「きみとぼく」およびその別冊に収録された短編を収めた作品集。藤原薫といえば、現代に生きる吸血鬼の悲しい愛を描いた「おまえが世界をこわしたいなら」(全3巻→
bk1)でマニア筋の評価を一気に高めた感があるが、この作品も面白い。余分な贅肉を持たない、ピリピリと研ぎ澄まされた緊張感のある表現が実に美しい。バランスを崩すと壊れてしまいそうな危うさも持っていて目が離せない。
「まだ八月の美術館」
岩館真理子 (集英社) [bk1]
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「まだ八月の美術館」
岩館真理子
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この単行本は、集英社の女性向け新コミックスシリーズ「クイーンズコミックス」の第1期分の中の1冊である。このコミックスシリーズだが、見た目なんとなく「ハーレクインロマンス」を思い出させるようなところがあり、大人の女性を強く意識したシリーズといえそうだ。第1期分はこのほか、以下に紹介するいくえみ綾「朝がくる度」、池谷理香子「サムシング」1巻、深谷かほる「マリーゴールド」、谷地恵美子「かかってきなさい」1〜2巻、吉田まゆみ他「もっともっともっと感動したい!100P」というラインナップになっている。
「まだ八月の美術館」は、YOUNG YOU掲載でこれまで単行本未収録だった短編を収録している。ミステリアスな話、ユーモラスな話、悲しげな話などなどどれも面白い。高貴な美しさを持っているけれども、どこかほわほわとした天然っぽさも感じる。これも一つの天才のなせるワザという気がしてならない。
「朝がくる度」
いくえみ綾 (集英社) [bk1]
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「朝がくる度」
いくえみ綾
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「朝がくる度」「いちごの生活」「しつもんしよう。」を収録。このところのいくえみ綾の充実ぶりは目を瞠るものがあるが、この単行本も素晴らしい。セリフ運び、コマ割り、テンポの作り方などなどの演出が実に鮮やかで、読みやすく作品としてとてもきれいである。例えば、顔はかわいいけれど優柔不断で実はシスコンである啓久とその周りの人々の模様を描いた「朝がくる度」などは、すごい大事件を描いているわけではないのだけれども、一つひとつのシーンが微笑ましかったり切なかったり美しかったりで、どのページを読んでいてもしみじみ面白いのである。とくに珍しくもない日常でも面白く読ませてしまう技量には感服するほかない。
だいぶ長くなったので、単行本編は前回に続いて2ページに分けます。それでは次のページもどうぞ。
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