漫画的男子しばたの生涯一読者
TINAMIX
漫画的男子しばたの生涯一読者
しばたたかひろ

■大型創刊あり急速休刊あり 〜雑誌

「2000年は宇宙!」とかことあるごとに言い続けてきたのに、ここに来て宇宙漫画の中で期待の一番星であった「ヤングサンデー」(小学館)連載、山田芳裕「度胸星」が中途半端に連載終了してしまってガックシきている今日このごろだったりする筆者ですが、皆様いかがお過ごしでしょうか。

2000年内最後にして第10回となる今回は11月の漫画の話題。11月は雑誌がらみでけっこう大きな創廃刊の話題があったのでそのあたりからいってみよう。

・小学館期待の凄玉新増刊 IKKI

IKKI
「IKKI」表紙
小学館

11月も最終日、30日に創刊された小学館期待の凄玉雑誌。それがビッグコミックスピリッツの新増刊「IKKI」である。小学館系他雑誌でも大々的に自社広告が打たれていて、ずいぶん気合いが入っていたことが伺える。なんつっても執筆陣を見れば、いかに小学館がこの雑誌に賭けているかがよく分かる。

まずは10月に久々の単行本「GOGOモンスター」が発売された松本大洋を頭に持ってきて、山本直樹、唐沢なをき、相原コージ、黒田硫黄、日本橋ヨヲコ、比古地朔弥、本秀康、画:平凡&陳淑芬+作:坂元裕二、永田綾、しりあがり寿+EVA、伊藤潤二、小野塚カホリ、さそうあきら、森田信吾、片桐利博(原案&監修:信沢あつし)、滝沢聖峰、林田球、茶屋町勝呂、稲光伸二、英時世、石川賢、見ル野栄司、松永豊和とくる。小学館系のビッグネームだけでなく、他出版社で活躍している俊英も集め、まったく出し惜しみなく投入。漫画マニア的には、名前をざっと眺めただけでも顔がニヤけてきてしまうようなゴージャスなメンツだ。

B5平とじで分厚い装丁は「アフタヌーン」(講談社)を思い起こさせるが、おそらく同カテゴリの競合他誌をかなり意識しているのだろう。最近の小学館は、昨年末創刊の「GOTTA」が講談社の「マガジンZ」、今年創刊された「サンデーGX」が集英社の「ウルトラジャンプ」と、他社ライバル誌を強く意識したと思われる新雑誌が目立つ。こういった悪くいってしまえば二番煎じ的路線には賛否両論あるだろうけれども、競争を辞さないガツガツした姿勢は個人的には評価したい。健全な競争は業界の活性化、ひいては個々の作品のレベルアップを促すモチベーションの増大につながる。

とはいえ、さすが小学館というかなんというか、攻めの姿勢は見せつつも実際の誌面についてはソツがない。なんだかとても手慣れた作りでよくまとまっている。豪華執筆陣は意外と連載モノが多く、連載導入部ということでパンチ力という面では多少欠けるところはあるものの、皆それぞれの持ち味を発揮していて手堅い。ただ、その分爆発力に欠けているというところはある。また、あまりにもギッチリ隙がなく構成されているので、息の抜きどころがなくてお腹いっぱいになりすぎちゃうという欠点もある。も少し気楽に読めるギャグとか、アニメっぽい滑らかな読み心地の作品を戦略的に何本か差し挟んでも良かったように思う。今の状態だと一冊読み終わるころにはぐったり疲れてしまう。ここらへんは気合いが入りすぎて気負いになってしまったか。ただ、このあたりは号数を重ねていくうちにいい具合にこなれてくるんでないかと思われる。ロゴを含めた表紙デザインが決定的にダサいのはかなり惜しまれるところだが……。

ともあれ、アフタヌーン本誌/シーズン増刊やモーニング新マグナム増刊など、講談社に制されていた感もある漫画マニア向け分野において、IKKIは十分にインパクトを与えられる雑誌に仕上がった。2001年1月末発売予定の第2号ではこれに加えて、さらなる新規作家(諸星大二郎と米倉けんご?)の登場がほのめかされている。今後に大いに期待したい。

・あらららら……5号でさよならコミックバウンド

コミックバウンド
「コミックバウンド」表紙
エニックス
コミックバウンド
「ボロブドゥール」
(c)太田垣康男

お次は景気の悪い話題である。本連載の第8回めで紹介したエニックス初の青年誌「コミックバウンド」が第5号で早くも休刊。月2回発行だったので、2か月半という超短命雑誌となってしまった。第8回めで「非常に先行き不透明感のある雑誌」「コミックビンゴとかを思い出しちゃったりもする」などと書いたが、3か月もたないというのは予想を上回る短命ぶりだった。

内容的には悪くなかったと思う。作:ピエール瀧+画:漫★画太郎「虐殺!ハートフルカンパニー」、作:森高夕次+画:藤代健「トンネル抜けたら三宅坂」、土田世紀「吉祥寺モホ面」、笠原倫「サカマン」……と、終わるのが惜しいと思える作品の名前が次々挙がる。さらに太田垣康男「ボロブドゥール」という大掛かりな設定の力作も立ち上がっていたし、けっこう楽しみにしていた雑誌だった。ただ、やはり対象読者層があまりにも不明瞭で、売り出し方も弱かったと思う。まあ実際のところ、対象読者層がハッキリ見えすぎちゃう雑誌というのも、それ以外の層には売れないので大した部数は出なかったりするのだが。現在の逆風状況においては、もう少しあざとく売ってかないと新雑誌(とくにコンビニ売り系一般誌)はそうそう生き延びれるものでもないということを強く感じさせる、印象的な休刊劇だった。とくにバウンドの場合月2回発行だったので、赤字が月刊誌の2倍のペースで出てしまう。あえて月2回にした勇気は買いたいけれども、やはりいささか無謀だったかもしれない。それにしても「ハートフルカンパニー」「三宅坂」「ボロブドゥール」は惜しい。どこかの雑誌で連載再開してくれないもんかなあ。

・お久しぶりですね COMIC CUE

さて話変わって、不定期刊行「COMIC CUE」(イースト・プレス)が久しぶりに発売となった。第9号のテーマは「a little WONDER」。巻末によれば藤子・F・不二雄がSFについて語った言葉である「スコシフシギ」を、かなり曲解してテーマにしてみたとのこと。執筆陣はgroovisions、青島千穂、マッキー、画:江口寿史+作:一條マサヒデ、朝倉世界一、とり・みき、作:小原愼司+画:黒田硫黄、日本橋ヨヲコ、和田ラヂヲ、よしもとよしとも、森本晃司、南Q太、田中達之、水谷さるころ、三原ミツカズ、藤井リエ、辛酸なめ子、西島大介、大地丙太郎、地下沢中也、水野純子、タカノ綾。

COMIC CUE
「COMIC CUE」表紙
イースト・プレス

特集サイドで目立ったのが作:小原愼司+画:黒田硫黄「課外授業」。自殺したはずの女生徒の霊と、ただ一人それが見えてしまう女教師の、いっぷう変わった関わり合いを描いた作品。コンビを組んだ二人とも、単体で描いてもうまい人だけにさすがに面白い。黒田硫黄の強力な個性を持った絵の力のおかげで、全体的にはやっぱり黒田硫黄テイストのほうが強く感じられたが。あと日本橋ヨヲコ「華」も切なくて暖かい読後感を残す良い作品。あと、今号は特集サイドよりむしろ連載サイドの2作品が目立った。地下沢中也「兆 Sign」はこれまでも良かったけど、今回も抜群。すべての未来を予知してしまう能力を手に入れてしまったロボット・ピッピ、そして人類の物語である。かなりお話は大掛かりでシリアスなものとなってきた。この続きが次号が出る来年4月まで読めないというのは酷だ。それから水野純子「ドリームタワー」は相変わらずの病的なかわいさで面白い存在。

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