これこた
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11.カットジーンズに必然性を与えて

編集部:同人誌市場において競争力の高い戦略商品だった、というわけですか。フェチ表現が商品になる。稀少性が価値につながるというのは常識的にもわかります。

砂:そうですね。しかしもちろん、ずっとカットジーンズをコスチュームとしつつマンガを描いていくためには、さっきの話でいうところのコンセプト化が不可欠でしたよ。でないと、ただのギャグマンガにしかなりませんしね。話の必然性もないのにまたカットジーンズ姿か!?、とか。そこでその必然性を作るために、コスチュームとセットの物語を作り出す

カットジーンズを物語に使う場合に、自分なりにそのコンセプトを言語化すると、まず、カットジーンズは不完全と活動性という二つの言葉で出来ている、と考えたんですよ。ジーンズをカットオフしたものであるという不完全さ、中途半端さと、そのカットゆえにもたらされた活動性。自分は同人誌活動の前半は無垢な少女の魅力をどう持続させるかということをテーマにレズ物を描いていて、そこでヒロインのおとなしい少女にカットジーンズをはかせていた。そこでカットジーンズは、おとなしい少女+活動性という外見上のミスマッチ感が作り出すエロスに奉仕するだけでなく、少女の未成熟がもつ魅力を持続させるというテーマを、不完全なジーンズ、未完成であることをカットオフされたことで固定されたジーンズとして象徴してくれるだろうと。だからカットラインのほつれが大事だったんですよね。あそこを縫い合わせてはいけない。ほつれをそのままにすることこそが、未完成の魅力を固定することになる。無垢の少女とカットジーンズという結合は、こうしてかなりの密度の隠喩の重層性を作り出す、といいなと。

一方、最近の商業誌で描いているマンガでも、このフェチは持続して表現されているんです。で、今度はこのフェチを、これは自分で言うのもなんですけど、先の同人活動期のテーマへの批判に使ってます。商業誌では「涼子」というやたらと活動的なヒロインが、もっぱら素材を選ばずホットパンツをコスチュームにしている。無垢は絶対的に喪失するし、それを肯定すべきだ、というのが現在のテーマなんですが、この考えの変化も実は95年が切断の時期になります。95年にカットされたという。カットジーンズからホットパンツへ。ホットパンツ、つまりカットラインのほつれを縫い合わせよう、不完全さがもたらす活動性を絶対的に肯定しよう、という具合にコスチュームが、未来的な活動性を備えた女性性はどういうものかをイメージするという現在のテーマに対応するといいなと。こんな感じで、カットジーンズやホットパンツになんとか必然性を与えようとしてきたわけです。成功してたらいいんですけどね。


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