Leaf 高橋&原田 INTERVIEW
TINAMIX
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――ノベルゲームの特徴についてお聞きしたいのですけど。

高橋:ノベルゲームにした利点で言うと、あの当時は単純に全画面表示のテキストが目新しいと思ったんです。それが売りになると思っただけだったんですけど、採用した上でのメリットは文字を飛ばす人がいなかったということ(笑)。その頃のアダルトゲームでも良いシナリオは結構あったんです。僕はわりと細かく読んでいた方なので「シナリオ良いのになんで話題にならないんだろう」と思っていたんですけど、どうやらみんな飛ばして読んでいるらしい。当時のゲームだと文字飛ばし機能は絶対標準装備でしたから。でも『雫』とか『痕』はさすがに飛ばす人はいなかったんです。あれは読み飛ばすと全く意味のないゲームですから。

――たしかに一度はきちんと読まないと、物語の筋がわからないですよね。

高橋:今はノベルものでも結構読み飛ばしている人もいるとは思うんですけど、当時はいなかったですね。買ったからには読む、という感じで。だから「シナリオが良い」と言われる理由のひとつにはなったんだと思います。

――当時シナリオが良かったゲームだと、具体的には……。

高橋:やはりエルフの蛭田さんや、アリスソフトのとりさんとか。マイナーなところで『Engage Errands 2』というファンタジーゲームがあるんですが、それなりに異色を放っていておもしろかったですね。

――マルチシナリオに関してはどうですか?  瑠璃子シナリオではそれが効いていると感じましたが。

高橋:僕としてはバッドエンドで終わっておきたかったんですよ。でもそれでは許さない人がいるだろうな、ということでハッピーエンドを入れてるんですけど。瑠璃子シナリオなんかでは。

――『痕』でもそうですか?

高橋:ええ。

――それでは高橋さんとしては「千鶴トゥルーエンド」がこそ本当の終わりだ、くらいの意識で?

高橋:続編を意識した『痕』の世界観で言えば、誰も死んでないと思います(笑)。キャラクターを生かさないといけないので。全体的にはああいう事件が起こりつつ、誰とも結ばれていない状態のまま続けたいですけど。

――なるほど。

高橋:マルチエンドの話で言うと、最初のノベルゲームは『弟切草』ですよね。これをプレイしたときにちょっとした感動があったんです。買ったのは友達の一人なんですけど、十人くらいで貸しプレイしてたんです。「エンディングまで二時間くらいでいける、早ければ一時間くらいのゲームだ」ということでみんなで貸しあって遊んだら、「おもしろかった」と言うやつもいれば「つまらんかった」というやつもいる。そこでみんなで集って話をしたときに、全員の話が食い違っているんですよ。「犯人は誰だった」「犯人って何? 俺は幽霊だったよ」「あいつが犯人で妹が死んで……」「死んでないよ!」……とか言ってですね、これは何か違うぞという話になった。要はみんなシステムを知らないんですよ、実は分岐でシナリオが全部違ってくるということを。

――みんな知らなかったんですね(笑)。

高橋:知らなかったんですよ。みんなの話を擦りあわせてシステムが見えてくるまでに少し時間がかかって。それがすごく面白かったんです。これは新しいと思った。そういう感動を再現したいという気持ちが『雫』にはありました。で、マルチエンドにすることで、実はひとつ嬉しい誤算があったんです。当時アダルトゲームだと、みんな完全コンプリートなんてやらないんですよ。一人か二人のエッチシーンを見て終わりなんです。具体的に言うと『同級生』なんですけど、全キャラ攻略なんてすごく時間がかかるからやらなかったし、僕もやらなかったんです。どうしたかと言うと、お目当ての娘だけを狙ってエンディングを見て、このゲームは封印みたいな感じだったんです。全体的な風潮的でも。僕は『雫』もそうだろうな、と思っていた。気に入った女の子を選んでくれて、その娘とのエンディングが見られればそれで良いのだと。でも全員が全員、最後までやってくれるんですよね。『雫』に関しては特に。

――なるほど……いまからすると当り前のことのように聞こえますけど。

高橋:当時はかなり濃いユーザーでもない限り、途中でやめる人が続出してたんですよ。

――なぜそこまでプレイヤーをひきつけたんでしょう?

高橋:作品自体の規模が小さかったから、やりやすかったんじゃないでしょうか(笑)。それに……あんまり自分では言いたくないですけど、一本一本のシナリオがおもしろかったから次も、と思ったのかもしれない。僕は『弟切草』も『かまいたちの夜』も最後までやりましたけど。

――きっといろんなシナリオがあるんだろうと思って。

高橋:ええ、全部つぶしましたね。でも最初のつかみの一本がつまらなかったら、たぶんやめてると思います。

全画面表示のテキスト
『弟切草』で初登場したシステム。『雫』はこれを踏襲。テキストと図像の融合は、文章がビジュアルを損なうのではないかという憶測を覆した。最近では再び文章をフレーム内に収めるタイプが主流になりつつある。

文字飛ばし機能は絶対標準装備
CAPSキーを押してテキストを早送りする機能。リーフ・ビジュアルノベルでは二作目の『痕』で初めて一度見た文章をF・10キーで飛ばす機能が付いた。かつてNECのPC-98シリーズが日本でシェア一位を独占していた時代の話。

エルフの蛭田
業界の黎明期から活躍しているエルフの社長兼ディレクター蛭田昌人氏。大ヒット作『同級生』の生みの親。純愛から鬼畜系まで、破綻のないシナリオ、荒唐無稽な主人公キャラの造形には定評がある。

アリスソフトのとり
熱狂的な固定ファンを持つ、関西の老舗メーカー・アリスソフトのシナリオライター。耽美的、退嬰的な作風が持ち味。代表作は『AmbivalenZ』『夢幻泡影』。

『Engage Errands 2』
〜光輝を担うもの〜

95年ポニーテールソフト。魔女の玩具として作られたふたなりの少女が本当の自分を取り戻す旅に出るシミュレーションゲーム。前作の硬派なゲーム性が抑えられた分、ストーリー重視の読ませる作品に仕上がっている。

僕としてはバッドエンド
いわゆる「瑠璃子トゥルーエンド」のこと。プレイヤー=読者に喪失感を残して終わるエンディングで、かなり小説的。

続編
構築された作品世界と魅力的なキャラクターから、未だに「生涯最高のAVG」と評されたりもする『痕』には、続編制作の噂が後を絶たない。

『弟切草』
92年チュンソフト。『ドラゴンクエスト』シリーズのメインプログラマーとして知られる中村光一氏が会社設立後リリースした処女作。ノベルゲームというジャンルを拓いた画期的な作品だが、次頁で高橋氏も指摘している通り、これはアドベンチャーゲームの最も進化した形だと思われる。臨場感あふれる音楽演出、驚きに充ちた映像的な仕掛けなどは、未だに新しい。
[→関連サイト]

完全コンプリート
コンプリートする意志の問題よりも、システムとシナリオが複雑に構成された『同級生』シリーズ、とりわけ『同級生2』『下級生』などは、ある種のシナリオは攻略チャート本無くしてクリアすることが困難になっていた。ゲーム黎明期以来のコアユーザーはそれを自分で作成したものだが、ゲームが広く一般化した時にそれをどこまで求められるかは難しい。この問題はギャルゲーに止まらない。例えば、全てのプレイヤーが果たして攻略サイトを見るか?

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