涙で霞むジンの目の前で、愛するルリは盗賊団の男たちに次々に弄ばれてゆきました。ジンはどうする事も出来ずに、ただ罪悪感で押し潰されそうになっています。
「ううっ…、ごめん…ルリ…。こんな事になるなら…、俺がデートに誘わなきゃ良かった…」
ルールを無視した盗賊団との戦いに敗れ、剣術大会で優勝して調子に乗っていた自分が恥ずかしくなりました。どんなに後悔しても時間は巻き戻せません。盗賊団は満足したらしく、ジンとルリを置いて去って行きました。ルリは近くに落ちていた服を着ると、ジンの右腕の傷を応急処置して、そばに落ちている右腕も拾って布で包み、大事そうに抱えました。
「殺されると思ってたけど、二人とも無事で運が良かったわね」
「運が良いだって?俺は右腕を失ったし、ルリはもっと大事なものを失った…」
「命が助かっただけマシでしょ!クレス先生に頼めば、この右腕もくっ付けてくれるかもしれないわ?診療所に戻りましょう」
ジンは落ちている剣を左手で拾いましたが、鞘に入れづらくて杖のように地面を突きながら、ルリの後ろを歩いて帰りました。診療所は休診日でしたが、ルリは診療所の裏にあるクレスの自宅を訪ねます。クレスはまだ独身なので、一人暮らしでした。
「これは無理だ…。僕には治せないよ?」
「先生でも無理なんですか?どうしよう…。困ったな」
「どうしてこんな事になっているんだ…。二人でデートに行ったんじゃなかったのか?」
「剣術しか能がない俺が右腕を失ったら、もう生きて行けないよ…。剣術大会に優勝した後に王国の偉い人にスカウトされて、アカデミー卒業したら王国騎士団に入団するのが決まってたのに…」
「バカな事、言わないで!腕がなくたって生きて行けるわよ?」
クレスに右腕の手当てをしてもらい、ジンは家に帰って不貞腐れて寝てしまいましたが、ルリは自分の部屋の本棚に並べてある医療関係の書物に熱心に目を通して、ジンの右腕を治す方法を調べています。翌朝、ジンの家をルリが訪ねて来ました。ルリの方からやって来たのはこの日が初めてです。
「かなり難しい魔法だけど治せるって、この本に書いてあるの」
「クレスの奴は魔法は使えないし、こんな魔法使えるのなんて第一級魔術師だけだよな。チャービルの街に行けばいるだろうけど、べらぼうに高い料金を請求されるだろうね。右腕の事は諦めるよ?」
「西の山に棲む魔女・メリッサなら治せるかもしれないわ」
「西の山の魔女なんて紅い兄弟よりヤバイって噂だぜ?のこのこ会いに行ったら殺されるかもしれない…」
「でもこれしか方法がないのよ…。あんた紅い兄弟には畏れずに挑んだ癖に、まさか魔女・メリッサは怖いって言うの?」
「そうだな…。もう俺には怖いものなんかないよ」
「決まりね。さっそく西の山の洞窟へ行きましょう?」
「ルリはなんでそこまで俺の為に尽くしてくれるんだ?俺がガキのせいだっていつもみたいに罵ってくれよ!優しくされる方がツラくなってくる…」
「あんたを責めたって何にも変わらないじゃない?何度も言うようだけど、生きてただけで私たちは運が良かったのよ…」
…つづく
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昔、知り合いが某少年漫画に持ち込みして、編集の人にこき下ろされまくった作者の原作の小説。復刻版の第4話です。