これこた
TINAMIX
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7.新たな読者層を

編集部:そうなると誤配を意識した情報戦略は、サブカルチャーの内側にいる人たちに向けたとき、それはもはや情報提供のレベルを超えてきませんか?

砂:単なる情報提供が困難になってきているというのが、独特な階層の分かれ方の結果という気がするけどね。さっき東さんも言ったように桜井恭子も知ってて、高橋龍也のゲームやってて、阿部和重も読んでる人間はいるはずだ。だけど、それらは既存の枠のなかでは全部分割されていて、アイドル誌、ゲーム誌、文芸誌「三誌買わなきゃいけない」とかになっていると。でも、もともと雑誌というのは読者層を持って作られていたわけだから、この状況自体、実はちょっとおかしい。この三つをまとめていたものがかつての青年誌なわけだが、いまやそんなふうに雑誌は機能できない。

東:読者層の捉え方もちょっと変えなきゃいけないんだよね。

編集部:じゃあうちにいま読者層がもともといるかといったら、実はいなくて。

東:そうだね。まず読者層をつくらなければいけない。これは大変だ!(笑)

編集部:こういう雑誌を立ちあげて、そういうものに興味をひかせて、読者層を創出するみたいな壮大なことなんですよね、これは。

砂:紙の雑誌は何万部刷って、何万部捌けなくてはいけないという採算面からも、読者層は必要になってくるわけだよね。でもTINAMIXの場合、一応そうした条件はないじゃないですか。

東:いやいや、アクセス数は大事です。いまここを読んでいる人たちにも、すぐICQかなんかでURLを転送してもらいたいですよ(笑)。ただ確かに、回転資金と初期投資がWebマガジンでは格段にかからないという事情はあるわけで、だからこそ、こんな自由なことができる。おそらくいま出版は、不景気のせいもあってガチガチになっていて、情報の誤配なんかに手が回らないんじゃないですか? だから僕たちからすれば、面白い世界や人脈が、まるで荒野のように手付かずで広がっている感じがある。とにかくTINAMIXは、いまのところ、インタビューでは一度も断られていないものね。

編集部:断られないように努力してるって話もありますが(笑)。……まあ、そういう意味では、もう既存の雑誌の立ち上げのメタファーでは語れませんよね。読者がいて、そこに何かを放り込むって感じでもなくて。そういうのがいるはずだみたいな、幽霊みたいな読者の想定が最初からあって、いなければいないで、創出していこうみたいな、すごいアバウトな話ですよね。

東:情報の流れについてもうひとつ。一昨日、ISSEY MIYAKEのメインデザイナーを務める滝沢直己さんと、村上隆さん、それに僕でトークショーをしました。それでその打ち合わせで知ったんだけど、滝沢さんって『おジャ魔女どれみ』に妙に詳しいんですよ。娘さんが『どれみ』のファンらしい。他方で、ちょうど昨日、編集部では桜井恭子さんにインタビューしてきたところじゃない。それで思ったんだけど、かりに滝沢さんがコスプレを見たらどう思うんでしょうね。自己表現として服飾を捉えて、世界のトップを走っている人にとって、コスプレって何なのだろう。あるいは無関心かも知れないけど、いずれにせよ、滝沢さんがコスプレに触れたことがあるとは思えなかったし、だとすれば、そんな誤配をしてみても面白いのかもしれない。それこそ、桜井さんにどれみのコスプレをさせるとか?!

ただそのとき、実は誤配をするためにこそ、ある程度の情報の選択が必要になる。たとえば滝沢さんがTINAMIXをクリックしてくれたとして、そのとき、ボケボケのコスプレイヤーが10人くらい登場して、「わたしさくらちゃん好きなんでーす」とかばかり言っていたとしたら、これはもう好奇心のチャンネルを開きようがないじゃないですか(笑)。そういう意味で、TINAMIXはニュートラルなんだけど、やはり、ある程度の選択基準ももっていなければいけないわけで……、難しいですね。

トークショー
2000年2月4日、東京・表参道の美術書店「Nadiff」で開かれた。その模様は、『広告』(博報堂)2000年3+4月号に掲載予定。


『おジャ魔女どれみ』
佐藤順一監督,1999.2放映開始現在も継続中,テレビ朝日。


CDジャケット
(c) ABC・東映アニメーション

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