■単行本
先月は待望の単行本ラッシュでウヒョウヒョいっていた筆者だが、今月は先月ほどではないものの収穫はしっかりあった。
というわけで、今月の単行本紹介はまずギャグ漫画から。
・曲者連発ギャグ漫画
手始めに角川書店モノが2冊。安倍吉俊+gk「NieA_7」(ニアアンダーセブン)1巻と吉崎観音「ケロロ軍曹」2巻。
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『NieA_7』1巻 (c)安倍吉俊+gk
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「Niea_7」は、WOWOWでTVアニメも放映されている作品で、現在「エースネクスト」で連載中である。クレータ周辺区にある銭湯の二階の一室に居候中の予備校生まゆ子と、さらにまゆ子の部屋に居候の居候をしている宇宙人ニアの、ビンボーくさいへっぽこな日常を描いた作品。つや消し感のある線で描かれた絵柄は、いかにも本格的な創作系漫画っぽい上品な雰囲気なんだけど、線自体はけっこうへろへろ。そしてまた回を追うごとにお話のへなへなさ加減が増しつつ、ギャグの回転が良くなっていく。ちょいとヘンなピープルの織り成す、貧乏生活ならではのカラッとした開き直ったギャグが、そこかしこでツボにハマる。絵はうまいけれども、肩の力が絶妙に抜けていてやたら楽しく読める。
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『ケロロ軍曹』2巻 (c)吉崎観音
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「ケロロ軍曹」は、地球征服を目指すカエル型宇宙人たちがいろいろあって主人公の少年の家に居候することになり、そこでさまざまな騒動を起こすというドタバタギャグ作品である。この作品のいいところは、なんといってもキャラクターが立っててなおかつカワイイこと。つるりとしたフォルムでガンプラ好きでお掃除のプロでもある宇宙人のケロロ軍曹とその仲間たち、華やかでかわいいけど性格やら行動は一癖も二癖もある女の子キャラなどなど。彼らが軽やかに動き回り、キレのいいギャグを連発。さらにちょっぴりお色気もあったりして、実にキャッチーだ。愉快で陽気でハイテンポ。何回も読んでも飽きないタイプの楽しさがある。
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『おやつ』 (c)おおひなたごう
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「週刊少年チャンピオン」連載のおおひなたごう「おやつ」(秋田書店)は3巻が発売された。この作品はパッと見は目立たないんだけど、さりげなくヒネリの利いた虚を衝くようなギャグをスルリと忍び込ませてきて実に巧みな逸品である。前巻では野球の試合のアクションを利用して行われる奇妙な競技「パワー・ホライズン」が絶品だったが、今回は読者の考えたオリジナルキャラクター、通称「オリキャラ」の活躍が目玉である。子供層の読者が考えた稚拙な絵のキャラをそのままの形で物語の中にほうり込み、ギャグとしてまとめてしまう。なんの説明もなしに、ごく当たり前のごとくこれが行われているさまはシュールでさえある。まったく顔色を変えずにネタを連発する奇術師のように、おおひなたごうは変幻自在の技を見せつける。
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『G組のG』1巻 真右衛門
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それからアフタヌーンの端っこのほうで秘かに連載されていた真右衛門「G組のG」(講談社)の1巻が出たのはうれしい話題だった。とある学園内を舞台にしたすっとぼけたギャグの連続。基本的に4コマ漫画で、シンプルで適度に力が抜けている。学園内の生徒たちもなかなかいいキャラ揃いで、端々でクスリと笑わせてくれる。
うって変わって毒性の強いのも一冊。「夢の島で逢いましょう」改訂版(青林堂)は、現在はねこぢるyとしても活躍中の山野一の初単行本の内容に、単行本未収録だった「たんつぼ劇場」をプラスしたもの。山野一といえば「ウオの目くん」みたいな日和った作品から「四丁目の夕日」みたいな夢も希望もない非道い話まで描く人だが、おそらく非道方面の作品を期待する向きのほうが多いだろうと思う。で、この単行本は非道方面の味わいをかなり満喫できる。
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『夢の島であいましょう』 改訂版 (c)山野一
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とくに「DREAM ISLAND」がスバラシイ。重罪人を隔離して外部とまったく遮断した夢の島が舞台。この犯罪者たちは外部と接触することはまったく許されないうえ、島からわき出る不潔な虫の退治のため、強力な殺虫剤を散布され続けていた。外からそこに入る者は一人もいなかったが、チャリティの女子大生がその中に慰安に訪れたのをきっかけに、その中身の全容が白日のもとにさらされていく。汚染物質だらけの中で、重罪人たちの種から発した者どもは人間とは思えぬ畸形になり、ほかでは考えられないおぞましい進化を遂げていた。その描写の毒々しさ、特殊さは実にスパイシー。ヤバい内容がズバズバ連発されるさまは、そっち方面が好きな人にはたまらなく痛快。
・カッコよく輝く女たちの活躍に刮目
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『バスルーム寓話』 (c)おかざき真里
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おかざき真里「バスルーム寓話」(飛鳥新社)は、帯の言葉によれば「初短編集」なのだそうだ。華麗かつ艶めかしさを含んだ描線で、時折ハッとさせられるほどに鋭利な画風が鮮烈な印象を残す。今回の単行本には「1996年の夏休み」「バスルーム寓話」「夏草子」「拍手喝采ピエロ」が収録されているが、いずれも瑞々しさ、繊細で鋭いセンスが満ちあふれている。ここで描かれる世界は、とても美しい反面もろくもあり、切なく優しく心に響く。変幻自在で感覚的なコマ割りなどなど表現も巧みで、ピンと張り詰めた緊張感のなかで物語が実に高いレベルで結実している。
カッチョイイ女性といえば、「ビッグコミックスピリッツ」の目玉連載の一つである曽田正人「昴」(小学館)は単行本第1巻が発売された。この物語は、昴という一人の少女がバレエと出会い、その世界で生命のエネルギーを燃やして生きていく物語である。
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『昴』1巻 曽田正人
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彼女は子供のころ、脳障害で周りのものを認識できなくなりつつある双子の兄弟・和馬の意識をつなぎとめるため、病室でたった一人のためだけの、渾身の肉体表現を見せていた。結局和馬は想い虚しく死亡するが、彼のために繰り返されたダンスの原型ともいうべきものは、昴の中に「ダンス」の種を残す。「シャカリキ!」で知られる曽田正人だけに、この物語でもヒロイン・昴のテンションはバリバリに高い。灼熱という言葉が似つかわしい熱気あふれるパフォーマンスの数々は、バレエの知識あるなしに関わらず、読む者をビンビンと圧倒する。美しく、そして強い物語である。週刊ベースでコンスタントにこれだけのテンションを維持し、しかもさらにテンポを上げていく曽田正人の力量はまったく大したものだ。読むたびに感心させられる。
・ちっちゃい女の子が好きっ
……というくくりにするのはどうかと思うが、まあ小さい女の子がらみのコミックスを3点。といってもロリータものというくくりではない(?)ので、まあごく普通に接していただけると幸い。
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『からくり変化あかりミックス!』2巻(完結) (c)石田敦子
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まずは先日連載が終わった石田敦子「からくり変化あかりミックス!」(角川書店)の完結巻、2巻が発売された。人形たちの力を借りて変身する力を得た女の子であるあかりちゃんが、いろいろな問題に向かい合っていくという物語。魔女っ子ものではあるのだが、彼女が直面する問題は「友達との距離関係」だったり「自分の努力で何かをなしとげる」ことだったり、おおむね魔法だけでは解決できないものだ。そういったことに幼いながらも一つひとつ答えを出していく過程で、あかりちゃんはだんだん成長していく。絵がかわいいだけでなく、健全で感動的な成長物語になっている。また描写が全体に細やかで、丁寧に作られているのもいい。心暖まる、思わずホロリとくるとてもいいお話である。
それから「エイリアン9」で昨年大いに話題を読んだ富沢ひとしの新連載、「ミルククローゼット」(講談社)1巻も6月の収穫の一つ。この物語世界では、各地で子供たちが消えたりまた現れたりという現象が頻発している。戻ってきた子供たちによれば、彼/彼女たちはどうやら普通に人々が暮らしているのとは別の、平行世界へとジャンプしているらしい。その世界はまるでジャングルの奥地のようで、沼があり木々があり、狩人のようなものや巨大な昆虫のようなものなどなど、奇妙な生物が息づいている。そんなジャンプする子供たちの一人である少女・やまぐち葉菜は、不思議なお姉さんの導きによって、消えた子供たちを救出する子供たちによる組織「ミルク隊」の一員に任命される……といった感じで一巻のお話は進む。
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『ミルククローゼット』1巻 (c)富沢ひとし
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やたらと大胆な構図や大ゴマなどでもたらされる豊富なヴィジュアルイメージの反面、物語的な情報は欠落したままの、不可思議な据わりの悪さは「エイリアン9」同様。かわいいものとグロテスクなものがごく自然に融合したりする、大胆なコンビネーションも健在。そして今回は、さらに物語のスケールがアップしており、物語各所の仕掛けもより周到になっているように思われる。驚くほどに大胆で刺激的な物語。物語の全貌や段取りはまだ見えていないが、その欠落こそが読者を「次は何をするのだろう」とグイグイ引き込む力にもなっている。この作品も、また目が離せないものになりそうだ。
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『アニマル・ファーム』 (c)鎌やん
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次に鎌やん「アニマル・ファーム」(コアマガジン)も気になる一冊。こちらはロリ関連の本になるが、ロリータな女の子を描くというよりも、むしろ自らの幼児性愛という性癖を通してオタク+幼児性愛者の世界に鋭くメッセージを投げかける単行本である。自身が幼児性愛者であり、児童ポルノ法などに代表される表現規制への抵抗運動にも参加している筆者の語ることだけに、その語るところには重みがある。幼児性愛の嗜好を持たぬ人間にとっては、本当の実際の体感レベルでは共感できない部分もあるだろうが、安きに流れ思考停止するといったところに甘んじず思索を深めていく真摯な姿勢にはきっと何か感じるものがあるだろう。
・エロ系にまた期待の新星
エロ系からは3冊いってみよう。
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『CROSS』 (c)天竺浪人
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まずは天竺浪人「CROSS」(ワニマガジン)。エロ漫画というと通常1本16〜20ページ程度が基本。しかしこの単行本に収録された「激漫」掲載の作品の数々は毎回50ページ程度と、エロ漫画の短編としては異例のボリュームを持っている。そしてそれがいずれもハイクオリティなのだからうれしいことこの上ない。天竺浪人は、人の心の暗がりに踏み込むような、陰気なネームが持ち味。最近では濃厚なエロを描く腕前も向上して、作風はさらに幅が広がってきている。今回の収録作品では、エロエロだったりコミカルだったり、またジンと染み入るようないいお話だったりと、1冊で天竺浪人のさまざまな魅力を見せつけてくれる。また、お気楽エッセイものの「笹暮草」シリーズも収録されていてなんとなくトクしたような気分にもなれる。
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『puppy Love』 (c)海明寺裕
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海明寺裕「puppy Love」(三和出版)は、この連載の第1回でも名前を挙げた「K9」シリーズの最新単行本である。人間とほぼ同じ容姿をして、人間に奉仕することを義務づけられた「イヌ」であるところの「K9」を中心とした世界観を、実に周到に描き続けているシリーズだ。この1冊で評価するというよりシリーズ全体で評価したい作品だが、今回の単行本でもK9のさまざまな犬種が登場し、世界観はさらに深みを増した。ものすごい念の入りっぷりにはほとほと感服する。人間の女性(まれに男性)と変わらない容姿をした生き物が、全裸で首輪につながれ、
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『Releas Zero』 (c)安森然
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まったく当たり前の光景として町中を散歩していたりするような光景に、いつのまにやらすっかり慣れてしまっている自分にハッとしたりもする。
安森然「Releas Zero」(桜桃書房)は初作品集。B5大判で気合いの入った美麗な一冊に仕上がっている。安森然の筆致はとても美しく気品がある。少女たちは可憐でありながら肉感的。吸いつくようなむっちりした質感のある瑞々しい肉体描写はとても達者で艶めかしい。おおむね男性キャラは出てこず、少女形態のキャラに肉棒が生えているというシチュエーションを多用する。美しい少女たちとゴツゴツしたリアルな肉棒のミスマッチがまたソソるのである。美しさ、可憐さと実用性を兼ね備えており、これからの活躍に大いに期待したい有望株である。
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