「ロイ、メシの準備を頼む」
「はーい、今日はお嬢も一緒なのね?張り切っちゃうわ」
社長の呼び声で事務所から顔を出して、サラサラのウエーブが掛かった髪をなびかせて出てきたのは
あたしの親友、そして事務所のお姉さん、羊の寝床の看板娘、ロイだ。彼女は相変わらず綺麗で同じ女の
あたしと何処が違うのだろう?ルックス?着ている服?胸は負けているけど顔は負けていないはず・・・・・・たぶん
「テツ、皆を呼んで来い。ラウロとパルは試作室と設計室だ」
「はい」
軽く微笑んで柔らかく返事をすると小走りで試作室へ入っていく、その笑顔を見てすぐさま思った事は『オエッ、気持ち悪っ』だ
しっかしなんでコイツは社長の前だと良い子ちゃんなの?あたしも人のこと言えないけど、いつかコイツの腹黒さを社長に
教えないと、でなけりゃきっと社長は不幸になっちゃうわ。こんなに親切な社長を騙しているなんて絶対に許せないもの
あたしはどうなんだって?それは良いのよ、だってあたしは女の子だし。多少猫を被るのは女の子の常識でしょう?
まぁただ単にアイツが気に入らないってのが一番の理由なわけだけど
「お嬢はテーブルを拭いてくれ、しょっちゅう溶接やってるから塵が直ぐ積もっちまう」
「はーい」
「これ使ってお嬢」
「ありがとー、ロイ」
台所のドアを開けて絞った布巾を投げてよこすのをあたしは受け取り、広げて折りたたみ拭き始めた
相変わらずロイは細かい所まで良く気が利くわよね何も言わなくたってこうして布巾を絞って投げて
よこすんだから・・・・・・これかな?あたしがロイを綺麗だと思ってしまうのは、心が体や纏う雰囲気に
反映されるらしいからロイが綺麗だと思ってしまうのはこういうところなのかな
「どうしたお嬢?難しい顔をして」
「えぇ~っとですねぇ、女のあたしがロイを綺麗だと思うのは、こう・・・なんと言いますか、自分には気が利く女らしい部分が
少ないから余計にですね・・・・・・」
「・・・・・・ぶっ、あっはっはっはっはっはっはっ!!!」
うぅ、何で笑うのよ。やっぱりあたしにはロイのようになるのは無理だけど、努力して近づくくらいには
「いやぁすまん、所でお嬢は何でロイが綺麗だと思うんだ?」
「え?そりゃやっぱり体形とか肌とか性格とか。今考えていたのは性格が綺麗だとやっぱり綺麗に見えるのかなぁ、なんて」
綺麗になりたいって思いは女の子なら誰でもあるし、肌は流石に飛行艇に乗っているから気をつけても日焼けしちゃう
から諦めてるけど、そのほかは自分が綺麗だと思う人に近づきたいと思うのが普通じゃない?
「俺から見たらお嬢は肌も髪の艶も良い、おまけに体形もロイに負けてない、見た眼は同じだ、だがお嬢のほうが綺麗だと思える」
「な、何でですか?すっごい嬉しいんですけど!何でそういってもらえるのか解りません」
「そりゃこの大陸に住む男達が皆昔っから愛している、強い鉄の魂を持ってるからだ」
鉄の魂・・・・・・お祖父さんも確かそんなことを言っていた、この大陸に住む男達は皆、鉄の魂を持つものを愛するって
「鉄の魂ってのは信念のことだ、揺るがない心だ、お嬢はそれを持っている」
信念、揺るがない心、あたしはそんなもの持っているのかな?自分では解らない、今までそんなこと言われたことが無いし
それに鉄の魂ってあたしは可愛くないってこと?だって鉄よ!せめてもっと可愛いものとか綺麗なものの方が良かったわ
「・・・・・・あのぅ、なんといいますかあまり嬉しくないです」
「はっはっはっ、そのうち解る。今は若いからそう思えるだけだ、家のかみさんも鉄の心を持っている、そのうち話してみると良い」
「はぁ・・・」
「俺がお嬢をここで住まわせているのもそういった理由だ、自覚は難しいかも知れんな。テツも同じ鉄の心を
持っている、だから俺は気に入っているのさ」
私がテーブルを拭きながら複雑な顔をしていると、ギシギシと床を鳴らしながらラウロとパルが椅子に座っていく
相変わらずこの二人は対照的ね、ラウロは体が大きくて力が強いから試作機のエンジンなんかを弄っていて
パルは小さいけど想像力が豊かだから設計担当、対照的だけど仲良いのよねこの二人
「お嬢今日は早いじゃないかぃ」
「それ言われたの三回目よ」
「パル、お嬢は仕事よりも体重を減らすことが大切なんだろう」
「何よそれっ!誰がそんなことをっ言ったのよ!」
「お、怒らないでくれよぅ、助けてくれぇラウロぅ」
あたしが鬼の形相で叫ぶとパルは椅子をガタガタと鳴らしラウロの後ろに隠れてしまう
ラウロはあたしの顔を見て震えながら後ろを指差す。その方向には何時も社長に向ける優しい
笑顔をわざと私に向けるテツオだ
「いいかげんフライトヘルメット脱いだらどうなんだ?食事だぞ」
「あんたに言われなくたって脱ぐわよ、それより何なのよ体重を減らすとか何とかって!」
「あれだけでかい声で言っていたんだ、皆知ってると思ったから普通に話しただけだ。スマン」
こ・い・つ・は・・・・・・絶対に謝ってない、詰め寄るあたしを見ながら目が笑っている
もう駄目、そう思ったあたしはフライトヘルメットを何時ものように投げて出入り口の帽子掛けに投げる
しかし狙った方向は帽子掛けの隣に山積になった工具の山、絶妙なバランスで積んであった工具は
大きな音を立ててガラガラと崩れ落ちた
「おわわっ!お嬢なにすんだっ!!」
「馬鹿野郎ラウロっ!てめぇあれほど工具は片付けとけって言っただろうがっ!!」
「おやじさんスンマセンっ!」
(いまだっ・・・)
ドボォッ!
崩れ落ちた工具と怒られるラウロに視線が集まった瞬間にあたしの拳がテツオの横腹にめり込んだ
テツオは体をくの字に曲げて悶絶する・・・・・・やばっ、きもちいぃ~♪
「ごはっ・・・てめっ・・・このっ・・・」
テツオはあたしの胸倉を捕まえて拳を振り上げた
(よし、ここだっさっきのお返しよ)
「きゃー社長っ!助けてっ!!」
「あっ・・・」
「テツっ!お嬢に何してやがるっ!!」
「スンマセンっ、でもコイツが・・・」
「男が言い訳すんじゃねぇ、女に拳上げるなんざ最低の野郎がする事だ。お嬢に謝れっ!」
社長の言葉でテツの顔が歪み、歯軋りしながらあたしのほうを振り返る。そしてあたしを
凄い形相で睨みつけ拳を握り締めて今にも殴りつけたい、そんな衝動を抑えながら
謝罪を口にしようとしていた
「う・・・ぐ・・・す、すみま・・・・・・」
「テツ、言えねぇのか?」
「うぅ・・・・・・スミマセンデシタ」
謝罪を口にしたテツをニカッと歯をむき出しにして笑う社長が頸に腕を回してグリグリと頭を撫でた
「よし、偉いぞテツ」
「はい」
仕返しをしたと言うのに、頬を染めて嬉しそうに笑うテツを見てなんだか逆に損をしたような気分にさせられた
家族と離れて住んでるからかな?私は今軽く嫉妬してるのかもしれない
コンッ
「いたっ」
「駄目じゃない、見てたわよ」
そんなあたしを見透かしたようにロイがあたしの頭をお玉で軽く叩いてきた。あたしはつい顔が笑顔になる
やっぱりあたしはロイのような気の使える女性になりたい、鉄の魂って言うのがどういうのか解らないけど
目の前で笑ってくれる親友のような女性になりたいと思う
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飛行機乗りの女性の話
彼女は木の声が聞こえる体質で乗っている飛行機は木製
身長170の長身仕事は主に遠くへの急行便と飛行機乗りの賞金稼ぎのようなこともたまにしている
鉄の声を聞ける男性(テツオ)
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