漫画的男子しばたの生涯一読者■書店行け!! 〜単行本ニナライカ 作:川崎ぶら+画:秋重学 (河出書房新社) [bk1]
長年待ち続けていた単行本がついに出ました。今は亡き「ビッグコミックスピリッツ21」で5年くらい前に連載された作品なのだが、いっこうに単行本化されないのでやきもきしていたのだ。秋重学はこの後も「D-ASH」とかいろいろ描いていたのだが、個人的に最も好きな作品はこれだったし。この作品は、祖父から譲り受けたライカを操り、プロを志向せずあくまで趣味として、楽しく写真を撮ろうとし続けるニナという少女の物語。自由奔放なニナの行動がとても痛快。ストーリーと秋重学の爽やかな絵柄がすごくマッチしている。カメラ的視点で切り取られた構図も、漫画としてはいくぶん変則的ではあるけれど、お話の進行をけして妨げていない。何より写真を撮るということの楽しさが伝わってくるのがいい。なお、河出書房新社からは6月にも秋重学短編集「僕の夏は泳げずじまい」[→bk1]も発売された(もう出ているはずである)。こちらも併せてチェックしてほしい。
RHINO 雨宮智子 (ソニー・マガジンズ) [bk1]
「コミックバーズ」や増刊枠「Bstreet」(ともにソニー・マガジンズ)に良質な短編をちょくちょく描いている雨宮智子の初単行本。絵柄的にもお話的にもアメリカンテイストで、アメリカ的に「気の利いた」「いい話」を実に丁寧に描き続けている作家さんだ。途中でキッチリひねりを入れて、人情味のあるホッとさせるお話を、毎回コンスタントに作れている。ストーリーをまとめあげる力はかなりのもので、どの作品も粒揃い。
夜の童話 紺野キタ (ポプラ社) [bk1]
非常に上品で、完成度の高い、柔らかく暖かく美しい作品を描く紺野キタの最新短編集。同人誌に掲載された短編をまとめた単行本である。掲載作品も絵のイメージそのままに、読んでいると優しい気持ちになれるような作品が多い。「ひみつの階段」シリーズなどでその作風に惹かれた人は、ぜひ読んでみてもらいたい。
すいかのアイス いわみえいこ (宝島社) [bk1]
ノスタルジックで子供っぽいタッチで、ピュアさを前面に押し出すような作品を描くいわみえいこの初単行本。ちょっとあざといかなとも思うのだが、やせっぽちな女の子が健気に頑張っている姿には、ついついジーンとさせられてしまう。オトメチックで泣ける単行本であります。
生きる 村田藤吉寡黙日記 増強版 根本敬 (青林工藝舎) [bk1]
こちらはたいへん強烈な1冊である。1986年6月刊の「生きる」、1986年10月刊の「生きる2」の内容に、これまで単行本未収録だった作品を加えて全426ページと増強された単行本。村田藤吉という男は、人付き合いは下手、冴えないルックス、でもとことんいい人である中年サラリーマンなのだが、いい人だからといって報われることなどまったくなく、ヘンな厚かましい人々により理不尽な迷惑を被ってばかり。たまに神様がご褒美を授けてくれても、それがかえって災いを呼んでしまったりするのだからつくづく救われない。しかも家族も全員がそれぞれのコミュニティでイジメを受けてたりする。それでも村田藤吉は村田藤吉のままなのだが、これだけのボリュームで延々「いい人が報われない話」を読み続けているとさすがにくらくらする。素晴らしい。
地球美紗樹 岩原裕二 (角川書店) [bk1]
「エースネクスト」で連載中の岩原裕二の新シリーズ。湖のほとりの小さな町に、父親とともに引っ越してきた少女・美紗樹が、近くの湖でキスをすると可愛い人間の少年に変身する恐竜と出会うところから物語は動き出す。これだけでも大事であるのに、令嬢誘拐の身代金の金塊を巡って怪しい連中も暗躍し、小さな町に波乱が訪れる……といった展開。岩原裕二は、昔は絵に荒っぽいところがあったんだけど、今ではすっかり洗練されて非常に滑らかになった。線の勢いはそのままに思い切り良く、しかもキャッチー。かなりヒキが強いお話はどんどん面白くなってきそうだし、変身する恐竜(少年)であるニオは可愛らしいしで、これからの展開にも大いに期待できそうだ。
1ねん3くみ桃ちゃん先生。 ひな。 (角川書店) [bk1]
角川系でもう1冊。これはかなりヤバい作品である。まるっきりロリロリな幼女、でも高校の教師をやっている桃ちゃん先生、そして彼女にメロメロになっていく男子生徒の栗本くんを中心としたドタバタ学園コメディ。桃ちゃん先生は栗本くんの目にはロリロリ幼女に映っているのだが、それを奇異に思っているのは彼だけ。周りの生徒や教師たちは、みんなそれを当たり前のように受け止めている。本来の常識でいえば異常なのは周りなはずなのに、自分だけ受け止め方が違うために逆に異常者と見られてしまうという悪夢的な状況。でもだからといって重くならず、やたら可愛い絵と軽快なテンポで「まあいいかー」とばかりに読ませられてしまう。そして気づけばこの世界にどっぷり浸ってしまっているのだ。文句なく可愛いがゆえに中毒性の高い一品。
単行本パートの締めくくりとしてエロ系から2冊。 病院行け!! かかし朝浩 (ワニマガジン社) [bk1]
かなりセンスいいです。まず手塚治虫漫画全集レイアウトの表紙からしてタダモノでないことが伝わってくる。で、お話のほうもこれまた面白い。看護婦でさえ迷っちゃうような巨大病院に勤務する凄腕女医が主人公なのだが、これが死にかけの人間を勝手にサイボーグにしてヘンな装備を仕込んだり、かなりヤバいキャラクター。そのほかの面々も、ちんこハンターだったり死刑執行人みたいだったり、ヘンなの揃い。それらが縦横無尽に駆け回ってドタバタするお話は、カラッと痛快で素直に楽しめる。そこかしこに埋め込まれた漫画などが元ネタのマニアックなギャグも、気づいた人はニヤリとするだろう。なんてったって第1話のタイトルからして「患者はどこだ」なのだ。
みみチャンネル 松本耳子 (ワニマガジン社) [bk1]
現在は「快楽天」(ワニマガジン社)などで活躍している松本耳子の初単行本。この人の作風は、なんかすごく楽しそうだ。エロ漫画ではあるけれど、けして重くなることなくベタベタすることなく、自由奔放に立ち回っている。平ぺっためな顔つきのキャラがイキイキしてるし、なんかノリが本当に気楽。この人はわりと一般系の女性誌とかでも活躍できそうな気がする。 >>次頁
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