12.行方不明になったオタクたち
東:とにかく、オタクはとても人工的でコンセプチュアルな世界に生きている、僕はそう思っています。その意味では、彼らの欲望はとても屈折しているんですね。たとえば、セックスしたい、相手見つけた、射精した、終わり!みたいな直線的な流れじゃなくて、いろいろ迂回がある。そしてそういう風に迂回しているなかで、いつのまにかどっかに行っちゃって欲望が行方不明になってしまっている人たちも多くて、僕が関心があるのは、基本的にそういう行方不明系の人なんですよ。「あれは何だ、どこへ行こうとしているんだろう」って思わせる作品を作っている人。そしてそういう行方不明をちゃんと見定めていくためにこそ、TINAMIXが有効に機能するといいと思うんです。オタクたちの欲望を、どんどんコンセプトに変えていくことによって。
編集部:いまの話に当てはめると、たしかにオタク文化で元気の良いものって、すごくそれてしまったものにありますよね。
東:たとえば、僕はマックユーザーなので基本的にギャルゲーをやらないんですが、高橋龍也がシナリオを書いた『雫』と『痕』だけは面白くプレイしたんですね。そして、そこで何が一番面白かったというと、彼は主人公のセックス・シーンで、「俺は操られていて、こんなことやりたくないし、こんなことやって俺って最低だよな」みたいなことばかり書くんですよ。それはきっと、最初に高橋さんが選んだ妙に自己言及的なキャラと暗い作品世界が、普通のギャルゲーが到着するはずの――とは言っても、僕はあまりよく知らないんですが――お気楽なセックスと折り合わなかったからだと思うんですよ。高橋さんの欲望は、なんか普通のギャルゲーの欲望から逸れているんじゃないか。そして、部外者からすると、その逸れた部分が面白いんですね。
編集部:きれいに描かれた直線とか曲線とかよりも、手描きの味があるラフ絵に引かれることはありますね。というか線がどうこうだけじゃなくて、時空を超えてあらわれたみたいな、すごい歪みがあるものって、とてもおもしろいですよ。
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