No.223631

真恋姫無双~風の行くまま雲は流れて~第70話

第70話です

とりあえず忙しさMAXの日々は落ち着いたのでペースアップをば…

2011-06-19 21:06:05 投稿 / 全12ページ    総閲覧数:6481   閲覧ユーザー数:5479

はじめに

 

この作品はオリジナルキャラが主役の恋姫もどきな作品です

 

原作重視、歴史改変反対な方ご注意ください

 

 

 

それは何故という疑問

 

 

 

名門袁家を語る上でどうしても外せないものがふたつ

内政、外交、袁家が存在する上での重要な政を一旦に担ってきた人物

袁家を内側から支えていた彼が前線に出ざるをえなかった

 

何故という疑問

 

血塗れの首と対面し心の片隅に引っ掛かった違和感

 

袁家が当主、袁本初が懐刀にして軍事面において内外にその名を轟かせた人物

その容姿、腕前もさることながら彼が注目を集めたのは数に頼る他なかったはずの

袁紹軍を大陸有数の”戦闘集団”へと作り変えた手腕

 

そして今

 

眼下で繰り広げらる戦場の様相に感じられずにはいられない疑問

 

何故という疑問

 

隣に立つ自身が親友に視線を向ける

普段に何を考えているのかまるで掴めないその眠たげが瞳が大きく見開かれていた

 

(貴女もですか…風)

 

自身が知をして

自身が見聞をして

ここまでの人物は聞いたことも

まして出会ったこともない

 

何故という疑問

 

それは

もしかしたら

桂花があのように泣くこともなく

 

事次第によっては

この戦の行方すら

端から変わっていたかもしれない

 

何故という疑問…否、今ここに至っては確信ともいえる

 

桂花が袁家を出てきた理由

彼女が今此処にいる理由

彼女が自身に求めた自身の役割

 

果たして戦場において

どれほどの策を労した所で

 

彼はそれを障害と認識し得るだろうか…つまり

 

「袁家には端から必要なかったのではないですか…軍師というものが」

 

事彼に至っては既に

 

将の役割のそれを逸脱して”しまって”いる

 

 

「車掛りの歯車をこうも見事に狂わせますか…」

 

稟の呟きは彼への賞賛であると共にそこには確かな驚愕の意も汲まれていた

 

「なんでこうも…簡単に」

 

彼女等と同じくして城壁の縁に手を掛けて眼下を見つめる一刀が喉を鳴らして息を呑む

兵の数をして倍の戦力差があったのだ、それが今や城壁を背にへばり付く様に剣を振るう彼等の数はもはや数えられるほどになっていた

対す袁紹軍を率いる彼は圧勝とも言える戦果を前に涼しい顔で腕を組み前線を見つめている

 

戦の開始から彼がしたことといえば一本の矢を放っただけ

 

たったそれだけのこと以外に彼は動かず、終始後方で前線を睨み続けるだけであった

 

「それが何時の事からかは知りませんが…少なくとも彼が袁紹の懐刀と周囲から認知を得ていたこ頃には既に彼が弓の名手であることは知れていました」

 

比呂が放った一本の矢

 

それは弓矢というものがどういう物であるかを知っているものからしたら常識からおよそ掛け離れたものだった

矢というものは点の撃である

人の手を離れた時からそこに人の意はなく、人が振るう剣とは違いそこに同じくして二撃目の役目はなく、故に戦場においては弓矢は縦横一斉の”面”としての攻撃として使われる

彼が放った矢もまた点の撃からは外れることはなく、しかしその点は一人一殺の枠を超えて実に”三人目”にまで達した

 

最初にその矢を受けた兵は顎から上をまるで獣に噛み砕かれたかのように飛ばされ

 

その後ろに立っていた者は肩を貫かれ、皮一枚残った右腕が程なくして地に落ちた

 

最後に受けた者はその矢が心の臓に突き刺さるのを理解すると同時に天を仰ぎ息を止めた

 

「彼等がその正面に立つことを拒んだのは事実ですが陣構成には少なくとも間違いはなかった、例え数に利があっても袁紹軍には突破において利がある…袁家二枚看板、そして実力においてはその上をいく袁紹が懐刀…実は真正面から当たって勝ち目の無いのは数に勝るはずの彼等の方だった」

 

故に彼等は絶対数を削る作戦に出た

 

「車掛の陣に優れるのはその機動性と敵と対した際の長期性…常に後方から押し寄せることで前線を維持しながらに前線の兵の消耗を抑えられる、そこに兵力の差が優勢に状況を動かすはずだった」

 

故に彼はその歯車を止めに動いた

 

「文醜隊が敵前線と並走し後方に退く兵に当たる、結果彼等は敵を懐に入れまいと更に大きく回りだし陣はやもなくに彼等が向かう横へ横へと広がる…次いで顔良隊が伸び始めた一団を面にて押し返す、そして中央…」

 

少なくとも彼女等の事前情報にはなかった…高覧という存在

袁家三将に次ぐ稀代の実力者

 

「平地野戦においてあの弩隊はやっかいですね…連射が利き中近距離において絶大な威力を誇る」

 

たった一本の矢から始まった戦は既に終末の様相を見せている

 

「軍師として…これほどに恐ろしい敵を前にするのは初めてですよ、私達をして軍師が野戦に持てるのは陣の構成まで…そこに兵力、将を以ってして戦況を有利に進める」

 

だがこの男は

 

「先手を必要としない…いや、彼こそが戦の始まりなのでしょうね」

 

華琳の言葉に稟は眼鏡の縁を抑えながら俯いた

 

「それこそ彼を貶めるのであれば周到な用意が必要です…だがこの戦では余りにも彼を近づけ過ぎた」

「風…貴女はどうかしら」

 

振り向いた先

魏の怱々たる面々から見つめられた彼女は少し困ったように首を傾げて見せた

 

「ひとつ…思いつく策はあるのですが…それよりも」

 

袖から覗かせる小さな指がゆっくりと城下を指し

 

「あれ…桂花ちゃんじゃないですかねえ」

 

………

 

……

 

「「「「「え?」」」」」

 

 

その場にいた全員が城壁の縁から身を乗り出して見つめる先

 

およそ戦場に似つかわしくない小さな影がひとつ

 

とぼとぼと歩くそれが

 

一歩踏み出す度に

 

彼女が被るフードの上の猫耳が

 

ゆらゆらと揺れた

 

 

 

 

「何してるのですかあの馬鹿は」

 

最初に声を張り上げたのは稟

 

「阿呆!城内に戻り!」

 

それまで薄ら笑みを浮かべて戦場を一望していたはずの霞ですらも

そんな彼女等のことなど目もくれず

 

 

桂花の視線の先には一人の少年

 

開始時にあった余裕は何処へやら

伸びきった前線を離れ数人の供を連れ走り出さんとした少年の先

 

「なんだおまえ!?」

「…何処に行くのよ」

 

自身よりも小さな存在を前にしても彼には既に虚勢を張る余裕すらなく

 

「なんなんだよおまえ!」

「逃げようっての…あんた…『あいつ』から逃げようっていうの」

 

振るった拳に突き飛ばされて尚も立ち上がる彼女

 

「おまえ!」

「許さないんだから…逃がさないんだから!」

 

重心低く逢紀の懐に飛び込む桂花

 

「なんなんだ!おまえ…なんなんだ!」

 

ゴッゴッ…

 

硬く握った拳を幾ら振るおうとも彼女は離れることなく

 

「あんたを絶対…許さないんだから!」

「こいつを引き剥がせっ!」

 

懸命にしがみ付く

しがみ付いていたはずの

彼女の身体は一瞬の浮遊感の後

鈍い音と共に地面に叩き付けられた

 

「殺してやる…殺してやる!」

 

それがどちらからの声だったか

 

地に蹲りながら

口に入った乾いた土も気にせずに少年を睨む少女

 

その視線を受けた少年の腰元が光り

 

「邪魔なんだよ…おまえ」

 

少年がゆっくりと歩を進めた

 

 

「くっそ!」

 

桂花が投げられたと同時に柄に手をやる一刀

 

その『力』を使わんと刀を抜こうとしたその時

 

「!?…華琳っ?」

 

一刀の手を華琳が握っていた

 

「大丈夫よ」

「んなわけないだろ!」

 

彼女の手に更に力が篭められ

見なさいと一刀の視線を促す

 

 

「彼が…動いたわ」

 

 

それは生まれて初めての経験

 

視界に映る全てが

 

やけにゆっくりと

 

桂花は

 

瞬きもせずに見つめていた

 

今動けば

 

避けるかもしれない

 

そんな思いすら浮かべられるほどに

 

 

駄目よ

 

 

だって悠は逃げなかったんだもん

 

あいつは

 

こんな状況でさえ

 

こいつから逃げなかったんだもん

 

…悔しかっただろうなあ

 

こんなやつに

 

痛かっただろうなあ

 

だって死んじゃうくらいだもん

 

あたしは

 

あたしも

 

だから

 

絶対に

 

 

再びに彼女に訪れた浮遊感

 

彼女は

 

目の前の影に自身が抱き上げられたのだと瞬時に理解した

 

『彼』の肩越しに

少年が剣を振るうのが見えた

 

ドンと

 

『彼』の背中越しに伝わる衝撃と共に

 

三度に地に叩きつけられた

 

自身に重く圧し掛かる影から

 

あの女の匂いがした

 

ああ

 

知ってるわ…馬鹿

 

馬鹿…ばか

 

ばかばかばかばかばかばかばかばかばかばかばかばか…

 

その名を

 

喉よ裂けよとばかりに叫んだ

 

 

「いやあああ!ひろぉおお!!!」

 

 

あとがき

 

ここまでお読みいただき有難う御座います

 

ねこじゃらしです

 

いやはやお待たせいたしました

 

なんとか忙しい時を乗り越え…来週からまた忙しいです(泣)

 

さて急展開な今回そして次回…お付き合いいただければ幸いです

 

それでは次回の講釈で

 

…高覧の真名どうしよう


 
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