漫画的男子しばたの生涯一読者
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漫画的男子しばたの生涯一読者

■復活したりデビューしたり 〜単行本未収録作品

・元町夏央「橙」

橙
『橙』
(c)元町夏央

今月の新人で一番印象に残った作品がコレ。アフタヌーン8月号に掲載された、四季賞2000年春のコンテスト四季大賞受賞作品。母親と離婚した父と動物園に行くことになって、ウキウキする女の子の千花が主人公。父と会うまでは飛んだり跳ねたりジタバタしている状態だったが、父親が連れてきた再婚相手の連れ子の姿を見て、うれしさがだいぶ冷めてしまう。そして3人で動物園を巡ることになるが……。父から電話をもらうところから始まって、しだいに移り変わっていく少女の気持ちを、細やかな筆致で描いた力作である。ペンタッチについては、黒田硫黄を思わせる筆っぽいタッチが特徴的。また低い視点から煽ったり歪ませたりといった、構図の取り方なども巧み。自然描写なども美しく、有機物無機物ともにしっかり描きこなせるだけの実力を持っている。新人ながら、すでに表現力は堂々としたもの。あとはこれからたくさん作品を描いてくれればといったところ。次回作もぜひ読んでみたい。

すなかけ
『すなかけ』
(c)五十嵐大介

・五十嵐大介「すなかけ」

こちらもアフタヌーン8月号掲載。家庭不和で浮かない気分の少女が学校をサボッて遠出した先で、身体から砂が噴き出す不思議な女性に出会う。そのまま少女は砂女のもとに居候し、砂女の相棒である似顔絵描きの男も含めた3人の生活が始まる。線を細かく細かく積み重ねた画風は、1コマ1コマが嘆息するような完成度を持っている。お話も奇想が物語の中で、ごく自然に生きていて読みごたえ抜群。五十嵐大介は単行本に「はなしっぱなし」(全3巻/講談社)があるが、とても寡作な作家だ。その分、たまに出てきたときのクオリティの高さは驚嘆すべきものがある。掲載されたときはぜひ見逃さずチェックしてもらいたい。

すなかけ
『バカとゴッホ』
(c)加藤伸吉

・加藤伸吉「バカとゴッホ」

かつてモーニングで連載された「国民クイズ」の作画を担当した加藤伸吉の作品。「モーニング新マグナム増刊」(講談社)7/5 No.15にて連載終了。男二人女一人の、迷ったり悩んだりしつつも力強く進んでいく青春物語を、真っ正面から描き出した作品。彼らの物語はとても青臭いけれども、若くなければもち得ないような熱さとポジティブな力がある。精一杯青春する人たちの物語はなんとも清々しく、気持ち良かった。9月に単行本が上下巻同時発売される予定らしいので、出たらぜひチャレンジしてほしい。

低俗霊
『低俗霊 DAYDREAM』
(c)奥瀬サキ
目黒三吉

・作:奥瀬サキ+画:目黒三吉「低俗霊 DAYDREAM」

「少年エース」(角川書店)8月号より連載スタート。奥瀬サキといえば、漫画マニア層ならいわずとしれた「低俗霊狩り」の作者だ。こちらが原作を担当し、作画はエロ漫画系や「ヤングマガジンUppers」(講談社)などにもときおり登場する目黒三吉が作画を担当。単行本「さんま」(シュベール出版)でも見せているとおり、目黒三吉の作画はとてもうまい。今回の作品の第1回めを見ただけでもその技量は十分伺えるはず。まだ作品としてどうなっていくかは見えていないが、コンビとしてはかなり強力な組み合わせなので期待が高まる。

低俗霊
『SAIGON DREAMS』
(c)深谷陽

・深谷陽「SAIGON DREAMS」

「アキオ紀行」などで東南アジア系の土地を舞台にした物語で力を発揮し続けてきた深谷陽が、「コミックビーム」(エンターブレイン)8月号に登場。サイゴンで食堂の手伝いをしている日本人男性と、絵を勉強中の現地女性の恋愛を描いた短編。あちら方面の、熱をはらんだ蒸し暑い空気を感じさせる風景を描かせたら深谷陽は天下一品である。物語を作る力もなかなかのもので実力は確か。あとは掲載誌に恵まれてくれるとうれしいなあといつも思う。

低俗霊
『恋愛物語』
(c)南Q太

・南Q太「恋愛物語」

産休でしばらくお休みだった南Q太が「FEEL YOUNG」(祥伝社)7月号から復活。しばらくブランクがあったわけだが、恋人たちの微妙な距離感、空気を描く腕前は健在。今回の作品も止まれない女の情念が巧みに描かれていて実に堂々とした仕上がりだった。これからも期待できそう。

といったところで今月はおしまい。それではまた来月〜。

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