■小田扉の初単行本が大注目 〜単行本(1)
3月は年度末。ということで駆け込みで単行本がやたらいっぱい出る時期でもある。いや、実際読むのがおっつかないくらい要チェック本が出ていて、3月はけっこうたいへんだった。そんな中からしばた的注目作品を紹介していきま〜す。
「こさめちゃん」 小田扉 (講談社)
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「こさめちゃん」
小田扉
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3月にはいろいろ面白い単行本があったけど、何はさておきコレでしょう!……と強くオススメ。小田扉の商業誌発表作は「モーニング新マグナム増刊」および「モーニング」に掲載された「話田家」など数本しかないのだが、それに同人誌発表作品を何本か追加して単行本化。フツーならばページ数も足りないし出なかったであろう単行本なのだが、企画して刊行まで持っていってくれた編集者の方には大感謝である。で、内容のほうだけど、これがちょっと一口でいうのが難しい。短い作品が多いし、その一つひとつもさほど大きな筋立てがあるわけではない。でもこれが面白い。飄々とすっとぼけた味わいの絵柄、さくっとツボに入ると爆笑を呼ぶさりげないギャグ、じんわり浸みてくるわびとさび。実に気持ち良く肩の力が抜けていて、1ページ1ページ眺めているだけでも快感である。別にガシガシに描き込んだ絵ではない。でもなんともいえない味がある。こういう力の抜けた一枚絵でこれだけの妙味を出せる人はかなりまれだ。短絡的なことをいい方はしたくないけどこの本に限っては「とにかく読め」といわせていただきたい。
「チクサクコール」 うすた京介 (集英社)
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「チクサクコール」
うすた京介
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妙な味わいといえば、この本も忘れちゃいけない。現在、「週刊少年ジャンプ」で「ピューと吹く!ジャガー」を連載中、「すごいよ! マサルさん」のうすた京介の短編集である。初期短編も含めた、得体の知れないパワー、センスを感じさせる作品がいろいろと集められている。唐突なギャグなんだけど、妙にまったりと日常に溶け込んだギャグにしみじみとおかしさがあって良い。
「REAL」 1巻 井上雄彦 (集英社)
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「REAL」1巻
井上雄彦
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バスケットボール漫画の不朽の名作「SLAM DUNK」で知られる井上雄彦が「ヤングジャンプ」(集英社)で不定期連載中の「REAL」が単行本化。この作品は、熱血ぶりが学校の部活の仲間からうとんじられバスケ部を退部、学校からもドロップアウトした男・野宮と、こちらも勝ちにこだわりすぎてそれまでの仲間と別れることになった車椅子バスケマン・戸川が出会うところから始まる。人一倍愛するがゆえ思うようにバスケができない環境になってしまった男たちが主役であるだけに、そのバスケに賭ける想い、プレーへの渇望は果てしなくアツい。この作者は本当にバスケが好きなのだということがヒシヒシと伝わってくる。連載ペースが遅いのでなかなか続きが読めないんだけど、それだけにこちらとしても「早く続きを読みたい」という気持ちが募ってくる。申し分なく面白い。
「雪の峠・剣の舞」 岩明均 (講談社)
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「雪の峠・剣の舞」
岩明均
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関ケ原の合戦の後、新たな生き残りの道を模索していかなくてはならなくなった佐竹家のお家騒動を描いた「雪の峠」。村を襲い家族を殺し自らを凌辱した武士たちに復讐するため、剣聖・上泉伊勢守の一番弟子・疋田文吾郎に押しかけ弟子入りした少女の物語である「剣の舞」。それぞれ「モーニング新マグナム増刊」(講談社)、「ヤングチャンピオン」(秋田書店)で連載された作品。なかなか単行本にならなかった両作品だが、1冊にまとまってくれて一安心。岩明均といえば「寄生獣」でSFチックな作品のイメージがあるが、この2作品はともに歴史モノ。力のある作家だけにしっかりした読みごたえのあるお話に仕上がっている。抑え気味なトーンで着々とエピソードを積み上げていく話作りは実に手堅い。また、甘くはないラストも感慨深く「匠の技」といった雰囲気を感じさせる。
「クロ號」 1巻 杉作 (講談社)
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「クロ號」1巻
杉作
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幼いころに親と別れて妹とともにヒゲ男のもとに拾われてきた黒猫の「クロ」の視点で描く日常風景。筆系の画材で描かれたと思われる丸みのあるタッチはとても完成度が高く、初単行本とは思えないまとまりぶり。ストーリーのほうも、ほのぼのとしたムードでありながら、猫の世界の厳しい現実も描いていたりして何気に読みごたえがある。
「空想科学エジソン」 1巻 画:カサハラテツロー+立案:柳田理科雄 (ソニー・マガジンズ)
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「空想科学エジソン」1巻
画:カサハラテツロー
立案:柳田理科雄
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「コミックバーズ」連載の冒険活劇。周囲が高い岩壁で囲まれて外界から隔離されていた聖域「ノストラジア」から、「エジソンシュタイン」という謎のしゃべる球状機械に導かれて外に飛び出した腕利き工房少女・ミロの活躍を描く物語。この作品ではなんといってもアクションシーンがダイナミックなのが良い。スピード感があるし、発明品を駆使してピンチを脱するシーンは素直にわくわくするものがある。カサハラテツローの伸びやかな作画も見ていて気持ちがいいし、これからも楽しみな一作。
「プニャリン」 1巻 コージィ城倉 (小学館)
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「プニャリン」1巻
コージィ城倉
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こちらは「週刊少年サンデー」(小学館)連載。内股でカマくさく、身体はちっちゃくて迫力はないんだけど、とにかくやたら強い力士・男股山(愛称「プニャリン」)の活躍を描く相撲ギャグ漫画。この作品、サンデーの中ではわりと地味なほうだと思うんだが、けっこう面白い。なんといっても相撲をやる気がまったくなさそうな開き直りっぷりがいい。プニャリンのキャラクターもきちんと立っているし、コージィ城倉の物語推進力はいつもながら強力。するする気楽に読めるのが強みだ。
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