■実は崩壊家庭漫画の聖書
しかし、純正ヤンキー文化が廃れていく昨今、若い読者はこの漫画を読んで、「おもしろい」と思うのだろうか?そんな、オールド少女漫画ファンの声が聞こえてきそうですな。大丈夫、この作品はいまだに通用します。なぜなら、この漫画はヤンキー漫画という以上に、崩壊家庭漫画だから。
崩壊家庭漫画といきなり言っても、誰も理解してくれないだろうな。ようは、「家庭のいざこざ」漫画である。
「家庭のいざこざ」といっても、「パパ、ママ、昨日はあんなこと言ってごめんね、ほんとは大スキよ」 ぐらいでは、崩壊家庭漫画とはいえない。それは、ただのワガママ娘漫画である。そりゃあ崩壊家庭というくらいだもの、そもそも家庭が崩壊してることが最低条件。片親、みなし子大歓迎。夫婦の離婚はドラマの始まり。余談だが、崩壊家庭漫画の巨匠、三原順はいつかここでやりますよ、と宣言。
先のストーリー紹介のところでは、わざと書かなかったのだが、当然『ホットロード』の話には、崩壊家庭が大きく絡んでくる。主人公和希は、母親と二人暮し。父親は和希が小さい頃に死亡、彼女は顔も覚えていない。
とまぁ、ここまでならただの母子家庭だ。この漫画をおもしろくしているのは、母親のキャラクターである。だって、気質は気分屋でお譲様、夫とは無理やり結婚させられたと言ってるし、妻子持ちの男をずっと愛しているし、おまけにその男って高校のときの同級生だし、落ち込むとその男とずっと電話してるし。そう、ただのダメ女。
ダメ女だからして、子育てもダメダメ。娘と対話しようなんて意思皆無だし、自分がお気に入りのガウンを娘が着てるだけで不機嫌になるし。
圧巻は、家出した和希に対し、先生が、母親を呼んで話し合いの場をもとうとするところ。「気分が急に悪くなった」とドタキャンかまし。呆れた先生、和希に一言、
「君のお母さんは、弱虫だな」
いやもう、気持ちが良いくらいのダメ女である。「あたし家庭環境が原因でグレちゃいました〜」なんてヤンキー漫画だと、たいてい家庭が厳格とか両親が仲悪いとかって描写をステロタイプにやるくらい。それだとこっちも「ああそうなの」というくらいだ。しかし、『ホットロード』の場合は、ストーリーの必要性なんて枠をはるかに超えた、ダメ女っぷりが炸裂する。「そりゃ、あんた子供がグレて当然だよ」とこっちもワイドショー気分になるくらい。
崩壊家庭漫画の肝は、親のダメ度にかかっている。それも「父親としてダメ」、「母親としてダメ」なんてレベルなら、結局「やっぱり私のことを愛していてくれたのね、ありがとパパママ」レベルで落ちてしまう。そうでなく「男としてダメ」「女としてダメ」、このレベルが必要とされる実は厳しいジャンルなのだ。>>次頁
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