「社長は?」
「オヤジは部品商の所だ」
答えながら投げてよこしたのは香の付いた炭酸水、あたしの好きなシトラスの香りだ!
なんだテツオもあたしのこと解ってきたじゃない、疲労回復には炭酸水が良いらしいし
「ああ~、あの店のアルタって言う店員気に入らないのよねー、あたしが行くといっつも色目使ってくるしさ」
「店員は気にくわねぇが相変わらず良いもん揃えてるからな」
あたしが舌を出して苦い顔をすると、あたしとは違う炭酸飲料を飲みながら鼻で笑う
相変わらず愛想の無い奴だ
「所で何であたしには炭酸水であんたはリカットなの?」
リカットというのはここら辺で取れる柑橘系の果物のことだ、味はとてもすっぱいけどほのかに甘くって
簡単に言えばレモンにほのかな甘味が付いたような果物、あたしの大好物
「リカットは糖分があるから太る。これ以上お前の体重が増えたらエンジンが泣くだろう」
「・・・・・・喧嘩売ってるんだ、あんたあたしに喧嘩売ってるよねそれっ!」
「この間二階でロイと騒いでいたろう、下にいた俺とオヤジにまる聞こえだった。気を使ってやったんだ」
こいつ、あの時あたしとロイで体重の話をしていたのを聞いていたんだ、最近甘いものを食べ過ぎて
体重が増えてきてロイとどうしようか悩んで・・・・・・
そうそう、ロイって言うのはこの羊の寝床社の経理をしている事務員さん
小麦色でとても綺麗な肌で瞳だってブルーの・・・とそれはどうでも良かった
問題はそんな乙女の秘密ってやつをこの無愛想で性格の悪いコイツに聞かれたって事だ
「忘れなさい、聞いたこと全部っ!」
「無理な話だ、俺は聞いた事はそうそう忘れない性質でな」
リカットを飲みながら私の言葉を聞き流してるっ!なんて嫌なやつなんだろう
ここの社員じゃなかったら絶対に二、三発殴ってる。と言うか殴らせろっ
「くぅ~~っ!!やな性格っ!良いから忘れてよっ!!女の子に気を使えないなんて最低!」
「気を使ってるだろう、炭酸水にしてやったんだから」
「そういう気の使い方は要らないのっ!もう我慢できない、ボコボコにしてやる!」
あたしは袖を捲り上げると、テツオに踏みより拳を振り上げた、コイツの頭をしこたま殴って記憶を消してやる
そう思った瞬間、テツオの顔がニヤリと笑みに変わり
「オヤジさんお帰りなさい」
「おおテツ、今日も良い品が入ったぞ。こいつならニトロ運送のでかい飛行艇をさらに飛ばせてやれる
あそこは長距離を諦めてたから・・・・・・何やってんだお嬢?」
「あ・・・・・・あはっ、あははははっ!何でも無いですよぅ~社長」
あたしは振り上げた拳をすぐさま背中に隠してしまう、流石に御世話になっているところの社長さんの
お気に入りの社員だ、ボコボコにした後に社長に見つかるならなんとでも良いわけが出来るけど
例えば
いきなり強盗が、あたし女の子だから抵抗できなくって。でもテツオさんが私を守って・・・とか
近くの酔っ払いとテツオさんが急に喧嘩を始めて、あたし止めたんですけど・・・とか
だけど見ている前でボコボコしていたらここから追い出されちゃうし、そんな乱暴な女の子だと思われ・・・
思われてるなぁ、賞金稼ぎみたいなこともしているし。飛行艇には機銃ものせてるしなぁ
「まぁ良い、今日は早いな。流石に一軒だけだと稼ぎにならんだろうお嬢」
「あはははは、まぁそうなんですけどたまには良いかなって」
『いつもだろう』ボソリとそっぽを向いたテツオの口から聞こえてくる。後でおぼえてなさいよ
あんたの工具箱にリカット流しこんでやる。錆びてボロボロの工具を見て泣くが良いわ
「お嬢、これから食事にするんだが一緒に食うか?」
「え、良いんですか?」
「ああ、こんな早い帰りじゃないと食事も一緒に取れん。たまには良いだろう?」
「やった!もしかしてロイのパスタですか?あたしロイの作るパスタ大好きなんですよ!」
早く帰るのも良いものだ!久しぶりにロイの作るパスタが食べられる。ローストした豚肉を薄切りにして
パスタの上に散らばせるものや、パリパリになるまで焼いた鳥皮を散らしたものや、トマトとチーズを使った
冷たいパスタも最高で・・・男ばかりの職場だからとにかくボリュームがあってお腹にたまるし
味もそこらの店なんか比べ物にならなくて、ああ早く帰って着てよかった。考えただけで涎が出てきてしまう
「あのパリパリに焼き上げた鳥の皮なんて最高ですよぉ~!」
「あれは確かに美味いな、そうそうお嬢のパスタは少なめにしておいてやる。この間騒いでいたろう?」
「・・・・・・え?」
「体重を気にしてるんだろう?女ってやつは大変だ、家のかみさんもこの間騒いでいたよ。やれ何キロ太った
だの何キロ痩せただの、食えば食っただけ動けば問題ないと思うのは俺たち男だけだなテツ」
「ええ、女性の方は大変ですよね。気を使ってあげなければ」
そういうテツオはあたしを見ながらニヤニヤと笑っていた。こいつ後で泣かす、絶対に泣かす・・・・・・
私と同じ時代に生まれたことを後悔させてやる。あたしはヒクヒクと苦笑いをしながら心に硬く誓いを立てた
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飛行機乗りの女性の話
彼女は木の声が聞こえる体質で乗っている飛行機は木製
身長170の長身仕事は主に遠くへの急行便と飛行機乗りの賞金稼ぎのようなこともたまにしている
鉄の声を聞ける男性(テツオ)
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