Leaf 高橋&原田 INTERVIEW
TINAMIX
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――『To Heart』の前にあった企画はファンタジーだったとお聞きしてますが。

高橋:すごくシビアなファンタジーをやろうと思ったんです。夢見がちで、つくられた遊園地みたいなファンタジーじゃなくて、生活も安定してないところで這いずっているようなファンタジー、ダークファンタジーをやろうと。ゴシックホラーのテーマを絡めたりしてね。でも、それでは間口が狭いことに気づいて。

――かなりマニアックですよね。

高橋:やはり会社を大きくして、体力をつけていかなくては、という切実な思いがありまして。それよりもいま『To Heart』をやっておかなきゃと思ったんです。この頃ファンタジーをやってたら、いまのようなメーカーじゃなくて、よりマイナーな層に支持されつつも、小さいビルのままの会社だったと思います。ちょっと悩んだんですけどね。でも結果的にやらなくてよかった。そのあといっぱい出たんですよ、ダークファンタジーの方面で。『ディアブロ』にしろ、最近スクウェアから出た『ベイグラントストーリー』にしろ。『ベルセルク』も流行ってるじゃないですか。こうなるともうやる必要はないですよね。

――話を『To Heart』に戻しますと、高橋さんがつくる作品って微妙に恋愛ゲームじゃないと以前から感じていたんです。とりわけ『To Heart』は恋愛ゲームの王道路線を踏襲したものだと言われますが、それとも微妙に違うものだと。

高橋:恋愛っていうのは、実は書いてもあんまりおもしろくないんですよ。若い恋愛を書けば、男の立場から言うとイコール性欲。理由なんてないんです。それだけで終わっちゃうんで、語るドラマもなにもないんです。もしくは相手を束縛したいとか、独占欲とか、そういう方向で書くしかないんですけど。そういうのは書いてもしょうがないと思ったんです。だから『To Heart』でやりたかったのは「一緒にいて楽しい」ということなんです。性欲を抜きにしても、一緒にいて楽しい女の子を。僕はいまでも『To Heart』の思想は間違ってないと思っているんです。都合の良いキャラ設定が最初から配置されていて、女の子が据膳状態で入れ食いのゲーム――こういう見方をされるのはちょっと嫌ですね。むしろ『雫』や『痕』の反省点を踏まえているんです。『雫』のキャラはプレイヤーにとって甘いと思うんですよ。瑠璃子なんかは、無条件に与える恋愛感情というか。マザコン心をくすぐりますよね。

――「長瀬ちゃん、助けてあげる……」とか言いますから。

高橋:一方的にもらえる愛みたいな。当時はそういうキャラが売りだったんですが。沙織も主人公が何をするわけでもなく好いてくれるわけじゃないですか。でもあの頃は、ああの世界観や精神状態から抜け出すには、そういう支えが必要で、誰かが好きになってくれなければダメだな、と思って書いたんですけど……甘いなとは思いますね(笑)。

――『雫』と『痕』はなんだか妙に愛に満ちていますから。

高橋:ちょっと都合が良いんで、反省したんです。『To Heart』の狙いは、それとは違うものなんです。

――具体的に言うと?

高橋:実際いまでもそうなんですけど、夜メシ食いに梅田の街を歩いてると、友達が一緒にいるときは楽しいんです。「何食いに行く?」とか会話がありますし。でも一人で梅田歩いてると「俺、何やってるんだろう」と思いますね(笑)。携帯で電話しているやつとか「うるせえなぁ……」と思ったり、すごく攻撃的になりますよね、一人でいるときっていうのは。何やってもついてない、パチンコ打っても負ける……みたいな(笑)。

――ええ……なぜか勝てませんね(笑)。

高橋:そういうときに重要なのはコミュニケーションだと思うんですよ。それを知ってるから、みんな携帯でも常にコミュニケーションを持ちたがってると言うか。誰かといないとつらい時代なのかな、と思っちゃたりもするんですけど。たとえば『雫』のワールドが好きな人でも、あの文字の羅列とモノクロ背景のワールドが好きなわけじゃなくて、そこに沙織や瑠璃子がいてくれる空間が好きなんだと思うんですよ。最終的にそういう誰かがいるってだけで、世界が楽しくなる。モノクロで取り込み風の、冷たい背景のなかに、くるくる表情の変わるキャラクターがいるという対比があることで、すごくキャラクターが浮き出てきて、世界に味が出てくるんです。現実もそうだと思うんですよ。一人で都会をぶらついてると、人間が背景と同化してきますよね。でも知り合い連中ばかりの空間だったら、一気に楽しくなるわけじゃないですか。

――それは本当によくわかります。

高橋:誰かといないとおもしろくないんですよ。『雫』や『痕』のときは、そういう居心地の良い空間を無条件で与えてたんです。『To Heart』は、それを自分でつくっていくようにしたかった。『To Heart』は問いかけなんです。こういう空間をどう思いますか、という。それで良いと思うならば、その空間はなぜ構成されているのかを考えると、結局コミュニケーションを大事にしてるんですよ。

――そういう居心地の良い仲良し空間は、とりわけプレステ版でかなり作り込まれましたよね。パソコン版だとその要素がまだ未完成で、だから志保はあまり人気が出なかったのかなと思ったのですが。

高橋:僕は、志保は人気出なくて正解だと思うんです。この業界では主人公に依存する傾向というか、主人公がいないとダメになってしまうようなキャラが人気あったりするんですけど、志保は完全に自立しているんで。あまりにも自己完結しすぎているから、入り込む余地がなくて敬遠する人はいると思うんですけど、志保はあれで良いと思うんです。

――たしかに人気がないにしても、志保を含めた仲良し空間の作り込みはかなりあったと思うんです。

高橋:プレステ版にするにあたって気をつけたのは、そういう仲良し空間みたいなテーマを強くすることと、もう一つは飽きさせないようにテンポを良くしつつ、ギャグまわりを良くして、打てば響くような反応を描きこむことでした。対抗意識を燃やしたのは『ちびまるこちゃん』とかなんです。最後まで一気に読み終えて「おもしろかった」というんじゃなくて、テレビのチャンネルを変えて一分見ただけでもおもしろい、という感覚でやりたかった。

――どこから遊んでも楽しいテンションがそこにあると。

高橋:『To Heart』もラストのあたりはキャラごとのストーリーがメインになって、そういった要素は少し希薄になるんですけど、前半部分を断片的にダーッと見ると、なんかおもしろいことをやっている。その空間が楽しいわけです。それは言ってみれば現実も同じで、みんなで楽しいことをやってるテンションの高さが楽しいわけなんですよ。

――でも変な話ですが、『To Heart』のノリって現実ではむずかしいようにも思えますけれど。あんな女の子やコミュニケーションはないんじゃないかな、とか思ってしまうんです。

高橋:僕はそんなこともないと思いますよ。たとえば彼女たちに『White Album』でテーマになったような独占欲がないわけじゃないんです。場の空気を察して、そういう感情を表に出さないだけなんですよ。アニメではあかりと志保のギスギスした関係が描かれて、ちょっとテーマと違うなと思ったんですけど(笑)。そういうのを表に出したら場が白けるじゃないですか、好きな人を取りあったりするのは。

――そういう部分ですごく恋愛的じゃない作品に感じるんですよ。いわゆる「友達以上、恋人未満」の関係までもが、苦しくて切ないものではなく、楽しいものとして描かれているように思えるんです。

高橋:そうですね。たとえばあかりと恋人同士になったからといって、他との関係が終わるわけじゃないんですよ。あかりを選んだから志保はいなくなった、にはならないんです。『White Album』はそういう決断をしなければいけなかったんですけど、『To Heart』ではそういうつらい選択は抜きなんです、あえて触れてなんです。

――それはなぜですか?

高橋:やっぱり居心地の良い空間なんですよ。そんな空間をみんなでつくろうと。そこでは誰か一人でもはずれたことをやると、つまんなくなるんですよね。

ダークファンタジー
ホラー的・サイコ的な要素が含まれたり、悪の視点に立つなどして陰惨な世界、残酷な価値観を描くファンタジー。

ゴシックホラー
伝統的なホラーの意。19−20世紀初期に書かれた古典的な怪奇小説のモチーフがこれに相当する。霊魂を畏れ、暗闇に恐怖するようなシンプルさが根底にある。

『ディアブロ』
アクションRPGの傑作。海外RPGらしいダークな雰囲気のグラフィックとストーリーを持つ。インターネット上で不特定多数の人間とパーティを組むことができたため、大ヒットした。基本的にプレイヤー同士は協力関係を保つが、他のプレイヤーを攻撃することも可能で、その微妙な緊張感も新鮮であった。
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『ベイグラントストーリー』
2000年2月スクウェア。
[→関連サイト]

『ベルセルク』
三浦建太郎作の大河ファンタジーマンガ。90年より連載開始。使徒を求めて放浪を続ける狂戦士(ベルセルク)ガッツの復讐譚。基本線がアイデンティティ追求にある点が極めて90年代的な作品。97年10月−98年3月に日本テレビ系で放映されたアニメで大ブレイク。現在『ヤングアニマル』誌(白泉社)にて連載中。
[→関連サイト]

プレステ版
WINDOWS版から遅れること二年、99年3月発売。新イベント、フルボイス、オープニングアニメが付加、性描写が無くなったことで世界観がよりはっきりしたものになり全く別物と言って良い作品に仕上がっている。数種類のおまけゲームが、それぞれ充分に遊べる出来になっているのはさすが。

志保
『To Heart』の登場人物の一人、長岡志保。主人公の中学以来の腐れ縁。「志保ちゃん情報」と自称するガセネタを毎日、圧迫気味に供給。主人公に媚びないのであまり可愛げを感じないが、本当は構って欲しいだけの可愛いヤツという説もある。

『ちびまるこちゃん』
さくらももこ原作、フジテレビ放映の長寿アニメ。ほのぼのとした中にもメリハリの効いたシナリオワークはこの手の作品の肝だと言える。

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