斬り落とされてから丸一日経過しており、常温保存だった為か、ルリの抱えているジンの右腕は少し腐り始めて、嫌な臭いがし出していました。布を巻いて切り口の部分が血に染まったジンの右腕に小蝿が集ってきます。
「お前、そんなもんよく平気で持ち歩けるな」
「あんたの右腕でしょ!自分で持って歩く?」
「今、左手しかないから持って歩くのは大変そうだよ」
鬱蒼と生い茂る雑草が、人の侵入が長い間なかった事を物語っています。ジンは左手で剣を振り回して、雑草を薙ぎ払いました。ルリはその後ろを歩きます。
「あら、左手でも剣が使えるじゃない?」
「利き手じゃなくても訓練はしていたよ?左手は二刀流で主に防衛に使う」
「へぇ、流石に騎士科の優等生ね。私の知らない専門分野だわ」
「ルリが褒めてくれるなんて珍しいね?」
「褒められるような事を、あんたは言わないからよ?アカデミーの生徒のみの剣術大会とは言え、優勝するなんてすごいと思うわ」
「ルリに応援に来て欲しかったんだけどな…」
「あんたの右腕が無事に治ったら観に行ってあげるわよ?」
「本当に?少しヤル気が湧いて来た」
やがて魔女の棲むと言われている西の山の洞窟が見えて来ました。洞窟の入り口でルリは大きな声で魔女に呼び掛けます。
「メリッサさん!いたら出て来てくださーい」
「おやおや、こんな山奥までお客さんが来るなんて、何年ぶりだろうね?」
「あなたがメリッサさんですか?実はお願いがあって来ました」
「私の予知でわかっていたよ?お前たちがここに来る事は何年も前からね」
「えっ!そんな事までわかるんですか?魔女ってすごいですね」
「その坊やの右腕を治して欲しいんだろう?」
「はい…。お金はあまり持ってないけど、お礼に何でも言う事を聞きます」
…つづく
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昔、知り合いが某少年漫画に持ち込みして、編集の人にこき下ろされまくった作者の原作の小説。復刻版の第5話です。