No.254336

真恋姫無双~風の行くまま雲は流れて~第71話

第71話です

お久しぶりーふ…古いか

2011-08-02 00:50:51 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:5748   閲覧ユーザー数:5023

はじめに

 

この作品はオリジナルキャラが主役の恋姫もどきな作品です

 

原作重視、歴史改変反対な方、ご注意ください

 

 

その声が

 

彼にはとても懐かしく

今此処が戦場にあるにもかかわらず

 

不意にこみ上げてくる感情とそこからなる笑みを必死に押し止めようと

比呂はゆっくりとそして大きく息を吸い込んだ後、のそりと上体を起こした

腕の中、大きな瞳を潤ませて自身を見上げる桂花と目が合う

 

まったくお前は

いつも泣いているのだな

否、泣かせているのだろうか

 

…俺が

 

今になって

彼の記憶の中の桂花はいつも泣いていることに気づいた

 

そうだ…だから俺は

 

駄目だ

せっかくこらえた感情がまたも吹き出そうになる

 

鼻を啜りながら桂花が手を伸ばし、その小さな手のひらがぺたぺたと比呂の輪郭を確かめるように滑っていく

 

「…ひろ?…ひろ?」

 

果たしてその声に何と応えたものか

 

耳を瞼を頬を鼻を唇を顎を

 

この空白の数年間を埋めるかのように桂花は手を当てて確かめていく

 

目の前のそれが幻でないことを

一つ一つ

壊れてしまわぬように

自分の手から零れてしまわぬように

 

「…ひろぉ」

 

そうさ何時だって

 

お前はそうやって

 

「耳元で騒ぐな、騒々しい」

 

その声に

 

またもやポロポロと大粒の涙が桂花の頬を滑り落ちていく

ようやくに安心したかのように笑みを浮かべ、そして更にすすり泣く

 

その瞼が赤く腫れぼったいのは決して今し方になったものではないことを

 

比呂もまた知るべくして知っている

 

「…悠に…『会った』んだな?」

 

コクコクと首を縦に振る桂花に比呂は目を細め

 

「…そうか」

 

彼女の頭に手をやると自身の胸に押し当てた

 

気を張りすぎなんだ…お前

 

止むことのない嗚咽と震えを比呂の身体に必死に押し付ける桂花の髪を撫でるとこれまた懐かしい感触が指の間を流れ通り過ぎていく

 

お前は…そうなんだよな

そうして気を張らないと押し潰されそうなんだろう?

 

だから

 

俺はお前を泣かせてしまうんだ

 

深い理由などない

 

楽なんだ…それが

 

そうすればお前がまた

 

お前でいられると

 

いつの間にか

子守りが特技になっちまったな

 

「もう泣くな」

 

赤子をあやすように背中を叩き桂花を抱え立ち上がる

 

「とっておきの話を聞かせてやるからさ」

 

 

「貴様の疑問に答えよう…最初からだ」

 

英心は

英心だけはその意味を理解していた

 

今目の前で言葉を発したこの男

今し方に自分が『斬り捨てた』男

そう

この時点で既に矛盾が生じている

 

なれば彼の思考と視線は自然と自身の手の中へと向けられる

 

「袁家の宝剣などと大層な名で呼ばれているがその実はただの『なまくら』だ」

 

息を呑む英心

桂花もまた比呂の傍らで腫れた瞼を見開き驚いていた

 

「それを先代が手にしたのは今から八年前…意外に最近の事だろう?」

 

英心が麗羽に取り付いてからのこの一年、彼の視線の先…常に彼女の傍らにそれはあった

 

「三公を立て続けに輩出した袁家は名実共に名家へと上り詰めると共に中央でその権威を拡大していった…朝廷の官僚に恐れられ、疎まれる程にな」

 

朝廷の中にいた英心だからこそ理解出来る…過ぎた力は所詮に疎まれるものでしかなく、過ぎた個は所詮に祓われるものだと

 

「それは所詮時の運とやらに過ぎない…袁家は偶然にも拾い上げた一人の官僚見習いにそれを問いたのさ」

 

(うーんそうですねぇ…ではこういうのはどうです?)

 

「その見習いの提案というのがこれまた滑稽でな、帝から一歩の剣を袁家に進呈することだった」

 

(まあここがミソというかカラクリなんですがね)

 

「袁家を讃えると称してなまくらの剣を進呈し、片やそれを家の宝剣と祭り上げ恭しく頭を垂れる…見事に喜劇だろう?」

 

袁家の尊厳を庇護する一方で朝廷の官僚の顔も立ててみせた

 

なまくらの剣をもってして

 

袁家には朝廷…即ち実質の支配者である官僚に刃向かう意思はないと

 

斬れない剣で誰を斬れるのかと

 

「そこからの袁家の動きは早かった。その男が使えるとみるや既に侍御史に昇進していたそいつを官職から引き抜き袁家に招き入れたのさ」

 

(袁家に士官する?…お前がか?)

(そう…袁家)

 

「ここで一つ。袁家は読み違いをする…袁家の存続、袁家の安泰を画策するに引き抜いたその男は…」

 

(比呂にはさ…なりたいものとか無いの?)

 

「それだけに納まる者ではなかった…野心の塊、丁度今の貴様と同じさ」

 

(試してみたいんだ…王佐の才ってやつを)

 

「朝廷との間を取り持つ所かそれに取って代わろうと一人画策していたのさ」

 

~七年前~

 

「で、その怪しい言葉使いは何だ?」

 

如何にも胡散臭い物を見るような比呂の視線に悠は思わず苦笑を浮かべた

 

「戒め…ですよ」

「…は?」

 

此方には視線も向けず

湯呑みから立ち上がる湯気を仰ぎ

 

「俺も…同じ穴の狢だったんですよ…あれほど嫌っていた臣官連中と何も変わらない。片や朝廷、片や袁家…どちらも立派な屋根の下そこに掬う害虫と同じ、自身が強欲を満たしたいが為に尻尾を振るうんです…みんなこんな口調、言葉使いでね」

 

お前変わった奴だなという比呂の呟きに「いやいや」と後頭部を掻く悠

 

「後悔してますか?こんな俺に付いて村を出たこと」

 

珍しく上目使いに問うてくる親友に今度は比呂が苦笑する

 

「今更それを言うか」

「いやあ、一応…ね」

 

足元に転がる空の酒瓶を蹴飛ばし

見事に脛を直撃された悠がもんどりうつのを尻目に比呂は扉に手をかけ

 

「構わん。丁度桂花の子守りにも飽いてきたところさ…」

 

すたすたと部屋を後に遠ざかる背中

 

「とりあえず…ようこそ袁家へ」

 

返事はなくひらひらと手を振る比呂の姿が廊下の曲がり角から消えて行った

 

「普通はさ…わざわざ桂花を引き合いに挙げないんじゃないの?」

 

 

 

 

 

~再び現在~

 

「最初から…?」

「そう…最初からだ」

 

わなわなと震える英心にどこまでも冷めた比呂の視線が突き刺さる

 

「貴様等が月…董卓が横暴の嘘の噂を振り撒いている最中にあってすらあいつは事実を知りながらに静観していた」

 

我が親友ながら趣味が悪いなと比呂が肩を竦める

 

「よくもまあ見事に壊してくれたものだな…あいつの予測よりも貴様等の馬鹿正直さ加減に頭が下がる」

 

今なら解る

 

(比呂の親友が故にですよ)

 

悠は

 

真っ先に俺に動いて欲しかったのだろう

 

真っ先に月の元へ出向き

 

帝共々に都を…

 

(だったら言えばいいのだ…まったく)

 

連合の足を引っ張ってもらって結構ですよと

 

(そうしたなら俺は…そうか…)

 

寧ろ頑なに拒否しただろう

 

(親友が故にか…つくづくにお前には適わん)

 

とりあえず

 

(…悔しいからコイツにぶつけよう)

 

 

「この勝負、悠の勝ちだ…そして…貴様の負けだ」

 

あとがき

 

…ご無沙汰しております。

ねこじゃらしです。

 

いやはやすっかりTINAMIも様変わりしちゃって…慣れてないせいか寧ろ使いづら…げふんげふん

 

応援メッセージにて「生きてますか?」聞かれちゃったよおい

 

…まあそれぐらいほったらかしにしてましたもんね、ごめんなさい

 

土曜日位には次の…なんて書いても保証はないので

 

暑かったり寒かったりそんでやっぱり暑かったりと大変ですが皆さんお身体にお気を付けて

 

それでは次回の講釈で


 
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