TINAMIXも前回から第2クール突入ってことらしいけど、本連載のほうでは今回も変わらず漫画ウォッチングをさせていただく。というわけでこれからもどうぞよろしく〜。では前置きはすっ飛ばしていきなり本題にいってみよう。今回は2000年6月の漫画から。
■期待の新雑誌にワクワクドキドキ 〜雑誌
・Fの衝撃 〜新創刊雑誌
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『MANGA F』 太田出版
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まず6月の雑誌で最も目を印象的だったのが、月末ギリギリに飛び込んできた新創刊雑誌。数々のマニアックな単行本や斬新な誌面作りでエロ漫画界に新風を吹き込んだ「MANGA EROTICS」など、最近漫画でもイキの良さを発揮している太田出版から「MANGA F」(マンガエフ)の第1号が発売された。MANGA FはEROTICSの流れを汲む月刊誌である。といってもEROTICSがなくなるわけではなく、並行して刊行されていく模様だ。なお発売日は毎月30日。
第1号の執筆陣は、松本次郎、小野塚カホリ、山本直樹、安彦麻理絵、福山庸治、安田弘之、田村マリオ、山口綾子、町野変丸、橋本マモル、マサキノリゴ、駕籠真太郎、安田哲人、古泉智浩、畑中純。それぞれに一芸を持った曲者揃いで、なかなかに充実したラインナップ。実際の作品も気合いの入ったものが多かった。EROTICSからの流れでエロもあるが、非エロのSFやファンタジーもあるし、いい意味で混沌としている。
例えば駕籠真太郎「六識転想アタラクシア」はごくオーソドックスなコマ割り(この人としては珍しい)による奇想あふれる本格的なSFモノの連載にチャレンジしているし、先月待望の初単行本「ウエンディ」(前回参照のこと)が発売されたばかりの松本次郎は表紙を担当するとともに久々の連載モノをスタートさせた。これだけに留まらず、人体改造職人の日々を描く田村マリオ「生存者を嗤う」、異様な寄りの視点で読む者をクラクラさせる山口綾子「みずたま」など、一癖も二癖もある作品がそろい踏み。
全体にクオリティが高く、第1号としては良い出来だと思う。ただ、これを月刊で出していくとなるとどうなんだろうと思ってしまうのも確か。作品のクオリティの維持はもちろん、マニア層以外へのアピール度といった面で心配になってしまう。看板連載がまだないのは仕方ないとして、一般層向けのキャッチーな作品がドーンとあっても良いような気はする。ただ、こういったガチンコな雑誌が成功するようなら快挙でもある。まあ実際、雑誌は月刊ペースくらいで出してないと名前を覚えてもらえないとものだし、太田出版としても月々情報を発信できる橋頭堡となる雑誌があるということの意義は大きいはず。作家的に見ても固定客をガッシリつかんでいる作家が多いし、ここから単行本が出せるようになってくれば相乗効果でけっこうイケるかも。
何はともあれ、今後の動向が非常に気になる新雑誌だ。
・ヤンマガ20周年&ダメ人間祭! 〜青年誌
青年誌方面で大きく動いていたのは「ヤングサンデー」(小学館)と「ヤングマガジン」(講談社)。
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『ヤングサンデー』 小学館
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まずヤングサンデー。5号連続で新連載をスタート。その顔ぶれは以下のとおり。
平松真「最強野球部リベンジャーズ」
北崎拓「なんてっ探偵▽アイドル」(▽はハートマークの代用)
山田貴敏「Dr.コトー診療所」
作:阿部譲二+画:深山雪男「Dice of India アプサラス」
堀口純男「未来の絶対0度」
正直なところ、顔ぶれとしてはイマイチかな〜という気はするんだが、次々新しいものが始まるというのはちょっと楽しかった。この新連載の中では、北崎拓「なんてっ探偵▽アイドル」が、タイトルといい内容といい、インパクトの面で抜けている。正統派美少女、セクシーねーちゃん、ロリの3人アイドルユニットの面々が、事件を推理、解決〜というなんとも頭の軽〜い内容なのだが、これだけ軽薄だとかえって清々しい。実はけっこう気に入っている。
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『カイジ』 (c)福本伸行
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ヤングマガジンは今年で20周年を迎えるということで、いろいろと企画をブチあげていた。本誌でも大物作家の読切をいくつも掲載したほか、「別冊ヤングマガジン」No.010では、かつてのヒット作の復活祭を開催。高倉あつこ「ハゲしいな!桜井くん」、もりやまつる「ファンキー・モンキー・ティーチャー」、まんひるめめおか「BE-BOP海賊版」、永野のりこ「GOD SAVE THEすげこまくん!」、みたにひつじ「さのばびっち」、地下沢中也「パパと踊ろう」、サマンサ三吉「ぞうさん家族」、水野トビオ「WORKING CLASS」といった作品の新作が掲載。まあ正直いって、それらがそんなに面白かったわけでもないんだけど、とりあえずお祭り騒ぎってことでいいんじゃないだろうか。
と、20周年で湧いている間、筆者が一番面白がっていたのは連載復活した福本伸行「カイジ」だ。以前は「賭博黙示録」だったのが、現在のシリーズでは「賭博破戒録」となっている。限定ジャンケン、鉄骨渡り、Eカードなどの試練をくぐり抜けてきたカイジは、結局シャバに戻ったら元のダメ人間に逆戻り。借金のカタに地下での強制労働タコ部屋にたたきこまれる。ここでのカイジの生活のダメっぷりが実にいいのだ。地下だけで通用する通貨「ペリカ」を給料として与えられ、最初は「一日外出券」を手に入れるため禁欲を誓うが、しだいに目の前のビール、焼き鳥、ポテチといった安っぽい食い物の誘惑に溺れていく。以前はあれだけかっこ良かったカイジが、今では柿ピーを買うか買わないかで頭がいっぱいだったりするのだ。
最近のヤンマガは、平本アキラ「アゴなしゲンとオレ物語」とか小田原ドラゴン「おやすみなさい。」とか蓮古田二郎「しあわせ団地」とか、ダメ人間を描いた作品がやたら面白い。なんなんでしょうな、この充実ぶりは。
・あの激長小説が漫画に 〜マニア向け雑誌
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『コミックフラッパー』 メディアファクトリー
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まず「コミックフラッパー」(メディアファクトリー)7月号が「おっ」という感じだった。なんと、あの栗本薫の小説「グイン・サーガ」の漫画版が始まったのだ。作画は「女神転生カーン」などの柳澤一明。個人的には、柳澤一明の絵はすごくうまいんだけどいまいち惹きつけるものがないタイプだと思うのだが、とりあえずしばらくは見守っていきたい。
フラッパーは駕籠真太郎やSABEといったマニア寄りの作家がいるかと思えば、看板作家が和田慎二や聖悠紀だったりする、なんだかどこを狙ってるのか分からない雑誌という印象があるのだが、ますます混沌としてきた印象がある。「グイン・サーガ」と同時に始まった新連載が、近藤るるる似でかわいい系のドタバタコメディである和六里ハル「魔法のエンジェル グリグリビューティー」であるだけに、よりそんな感じがする(ちなみに「グリグリビューティー」はトロトロに甘くてなかなかイケます)。まあそれぞれの連載陣は個性的だし、今回は打ち上げ失敗したロケットと残された人たちの物語を爽やかに描写した新人の柳沼行「2015年の打ち上げ花火」なども面白かったし、けっこう見どころは多い雑誌ではあるんだけど。
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『ガロ』 青林堂
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「ガロ」(青林堂)7月号は、デビュー20周年を記念して「泉昌之特集」が行われた。トレンチコート男が戦略的に駅弁を食う過程を描ききった名作「夜行」と同様のテイストの「天食」も掲載され、なかなかうれしい特集だった。あとガロ7月号では駕籠真太郎が初登場。ガロには似合いすぎるほど似合う人なので、今後の登場も期待したい……とは思うのだが、それにしても最近の駕籠真太郎は多作だ。「コットンコミック」(東京三世社)、コミックフラッパー、MANGA Fと3本の月刊連載を持つうえに、「コミックフラミンゴ」(東京三世社)、MANGA EROTICSにもときどき登場。そしてガロとくる。去年までは知る人ぞ知る作家だったのに(今でもそうといえばそうだが)。まあファンとしてはたくさん作品が読めるのはうれしいが、少々心配にもなる。
・読むなら今のうち!? 〜エロ漫画雑誌
エロ漫画雑誌、というかA5平とじの単行本スタイルのアンソロジー本なんだけど、毎度クオリティの高いロリータ系の「ぷちみるく」(コアマガジン)Vol.5が6月に発売された。今回はわんぱく、宇内鉄朗、町田ひらく、チャーリーにしなか、さがのあおい、ほしのふうた、トウタ、黒崎まいり、夕凪薫、馴染しん、鎌やんが漫画を執筆。サブカル系を中心に評価が定着した町田ひらくだ
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『ぷちみるく』 コアマガジン
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けでなく、子供たちをかわいくエロく無邪気に描写できるほしのふうたや、つややかなスミベタが美しく作画クオリティの高いわんぱく、シンプルながらもハッと目を惹く印象的なロリ絵を描く馴染しん、犬娘がやたらかわいいトウタなどなど、粒が揃っている。
ロリ系ではこのほか、同様のロリ系アンソロジー本「ミルクコミックさくら」(松文館)Vol.10も発売されている。このジャンルは時流によっていつ読めなくなっちゃうか分からない分野なので、読めるうちに読んでおくが吉だ。個人的にはこういうエロ漫画畑のロリ本よりも、エロはやらなくてもロリな作品、例えば「カードキャプターさくら」とか「まぼろし谷のねんねこ姫」とかのほうがロリ的にはヤバいんじゃないかなあとか思ってしまうんだけど。エロ方面のロリ本はすでに目覚めている人しか買わないけど、一般誌に載っている作品はまだ目覚めていない人を目覚めさせちゃう可能性があるものだから。
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