6.
――個人的に『To Heart』は女の子がやってもおもしろいゲームだと思うんですが、その辺りの感触はどうですか?
高橋:最近、女の子のファンが多いんですよ。同人誌やエニックスから出たアンソロジーなんかを読んで「私もやりました」みたいなケースがあったりして、女の子受けは良いですよ。僕らの感覚では、ああいうゲームは女の子に嫌われるもの、というのがあると思うんですけど。『To Heart』は嫌な女の子というか、男に都合の良いだけでは書いてないつもりです。ギブ&テイクなんですよ。浩之がこれだけやってくれるから、女の子もこれだけしてくれるっていう。
――あと、これは唐突ですけど、『あずまんが大王』って『To Heart』に似てませんか?
高橋:そうですね。方法論は似ていると思います。四コマってシチュエーションだけを描いているわけですよね。『To Heart』は基本的にシチュエーションの連続ですから。だから『To Heart』をやるにあたっては四コマが一番良かったと思います。アンソロジーの四コマはどれも良い感じですし。『あずまんが大王』はちょっと悔しい(笑)。あれは『To Heart』でやりたかったことでもありますから。
――『To Heart』の最良の部分はこれなのかと。
高橋:四コマが一番『To Heart』を表現しやすかったと思います。
――コンパクトに表現できているからですか?
高橋:スパッと読めるのが良いんです。『To Heart』なんて本来後を引きずるようなものじゃないんですよ。四コマくらいで、その瞬間がおもしろいものを目指していたわけですから。『To Heart』本編中のどこから読んでもおもしろい、それだけのものでしかないです。あとはキャラクターで突っ走った。まさに『あずまんが』と同じだと思いますけど。
――ゲームの成り行き上、後半にキャラごとのストーリーがあって。
高橋:四コマがあって、スペシャルでちょっと泣けるストーリーがあって。そんな感じですよね。『痕』みたいな構成はなくて。
――『To Heart』を制作するときに意識した作品はありましたか?
高橋:96年頃の制作ですけど、全体的に業界にたいするアンチがあったんです(笑)。具体的に言うと『同級生』とか。やっぱり都合の良い女の子が多かったんですよ。それに女の子から一方的に惚れられる構図が嫌だったのかもしれません。なぜ仲良くなったかを書きたかったんです。
――恋愛ゲームって「攻略」の世界ですから、それはシステムからの要請もあったと思います。
高橋:そうです、攻略なんですよ。『ときめきメモリアル』もそうだったと思いますけど、女の子にあわせないと攻略できなかったんです。ゲーム的なところで言うと、パズルがあって、そのパズルを解くとご褒美でストーリーが進んで、さらにパズルがあって……となっているんです。それは『ときメモ』だとパラメータ上げがあって。『同級生』はフラグ上げに女の子を追っかけて、出会うことでイベントが発生して。クイズゲームだったらクイズに正解すると女の子のストーリーがあってとか。ギャルゲーってそういうのばかりだったんですよ。そういうパズル要素をぜんぶ取り払って、会話だけでゲームができないのかな、と思ったわけなんです。ほぼ同時期に出た『トゥルーラブストーリー』も、あちこち場所を移動して、女の子と仲良くなっていくとイベントが発生するタイプのゲームなんです。そこで女の子と出会ったときの会話が全然ないんですよね。『ときメモ』もそうなんですけど。普段の立ち話の会話とかがほとんどないんですよ。その会話の部分こそおもしろいんじゃないか、と思いつつ書いた記憶はあります。
――そういう会話部分をほんの数行でテンポよくこなしていく方が良い、というユーザーも一方にはいると思うんです。『To Heart』くらいボリュームがあると逆にかったるい、という意見もありますが。
高橋:『雫』『痕』までが持っていたようなテンションと言うか、テキスト量的なペース配分やリズムを『To Heart』ではいっさい省いたんです。要は100%キャラクターなんですよ、『To Heart』は。ストーリーと言っても「キャラクターがこうなりました」という行動であって。そのストーリーを書きたいからじゃなくて、そのキャラを描きたいからあるストーリーなんです。そんな書き方は異色だったと思うんですよ、ゲームのなかでも。でも、いまではそれが業界の主流になってしまって……。最近の作品はキャラクター以外の中身が全然ないですよね。『痕』シナリオのような仕掛けもなければ、『雫』の持つインパクトもない。『White Album』のように恋愛の暗部を描くテーマもない。だからいまのギャルゲーは『To Heart』の流れでダメな方向に行ってると僕は思います。『To Heart』は一発目だから許されたと思うんですけど。
原田:高橋さんは、『To Heart 2』をつくる気は最初からなかったのに、まわりが『To Heart 2』をつくり出したという感じですよね。
――キャラばかりで構築がなくなっていると。
高橋:そういうのを求める声はあがらないのかな、と思いますけど。キャラばかりが肥大化すると歪ですよね。
原田:その歪なかたちが本来のフォーマットだと思われるとやりずらいです。僕なんかもキャラを萌えさせるような方向を要求されるようになって。
高橋:世界観が全然ダメだ、というような文句はあがらなくなってきている。ストーリーはいらない、でもキャラが魅力的じゃなかったり、泣けなかったりするとおもしろくないと結論を出されるのは価値観が歪んでいるとしか思えないです。
原田:世界観やストーリーに対して、濃いめの反論があがるってことは、自分が何かを構築しようとしたことの証明になると僕は考えています。確かに、そういう否定的な評価には落ち込むこともありますけれど。でも、それが出ない状態というのはもっと痛いですね。
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