話は戻ってミカエルはゲイザーに昔話をしていました。
「私はまずナターシャを救う事にしました。妖精のタイタンにまだ幼いナターシャをさらうように命じたのです。そうしなければナターシャは人間の世界で悪しき心が芽生えて、魔力が暴走してしまうかもしれないからです」
「タイタンと言うのはティターニア様の事ですね」
「はい、そしてタイタンにナターシャの育児を託したのですが…。オベロンがタイタンと教育方針の違いで喧嘩になって、パックのいたずらでタイタンは女性に生まれ変わりました。そして人間の男に夢中になり、育児放棄してしまったのです…」
「オベロン様とティターニア様の教育方針の違いとは…。一体、どんなものだったのです?」
「オベロンは能力の高い者だけを評価して、能力の低い者は見下していました。タイタンは全ての者を平等に扱うべきだと主張していたのです」
「なるほど、以前アラヴェスタでも少し問題になりましたね。アカデミーの方で平等にする為に、かけっこは全員手を繋いで一位でゴールすると言う…」
「オベロンにもタイタンにも一理あるのです。どちらが正しいとは言いきれません」
「私はかけっこで全員一位にするのは不平等だと思います。なぜなら私のようにかけっこが苦手な者は絵を描いて賞をもらったりしていたからです」
「ええ、そうです。たった一つの物差しで測ってしまっては、平等性に欠けてしまいます。それぞれが得意なもので、一番になれば良いのです」
「私は別に一番にならなくても良いと思っています。むしろ私には二番手の方が心地が良い」
「ふふ、あなたならそう言うと思いました。ルシフェルは常に自分が一番でなければ気に入らないと言うでしょうけど…」
「アーク殿はそれ相応の努力をなさってますからね。努力もせずに羨む者を嫌っていました」
「私は独善的なオベロンには任せておけないと思ったので、ユリアーノに天啓を伝えてナターシャを育てるように仕向けました。ただ、ユリアーノにも邪悪な波動が少しだけあるので、不安ではあったのです…」
「ユリアーノ様に悪しき心などありませんよ?何かの間違いではありませんか」
「ユリアーノはルシフェルと同じく全てに於いて完璧でしたが、愛するミネルヴァの事をいじめていた侍女たちの事を憎んでいました」
「ユリアーノ様の侍女たちを憎む気持ちは私にも少しわかるような気がします」
「その後、私は占い師に変装して、今度はあなたをナターシャに引き合わせました」
「はっ!あの時の占い師はミカエル様だったのですか?国王の機嫌を損ねて騎士団を解雇されて、行く宛もなく夜の街を歩いていた時に私の悩みを相談したら、ユリアーノ様の塔を訪ねろと仰ってくれた…あの占い師が…まさか」
「ええ、そうです。途中までは上手くいっていましたが、オズワルドを生かしたままにしておくと、オズワルドが国王に助言してギルバートの命を救ってしまい、あなたはギルバートに殺されてしまった…。そしてアークがオズワルドを殺害して逃亡する為に、ナターシャを唆して悪の道に進んでしまいます」
「なるほど…。それで時間を戻してやり直されたのですね」
「はい、私はまた占い師に変装してギルバートにあなたの正体を教えました。ギルバートはオズワルドに指示して、あなたを捕らえました」
「あの時、私がなぜさらわれたのか不思議だったのです。ミカエル様の策だったのですね…」
「はい、フラウにオズワルドを殺させるのが私の苦肉の策でした。天使の私は基本的に人間を殺してはいけないのです…」
「ふむ、殺生を禁じられているあなたがどれだけ悩んで考えた策なのか、察するに余りあります」
「何度も何度も失敗を繰り返して、やっと歯車が回り始めて、今のこの世界が出来たのです。だからもうこの世界を二度と崩壊させてはいけません」
…つづく
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書き残してしまったことを書きたくて考えた本編の続き第135話です。