漫画的男子しばたの生涯一読者
TINAMIX
漫画的男子しばたの生涯一読者
しばたたかひろ

■新雑誌に一喜一憂 〜雑誌

さていつものように4月の漫画の話をいたしましょう……と普段はいくところなんだけど、いきなりでなんだが今回は5月創刊の雑誌の話から。といえば、もうピンときている人も多いと思う。そう、5月15日に新潮社から創刊された「コミックバンチ」の話である。

「コミックバンチ」 (新潮社)
朋友よ…。
「コミックバンチ」
創刊号
新潮社
この創刊は漫画界では近年まれに見るビッグイベントである。白状すると原稿執筆時点ではまだ創刊号が発売されていないので現物は見ていないのだが、それでも取り上げたくなってしまうほど個人的にはワクワクしている。

この雑誌、話題が非常に多い。新潮社が漫画雑誌に初めて参入する……というのも大きなトピックだが、それより編集を請け負う「コアミックス」が注目すべき存在だ。コアミックスは「週刊少年ジャンプ」(集英社)600万部超時代に編集長を務めた腕利き編集者・堀江信彦氏、それから原哲夫、北条司、次原隆二らが中心となって設立された漫画制作会社である。もちろんこの作家陣は「コミックバンチ」でも中心作家となる。雑誌の編集を外注の業者に委託することはとくに珍しいことではないが、それが作家までも含むユニットであることは極めてまれだ。さらにこのコアミックス、システムとしても面白いのだ。

コアミックスの理念として「共同通信社のような漫画コンテンツ配信会社を目指す」というのがあるそうで、現在はもちろん「コミックバンチ」に全力を投入するが、ゆくゆくは複数の漫画雑誌にコンテンツを供給することも考えているらしい。そのための漫画制作体制が整えられており、複数の作家でアシスタントを共有するなどといったことも行われている。さらに漫画家・編集者共同の会社であることから、編集者は担当作家の単行本の売上によってインセンティブを受け取る仕組みになっているなど、収入面での配慮もされているという。今までの出版社の場合、経営者は編集者でも作家でもないわけで、制作コストはなるべく抑えたいという欲求があった。つまり現場の制作サイドと出版社の欲求のベクトルが実は食い違っていたわけだが、コアミックスの場合はそれがより同一ベクトルに近い。うまく行けば良好な制作環境と、好条件の給与体系をともに確保できるわけで、かなり注目すべきシステムといえる。

もちろんそれは理想通りに行けばという話であって、不安点も多い。その最たるものが、この雑誌が週刊であるということだ。週刊の場合、当たればデカい。その代わりに外れたときもデカい。例えば1号あたり1000万円の赤字が出たとしたら、月刊だと1年のトータル損失は1億2000万円だが、週刊だとそれが一気に5億超となる。大きな賭けだ。ただ、個人的には週刊にしたというのは評価したい。月刊だとなかなか誌名が浸透しないからだ。漫画雑誌の場合、広告を打つことがさほど多くない関係上、「書店の棚に置かれていること」が何よりの広報手段となる。それを考えると、リスクは大きいかもしれないが大きな成功を得ようと思ったら、常に棚に置かれて広報効果が大きい週刊以外の選択はなかったかもしれない。漫画業界全体で見ても、週刊雑誌の創刊というのは実に久しぶりだ。確か1996年の「ヤングサンデー」(小学館)週刊化以来のはずである。イチから週刊となると、ちょっとすぐには思い出せないくらいである。不安といえば、黄金期少年ジャンプ的な作家陣の作品が、今の読者にどの程度受け入れられるかというのも未知数だ。

これが壮挙となるか愚挙となるかは分からない。しかし、これだけの大型創刊というのはなかなか見られるもんじゃない。個人的にはこの雑誌にはとても成功してほしい。というかこの雑誌が成功しなかったら、しばらくほかの出版社も大型創刊にチャレンジしにくくなってしまうのではなかろうか。そういう意味でも応援したいし、新しい漫画制作システムという意味でも成果を挙げてほしい。ちなみに発売日は毎週火曜日なんでお忘れなく〜。

それでは4月の雑誌の話に。

「九龍」 vol.1 (河出書房新社)
九龍
「九龍」vol.1
河出書房新社
「コミックバンチ」で新潮社が漫画雑誌業界に参入したわけであるが、こちらは河出書房新社の初参入雑誌である。河出書房新社はこのところ、山崎さやか「ラブ・ゾンビ」などマニア的にありがたい単行本をいくつか出すなど漫画への取り組みを強めており、この雑誌の創刊もその流れの一環といえる。で、第1号の執筆陣は以下のとおり。

表紙:田島昭宇/イラスト:多田由美、ウータン・チョップ、古屋兎丸、モーニング・コング/漫画:大越孝太郎、藤原薫、新井理恵、永福一成、イダタツヒコ、秋重学、山崎さやか、松本次郎、柏木ハルコ、東篤志、逆柱いみり、山口綾子、萩原玲二、太陽星太郎、加藤さゆり、内田雄駿、座神孤独/スペシャル鼎談:エンキ・ビラル×永福一成&大越孝太郎

メンツを見て真っ先に思ったことは「ヤングサンデー系の作家が多い」ということ。半年に1回という刊行ペース、高級感のあるB5平とじの装丁、1000円という価格設定からいって、もっとトンがった感じの雑誌になるかと思っていたらけっこう丸い印象で意外だった。まあメジャー系の雑誌でもコンスタントにまとめられるタイプの人が中心なんで当然といえば当然なのだけれど、COMIC CUEやマンガ・エロティクスFなど似たようなベクトルのハイクオリティ路線な雑誌は増えてきているだけに、ちょっと弱いかなと感じたのは事実。小学館の「IKKI」が、この2分の1強の価格で2倍以上の厚さ、3倍の頻度で発売されることを考えるともう少し斬新さが欲しいところではある。面白い人が揃っているし、中身的にもけっこう楽しめはするだけに、さらなるパワーアップを望みたい。

「ヤングアニマル増刊 嵐」 5/15  No.1 (白泉社)
ヤングアニマル増刊 嵐
「ヤングアニマル増刊 嵐」5/15 No.1
白泉社
こちらは新創刊とはいいにくいのだが、今号から定期刊行物になった。偶数月の第一金曜日発売というなんだか微妙な発行ペースである。創刊号での注目は、岩明均の新連載「ヘウレーカ」がスタートしたこと。カルタゴとローマの戦いを描く歴史モノでなかなかシブい。
「月刊コミック特盛」 5月創刊号 (ホーム社)
月刊コミック特盛
「月刊コミック特盛」5月創刊号
ホーム社
で、もう一つ新創刊雑誌なのだが……。ハッキリいってこの雑誌にはけっこう衝撃を受けた。それも負の方向に。なんといっても「日本初!!総集編・月刊誌創刊!!」なのである。そして内容は「魁!!男塾」総集編「驚邏大四凶殺編」……。こういう雑誌形態の総集編というのはよくあるけれど、まさかそれを月刊で出してくるとは思いもよらなかった。確かに最近、コンビニ売りをメインにした「マイファーストビッグ」のような、300円コミックスシリーズが流行ってきている。それを雑誌形態でやったと考えれば頷けはする。企画として悪くないとも思う。でもやっぱり雑誌好きな人間としては、新雑誌にはもう少し夢を見させてほしいと感じてしまう。これも長い不況で漫画界がいよいよ守りに入った証なのだろうか。「魁!!男塾」の豪快で華々しい内容とは裏腹に、なんだか寂しい気持ちになった。
「モーニング新マグナム増刊」 5/16  No.20 (講談社)
モーニング新マグナム増刊
「モーニング新マグナム増刊」
講談社
もう一つ残念だったというかなんというかなのがこの雑誌。これまで、とくに初期の数号は非常にクオリティの高い作品ばかり掲載してマニア筋を唸らせた「モーニング新マグナム増刊」だが、この号で最終号となった。といっても8月20日に新月刊誌「イブニング」が創刊するからなのだけど、これが予告を見る限りではどうもかなり無難な顔ぶれとなってしまうらしい。予告で名前が出ているのは弘兼憲史、田島孝&東風孝弘の「カバチタレ!」コンビ、きくち正太、さだやす圭、かわぐちかいじ、片山まさゆき、伊藤理佐、佐藤マコト、杉作、正木秀尚、郷田マモラ、高倉あつこ、安田弘之。実際にはモーニング本誌掲載作品の番外編的な作品が多くなるようで、手堅いっちゃ手堅いが、どうもいまいちワクワクしない。

そのほか「続々登場」メンツとして、井上雄彦、山下和美、野中英次、やぶうちゆうき、水島新司、吉開寛二、木葉功一、吉田基已、所十三、惣領冬実、西村ミツル、やまあき道屯、鈴木あつむ、高橋のぼる、富田安紀良、幸村誠、安野モヨコ、三宅乱丈、秋月りすといった面々もアナウンスされているがさてどうなるか。とりあえず8月20日にお手並み拝見……である。

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