前回までのあらすじ
蓮華が蚊に刺されました
尻を
「ひぃ…ひぃ…お腹…いたひぃ」
息も切れ切れに食卓をバンバンと叩く雪蓮
「こら…そう笑うことないだろう」
口では言うものの自身も笑いを堪えているのが見え見えな冥琳
そして
「傷を付けた…だと?」
「し、思春?」
背後になにやら黒いオーラを纏った思春に彼女の親友である蓮華すらもが後ずさる
「塵にも劣る…虫けらの分際が!蓮華様の『尻』を刺しただとぉ」
「あの…恥ずかしいんだけど」
ブルブルと怒りに震えながら「尻」をやたら強調する思春に蓮華の顔がさらに紅く染まっていく
「許すまじ!」
「っ!?」
もはや目の前の彼女の存在すら忘れ
「甘興覇…これより修羅に入る」
「落ち着きなさい思春!」
自分には目もくれぬ業火の炎を宿す瞳を見据える蓮華だが
「ご心配なく!」
彼女の有無を言わさぬ覇気に更に一歩下がってしまう
「孫家が誇る至宝たるや蓮華様の『尻』に傷を付けあまつさえ血を啜る所業!この甘興覇めが必ずや血祭りにして見せましょう!」
うおおおおおおぉ…
勢いよく扉を蹴破るや飛び出して行き瞬く間に見えなくなる彼女の姿
(壊した扉の分は後で請求しておこう)
皆が呆気にとられる中、一人冥琳は茶を啜りながら考えていた
「しかし厄介な季節が来てしまいましたなぁ」
ほれワシもこのとおりと蚊に刺された痕を見せる祭にそれまで涙目だった蓮華の顔がようやくに明るさを戻す
「痒くて痒くて鍛錬にも身が入りませぬ」
見れば衝動に負けて掻いてしまったのだろう
刺された痕に自身の爪痕が重ねられていた
「そ、そうなのよね!私も今朝から痒くて…」
それは無意識のことであろう
「痒い」という単語と今まさに彼女に降りかかった運命の悪戯ともいえるこの事態が
自然に彼女の手を其処へと向け
届かんとしたそのとき
「…待ちなさい」
「え?」
それまでひぃひぃと息を切らしていたはずが打って変わって低い声に蓮華の手がピタリと止まる
彼女の視線の先
腹を抱えて笑い転げていたはずの姉はいつの間にか王の顔に様変わりしており
「貴女今何をしようとしていたの?」
まるで悪戯現場を見つけた大人のように低い声で問いかける姉
蓮華の手はまたしても無意識に服の裾を動き摘んでは開いてを繰り返した
「質問に答えなさい蓮華」
「それは…その…」
消えゆくようなか細い声に雪蓮の顔が更に険しくなり
「『尻』をかこうとしていた掻こうとしてた…そうよね?」
「い…いけないのですか!?」
雪蓮のそれは紛れもない事実、図星であり
彼女の視線がちらりと蓮華の腰元に移る
「江東に覇を唱え、いずれは全土にその名を轟かせようとする孫家の者が
小覇王と敵からは恐れられ、民からは慕われるこの私と血を同じくする者が
次代の王ともあろう者が!蚊に刺された程度で人前で『尻』を掻こうというの!?」
相手が妹であろうと構いも無しに睨み付ける彼女の気迫に再び蓮華の目に涙が滲んで浮かぶ
「だって…だってすごく痒いんですよ!?」
「黙りなさい」
「っ!?」
蓮華は目の前の姉に気圧されて気付きもしないが
雪蓮の隣
小覇王を支える呉の大提督はあからさまな溜息をついていた
(また適当な『遊び』を思いついてからに)
親友でありそれこそ実の妹達よりも付き合いの長い彼女には目の前の親友がその笑いを必死に堪えている様はあからさまであると映っていた
「こ、此処には姉様達しかいなのですから構わないではないですか!」
「それがいつか宮中に知れ渡るものとなってごらんなさい…孫家の品位はガタ落ちよ」
(言う気だ…宮中全ての人間に言触らす気だ)
はあと冥琳は再び溜息を漏らす
「か、蚊に刺されたのですよ!?私だって好き好んで掻きたい訳じゃありません」
「例えどんな理由があろうとも民草にはそうは映らないわよ…孫家の次王は宮中でボリボリと『尻』掻いてるなんて囁かれてごらんなさい…それこそ孫家末代までの恥よ」
(国中に知らせる気だ…またいつもの飲み屋で酒の肴に笑い話として)
急須から新たにコポコポと茶を入れ湯気に吹きかける
彼女にしてみればこの事態に如何に雪蓮の口を塞ぐかが最重要課題であった
「ともかく『尻』を掻くのは禁止よ、私の命を破ろうものならその手…南海覇王で叩き斬るわよ」
「そんなっ!?」
(先王から受け継いだ孫家の霊剣で何を斬るつもりなのよ)
込み上げる笑いを隠す為に口元を隠す雪蓮と蒼褪めた表情で立ち尽くす蓮華を見比べこの日最大の溜息が冥琳の口から零れた
「おはよう~ってなに?喧嘩?」
重い空気を他所に欠伸を噛み締めながら入室してきた一刀に一同の視線が集まる
見られたくもない今に遭遇してしまった蓮華は赤く腫れた目元を隠すように俯き
それまでニヤニヤと傍観を続けていた祭は隣に座るようにと促し
つくづくにタイミングの悪い男だと冥琳は溜息をつき
雪蓮は
これ以上無いほどの満面の笑みを浮かべて彼を迎えた
「おはよう一刀♪聞いてよぉ蓮華がね…」
「駄目ぇ!」
雪蓮の言葉を遮る様に一刀の前に躍り出る蓮華
よりにもよって一番このことを知られたくない男が来てしまった
「へ?蓮華どうかした?」
「それがね…」
「姉様!」
それは物凄い剣幕で睨み付ける妹に雪蓮はヒュウ♪と口笛を吹いた
「蓮華?」
「ううん一刀!何でもないの!ホント何でもないの!」
瞳には涙を浮かべ上目遣いに懇願してくる蓮華に一刀は息を呑みそれ以上聞けずにいた
(うーん参ったぞ…何も聞けない雰囲気)
ポリポリと頬を掻き
とりあえず彼は自身の話題を振ってこの場を取り繕うことを思いついた
「そういや夕べ蚊に刺されてさあ…参ったよ、もうこの季節なんだよなあ」
ピシリ
氷点下まで下がった空気がひび割れる音がした…気がする
「あひゃひゃひゃひゃっ…」
「まったくこの男は…黙っておれば良いものを」
「はぁ…馬鹿者」
年長組み三人の反応に「え?え?」と辺りを見回し
目の前で
ボロボロと大粒の涙を零す蓮華に「まさか」と口元を覆う
「蓮華ったらお尻刺されたんだってぇ」
早速に彼女の口から「孫家の恥」が伝えられ
もはや言葉も無しに顔を真っ赤に泣きはらす蓮華
羞恥のあまり動く事さえ出来ぬ彼女の肩を抱き
「え~っとね?俺薬持ってるんだけど…使う?」
天の遣いの思わぬ発言に全員の目が丸くなる
「ほう」
「そんなものがあるのか」
「えーつまんなーい」
「姉様は黙ってて!」
それから暫くに部屋から戻ってきた彼の手には見慣れぬ小瓶らしきもの
「何これ?」
「見慣れぬ文字が書いてあるのう」
見たこともない物に祭と雪蓮が目を輝かせて一刀の手の中のそれを覗き込む
「キンカンっていうんだ、この間街の露店で見つけてさぁ…」
見つけたときははたして何故にこれがこの時代この場所にと思ったものだが
「これ塗ると痒みが引くんだ…使う?」
自身満々に告げる一刀
だが彼女はその小瓶の匂いをスンスンと嗅ぎ
「だ…大丈夫なの?」
これまた嗅ぎ慣れぬ匂いに眉根を顰める
「それならワシから試してもらおうか」
天の遣いの言葉を疑うわけではないが一応孫家に仕える身として祭が手を上げた
「んじゃそうする?祭さんどこ刺されたのさ?」
一刀が振り返ると同時
祭は服をめくり一刀に刺された場所を見せた
「ほれ…ここ」
「ごくり…」
祭が指し示す場所に思わず一刀の喉が鳴る
孫呉の女性の中でも一際にたわわに育った果実の下、出るとこは出ているくせに反するように引き締まった腰周り、その中心…キュッと凹んだへそのとなりに出来た小さな刺し痕
…なのだがもはや彼の目は半分に露に、所謂「下乳」状態のそれに釘付け…否、否!適度に日焼けしたお腹周りもやはり美味しそうで
「ちょっ!祭!?」
一刀の視線に気付いた蓮華が声を上げるが
「なんじゃい?蚊に刺された場所を見せとるだけだろうに…第一に初物でもあるまいに問題なかろう?」
どうということないと首を傾げる祭
そして
一刀の目がキラリンと輝いた
思いついてしまった
もう俺天才じゃね?
「祭さん…一つ」
「なんじゃ北郷?」
怪訝な表情を浮かべたその先
一刀がわきわきと手を動かした
「実はこれ…刺された本人が塗っても効果がないんだ」
「は?」
「なんと?」
驚く二人の後方では冥琳がアホらしと茶を啜り、雪蓮は再び面白いものが見れると子供のように目を輝かす
「さらに!同姓の人が塗ってもやっぱり効果がないんだ」
「「…」」
とたんに疑惑の視線と怪しむ空気が一刀に向けられるが
「まあ…そういうことなら仕方ないのう」
別に減るものでもないし、痒みが取れるならと祭は一歩前に出る
「じゃ塗るよ♪」
それはそれはやけに嬉しそうに
一刀の手が祭のお腹に伸びた
「うっ…滲みるのう」
冷たい液体が触れ顔を顰める祭だが
「祭さんが掻いちゃったからだよ…我慢して♪」
鼻の下も伸び伸びに一刀はキンカンを浸した布を祭に押し当てる
(ちょっとこれ…すべすべじゃないですか!?でもって祭さんの呼吸に合わせてお腹が踊って…)
布越しにも伝わる感触と息遣いに一刀の鼻息も荒くなる
…騙されているのではと半眼に一刀を見つめる祭だが
「お?なんじゃスゥッと痒みが引いていくわ」
これも天の所業かと感嘆の声を上げた
「はいおしまい」
「おおう!これは凄いのう」
「すごーい!魔法みたい」
「ほう…効果は確かのようだな」
「…」
存分に祭の感触を堪能し、えもいわれぬ達成感に一刀が額を拭う
(さてお次は…)
ギロリと血走った目と合い、蓮華の背中に冷たい汗が滴る
「えっと?どこ刺されたんだっけ?」
わざとらしい
あぁわざとらしい
答えずとも忘れてないさ
お尻だろう
南海覇王と並び孫呉の至宝と称される
次代の王が持つにふさわしい
まさに
(キング・オブ・尻!!)
一歩、また一歩と踏み出す一刀に蓮華は嫌々と身を捩る
だが
(痒くて仕方ないんだろう?)
ふるふると震えるその腰つきは既に彼女が限界であることを物語っていた
痒いのだ
痒くて仕方がないのだ
「効果は見ての通りさ…さ、俺を信じて?」
「で、でも…」
普段に増して大きく開いた鼻から鼻息が彼女にまで届かんばかりに突いて出る
「ちょっ…こ、此処じゃ」
痒いのは確か…が、それ以上に恥ずかしさがある
当たり前だ
此処には雪蓮がいて冥琳がいて祭までいる
こんなところで
愛しい相手とはいえ男に尻を撫でられるだなどと
だがやはり限界が近い
(か…痒い)
じりじりと浮かんだ汗がその上をなぞるだけでもビリビリと電気が体を走り
「ひっ!?」
痒いのだ
無性に
掻きたい
痒い
掻きたい
かゆい
かきたい
かy
痒い痒いかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆうまかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆい
(…ご馳走様でした)
「有難う…一刀」
ついに我慢できずにその恥ずかしい「恥部」を差し出した蓮華
が、その効果は確かなようだ
成る程、先程までの痒みが嘘のように引き、むしろ今では清々しいほどだ
「あー面白かった」
「じゃ雪蓮、遊びも程々に政務に戻るわよ」
「…はーい」
「祭殿も何時までもサボっていないで兵の調練の監督をお願いしますよ」
「むう…仕方ないのう、もう少しじゃれてやりたかったが」
三人が出て行く際の会話は聞かなかったことにしよう
「それにしても凄い薬ね…」
ふと彼女は思い出した
彼がこの部屋に入ってまもなくに自身で放った言葉を
「そういえば一刀も蚊に刺されたのでしょう?」
「え?まあ…はい」
なにやらぎこちない答えが返ってくる
「お返しといっては何だけど…塗ってあげるわ」
貸してと手を差し伸べる彼女に一刀の顔が引きつる
「いや…それが…その…」
頬を引きつらせ後ずさる一刀
そのあからさまな態度に
やはり彼女は気付いてしまった
「何処を刺されたのかしら?」
聞くまでもない
「な~んでそんなところが刺されたのかしら」
この際は『誰がその時隣にいた』のかも関係ない
「…思春」
「此処に」
思春の名を呼べば蚊を狩りに飛び出して行ったはずの彼女が音もなく横に現れる
「あの…たすけ…」
滝のように汗を流し壁に張り付く一刀に
蓮華はそれはもう極上の笑みを浮かべた
「その薬をチ○コに塗られるのと思春に切り落とされるのと…どっちがいい?」
終劇
あとがき
ここまでお読みいただき有難う御座います
ねこじゃらしです
一言
どうしようもないオチですみませぬ
しかし携帯打ちはやはりつらい…今日一日で親指が大変なことにw
さてわたくしのおすすめですが…ひとりTINAMIじゃないんだなこれが
Night様
悲恋姫無双
今更内容をご紹介するまでもありませぬ
自分がTINAMIに登録するきっかけになった作品と作家様です
そんでもって
絶影様
恋姫異聞録
秋蘭が人妻なんだぜ…萌えるしかないだろう!
Thyle様の
お勉強シリーズ
毎度思うのですが何でそんなに詳しいの?
とまあお三方をあげさせていただきましたが
ぶっちゃけTINAMIの恋姫SSはほぼ全部読んでます。
ねこじゃらしは
TINAMIのクリエイター様を応援してます!
さて、次は本編進めねば…
それでは次回の講釈で
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というわけでまさかの後編です
おすすめはあとがきにて