生涯一読者
TINAMIX
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■今年も読みまっせ〜

前回は1999年の漫画シーンをざっと振り返ったが、今回は2000年分に突入。1〜2月期に目立ったオモシロ漫画についてレポートしていこう。もちろんいうまでもないが、これは筆者にとって目立ったというだけで、絶対的評価でもなんでもない。女性向け雑誌も月10冊程度しかチェックしてないので、どうしても触れる点数は少なくなっている。その点はあらかじめ断っておくのでヨロシク!

■雑誌――漫画アクションとウルトラジャンプに注目中

漫画といえば、雑誌で読むのが基本。いやまあ単行本派読者の方もいっぱいいるし、それはそれで全然オッケー。雑誌には雑誌の楽しみがあるし、単行本には単行本の楽しみがある。まあ個人的には両方読んじゃうのが一番だとは思うけど。

それはともかく、漫画の最前線を知るにはやっぱり雑誌を読むのがてっとり早い。雑誌を1冊読めば、ムリなく安価に何人もの作家の作品が読めるので単行本購入の重要な指針になるし、単行本化されないような読切がチェックできるのも雑誌の醍醐味だ。でも、漫画雑誌は山ほど出ており、一個人が全部チェックしようと思ったら、時間がいくらあっても足りない。では、今どの雑誌が面白いのか?

そんなわけで、まずは筆者が1〜2月の間にチェックしたなかで気になったいくつかの雑誌について語っていこう。

・漫画アクション(双葉社)

漫画アクション最近の週刊漫画雑誌の中でも、とくに楽しみなのが漫画アクションである。ちょっと前までのアクションといえば、目玉といえる作品がなく非常に地味な雑誌という印象があった。それがここ数ヶ月の間に、豹変してきている。

作品で見ると、まずは作:森高夕次+画:あきやまひでき「おさなづま」。この作品については後述するが、このような俗っぽい柔らかめの作品があったかと思えば、作:橋本以蔵+画:たなか亜希夫「軍鶏」のように、自分の命を守るため他人を攻撃するハードな物語もある。

そして、以前ヤングサンデー別冊大漫王で「裸のふたり」というえらくクレイジーな作品を描いていたかいともあきが、「白い少年」というパワフルすぎるくらいパワフルなギャグ漫画をひっさげて登場した。素直すぎる性格で、自分が正しいと思ったらとにかくまっすぐ猪突猛進する少年の激しい生活を描いた作品である。

また、作:モンキーパンチ+画:山上正月「ルパン三世」は手堅い出来。山上正月は以前「たぬきマン」という作品を描いていた作家だが、この人のスマートな線と構成力は魅力的である。そのほかショートギャグで、相原コージ、江口寿史といったところがきちんとアクセントになっている。

若手を登用しつつ、きっちり物語を読ませるベテラン作家も健在で、高いレベルでバランスがとれてきた。注目である。

・ウルトラジャンプ(集英社)

ウルトラジャンプウルトラジャンプの創刊当初は、顔ぶれは豪華だけどどうもスベっているという印象があった。いかにもオタクに好まれそうな作家を並べているし、オタク層はわりとみんな押さえてはいる雑誌だったが、なぜか熱烈なウルトラジャンプファンというのはあまりいなかったように思われる。

それがここに来て、ずいぶんイキが良くなっている。花見沢Q太郎、六道神士、櫻見弘樹、山田秋太郎、平野耕太といった、多少マイナー系ではあるが、他誌でも実績のあるピチピチした作家を次々登用。とくに最近では、花見沢Q太郎の女子寮モノの連載、「BWH」は女の子の魅力満載で非常にいいお話になりそうで期待している。また、伊藤悠のような自前の若手も出てきた。この人はまだ単行本は出てないが、非常に達者で要注目。

また、雑誌内に作品ごとの情報ページを設けたり、3月号から定期購読サービスを開始するなど、ここに来て新しい仕掛けをどんどん繰り出してきている。誌面全体に覇気を感じるのだ。作品自体が好みに合うかどうかはともかく、この意気込みは頼もしい。

・コミックビーム(アスペクト→エンターブレイン)

コミックビーム4月からアスキーの子会社であるエンターブレインからの発行になるとのこと。

コミックビームは、一般にはさほど知名度はないが、マニア筋からはかなり高い評価を受けている雑誌である。新人や、他の雑誌からははみ出してしまうような良く言えば個性豊かな、悪く言えばアクの強い作家陣を積極的に登用し、ちょっとほかにない誌面を作っている。

現在の注目株は、いましろたかし「釣れんボーイ」と志村貴子「敷居の住人」。「釣れんボーイ」は、釣りにすべてを賭けるかのようでありながらなかなか思い切れない漫画家・ヒマシロ先生のダメ人間ぶりを描く怪作。読者を唖然とさせるほどのダメさ加減、やる気のなさで毎回度胆を抜く。「敷居の住人」はスタイリッシュな絵柄でありながら、中学生〜高校生の男子女子の気持ちにザクリと斬り込む作品。間のとり方が抜群にうまく、とくに大きな事件が起こるわけでもないのにグイグイ読まされてしまう。

アフタヌーンで「反町くんには彼女がいない」を描いていた有川祐、ヤンマガ「日直番長」のタイム涼介、それから看板作家の桜玉吉、クレイジーな新鋭「テルオとマサル」の市橋俊介、センス抜群「BAMBi」のカネコアツシ、テンションが尋常でない羽生生純、ラフな絵柄なのに魂を揺さぶるしりあがり寿などなど、異能漫画家がここまで揃った雑誌はちょっとほかに類を見ない。

・アフタヌーン(講談社)

アフタヌーン何を今さらという感じではあるが、新人賞である四季賞作品が掲載されるとこの雑誌はググッと尖鋭性を増す。最近では、佐久間史幸「赤い鳥」、虎哉孝「水鏡」が評価高し。また、四季大賞を受賞したこともある博内和代「バナナチ○コ」が掲載され、クオリティの高さをまざまざと見せつけた。

短期集中連載ではあったが、圧倒的に細密な筆致で読者を異世界へと誘う小田ひで次「クーの世界」もものすごく面白かった。夢と現実の境目をぐずぐずに崩し、現実ではあり得ない光景を実に存在感を持って描き出す筆力はまさに圧巻。さらに昨年の話題作、「エイリアン9」の富沢ひとしが新連載「ミルク・クローゼット」を開始。注目を集めている。

それからアフタヌーンでは、増刊枠の「シーズン増刊 Winter」も発売された。こちらは四季賞系の作家を登用しつつ、アフタヌーン本誌の主力連載陣に単発の作品を自由に描かせるといった趣の増刊。正直なところ、柱といえる作品がなくてまだまだといったところだが、定期的に四季賞作家が登場できる場所ができたということには期待したい。この増刊枠では「蟲師」シリーズの漆原友紀がオススメ。

・コミックバーズ(ソニー・マガジンズ)
・Bstreet(ソニー・マガジンズ)

Bstreet昨年のスコラ社の倒産による休刊を経て、ソニー・マガジンズに編集部が移籍、復刊を果たしたコミックバーズだが、それ以降なかなか意欲的な誌面作りをしている。「羊のうた」の冬目景を軸として、斎藤岬、志水アキといった連載陣、それから雨宮智子といった若手も読切で積極的に登場させている。メロディで「どいつもこいつも」を連載中の雁須磨子がスポット的に登場するなど、若手と中堅、ベテランどころのバランスがとれてきた。

またBstreetはバーズからの増刊。A5サイズの探偵モノアンソロジー本といった形の本。こちらも冬目景、斎藤岬など、本誌系の作家を登用。次号は今年8月発行予定で、今後シリーズ化されるようだ。

・モーニング新マグナム増刊(講談社)

モーニング マグナム増刊モーニングの増刊で、本誌からははみ出してしまうような異能作家や、新鋭の読切などが積極的に掲載されてなかなかエキサイティングな増刊。

青臭くてまっすぐなパワーのある加藤伸吉「バカとゴッホ」、デタラメなパワフルさがステキな清田聡「ミキ命!」、美麗な描線の鶴田謙二「Forget-me-not」などなど楽しみな作品が多い。

最近の収穫は佐藤マコト「サトラレ」。周囲に自分の思考が洩れてしまう特異体質の持ち主であるサトラレの物語。サトラレは天才的な才能を持っていることが多い。しかしサトラレ自身が、自分の考えていることが外に洩れているということに気づくと、往々にして精神に異常をきたしてしまう。それを防ぐため、国家が「本人には気づかれないように」その才能を守るため遠巻きに手厚く保護している。着想の面白さ、ペンタッチのしっかりした絵柄、ユーモアを利かせつつお話をまとめあげる構成力など、高いレベルで完成している。

・GOTTA(小学館)

GOTTA小学館が贈る新少年雑誌。小学館といえば、少年サンデー、それからコロコロコミックと、少年向けの雑誌資産は今までも持っていた。しかし少年サンデーが、意図してかどうかは分からないが、少年誌の中ではだいぶ読者年齢層が高い雑誌になってしまっているため、コロコロコミック層との橋渡しをするという意味もあると思われる。

最初は意気込みはあれど滑り気味な印象を受けたが、ここにきて松本零士「新 宇宙戦艦ヤマト」がスタートして俄然興味をそそられた。主人公は古代進32世。あのヤマトの時代から1000年経った世界での話だ。まだ第1話しか読んでいないが、これがまた面白い。1ページぶち抜きで宇宙に浮かぶ地球。ゆっくりと姿を現す宇宙船。銀河、星雲、ブラックホール、ワープ。前回でも述べたような、今の漫画から失われてしまったような、壮大な大風呂敷を広げてくれて気持ち良かった。

また「宙舞」「D-ASH」の秋重学も読切で登場し、爽やかな読後感を残した(っていうか小学館はいい加減、スピリッツ21連載の「ニナライカ」を単行本化してくれい)。「ウインドミル」の橋口たかし、「電撃ピカチュウ」で有名な小野敏洋なども連載を持っているし、なかなか楽しみな雑誌になりつつあるように思える。これからの推移に注目したい。

・クッキー(集英社)

Cookieりぼん・ぶ〜け編集部共同製作の新少女漫画雑誌。2月発売号をもって、ついにぶ〜けが休刊し、その流れはこの雑誌に引き継がれていくようだ。

・フラミンゴ(三和出版)

フラミンゴSM系、というよりフラミンゴ独自の極彩色な世界を作り上げていた、特殊エロ漫画雑誌の雄、フラミンゴも休刊が決まった。前回の本コーナーで1999年の漫画ベスト10にも挙げた海明寺裕「K9」シリーズや、蜈蚣Melibe「バージェスの乙女たち」シリーズ、しのざき嶺、白井薫範、鋭利菊といったこの雑誌でなければなかなか見られない特異な人や、天竺浪人、駕籠真太郎といった実力者も執筆していただけに残念である。

まだ時期は正式決定していないようだが、休刊は避けられない模様。

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