漫画的男子しばたの生涯一読者
TINAMIX
漫画的男子しばたの生涯一読者
しばたたかひろ

■出版社Webについてちょっとだけ考える

それではまず今月も雑誌の話から行ってみよう…… と、その前に。紙媒体の本でなく電子媒体の話題で注目なのを一つ。青林堂から出ている「ガロ」のデジタル展開である「デジタルガロ」がスタートした。これは登録会員がPDF形式でガロ掲載漫画をダウンロードできるというサービスで、現在のところつげ義春、山野一、QBBらの作品が購入可能となっている。もちろん実際にWebで有料の漫画ダウンロードサービスを受ける読者がそんなにいるかといえば、かなり疑問ではある。これは本連載の第3回でも書いたことなんだが、ダウンロードするのは正直なところ面倒だ。ただ、こういうふうにデジタルデータで蓄積しておくのは、将来的にバックナンバーの入手が難しくなったときに効果を発揮してくるはずだと思われる。

ここでちょっと面白いのが、このデジタルガロ、Webの「〜Watch」シリーズやパソコン書籍の「できる〜」シリーズで有名なインプレスグループの、インプレスコミュニケーションズと手を組んでいることだ。こういったWeb雑誌は、インターネットがらみのノウハウを持っていない出版社が紙媒体のものをそのままWebに持ってこようとして失敗しているケースが多いのだが、インプレスグループならWebのノウハウの面では問題ない(はずである)。

それはさておき、漫画系の出版社のWebを見て回るとよく分かると思うのだが、けっこうな大出版社でも戦略がお粗末なものが散見される。そんな中、Web漫画雑誌を立ち上げるに当たって「それならばWebのプロに委託しよう」というのは、現状では賢明な選択だと思われる。そういえば第12回で触れた「ビッグコミックスピリッツ増刊 IKKI」のダウンロードサービスも、複数出版社とアクセスチケットシステムズが共同で運営する「まんがの国」というサイトで行われている。「IKKI」は最近では漫画情報サイトの「フランケン」と手を組んで、松本大洋壁紙の配布やフィギュアの販売を開始したりもしている。

もちろん将来的には出版社も自前でWebパブリッシングに取り組んでいくに越したことはないのかもしれないが、ヘタに使いにくいサイトを作ってしまうよりも外に任せちゃったほうがいい場合も多かろう。実際、決済システムまで自前で作ろうと思うと、すごくタイヘンだし。というわけでこれからは出版社のWebサービスは、外部の会社に依頼するのが主流になっていくんだろうなーと思ったしだい。

■美少女漫画に変動の兆し? 〜雑誌

前置きが長くなっちゃったけど、それでは紙媒体の雑誌のほうに話を移そう。

「コミックビーム」 4月号 (エンターブレイン)
サルぽんち
「サルぽんち」
鈴木マサカズ
3月でまず印象深かったのがこの雑誌。連載作品の入れ替え時期であるせいか、最終回、新連載、読切と特筆すべき作品がてんこ盛りで、1冊読んだだけでお腹いっぱい。すごい充実ぶりだった。

最終回組ではまず鈴木マサカズ「サルぽんち」が素晴らしい出来だった。群れを離れて放浪するサル3匹の道中を描くという感じのお話だったのだが、コミカルな描写とは裏腹に「生きる」ことの意味を真摯に模索するストーリーはものすごく深みがあった。連載開始当初は地味だったし、雑誌の中でも目立つポジションにある作品ではなかったが、素晴らしくいい作品となった。正直ここまで良くなるとは思っていなかったのでびっくりした。こういう作品は、ぜひ単行本にしてもらいたい。それから市橋俊介「テルオとマサル」も最終回。クレイジーな男子二人組がイカれたパワーを発散し続け、恐ろしいハイテンションで駆け抜けた作品だった。ラストも非常にブッ飛んでて爽快。非常にアクは強いが、抗いがたいパワーがあった。これも単行本化を強く希望。タイム涼介「東京カイシャイン」もおしまい。こちらはお下品で脱力系のギャグ漫画で、スッとぼけた持ち味が愉快だった。これらと入れ替わるように始まったのが、鮪オーケストラの新連載「トニーの背中はよく曲がる。」。コミックビームの作家さんはアクの強い人が多いが、この人もかなりなもんである。濃厚な絵柄、突拍子もないストーリー展開など、先が楽しみなような不安なような怪しい魅力を持っている。

テルオとマサル
テルオとマサル
市橋俊介

読切では、日常と非日常がまったりと融和した和むSF世界を描く新谷明弘の「期末試験前也 〜人類総家畜化計画〜」が面白かった。人類が「うまそう」という理由のもとに宇宙人に目をつけられ家畜化されようとする中で、とくにやることもなく主人公は試験勉強を続けるというシュールなお話。それから竹本泉の読切シリーズ「よみきりもの」が最近滅法面白いのも要注目。この人の描く漫画には、ほかの人が真似できない独特の間とトキメキ感がある。自分ならではのスタイルをしっかり持っていてマイペースかつコンスタント。意外とこの人と似たような作風を持った人というのはいないような気がする。このワンアンドオンリーぶりは、あだち充と通ずるものを感じる。

「リイドコミック爆」 5月号 (リイド社)
リイドコミック爆
「リイドコミック爆」5月号
リイド社
リイドコミックがリニューアル。連載入れ替えといえばこの雑誌は凄かった。なんと掲載作品はオール新連載。新執筆陣は中山昌亮、深谷陽、石山東吉、さとうしんまる、修生、八月薫、立沢直也、佐藤ヒロシ、藤波俊彦、岡村賢二、坂辺周一、古沢優、みたにひつじ、矢野健太郎、雅亜公、鈴木サトル。どの作品も連載モノの第1回なんで、これからどうなっていくかはまだ見えないのだが、「オフィス北極星」の中山昌亮、深谷陽、気合い入りまくりな濃いヤンキー系作品を描く石山東吉など、メンツとしてはなかな楽しみな人が揃っている。
「まんがタイムDash!」 (芳文社)
まんがタイムDash!
少年の娘 うかがう男
「まんがタイムDash!」
芳文社
「少年の娘」
志村貴子
「うかがう男」
深森あき
こちらは単発モノなのかな? 執筆陣は、ふじのはるか、ひらのあゆ、有間しのぶ、山田まりお、渡辺電機(株)、岸香里、深森あき、高田三加、三ヶ田りこ、水無月由美子、下地のりこ、志村貴子、尾花沢トロウチ、ピョコタン、水都一美、赤田雑貨、まやひろむ、小坂俊史、唐沢なをき、神奈川のりこ。基本は4コマだけど、非4コマの作品もけっこうあるし、「ほのぼの」尽くしのいかにもな4コマ漫画雑誌とは一線を画している。この中で注目は、まずなんといっても志村貴子「少年の娘」。この人は「コミックビーム」で「敷居の住人」を連載中の作家さんだが、最近の充実ぶりは著しい。今回のお話は、結婚を控えた女性が、美人だった母親、そして父について思いを馳せるといったお話。マリッジ・ブルーという言葉だけでは片づかない、懐かしかったり苦かったりする複雑な想いを、さりげなく美しく描く表現力にはまったくシビれてしまう。それから深森あき「うかがう男」も、瑞々しく爽やかなラブコメに仕上がっていて、気持ちのいい作品だった。目立たない増刊系雑誌だけれど、こういうところにも意外とアタリ作品が掲載されているから油断がならない。
「コミックリベル」 Vol.1 (日正堂)
コミックリベル
「コミックリベル」Vol.1
日正堂
日正堂という、漫画関連ではあまり聞いたことのない出版社が新規参入。毎月2日発売の月刊誌である。創刊号の執筆陣は薮口黒子、作:小林たけし+画:松田大秀、小林源文、コレサワシゲユキ 、水原賢治、両刃剣、速水螺旋人、鈴木音吉、滝沢聖峰、田中雅人、そうま竜也。内容だが、大ざっぱにいえば2輪&4輪のエンジン付き機械がメインなモータースポーツもの、それから太平洋戦争などから題材をとった戦記ものが柱となっている。なんだか妙な取り合わせのような気もするが、車にしろバイクにしろ、戦車にしろ飛行機にしろ、「人間が乗ることのできる現実的なメカ」という点では共通するところがあるし、愛好者のメンタリティにも似たところがあるのかもしれない。実際読んでみたところ、あまり違和感は感じなかった。ただこの雑誌でよく分からないのが、オタクテイストなロボット系の作品、ファンタジーテイストな作品も同時に存在するという点。小林源文などシブい硬派な軍事モノがあるかと思えば、その直後にベタなオタクノリの作品が掲載されているなどかなり不思議な感触。まあテーマ誌と考えず、マルチジャンルな総合誌と考えればおかしくはないのかもしれないけれど。まだいまいち雑誌の性格がつかめていないので、何号かは様子見したいと思う。

……とか書いた後、4月2日発売のVol.2で早くも休刊になったというニュースが飛び込んできました。あらー。

「メガキューブ」 Volume.1 (コアマガジン)
メガキューブ
「メガキューブ」Vol.1
コアマガジン
次に美少女系漫画雑誌の創刊を二つほど。まずは前回書いたとおり、2月発売号をもって休刊した老舗美少女漫画雑誌「ホットミルク」の後継誌「メガキューブ」が創刊。基本的に同社の「コミックメガストア」と同様な、B5平とじでつや消しな高級感のある表紙を用いた装丁となった。第1号の執筆陣は、天織龍樹、後藤晶、平木直利、竹下堅次朗、智沢渚優、瓦敬助、船堀斉晃、山文京伝、芦俊、町田ひらく、きお誠児、舞井武依、G=ヒコロウ。基本的に前身のホットミルクの執筆陣を継承している。今のところ、まだどのような方向に進むかハッキリ見えておらず様子見段階ではあるのだが、「ホットミルク」の問題点の一つであった「柱となる作品の不在」は解消されていない印象。この点についてはVolume.2で登場予定の、田沼雄一郎による名作の復活、「PRINCESS OF DARKNESS」に期待したい。なお、発売日は毎月10日だ。
「ヒメクリ」 volume01 (FOX出版)
ヒメクリ
「ヒメクリ」vol1
FOX出版
こちらは「コミックメガフリーク」の増刊扱いで創刊した美少女漫画雑誌だ。FOX出版といえば、マニア層に特化した品揃えで近年成長を遂げている書店、コミックとらのあなの出版部門である。得意の美少女漫画のフィールドで、今度は自ら雑誌まで手がけてしまうというわけだ。本の外見としては、コート紙を用いた表紙(ビブロスの「COLORFUL萬福星」に似たような作り)がまずは目立つ。第1号の漫画執筆陣は、BLUE BLOOD、海野蛍、抜山蓋世、朝比奈まこと、さきうらら、左、ヒノエナミ、小山雲鶴、S・マスター、土肥けんすけ、戸隠黒五、パニックアタック。それから井上眞改の4色カラー袋とじ漫画(2ページ)もあり。美少女漫画のフィールドにおける超人気作家、大御所的存在はいないけれども、これが読んでみるとなかなか面白かった。ソフトエロ+ラブコメといった感じの作品が多くて、萌えパターンをしっかり押さえている。このところ「MUJIN」(ティーアイネット)などに代表される、ハードコアな鬼畜路線が流行っていたエロ漫画界だけれど、個人的にはその反動もあってラブコメ路線がこれから大きく伸びそうな気がしている。そんなわけでラブコメ路線で固めたこの雑誌は、ちょっと注目である。ちなみに発売日は奇数月の月末のようだ。
「ZetuMan」 4月号 (笠倉出版社)
ZetuMan
「ZetuMan」4月号
笠倉出版社
美少女漫画系の話題が続くが、こちらは休刊である。アンソロジー的なジャンル誌とならずハードコアにも走らないで、美少女漫画のスタンダードな路線を走っていた雑誌だが力尽きた模様。この雑誌も「ホットミルク」と同様、美少女漫画のB5平とじブームに乗って、遅ればせながらB5平とじにリニューアルしたが強い特徴を打ち出せないままだった。

この2誌以外にも、B5平とじになってから取り扱いコンビニが減って入手性がめっきり悪くなった「零式」(東京三世社)や、一度はB5平とじにしたもののまたB5中とじに戻した「激漫」(ワニマガジン)など、B5中とじ→B5平とじのリニューアル組の苦戦が目につく。B5平とじだとボリュームがアップする分、強いキャラクターを打ち出せないと冗長に感じられがちだし、価格も高めに設定されているので厳しく見られてしまうことが多い。コンビニでも美少女漫画雑誌についてはあまり平とじ雑誌は扱わないので、その点でも不利なのであろう。

こういった製本方法によるグループ分けはともかくとして、ここのところの美少女漫画雑誌は、これまで以上に「勝ち組」「負け組」がハッキリしてきた感がある。もともとさほど大きくないパイに対して、異様とも思える数の雑誌数が乱立していたこの業界だが、いよいよサバイバル状態が加速してきた。「オカズ」用途でエロ系に強い需要を持つ若年層が少子化とこのところの漫画離れによって美少女漫画雑誌を買わなくなってきたうえ、これまでメイン読者層であったと思われる現在20代半ば〜30代前半の層も結婚などを機にどんどん読者として現役を引退していく。うーん、厳しいなあ。

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