Leaf 高橋&原田 INTERVIEW
TINAMIX
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――いま『同級生』の話が出ましたが、あれを『雫』と比較したときに、ゲーム性があるばっかりにプレイが煩雑になって純粋にシナリオを楽しめないのが難点だと感じるんです。

高橋:フラグ管理みたいなものですね。

――ええ、パズル要素とか自由度とか操作性とか……。

高橋:『雫』はフローチャートというか、攻略のかたちがなんとなく目に見えますよね。あれが利点だと思うんですよ。いらないところを取り払ったから、攻略しやすい。このシステム自体は、アドベンチャーゲームの一番進化してる形なのかなと思ってるんですけど。五年前にあのシステムが確立されて、その先がないというのはちょっと寂しいですが。シンプルにまとめたのに、ザッピングとか、また複雑なパズルにする必要はないと僕は思ってるんですけど。ノベルっていうのは内容勝負だから、インパクトのあるストーリーが重要だったんじゃないかな。

――原田さんは『雫』をきっかけにリーフに入社されたそうですが、『雫』に感じていたことは何かありませんか?

原田:テキストについてしか言えませんけれど…。技法的に特別なことをやっているわけでもなく、決して高橋さんでなければ書けない文章ってわけじゃないんです。クリアで、整っていて、歪みのない文章なんですね。元になっている大槻ケンヂの小説は僕も知っていましたけど、あれを、ことさらに狂気じみた文章を使うことなく、あそこまでやったのはすごいと思います。また、文章のなかに演出的(映像的)な要素をあれだけ入れているのゲームテキストも、当時は初めてでした。

――演出に関して言うと、リーフのビジュアルノベルには画面エフェクトが効果的に使われていますよね。あれを他のメーカーがなぜやらないのか、不思議に思っていたのですけど。

高橋:技術的な問題じゃないでしょうか。当時のマシンは表示能力がヘボヘボでしたから。雫をやったプログラマー(雫、痕、To Heartなどを担当してた人間)は、わりと凝ったプログラムを組む人間だったんです。彼の新作『ナイトライター』なんかはDirectXを使わずにいろいろな画面表示をやったりしてます。

――使っていないんですか?

高橋:はい。使ったほうが楽なんですけど、使わないほうが軽いんで。当時はプログラムと音楽に自信のあるメーカーでした。音楽も、他のメーカーにもうまい人はいたんですけど、ウチは「音楽を全面に出す」というスタイルで。シナリオとしても他とは違うことをやりたい。そこに竹中(水無月徹)の絵が入って、あいつも「ありきたりの絵じゃない、俺の個性を出す」という感じで。そういう意味では、当時みんなとんがってたと思います(笑)。

――どの要素もハイレベルな印象は受けましたよね、『雫』には。

高橋:そのハイレベルが綺麗にまとまっているか、と言ったらそんなことなくて、バラバラなんですけど(笑)。一種、同人ソフトみたいなもので「俺のを見てくれ!」というようなパワー、バランスの悪さも気持ち良い、みたいな。そういう雰囲気が出ていると思います。その辺は、今見るとすごく恥ずかしいですけど。

――少し話がズレますけど、『雫』のひなびたFM音源とか荒いドット絵ってわりと普遍的な価値があると私は考えているんです。でも現在のウィンドウズゲームだと音源はCD−DA、絵は高解像度が主流ですし、ゲーム業界全体で見ると「プレステ2」のように高度な技術を使う方向にばかり進化して、そうした価値が損なわれている印象を受けるんです。これは素人考えなのかもしれませんが……。

高橋:そんなことはないと思いますよ。ゲームのおもしろさにそんなことは関係ないというのは『ポケモン』が大ヒットしたり『ドラクエモンスターズ』でも十分ファンタジーワールドが表現出来るんだ、ということで示されたわけですから。逆に高度な技術に特化していくと不都合が生じてくることもある。それこそ『ゼルダの伝説』クラスまで行ってしまうと、逆に出来ないことが不自然に思えてきたり、微妙に表情がないところを嫌に感じたり。リアルに近づけることで逆にウソ臭く感じるところが出てくるように思います。

――映画の場合だと、わざわざモノクロームに回帰したりするケースもありますよね。ゲームではなぜそれをやらないのか少し疑問に感じているんです。

高橋:それはそれで話すべきひとつのテーマだと思いますよ。そのテーマだけで一時間くらいは語ってしまいそう(笑)。ただ『雫』『痕』は背景がモノクロなのは、当時PC−98の表示が16色なのでしょうがないというのもあるんですけど、あれは「色あせた世界」という『雫』テーマにあってましたよね。背景だけ見ると無味乾燥ですし、それが単純繰り返しの脳に響く音楽やテキストの羅列とあわさって、一種の催眠マシーンのような感じで(笑)。あれをきれいな総天然カラーでやってしまうと『雫』じゃないと思います。

『同級生』
92年エルフ。アダルトゲームに純愛要素を導入した先駆的な作品。竹井正樹の描く美麗CG、歩くリビドーと称される主人公、一夏の甘く切ない青春。96年に『雫』が登場するまでのパラダイムが同作品に集約されている。
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フラグ管理
フラグとはプログラムの中の状態を示す単語で、ADVやRPGでは主にイベントの進行状態を管理するのに使われる。プレイヤーが何かをすることでフラグが立ち、特定のフラグ(場合によっては複数の)が立つことでイベントが発生する。

『ナイトライター』
2000年発売のリーフ・アミュズメントゲーム第三弾『猪名川で行こう!』に含まれているタイピング・ゲーム。タイプ入力で魔法を詠唱、美しい画面効果が発動する。たしかに軽い。

ナイトライター画面
『ナイトライター』画面
(c)Leaf

DirectX
Windowsでのゲーム開発をより高度で簡単なものにするために、Microsoftが開発した一連の公開ライブラリ群。

FM音源
YAMAHAによって開発されたデジタル制御音源。MIDIやCD−DAの普及までは、パソコン及び各種ゲーム機の標準音源。単純に機械的とも言い切れない独特の音色には不思議な魅力がある。

『ドラクエモンスターズ』
98年エニックス。ゲームボーイソフトだが、ドラゴンクエストシリーズの世界観がきちんと再現されている。のみならずモンスターの収集、合体育成という『ポケモン』『女神転生』の最良の要素を付加。遊ぶ為にはこれだけで充分というゲームボーイ思想の集大成。

『ゼルダの伝説 時のオカリナ』
98年任天堂。NINTENDO64のハイスペックに対応した3DアクションRPG。三次元世界であのリンクが動く、動く。
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