Leaf 高橋&原田 INTERVIEW
TINAMIX
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4.

――『痕』の狙いみたいなものを聞かせてもらえますか。

高橋:ひとことで言うならば『雫』はインパクトだけを狙った作品で、『痕』はゲームとしておもしろいものにしようと思ったんですよ。ゲームとしては、昔のゲームのギミックに回帰したんです。『雫』はそれなりのストーリーというところで終わってるんですけど、『痕』はそれこそ昔の「何とか捜査官」が話を進めていくとどんどん展開が変わり、舞台が変わり、組織が明らかになり、背後の黒幕やすべての謎が明かされてエンディング……みたいなことをやろうと思ったんです。

――よりアドベンチャー的な色が濃くなったようなものを?

高橋:そうですね、昔は当然やっていたであろうシステムを使いました。最近は見渡してもギャルゲー……というかアダルトゲームの世界にはないですよね。

――シナリオごとにSFだったり、伝奇ものだったり、サスペンスだったり……。

高橋:全部つながってるんですよ。かつて宇宙人が来て、というところからはじまって。

――ええ、そこが『痕』が不朽の名作と評価される理由なのかと。

高橋:きれいにつながってるところがおもしろいと思うんですよ。

――『弟切草』だとシナリオが違うと役割も変わるじゃないですか。その部分はあのゲームで唯一、不満な点だったんです。

高橋:パラレルで終わってしまうと満足いかないですよね。自分がああ行動したからこういう結果になったんだ、ということでワールド自体を歪めちゃいけない、幽霊がいない世界から幽霊がいる世界に行くのでは満足いかないんです。

――世界観は統一するべきということですね。『痕』だったらエルクゥの存在とかですが。

高橋:伝奇的なモンスターが実は異星人だったという話は菊池秀行なんかで使い古されてるんで、それ自体は新しいネタじゃないとは思いますけど。とにかく『痕』は、千鶴編から最後の初音編まで全部違うテーマで行こうと決めたんですよ。サスペンスが好きな人は、いきなり妖怪ものだったらやる気がなくなるかもしれないじゃないですか。宇宙人ものだと「なんだSFかよ」みたいに。その点サスペンスは、こういうゲームにしては間口が広いので、まだ寛容だと思うんですよ。

――誰かが探偵の役回りを担って、ディテクティブな要素があれば良いわけですから。

高橋:千鶴編で書きたかったのは、物語の謎というよりも家族愛。千鶴という家族のなかで心を許している人が自分を殺す、「あなたを殺します」と言われるその衝撃を書きたかったんです。梓編は、テレパシーによって得られる断片的な情報から犯人を追いつめ、明らかにしていく部分。楓編はなぜ鬼=エルクゥが存在しているのか、ディテールをリアルにするために回想や伝承でワールドをしっかり固めて、その鬼が何なのかは初音編で語っているわけです。最初にバーッと書き出していったときに、出したいネタはいっぱいあったんですけど、それをちょっとずつ出す「コース料理」みたいなものなんです。昔のゲームってそうだったんですよ。その配分が下手なゲームもありますけど。最後にドーンとコースが全部来ちゃうようなのが(笑)。でも、やっぱり順序良く出すと気持ち良い、と言うかおいしいわけですよね。ちゃんと食べてもらいたいですから、その配分には気を使いました。昔の古き良きアドベンチャーゲームをもう一回やってみたという感じですね。『痕』を好きな人って、昔のゲームが好きだって人だと思うんですよ。『雫』が好きな人は、文章というか小説よりかな、と思うんですけどね。『痕』のストーリーは、小説とかドラマにしてしまうとなんのことはないですから。

――他にはどんなことを意識してつくられましたか?

高橋:『痕』には、癒し要素なんかも入ってます。96年のエヴァブームまっただなかで「自己の内面」とか「ドラッグ」なり「プロファイリング」なり「猟奇」なり、そういうものが流行っていた時に、必要なのは「癒し」だろうと思ったんですよ。ちょっと遅れて98年くらいから「癒しブーム」が来ましたけど、ガーデニングとか。

――誰を癒そうと?

高橋:それはやっぱりプレイヤーです。たとえゲームでも気持ちのいい空間に浸りたいじゃないですか。

――『雫』のエッジな感覚と比較すると、『痕』には安らぎを感じますよね。

高橋:他の作品がトゲトゲしてたんで、これをやってなごんでもらおうかなというのはありましたね。それだけじゃなく+サスペンスなんですけど。でもサスペンスと「わびさび」って相性良いと思うんですけど。

――舞台も温泉街で。でもいまや温泉ブームじゃないですか。

高橋:まあ、温泉地で事件が起こるのはお約束で(笑)。

――日本の夏を印象深く描いてますよね、セミが鳴いたりして。

高橋:それは意識してましたし、僕としては成功したと思いました。セミの声をBGMにしたゲームもそうそうなかったんです。でもいまは逆に使われすぎですね。「癒し」とか「なごみ」みたいなテーマは、もう良いだろう……とも思います。十分なごんでるよ、もうちょっと攻めろよ(笑)みたいな。

――いまや「癒し」系は全面化してますからね。当時は、そういうものはなかったんですか?

高橋:少なくともゲームではなかったですね。結構右へならえの業界じゃないですか、すべてにおいて。これは『To Heart』を自分で批判しちゃうことになりますけど、可愛い女の子に慕ってくれるだけじゃ癒されない部分はあると思うんですよ。やっぱり日本人は、自然とか田舎に行って癒される方がいいんじゃないかな。

――可愛い女の子だけじゃなくて、シチュエーションも大事だと。

高橋:それだけじゃダメだなと思ったんです。

エルクゥ
『痕』世界の幹を成している鬼伝説の正体。実は異星人。

菊池秀行
主にオカルトアクションのジャンルで活躍中の小説家。80年代後半の伝奇小説ブームを夢枕獏、荒俣宏らとともに先導した一人。各地に伝説を残す妖怪などが実はエイリアンやその遺産であるといった設定は、特に『エイリアン秘宝街』(朝日ソノラマ文庫)に始まるいわゆる「エイリアンシリーズ」などにはっきりと確認できる。

癒し要素
ヒーリング・ミュージックからガーデニング、アロマテラピーまで90年代後半はまさに「癒し」の全面化する時代だった。それが裏で意味する気持ち悪さを指摘するのは容易いが、経済不況と社会不安は我々のライフスタイルと価値観を確実に変えている。

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