漫画的男子しばたの生涯一読者
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漫画的男子しばたの生涯一読者

■買えるようにしてみました 〜単行本その1

今月から紹介する単行本については、オンライン書店bk1の当該書籍購入ページへのリンクを張ってみた。マイナーな単行本もそれなりに紹介してると思うんで「書店に出かけて探すのがめんどくさい!」という人は、このリンクをたどってそこから購入してみるのも手ではないかと。ただし、bk1に在庫がないものについてはリンクを張れないんで、その点はご容赦いただきたく。

「学活!!つやつや担任」 A/B巻 吉田戦車 (小学館) [bk1]
学活!!つやつや担任
「学活!!つやつや担任」A/B巻
吉田戦車
2001年4月は吉田のものだ!! とちょっと思った。「ビッグコミックスピリッツ」(小学館)で連載された、ヘンテコな学園の担任教師ギャグであるこの作品が単行本化され、「ビッグコミックスピリッツ」4/23 No.19(小学館)ではナンセンスな4コマ漫画「殴るぞ!」(すごいタイトルだ……)が始まった。さらに「コミックビーム」5月号(エンターブレイン)では、4コマではなく通常のコマ割りな続き物漫画「象の怒り」もスタートしている。このところちょっと出現頻度が落ちていた吉田戦車だが、ここにきてまた一気に活発化した感がある。そういえばゴールデンウィークに出た「ビッグコミックスピリッツ増刊 山田2号」でも看板を張っているし。この人のナンセンスで、わびさびのあるギャグはやはりとてもスバラシイ。そんなわけで今後の動きにも要注目なのだ。
「純情パイン」 尾玉なみえ (集英社) [bk1]
純情パイン
「純情パイン」
尾玉なみえ
ナンセンス系といえば、期待のニュースターということでこの作品も挙げておきたい。週刊少年ジャンプで連載され短命に終わった本作だが、まずは無事単行本化されたことを喜びたい。タイトルにある純情パインとは、地球を宇宙の侵略者から守る素っ頓狂なかっこうをした巨大な乙女の名である。この大きな乙女は、少女・みちると不思議少年・みちおが交換日記を2往復することで変身、出現する。そんでもってその活躍を描いていくわけなのだが、これが実にヘンなノリをしているのである。登場人物たちの脈絡のない行動、歪んだ性格、どうにものどかかつ常軌を逸した世界観など見どころ盛りだくさんの愉快な作品だ。個人的にはこのところのジャンプ系ギャグ漫画の中では一番のヒットだったのだが……。
「仮面ライダーSPIRITS」 1巻 作:石ノ森章太郎+画:村枝賢一 (講談社) [bk1]
仮面ライダーSPIRITS
「仮面ライダーSPIRITS」1巻
作:石ノ森章太郎+画:村枝賢一
ナンセンスの次は、いきなりアツい漫画を。「仮面ライダー」といえばいわずと知れた正義の味方だが、それが熱血漫画の名手、村枝賢一の手によって再び漫画となった。で、これがもう実にアツいのだ。価値観が複雑になり何が正しいのか分からなくなってきた現代にあって、これだけ真っ向勝負で「正義」をうたうこの作品はとても眩しい。『昔……仮面ライダーって男がいた……』などというセリフだけでも、昔、ヒーローたちが見せてくれた圧倒的な正義に夢中になった人間はきっとシビれてしまうだろう。名ゼリフはこれだけではなく物語のあちこちに出てくるし、各ライダーの登場シーンも涙が出るほどカッコイイ。文句なく燃えられる一作である。
「柳生十兵衛死す」 1巻 作:山田風太郎+画:石川賢 (集英社) [bk1]
柳生十兵衛死す
「柳生十兵衛死す」1巻
集英社
このところとみに増えてきた感があるのが小説を原作とする漫画だ。例えば先月紹介した山崎さやか「NANASE」(原作:筒井康隆「七瀬ふたたび」)、木戸嘉実「魔獣狩り」(原作:夢枕獏)などなど。田口雅之「バトル・ロワイアル」(作:高見広春)もそうだし、先ほど紹介した「コミックバンチ」でも「眠狂四郎」など新潮社の小説資産の漫画化を積極的に行っていくとのこと。

この「柳生十兵衛死す」については、山田風太郎の代表作でもある「魔界転生」を漫画化したときと同じ原作&作画の組み合わせで、石川賢が山田風太郎の小説に惚れて……という色合いが強い。並行して存在する時空からやってくる忍者たちと柳生十兵衛が戦い、さらに室町時代にいたという柳生の祖先、もう一人の柳生十兵衛がからむ壮大な忍法アクションロマン作品で、スケールは山田風太郎作品の中でもかなりデカい。小説のほうは実のところ、けっこうとっちらばった印象があったのだが、漫画の場合このくらいのほうがかえってハッタリがききまくってて面白いような気がする。柳生十兵衛という人物自体もイメージとしてカッコイイし、今後が楽しみになってきた。

「JIN −仁−」 1巻 村上もとか (集英社) [bk1]
JIN −仁−
「JIN −仁−」1巻
村上もとか
現代の外科医である南方が19世紀明治初頭の日本にタイムスリップし、21世紀の医療技術をふるうという物語。もちろん19世紀なので医療器具はないが、それでも当時の人々にその技術は画期的。その医療技術がきっかけで歴史をも動かしてしまうことになる。一見突飛な設定に思えるかもしれないが、そんなことはまったく感じさせず読者を物語にグイグイ引き込んでくる構成力、描写力はさすがベテラン作家。地に足がついていて、しかも読みやすい。
「死神交換イタシマス」 福山庸治 (日本エディターズ) [bk1]
死神交換イタシマス
「死神交換イタシマス」
福山庸治
ベテラン続きでこちらも。日本が戦争している中、淡々とそれを受け入れて進む日常生活の様子を描いた一連の「西武沿線異常なし」シリーズを中心とした短編集。細かくてしかもいい具合に練れたペンタッチが美しく、不条理な状況で淡々と読者を煙に巻くSFチックな味わいのストーリーも、懐が深くてお見事。
「火宅」 近藤ようこ (青林工藝舎) [bk1]
火宅
「火宅」
近藤ようこ
ベテランさらにもう一冊。結婚生活の中で、疲れている女たちの物語を描く短編集。平凡な日常生活を送っている女たちの中に眠っている、女としての本能を垣間見せる話作りにはときどきゾクリとさせられる。しんねりと女の怖さを感じさせる一冊である。
「雲のグラデュアーレ」 1巻 志水アキ (メディアファクトリー) [bk1]
雲のグラデュアーレ
「雲のグラデュアーレ」1巻
志水アキ
ベテランの次は新鋭で。飛行船文化華やかなりし世界を舞台に、空賊「ザラストロ」が大活躍するアクション作品。なんといっても志水アキの伸びやかな線がたいへんに気持ちがいい。登場するキャラクターが、元は良家のお嬢さんであったらしい少女・コトをはじめとしてみんなイキイキしているし、読んでいてワクワクする。「天空の城ラピュタ」などの空中アクションシーンが好きな人はぜひどうぞ。
「ジャンゴ!」 全2巻 漫画:せきやてつじ+原案:木葉功一 (講談社)  [bk1]
ジャンゴ!
「ジャンゴ!」1巻
漫画:せきやてつじ+原案:木葉功一
バイタリティあふれる日本人・青年ジャンゴとその仲間たちが、銀行から50億円分の金塊を奪い、それを巡ってジャンゴ一味、警察、ヤクザらが入り乱れて一大活劇を繰り広げる……というアクション作品。単行本の表紙からして濃い口で、実際中身もかなり荒々しいが、これが面白い。活劇は派手だし、描写はパワフルだし。「ルパン三世」に憧れて描かれたというこの作品、今どき珍しいくらい骨太なタッチで痛快なものに仕上がっている。

続いて少女漫画系を3冊ほど。

「昔の話」 藤原薫 (ソニー・マガジンズ) [bk1]
昔の話
「昔の話」
藤原薫
「きみとぼく」およびその別冊に収録された短編を収めた作品集。藤原薫といえば、現代に生きる吸血鬼の悲しい愛を描いた「おまえが世界をこわしたいなら」(全3巻→bk1)でマニア筋の評価を一気に高めた感があるが、この作品も面白い。余分な贅肉を持たない、ピリピリと研ぎ澄まされた緊張感のある表現が実に美しい。バランスを崩すと壊れてしまいそうな危うさも持っていて目が離せない。
「まだ八月の美術館」 岩館真理子 (集英社) [bk1]
まだ八月の美術館
「まだ八月の美術館」
岩館真理子
この単行本は、集英社の女性向け新コミックスシリーズ「クイーンズコミックス」の第1期分の中の1冊である。このコミックスシリーズだが、見た目なんとなく「ハーレクインロマンス」を思い出させるようなところがあり、大人の女性を強く意識したシリーズといえそうだ。第1期分はこのほか、以下に紹介するいくえみ綾「朝がくる度」、池谷理香子「サムシング」1巻、深谷かほる「マリーゴールド」、谷地恵美子「かかってきなさい」1〜2巻、吉田まゆみ他「もっともっともっと感動したい!100P」というラインナップになっている。

「まだ八月の美術館」は、YOUNG YOU掲載でこれまで単行本未収録だった短編を収録している。ミステリアスな話、ユーモラスな話、悲しげな話などなどどれも面白い。高貴な美しさを持っているけれども、どこかほわほわとした天然っぽさも感じる。これも一つの天才のなせるワザという気がしてならない。

「朝がくる度」 いくえみ綾 (集英社) [bk1]
朝がくる度
「朝がくる度」
いくえみ綾
「朝がくる度」「いちごの生活」「しつもんしよう。」を収録。このところのいくえみ綾の充実ぶりは目を瞠るものがあるが、この単行本も素晴らしい。セリフ運び、コマ割り、テンポの作り方などなどの演出が実に鮮やかで、読みやすく作品としてとてもきれいである。例えば、顔はかわいいけれど優柔不断で実はシスコンである啓久とその周りの人々の模様を描いた「朝がくる度」などは、すごい大事件を描いているわけではないのだけれども、一つひとつのシーンが微笑ましかったり切なかったり美しかったりで、どのページを読んでいてもしみじみ面白いのである。とくに珍しくもない日常でも面白く読ませてしまう技量には感服するほかない。

だいぶ長くなったので、単行本編は前回に続いて2ページに分けます。それでは次のページもどうぞ。

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