このところ、「ビッグコミックスピリッツ」(小学館)が新連載攻勢をかけてきている。前回は江川達也「日露戦争物語 〜天気晴朗なれども波高し〜」に触れたが、今回もまずはスピリッツ新連載組から。
花園メリーゴーランド 柏木ハルコ
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「花園メリーゴーランド」
柏木ハルコ
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スピリッツ 5/28 No.24から始まった新連載。人々の性に対する意識は地方や時代によっていろいろと違うということを前置きしたうえで、一人の少年が山奥で迷った末、他とは隔離された村へとたどり着くところからお話はスタート。一見普通の田舎の村という感じなのだが、村の女性が少年を見る目つきには妙に艶めかしいものがある。「夜這い」システムやら、旅人に女房を貸し与える「肉蒲団」などなど、日本には驚くほど性的にオープンな風習があったわけだが、そういったものと現代社会的常識とのギャップみたいなものがテーマとなってくるのかも。「いぬ」「よいこの星!」「ブラブラバンバン」など、これまでの作品でも読者の意表を衝くお話を描き続けてきた柏木ハルコだけに、今後の展開が楽しみ。
アグネス仮面 ヒラマツ・ミノル
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「アグネス仮面」
ヒラマツ・ミノル
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こちらも「ビッグコミックスピリッツ」の新連載。6/11 No.26から12週連続の手中連載としてスタート。「ビッグコミックスピリッツ」は青山広美「ガチ!」や桜庭和志の連載もあり、最近なぜだかプロレス色が強まっている。さて、「アグネス仮面」のほうだが、若手レスラー・山本仁悟がメキシコ、アメリカで武者修行をして帰ってきたところ、本来の所属団体が倒産しており、その後仁悟が元社長の奥さんに焚き付けられて他団体へ道場破りに行かされる羽目になるところから始まる。「REGGIE」「ヨリが跳ぶ」と、力と力の勝負によるスポーツものを描いてきたヒラマツ・ミノルだが、パワーとお笑いを両方ともこなすこの人の作風にプロレスはよく合っている。プロレス好きならずとも注目だ。
西蔵童話 仲能健児
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「西蔵童話」
仲能健児
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こちらは読切シリーズがスタート。「コミックビーム」6月号(エンターブレイン)から掲載され始めた。仲能健児といってピンとくるのはよっぽどの漫画マニアくらいなんじゃないかと思うのだが、この人の非常に細かいペンタッチ、それからインド的空気、世捨て人的雰囲気を描き出す実力は素晴らしいものがある。今回の舞台はインドでなくチベットだが風味的にはこれまでの作品となんら変わらない。使い古されたオンボロバスにまつわるお話を非常に幻想的に描いており、かなりゾクゾクする出来だった。今後もちょくちょく登場してほしいけど、あんまり多作な人ではないんでのんびり待ちます。
残酷な神が支配する 萩尾望都
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「残酷な神が支配する」
萩尾望都
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始まるものあれば終わるものあり、ということで「プチフラワー」7月号(小学館)にてこの大河作品が終了。正直いっちゃうと筆者はこの作品については途中から読み始めたんで偉そうなこといえないんだけど、それでも業の深い物語にはぐんぐん引き込まれたし、息を呑むようなシーンも多々あった。連載が終了した今だからこそ、まとめ読みしたいところ。というわけでまとめ買い用にbk1にリンク張っときます
[→bk1]。
あとは単発読切モノをいろいろと。
二の二の六 高野文子
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「二の二の六」
高野文子
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「アフタヌーン」7月号(講談社)に掲載。ボランティアで、老婆とその長男が住む家に派遣されたホームヘルバーの女性が主人公。老婆、長男、ホームヘルパー、それから長男と知り合った女子高生がお話にからんでくるのだが、老婆は最後まで黙ってるし、ほかの3人も全然噛み合ってなくて、全員完璧なディスコミュニケーション状態。それなのに、一つの作品として絶妙に調和しているのが不思議。軽やかに舞うようなセリフ、そして踊るような描線は、まさに天才ならではの技といった感じ。
67000 神原則夫
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「67000」
神原則夫
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「アフタヌーンシーズン増刊」Summer No.7(講談社)に掲載された作品。夫婦仲は冷め子供には邪魔者扱いされ、挙げ句の果てに娘によりネットオークションに売り出され6万7000円で落札されてしまった49歳ハゲオヤジが主人公。ところが買われていった先は父親不在の母子家庭であり、そこでオヤジは主夫として幸せを見つける。神原則夫のタッチは基本的にギャグテイストなのだが、行き場のなさそうな中年オヤジを抜群に味わい深く描く。第4回で紹介した「とんぼ」同様、このお話も非常にジーンとくる作品に仕上がっている。でも常に飄々としているのもいい。この人、各誌で新人賞を獲ったり散発的に読切作品を描いたりしているのだが、単行本がなかなか出ない。そろそろ1冊まとめてくれるとありがたいんだけど。
ベビイシッターベイベー 加藤伸吉
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「ベビイシッターベイベー」
加藤伸吉
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「国民クイズ」「バカとゴッホ」などの加藤伸吉が「ヤングチャンピオン」5/22 No.11(秋田書店)に登場。性格破綻気味な母親にベビーシッター役を押しつけられた少年が、赤ん坊を抱いて町をフラフラ歩きながら見たり聞いたり呟いたりした物事を描いた作品。出だしは地味だが、後半に行くに従って空飛ぶバスや町の灯りなどの光景がどんどん気持ち良くなってきてぞくぞくする。愛と祝福の込められたセリフも心に響くし、加藤伸吉は本当にいい作品を描く人だなあと改めて確認できる。
タイ・カッブ 作:荒木飛呂彦+画:鬼窪浩久
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「タイ・カッブ」
作:荒木飛呂彦+画:鬼窪浩久
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「変人偏屈列伝」シリーズの第2作として、「オールマン」5/16 No.10、6/6 No.11(集英社)に2号連続で掲載された。20世紀初頭のアメリカ合衆国野球界で活躍し、生涯打率3割6分7厘、4割を3回、首位打者を12回獲得した伝説的メジャーリーガー、タイ・カッブの物語である。変人偏屈と題するだけあって、タイ・カッブはショットガンを常備したり観客席に飛び込んで客をボコボコにしたり、物凄いエキセントリックでブッ壊れた人間だったらしい。それをあの荒木飛呂彦独特のセリフ回しでやるんだからその迫力はすさまじい。なお、このシリーズの第1作めはずいぶん前に掲載された「ニコラ・テスラ」だったのだが、こちらも「オールマン」6/20 No.12で続けて再録された。読み逃した人は要チェック……もう遅いか。単行本にまとめてくれないかな〜。
いついたるねん オガツカヅオ
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「いついたるねん」
オガツカヅオ
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「ビッグコミック」増刊号(小学館)でだいぶ定着してきつつある作品。5月に出た6/17増刊号にも掲載された。霊が見えすぎてしまう体質の主婦・明日香と、彼女の家にとりついている霊の少女を中心としたドラマ。というとホラーっぽい作品を連想してしまうかもしれないが、「いついたるねん」の語り口はずいぶん穏やかで地味だ。しかし、これがきちんと読むと非常にいい。今回は明日香の親友の子供が貯水池に落ちたまま浮かんでこないという事件が起こり、彼女がその親友の家を訪れるところからお話が始まる。丁寧にお話を進め、終盤で「なるほど」と思わせるヒネリを見せる構成は巧み。しみじみ読めるいいお話を作れる人だ。
SweetSmoke 中前英彦
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「SweetSmoke」
中前英彦
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「OURs LITE」7月号(少年画報社)。内気な彼女とその彼氏、そしてタバコの物語。彼氏の脱いだ靴をこっそり履いてみてその体温を感じたりと、彼女の控えめな感情表現味を細やかに描いていて味わい深い。セリフもゆっくり少しずつ押し出すよう。ふっと消えてしまいそうなタッチが印象的。
ピンクとレッド こうのこうじ
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「ピンクとレッド」
こうのこうじ
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クラスで仲間外れにされている眼鏡娘が、戦隊モノのグッズを集めている教師と仲良くなり、彼の部屋に通うようになるうち自分の居場所を見つけていき性格も多少明るくなっていくといったお話。どう見ても先生はオタクだし変態なんだけど、それでも癒されちゃう女の子はかなり天然っぽくてヘン。でも全体としていいお話であるところもまたヘンで面白い。こういうちょっと変わった人が出てくるのがヤンマガ系の面白いところ。というわけで「別冊ヤングマガジン」6/1 No.020(講談社)掲載作品。
ガッチャマン 熊谷カズヒロ
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「ガッチャマン」
熊谷カズヒロ
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「ヤングジャンプ 6/10増刊 漫革」vol.23(集英社)に掲載された作品で、原案はもちろんタツノコプロダクション。「サムライガン」の熊谷カズヒロが、あの「ガッチャマン」を漫画化したもの。このところ「仮面ライダーSPIRITS」なども話題を呼んでいるが、昔のヒーローモノのリメイクはまだまだアツいようだ。漫画界が後ろ向きになっているあらわれととる人もいるかもしれないけど、ここはやっぱり素直に楽しんでおくほうが吉であろう。
すんません。長々と。というわけで今回もおしまいです。◆
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