■さらには擬似家族漫画の聖書
さて、崩壊家庭漫画といっても、ただ単に家庭の崩壊っぷりを描いて物語にするのはまず不可能。そこで崩壊家庭漫画は、たいていの場合もう一つのジャンルを兼ねることになる。それは擬似家族漫画。
これはちょっと考えればすぐわかることで、「うちの家庭こんなに酷いんです」だけだったらさすがに話がもたない。仲間や恋人といった他者との接触で、心が癒されていく描写も必要だ。
『ホットロード』も例外ではない。この漫画における擬似家族、それは和希と春山の恋人関係だ。
そもそも春山は和希との初対面で、こう言い放つ。
「おまえんち、家テー環境わりいだろ?」
つまり家庭環境をキーワードに二人の関係は、スタートするわけだ。
以後の二人の付き合い方も、明らかに男と女のソレではない。中盤二人が同棲するエピソードがあるのだが、同棲しても二人は何もしない。それも、単に描写を省略しているのではない。春山は「やらせろ」と迫るのだが、和希は拒む。こういう描写は何回か、わざわざ入れているのである。つまり、読者に邪推を与える余地をわざわざ潰しているのだ。
和希の春山への思いは、性愛に基づくものではなく失われた家庭の再生を目的としている。このことに作者はこだわりを見せている証拠だろう。
「なんだよ、そのママゴトみたいなの」と思う人も多いかな。しかし、あたしが過去出会った人の中にも、こういう人がいた。というよりは、そういう人が多かった。つまり、家庭の代用としての意義すら満たせない恋愛関係なんて破綻するもの、なのだ。もちろん、家庭の代用効果を必要としない恋愛というものも存在するけれど、それはさすがに少女漫画で描くことはむつかしい。だからレディースコミックがある訳なのだ。
ここらへんの話書くとややこしくなるので、続きは「青少年のためのレディースコミック入門」で。>>次頁
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