街から出て少し歩くと、ナタにルーシーを召喚させました。空を真っ直ぐに飛べる魔物なら、目的地まであっと言う間に着きます。
「魔法使いの相棒がいると、旅がラクになると傭兵仲間から話には聞いていたが、これほどとはな…」
「私、まだ見習いだから魔法使いじゃないよ?魔法、一個も使えないし…」
「しかし素質はあるのだろう?私には素質がないから魔法を覚えたくても覚えられない」
手配書に記された湿地帯に来ました。この辺りに巨大なスライムが出て、農作物を荒らして村人が困っているとの事でした。依頼人はこの村を治める領主で、報酬は意外に高額です。街でも野菜の値段が高騰していて、街の主婦も困っているとかで、徐々に報酬が増えてしまったようです。
「ぬかるんでる場所には足を踏み入れるな。足が抜けなくなるぞ?お前のような子供は泥に飲み込まれて死んでしまう」
湿地帯の上に板が敷いてある細い道を慎重に歩きました。道の脇には等間隔で杭が打ち付けてあって、ロープが張ってあります。湿地帯の奥に板が床のように敷き詰めてある場所があり、そこに休憩所のような小屋がありました。
「この辺りのはずなんだが…。もう討伐されてしまった後なのか?スライムなど一匹も見当たらなかった」
とりあえず小屋の中で休憩していると、ドロドロとした液体が小屋の隙間から流れ込んで来ました。慌てて剣を引き抜いて斬りかかりましたが、斬っても斬ってもすぐくっついてしまいます。
「チッ!こんな水の塊みたいなドロドロのモンスターに、なぜこんなに苦戦するんだ?」
「スライムはあの真ん中にあるコアを壊さないと倒せないよ?」
「コア?あの薄ぼんやりと光ってる部分か…」
ゲイザーは剣を突き刺しましたが、コアには届かず、スライムがまとわり付いて剣が引き抜けなくなりました。
「ダメだ…。コアに届かない!」
「多分、向こうにいる人がビーストテイマーだと思う。あの人を倒さないと、何度でも復活するよ?」
ナタの指先を見ると窓の外に隠れるように、ローブを着た人物が立っているのが見えました。
「ビーストテイマー?お前と同じ魔法使いの仕業だったのか…」
「スライムって結構、強いんだよ?特殊なモンスターだからナタにもまだ操れないし…」
「なぜ先にそれを言わなかったんだ!役所で教えてくれていれば…」
「おじさんなら倒せるかと思ってたの…」
「なあ、お前ならあのスライムと友達になれるんじゃないか?」
「それは無理だよ。スライムには心がないし、ナタには心のないモンスターは操り方がわからない…。それに人のモンスターを操るのは、ビーストテイマーは絶対しちゃいけないの」
「クソッ!ここまで来て尻尾を巻いて逃げるしかないのか…。賞金が以前より跳ね上がっている時点で、手強い相手だと気付くべきだった」
「それじゃ、ルーシーを召喚して逃げるの?」
「そうだ!ジョルジュを召喚して戦わせれば良いじゃないか?」
「ジョルジュを出すの?この小屋だとちょっと狭いかも…」
「この小屋から脱出しないと…。とりあえずピーターを出してくれ。何か役に立つかもしれない」
スライムは小屋の中いっぱいに溢れ返って、最早逃げられない状況でした。ナタがピーターを召喚すると、スライムに突撃して行きます。ところがスライムの中でピーターは溺れてしまったのでした。
「ああっ、ピーターが!あのままじゃピーターが死んじゃう…」
「ちくしょう!どうすれば良いんだ?私の剣もスライムに飲み込まれてしまったし…。八方塞がりだ」
溺れてもがき苦しみながらもピーターは突き進んで、コアを噛み砕きました。途端にスライムは原型を留められなくなり、崩れ落ちます。ナタはピーターのそばに駆け寄りましたが、もう虫の息で急いでカードに封印します。
「カードに封印したから、多分死なないと思うけど、もうピーターは戦えないよ…」
「ピーターはよくやってくれたよ。これで小屋の外に出られる」
剣を拾って小屋の外に出ました。先ほどのスライムより小さめのスライムが、たくさん現れます。
…つづく
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昔、書いていたオリジナル小説の第5話です。