これこた
TINAMIX
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8.抽象化して遠くに投げる

編集部:たしかにコスプレを服飾のレベルで捉えると、よく言われている「キャラとの同一化」とは違った角度からコスプレを見ることができるかもしれませんね。コスプレと服飾、そこに回路を繋いでいくというよりは、すでにあったはずの回路を紹介する、拾い上げるみたいな作業を通じて、どうでしょう?

東:そうですね。ただそこで、すでにある回路を紹介するだけでなく、それをさらに間違った人に繋げる、誤配を起こす、というのが、「郵便的」な人としての僕の望みなんですよ(笑)。だから、発送する手紙は、なるべくだれでも読める状態にはしておきたい。かりにプレアイドルとコスプレイヤーの境界に桜井恭子がいるとして、その境界にTINAMIXの記事があまりにビシッと行ってしまうと、それはそれで他の人が読んでもわからない、閉じた雑誌になってしまうじゃないですか。それは避けたいんです。

では、どうするか。僕はひとつの方法は、「抽象化」「コンセプト化」ということだと考えています。どんなカルトな情報を紹介するときでも、必ず抽象的な枠組みを用意することで、まったく初見の人でも手続きを踏めばアクセスできる状態にしておく。僕は「抽象化」というのは、簡単なことを難しい言葉で包み込むことではなく、そういう開かれたプロトコルを用意する作業だと思うんです。

たとえば『ナデシコ』について、「いやぁ、ルリルリ萌えっすよ」みたいな話ばっかりやっていても、これはもう何も起きない。けれど僕がそこで、『ナデシコ』を良いと判断する過程のようなものを抽出して、一応の言葉にして差し出せば、何となくだれでも入れるじゃないですか。それであとは、趣味的にシンクロしてルリ萌えまで行くひ人いるかもしれないし、「東さんの言っていることは分かるけど、これはどうも」みたいな反応の人もいるかもしれないけど、とりあえずそこまで持っていくのが、TINAMIXの役割だと思うんです。

実際僕は、TINAMIXの成否は、その「抽象化」がどこまでできるかに掛かっていると思っています。そうやって、個々の趣味判断をコンセプトに凝縮して、どんどん間違った読者へと発送していく、という開かれた回路を作らなければ、TINAMIX は逆に、桜井恭子のファン、高橋龍也のファン、阿部和重のファン……って、どんどん条件が狭まっていくことになってしまう。そして最後には、編集部しか残らないという(笑)。だから、第3回更新のギャルゲー特集にしても、そういうコンセプトをどこまで用意できるかが勝負ですね。ギャルゲーを一回もプレイしたことがない、そして今後もプレイしないかもしれない、そういう読者でも、「ああなるほど、僕自身はこの世界は分からんが、特集が組まれたのはこうこうの理由でなんだな」という必然性が伝えられるような、リード文やまとめを書けるのか。リーフの高橋さんや原田さんから、どこまで抽象化された発言を引き出せるのか、そういうところが重要になるでしょう。

あと、少しだけ哲学的なことを。「抽象化する」という動詞は、英語だと「アブストラクト」ですね。これは実は、語源としては、引き抜いて(ストラクト)、遠くにやってしまう(アブ)という意味なんです。物事を具体的文脈から引き抜き、遠くに発送できるように、パッケージ化してしまうこと。だから僕は抽象化が好きですね。遠くに投げる、誤配を起こす、意外な人が意外なものを読む……。

ルリルリ
『機動戦艦ナデシコ』の登場人物の一人。CV南央美。カルト的な人気を誇る。


DVDジャケット
(c) XEBEC/ナデシコ制作委員会・テレビ東京

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