ピーターはまだネズミの頃に覗き見していた事を思い出していました。ゲイザーとフラウの寝室を覗き見するのが、ピーターの密かな楽しみだったのです。屋根裏の隙間から覗き込みました。
「ちょっと頭を冷やして来ます」
その日もいつものように夫婦喧嘩が勃発して、ゲイザーは出かけて行ってしまいました。フラウはすすり泣きをしています。ピーターはガッカリしながら見ていました。
「またワガママを言って怒らせてしまった…。どうして私はゲイザー様を困らせてしまうの?こんな事では嫌われてしまうわ」
フラウが一階に降りてリビングに行くと、見回り中のアークが話しかけてきました。ピーターも屋根裏を移動して、リビングの戸棚の上から息を殺して見ています。
「フラウ様。こんな遅い時間に、どうかなされましたか?」
「アーク、ゲイザー様はどこへ行かれたかわかるかしら?」
「いえ。先程、外に出て行かれたのは見ていましたが、私には見回りの任務がありますので」
「はぁ…、私はどうしてこんなに可愛くない性格なのでしょう?ゲイザー様の前ではなぜかすぐ悪い女になってしまうのです」
「フラウ様は才色兼備であらせられますよ?こんな美しくて強い女性を悲しませるなど、ゲイザー様は悪い男ですね」
「ゲイザー様の事を悪く言わないでください!悪いのは全て私なのです…」
「口が過ぎました。でもフラウ様のような女性ならば、他の男がほっておきませんよ?」
「私のような気の強い女は男性から嫌われてしまいます。十代の頃にお付き合いした男性は、いつも私の体だけを目当てにしていて、私が拒否すればみんな逃げて行きました…」
「私も似たような経験があります。フラウ様とは少し違うかもしれませんが、人間の中には私に恋をする者が多くいましたので、何度かお相手をしております。ただ、私には性欲がないので、私から求める事はなく、それが理由で別れていました」
「私もゲイザー様から求められる事がなくて、とても傷付いていたので、その気持ちがよくわかります…」
「フラウ様が望むのであれば、私が夜のお相手を出来ますが…。いかが致しましょう?」
「アークは恋愛感情などないのでしょう?そんな相手と体の関係を持つのは虚しいだけです」
「恋愛感情はあります。この女性を守りたい、ずっとおそばにいられたら幸せだ、と言う感情ですが…。体の関係を求めなければ愛情ではないと言う考え方は、天使にはありませんので」
「そうですね。私は心の穢れた女ですから、体の関係を求めてしまうのかもしれません」
突然、アークがフラウをソファーに押し倒しました。ピーターは身を乗り出して、よく見ようとします。フラウの抵抗も虚しく、唇を奪われました。
「あなたは私の理想通りの女性です。心が美しくて聡明で…ゲイザー様にはもったいないくらいですよ?」
「やめなさい!私はゲイザー様の妻ですよ?」
「その気の強いところも良いです。ゲイザー様にはどうしてこんな良い女が集まってくるのか不思議です」
「自分に惚れない女がいるわけないと思っているのでしょう?自惚れないでください!」
「私が本気で口説いて堕ちなかったのは…、あなたで二人目ですよ?」
「二人目?一人目は誰ですか?」
「それが思い出せないのです。私の記憶に鎖がかけられて雁字搦めになっている。とても大事な人の記憶のはずなのに…」
…つづく
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書き残してしまったことを書きたくて考えた本編の続き第134話です。