いしましょう。それでは皆様良いお年を~。
Tweet |
|
|
26
|
2
|
追加するフォルダを選択
何でもござれの一刀が蜀√から桃香たちと共に大陸の平和に向けて頑張っていく笑いあり涙あり、恋もバトルもあるよSSです。