生涯一読者
TINAMIX
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■単行本〜判型が大きいってステキだよね!

次は単行本に行ってみよう。ここらへんはまだ手に入るはずなんで、読んだことがないって人は書店で手にとって、気になったらとりあえず買ってみてくだされ。こっちの水は甘いのだ〜。

・「おさなづま」1〜2巻 作:森高夕次+画:あきやまひでき 双葉社

前述した漫画アクションで現在一番注目している作品だ。借金のカタとして、37歳の会社社長の元に嫁入りした16歳のおさなづまが主人公。夫の変態的な趣味で女体盛りなどをさせられたりする生活の中で、たまたま持ち込んだ漫画が採用される。その後、彼女は日本一の漫画家への道をトントン拍子に歩んでいく。夫には虐待されつつも。

「おさなづま」の面白さは、なかなか形容しづらい。絵に関してはけして新しくない。垢抜けない、でも暑苦しくはない。夫の変態的な趣味といった低俗な部分の楽しさ、漫画でのし上がっていくサクセスストーリーへのワクワク感、漫画に賭ける編集者たちの熱さ、泥臭い人間模様、そして作品全体に漂う呑気さ。それらが相互にいいアクセントとなり、作用しあって一つの世界を築き上げている。アツくもあり、楽しくもあり、馬鹿馬鹿しくもある。野暮ったい絵にだまされちゃいけない。さまざまな要素を盛り込み、物語を読ませる演出力・構成力は、実に大したものなのだ。

・「大正野郎」 山田芳裕 小学館 文庫
・「考える侍・やぁ!」 山田芳裕 小学館 文庫
・「しわあせ」 山田芳裕 B.S.P A5

1〜2月は山田芳裕復刻ラッシュ。現在は「デカスロン」「度胸星」など、小学館での活躍が目立つ山田芳裕だが、講談社で活躍していたころの単行本は絶版になっていた。

なかでも喜ばしいのは、B.S.Pにより復刻された「しわあせ」。講談社版は1巻だけ出ていたが、これには最終回を含む3話が未収録だったのだ。B.S.P版は、幻となりかけていたこの3話を含めての復刻である。

フリーハンドで描かれた描線、筋金の入った「粋」なストーリーなど、講談社時代の作品には、山田芳裕若き日の才気がビンビンとあふれている。「しわあせ」の残り3話がこの復刻でようやく再び日の目を見たことは、うれしくもあるが、腹立たしくもある。こんなに長い間、自分がこれだけの名作を読めなかったという事実が。

・「AMON デビルマン黙示録」1巻 作:永井豪+画:衣谷遊 講談社 B6

マガジンZで連載中のデビルマン譚。デビルマンものといえば、モーニング新マグナム増刊の「ネオ・デビルマン」が有名だが、複数の作家による短編を集めた「ネオ・デビルマン」と違い、こちらは続きモノ。衣谷遊の緻密な作画で描かれたデビルマン世界は、原典とはまた違った華麗な美しさと禍々しさを備え、読者を魅了する。

・「この愛のはてに」 小栗左多里 集英社 B6

短編4本のうち、表題作が抜群の出来。入院中のおばあちゃんと結婚したいという青年の登場から物語は始まる。二人はパソコンを使って、通信で短歌のやり取りをして知り合ったという。家族はもちろん反対するが、二人の気持ちは固い。おばあちゃんにずっと付き添っている青年と話し合ったりするうちに家族の心もほぐれてくるが、結局おばあちゃんは退院することなく亡くなってしまう。終盤の、おばあちゃん死後のお別れ会のシーンは、優しく美しく思わずほろりときた。素直に泣かせてくれるとてもいいお話。

・「BECK」1巻 ハロルド作石 講談社 新書判

「ストッパー毒島」などで有名なハロルド作石が、月刊少年マガジンで連載中のバンド少年物語。それまでは目立たなかった少年が、友達と出会い、音楽と触れ合うことによって成長していく。まだ、主人公の少年・コユキはこの時点では楽器も弾けないし、バンド活動はまったく始まっていない。でも読ませる。少年が音楽や、仲間と触れ合うことによって成長していくさまをたくましく描いている。読むと元気が出てくる漫画である。

・「ぶっせん」1巻 三宅乱丈 講談社 A5

貧乏寺が起死回生の一策として始めた仏教専門学校、略してぶっせん。ライバルの金満な寺からスパイとして送り込まれた正助だが、純真でかつ頭の悪い彼はスパイだというのが入学初日からバレバレ。さらに頭の悪いクラスメイト(っていうか坊主たち)やら、指導僧やらで、実に愉快なドタバタが展開される。三宅乱丈の描線は、むっとする迫力があるのだけど、妙に軽快でもある。ギャグも飄々としてリズムがいい。最近のギャグ漫画の中では、かなり注目している作品。

・「水野純子のシンデラーラちゃん」 水野純子 光進社 A5

キュートでありつつ、毒々しさとエロチックな味わいもあり、独自の極彩色世界を構築する水野純子の最新単行本。これ以上なくかわいらしい女の子の顔に死斑が浮かんでたりグロテスクなのだが、しかしそのグロテスクさを含めてなおかわいらしい。かわいすぎてグロテスク、グロテスクすぎてかわいい。その境界上を行くちょっと珍しい人である。

・「今日のだいちゃん」5巻 太陽星太郎 小学館 A5

ヤングサンデーにて連載された作品。この5巻が最終巻。朝の6時25分から始まる5分間だけのTV番組「今日のだいちゃん」。そこで日々映し出され続ける、世界のどこかにいるオバQのような奇妙な生物「だいちゃん」。だいちゃんの存在は広くお茶の間に親しまれ、人々に希望を与えていた。最終巻では「今日のだいちゃん」を放送するTV局のライバル局がだいちゃんを拉致、「24HOURS DIE-CHAN」という番組を放映しようとする。これを阻止せんと、だいちゃんを愛する者たちが立ち上がるが……。

この物語において、だいちゃん自体はほぼ何もしないといっていい。物語を組み立てるのは番組を受けとる視聴者や、番組制作者たちだ。「今日のだいちゃん」という番組を真ん中に置きながら、ときにはシニカルなギャグ、ときにはハートフルな物語、コメディなどなど、さまざまなお話を作り上げる太陽星太郎の手腕は見事であった。静かで深い感動を呼ぶラストも素晴らしい。

・「フェミニズムセックスマシーン」 砂 太田出版 A5

TINAMIX責任編集、砂の初単行本。MANGA EROTICSやホットミルクに掲載された作品を集めている。これを紹介すると「マッチポンプなんじゃねえか」と思われるかもしれないが、そんな安っぽいことはしないので心配ご無用。

小難しそうな思索(実はそんなに分かりにくくもないが)と、極太で下品なワードが同列に並び、みっちり詰まったフキダシが画面を埋め尽くす。強烈なワードの機関銃のごとき連発に、初めて読んだ人はきっとズガンと強烈な衝撃を受けるに違いない。オオッ、ナイスピストンッ! イエーッ、ファックマイケツッ!

・「笑う吸血鬼」 丸尾末広 秋田書店 B5

鬼才・丸尾末広がヤングチャンピオンで連載した作品。丸尾末広は耽美的で美麗な作画で有名だが、その作画力がB5という大判の判型のおかげもあり存分に発揮された一冊。吸血鬼である老婆により、仲間にさせられた少年の物語。彼自身も同じ学校の少女をその仲間とする。月光の中を跳梁する少年少女の姿は、病的なまでに美しい。

おさなづま

大正野郎

AMON デビルマン黙示録

この愛のはてに

BECK

ぶっせん

水野純子のシンデラーラちゃん

今日のだいちゃん

フェミニズムセックスマシーン

笑う吸血鬼

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