漫画的男子しばたの生涯一読者
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漫画的男子しばたの生涯一読者

■エロガロナンセンス! 〜単行本

なんか11月のしばた的注目単行本を挙げていったら、いつもよりやけに多めになってしまった。こういうのってどうも波があるらしく、面白い単行本が出るときはぼこぼこ立て続けに出るし、出ないときはピタッと鳴りを潜めてしまう。今月はエロ漫画方面がらみ(非エロ含めて)で注目単行本がいっぱい出たんでまずはそのあたりから行ってみようじゃありやせんか。

・注目作品ズバズバ 〜エロ漫画方面

菜々子さん的な日常
「菜々子さん的な日常」
(c)瓦敬助

まずは瓦敬助「菜々子さん的な日常」(コアマガジン)。この作品、単行本が出るのをすごく楽しみにしてたのだ。「漫画ホットミルク」(コアマガジン)連載作品なのだが、一回ごとのページ数が少なくてなかなか単行本にまとまりにくいかなと思っていたし、コアマガジンってなんでもかんでも単行本にするってわけでなく出すモノを選ぶ傾向があるというイメージを持っていたからなおさらだ。このお話の舞台は、北海道にある木造校舎の高校。そこに通う平凡な男子・瓦君が、同じクラスの気になる女の子・菜々子さんが見せる、自然なんだけどちょっとHな姿を見てドキドキする……というのが大筋。この作品の良さを要約してしまえば「菜々子さん萌え〜」というところに行き着いてしまうのだが、実際この娘、相当に魅力的である。健康的で開けっぴろげ。天然ボケ気味でとくに意識してないけれどもやることは大胆。それがセックスに結びつくことはなく、あくまで「高校時代の」「思い起こすとトキめく」「ちょっとHな想い出」に止まっていて、二人の関係も友達の域を出ることがない。昔を懐かしむような語り口にも和むものがある。爽やかな青春物語+心華やぐサービスシーンって感じですごく読んでいて気持ちいいんである。これはなかなか珍しい魅力を持った作品といえましょう。

11.1
「11.1」
(c)町田ひらく

次に町田ひらく「11.1」(一水社)。町田ひらくとしては「Alice Brand」(コアマガジン)以来2年ぶりの単行本となる。この人のクールで、透明感、緊張感のある作風はすでに風格さえ感じさせる。登場人物たちの微妙な表情の動きの描写、気怠い雰囲気作り、印象的な構図取りなどいずれもビシッとハマっててシビれるかっこよさである。少女をモチーフとした苦みのある作品が印象に残るが、もちろん大人を描いても十二分にうまい。町田ひらくの澄み渡った画面と凡百のエロ漫画を比べると、ハイビジョンとVHSの3倍速録画くらいの違いを感じてしまう。それほどにクオリティが高い。なお、今回のチェック期間だと町田ひらくは「エクストラビージャン」1/5(集英社)で「めすいぬのむすめ」という読切を描いていた。こちらも完成度の高い、とてもかっこよい作品に仕上がっていた。


テレビばかり見てると馬鹿になる
「テレビばかり見てると馬鹿になる」
(c)山本直樹
としうえの魔女たち
「としうえの魔女たち」1巻
(c)むつきつとむ
ももいろさんご
「ももいろさんご」1巻
(c)花見沢Q太郎
パラノイアストリート
「パラノイアストリート」1巻
(c)駕籠真太郎

山本直樹「テレビばかり見てると馬鹿になる」(太田出版)は、MANGA Fコミックス第1弾となる単行本だ。「MANGA F」「MANGA EROTICS」(共に太田出版)、「スーパージャンプ」(集英社)、「漫画アクション」(双葉社)に掲載された作品を収録した短編集である。山本直樹については今さら何をかいわんやという作家であるが、今回の単行本も実に山本直樹「らしい」出来となっている。必要最低限な線で艶めかしいエロシーンを描き出し、現実と非現実の境界をあいまいにして読者を幻惑するような作風はこの人ならでは。すでに手慣れたものという感はあるが、これだけのことをこれだけ自然にできる人というのは、漫画界広しといえどもそうそういるものではない。

ラブコメムードがとても強くて印象に残ったのがむつきつとむ「としうえの魔女たち」1巻(シュベール出版)。母親の同級生なんだけど童顔で子供っぽい、でも中身はもちろん大人な女性・小鳥さんに、高校男子の清孝がどんどん惹かれていってしまうラブストーリー。なんといってもこの作品の肝は小鳥さんの魅力にある。設定的には若干無理があるんだけど、それを吹っ飛ばすほどに愛くるしいのだ。甘くてほんのり切なくて。この人は、ラブコメに関してはエロ漫画界でも屈指の描き手さんであり、コンスタントにいい作品を描いている。「零式」(リイド社)にて連載中なので、1巻を読んで興味を持った人は雑誌でもぜひチェック。なお零式は毎月10日発売B5平とじ本だ。

えーとこれはエロ漫画じゃないんだけど、まあそっち方面出身作家さんということで。花見沢Q太郎「ももいろさんご」1巻(少年画報社)。まあ話の流れ的にもラブコメできていたわけだし。この作品は、美人三人姉妹が住む洋館で下宿を始めた主人公・三悟、それから三悟のバイト先の同僚で憧れの人である百合子さんを巻き込んで展開する、甘くてヌルくてドタバタな日常を描く物語である。花見沢Q太郎の、スッキリとしてなおかつトロトロに甘い絵柄が、萌え心を激しく刺激。設定的には「ラブひな」に通ずるところがあるけれども、ドタバタでうやむやにしない分、甘さが濃密でキュンキュンくる。「ヤングキング」(少年画報社)連載作品で、いったん連載は終了したかと思ったのだけど、単行本が出てみたら「1巻」であった。ってことはまだまだ続くというのか〜?

駕籠真太郎「パラノイアストリート」1巻(メディアファクトリー)。こちらもエロでありません。すんません。でもまあ今もエロ方面を中心に活躍している人だしってことで。この作品は、「コミックフラッパー」(メディアファクトリー)掲載の本格的な月刊連載である。お話としては、「渡り鳥探偵」黒田が助手とともに各地を転々と渡り歩き、行く先々の奇妙な掟が支配する町で奇天烈な事件に巻き込まれていく……というもの。もちろん駕籠真太郎作品だけにフツーの探偵モノになるわけがなく、行き先の町は、すべてのものを計測器の測定結果によって決めるところだったり、住民がすべて逆さになって生活しているところだったり、なんでもかんでも接着する町だったり。そのように町ごとに一つ、ガシッとルールが定められていて、それをひねくりねじくりして異様なシチュエーションを作り上げ、遊び倒している。相変わらず「どこからこんなアイデアが出てくるんだろう」という奇想満載だ。今回の作品で特徴的なのは、駕籠真太郎としては珍しく黒田という読者視点のツッコミ役を用意したこと。これにより、笑いどころがかなり明確になり、駕籠真太郎ビギナーにとっても分かりやすくなった。といってもギャグが浅くなったわけではなく、相変わらず軽妙でテンションは高い。駕籠真太郎は12月にも「アイコ十六歳」(青林堂)、「喜劇駅前花嫁」(太田出版)と単行本2冊が発売予定となっており、昨年以来の単行本ラッシュが続いている。

串やきP
「串やきP」1巻
(c)SABE

「コミックフラッパー」掲載作品からもう一冊。SABE「串やきP」1巻(メディアファクトリー)。こちらはかなりヘンな作品である。「変なペンギン」に改造されたオオウミガラスの串Pが、故郷の北極に帰ることもできず、ただただ闘争本能に血をたぎらせ、犬やカンガルーなどと凄絶なバトルを繰り広げる動物格闘バトルものなのである。邪悪な目つきをしたペンギン的な生物の恐るべき体術。そして絶望と殺戮。ある意味ハードボイルドでカッコよくもあるのだが、全体としてはやはりどこかイカれている。SABEならではのやけっぱちな作風が存分に発揮されていて、ちょっと類を見ない特殊な物語となっている。何をしでかすか予想のつかない刺激的な作品である。


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