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………はぁ…………
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………はぁ…………
「ええぃ陰気くさい!しゃきっとしなさい、しゃきっと!」
声に反応し、少しだけ顔を向けるが、またすぐに俯く。
「まったく。はじめの頃の気構えはどこにいってしまったのかしら?家族を守るんだって、その為に教えを請いたいって言いだしたのは誰だったのかしらね?」
「…う…、それは…」
「家族だけじゃない、私たちを含め、この大陸全てを救いたいなんて… 全部ウソだったのかしら?」
「う、嘘なんかじゃない。その気持ちに偽りはないよ」
「ならしゃんとしなさい皇子劉弁!こうしてる間にも、賊が蔓延り、民が虐げられているのよ。貴方に立ち止まってる猶予があるの?」
この子の気持ちもわかる。わかるけれど、それを許すわけにはいかない。
「…そう…だよね…。…うん、落ち込んでても仕方ない。しっかりしないとね」
顔にピシャッと平手で気合いを入れ、やや陰がありつつもこちらに向き合った。
この子のこういうところは感心する。
身分の高い家の子供なんて、他はどいつもこいつも甘ったれのお坊ちゃんばかり。
ちょっと嫌なことがあれば、グズグズと自分に引き籠ったり、周りの者に当たり散らしたり。
4歳という年齢で、表情以外、幼さを感じさせることの少ないこの子とは一線を画している。
「ありがとう、華琳お姉ちゃん。大事な事を思い出させてくれて」
!!! 不覚にもドキッとしてしまった。
自分の頬が熱くなっていくのを感じる。
…時々この子はこうやって大人びた顔をする。…それがカッコよく見えるのがなんだか悔しいのだけれど。
「べ、別に陰気くさい顔を見てるのが嫌だっただけよ。礼を言われる事でもないわ///」
(…………なんというツンデレ)
何か変な言葉が聞こえた気がするけど、気のせいよね。
でも、この子が落ち込むのも無理はないのよね。…甘いとは思うけれど、なんとかしてあげようかしら。
私は先月の出来事を思い返した…
<~回想中~>
もうすぐ弟か妹が産まれる。そんな情報を知った朝陽は、それはもう浮足立っていた。
「ねぇねぇ、どっちかな?弟だったら一緒に遠乗りとか訓練とか出来るよね?妹だったらいっぱいお洒落な服着せてあげたいな」
「とと様似だったらぼ…余にも似てるのかな?お母さんの王さん似だったらキリッとした顔になるのかな?」
「お兄ちゃんって呼んでくれるかな?いや、お兄様も捨てがたいな。う~ん迷うなぁ」
などと、だれかれ構わず話しまくっていた。
間違いなく兄馬鹿になるであろうあの子のことを、みんな微笑ましく眺めていた。
そうして時が過ぎ、女児無事出産の報が宮廷にもたらされた。
その時のあの子の喜びようといったら… まるで我が子が生まれたかのようにはしゃぎまわって… ふふふ
でもそれも…
1週間過ぎ
「名前は協って決まったんだって♪そろそろ見せてくれないかなぁ?首が座るまでは無理かなぁ?」
1か月過ぎ
「なんかね、とと様似らしいんだよね。余にも似てるのかなぁ?一緒に歩いたら兄妹ですかって言われるかな?」
半年…
「まだ会わせてもらえないんだよね… なんか事情があるのかな?」
そして1年…
「一目だけでも… 会いたいなぁ…」
妹に会わせてもらえない、と。
日に日に落ち込んでいくあの子をみているのが辛かった。
しかし何故会わせないのだろう?
あの子が嫌われてる? …いや、そんなことはないはず。
授業の息抜きを兼ねて、あの子が外で昼寝しているところを王美人が微笑ましく見ていたのを私は知っている。
何皇后様とも仲が良く、時々庭園でお茶を共にしていたのを何度も見ている。
何か私の知らない事情があるのだろうか?
よし! と意を決して、私は事情を知っているかもしれない人物を訪ねることにした。
「おお、よく来たのぅ華琳や。息災にしておったか?」
「はい、ご無沙汰しておりました。お爺様」
「うむうむ。隠居の身となってからは孫であるお主の成長が何よりの楽しみじゃ」
「ありがとうございます、お爺様」
「…して、何やら悩みでもありそうな顔じゃな?」
「…隠してるつもりでしたが。流石にお爺様には分ってしまうのですね」
「ほっほっほ、可愛い華琳のこと、わしに分からぬ筈があるまいよ」
「恐れ入ります。…実は、本日は折り入ってお尋ねしたい件が御座いまして」
「よい、わしの知ることならば何でも答えようぞ」
「はい。私が教育係を務める弁皇子様が最近お元気を失くしておりまして… その理由というのが、昨年御生誕されました妹君に未だ会えない、というものなのです。兄妹となるお二人を頑なに会わせようとしない… その理由が私には分からないのです。大長秋を務められていたお爺様なら、なにか事情をご存じではないかと」
「なるほどのぅ… 華琳や、確かにわしは知っておる。いや、想像がつく、と言った方がよいな。何しろ隠居して長いものでのぅ。しかし、これからわしの語ること、決して口外すまいぞ?」
「はい、曹孟徳の名に懸けて他言しないことを誓います」
「うむ…」
と祖父の語ったその内容には、私の知らなかった情報がいくつもあった。
王美人は娘を産んだ直後に病にかかり、数ヶ月後に他界していたこと。
母親を失った協様の養母に董太后がなったこと。
董太后は身分を重んじる人物であり、身分の低い者を蔑むところがあること。
そればかりか、自身の子である霊帝と男女の契りを結び、庶人の出でありながら寵愛を最も受けている何皇后を憎く思っていること。
「身分に拘る人間は少なくはない。金銭で売買できる官職に縋る愚か者どもじゃが、わしにはそれを非難する資格はない」
「そんな… お爺様にはそれだけの能力も伴っておりました」
「よいのじゃよ、華琳。…何皇后様も弁皇子様も、これからも色々と苦労されるじゃろう。隠居したわしに代わり、華琳や、お主が支えておくれ」
「…お爺様の願い、必ずやこの曹孟徳が果たしましょう」
「うむうむ。努々頼んだぞ」
これで事情は把握できた。このことは誰にも、朝陽にも語ることは出来ない。
私に出来ること、やらねばならぬ事、もう一度胸に刻みつけよう。
「では、私はこれで失礼いたします」
「……もうしばし、話を聞いてゆかんか?」
祖父に礼をいい、戻ろうとすると呼び止められ、祖父が耳打ちをはじめた。
「……………わしもそう長くはない。このまま墓まで持っていこうと思っておったが、お主に託そうと思う。それをどうするかはお主が決めるがよい」
「……どのようなことでしょうか?」
「うむ。…」
耳打ちされた話の内容に私は驚きを隠せなかった…………
<~回想終了~>
「気を取り直したところで、今日の授業はここまでにしましょう」
「えっ?でも…えっ?」
「今まで1年以上教えてきたわね。どこまで身についているか試験してみるわ」
<<ドサッドサドサッ>>
用意しておいた竹簡を机に置く。
「げっ!マジで?」
「まじ?本気という意味だったかしら?勿論マジよ。少し用があるのから出るけれど、戻るまでに終わらせておくこと、いいわね?」
「はい…… うぅ…試験なんてもう縁がないかと思ってたのに…」
聞き取れないけど暗い顔でなにやらブツブツ言っている。
まぁ半分も回答出来ればいい方でしょうね。
あの問題は、お爺様に頼んで入手した、実際に州牧の元に寄せられた住民の陳情や案件。
実際の州牧でも難しい内容の物を、3歳の子供が解決したとなったら面白いけれど、ね。
さて、私は私のすることをしましょう。
まずは、呼び寄せておいたあの娘たちのところへ。
部屋へ入るや否や人影が飛びかかってきた
「華琳様ぁ~~~~~~~~っっ」
「こら姉者、いきなり飛びかかる奴があるか、華琳様が驚かれるだろう」
「うっ… だって最近お会いできなかったから…」
「姉者が失礼を、申し訳ありません華琳様」
「いいのよ、秋蘭。これが春蘭の可愛いところじゃない」
「ふふ、確かに。…よかったな、姉者」
「かりんさまぁ~~~~♪」
「はいはい。春蘭、落ち着きなさいな。…春蘭、秋蘭、貴女達にちょっと頼みたいことがあるのよ」
「「はい、何なりともお申し付けください」」
「あのね………」
さて、これでよし。…次は麗羽ね。部屋にいるかしら?
「あら華琳さん、こちらへいらっしゃるなんて珍しいですわね。何か御用ですの?」
「ええ、麗羽。…でもその前に、ひとつ尋ねたいことがあるわ」
「なんですの?もったいぶるなんて華琳さんらしくありませんわよ?」
「そうね…、ねぇ麗羽、…あなた朝陽のこと… 好き?」
「な! 突然なんですの?///」
「…あ~、愚問だったわね。もう分かったからいいわ。本題に入るわね…」
「わかったですって?一体何だとおっしゃるのですか…まったく、華琳さんはいつもいつも…」
ブツブツ文句を言う麗羽にお構いなく、私は用件を告げた。
「…そういうことでしたの… 事が発覚すれば、私たちは勿論私たちの一族、家臣団にまで影響が及びますわよ?」
「ええ、分ってるわそんなこと。だから聞いたでしょう? 朝陽のことが好きかって」
「全く…、華琳さんはどうなんですの?朝陽様のこと」
「朝陽、霊帝、何皇后様。あの親子の在り方、美しいと思うわ。だから好きよ。彼らの為になら命を賭けることが出来るくらいには、ね」
お爺様がおっしゃっていた話、思い返せば胸が熱くなる。
返事をすると、麗羽が少し考えた様な仕草をした後、ニヤリと笑みを浮かべて
「あら、華琳さんも素直じゃありませんわね。『彼ら』ではなく、『彼』の為でしょう?」
「///!! な、なによ… 悪い?」
不覚にも図星を衝かれ動揺してしまった。
「いいえ… ではあの方を慕う者同士、共犯と参りましょうか」
「…そうね。失敗は許されない。頼むわね」
「ええ、華琳さんからの頼まれ事なんてそうあるものではないですもの、キッチリこなしてみせますわ」
………さて、次は…と、
それからも数人の協力者を募り、日が暮れようとした頃、私は朝陽の部屋へと戻った。
「あらあら、そんなに難しかったかしら? …で、終わったの?」
「お、おかえりなさい… 華琳お姉ちゃん…うぅ…」
部屋に入ると机に突っ伏し頭から湯気を沸かせている朝陽がいた。
声を掛け、竹簡を手に取りみてみる。
「………?…ふむ…え!? …なるほど… あら!?」
驚いたことに、全ての問題に回答がされてあった。しかし、驚いたのはそれだけではない。
「朝陽?ちょっと確認したいことがあるのだけれど?」
「う、うん」
「この問題『夫を戦で失い、働きたくても畑もなく、生活する糧が得られないと女性から寄せられた陳述』への回答なのだけれど」
「何か間違えた…かな?」
「『国で大きめな施設を建て、一例として機織り機など設備を整え、名人とされる職人に監督させ、働き口のない女性を雇い織物を生産する』とあるわね?詳しく説明なさい」
「うん、従来だと優れた職人が良い品を少量生産できるだけだったでしょ?でもその人に監督してもらって、皆に技術を普及してもらえれば生産量もぐっと増えるし、働き口の増加にも繋がると思うんだ。安定すればこの地方の名産品として商人も買いに来るだろうし、街全体の活性化にも繋がるんじゃないかと思って」
「…そんなこと、私は教えた覚えはないわよ?」
「…う。 …その…ごめんなさい…」
謝る必要などない。普通この場合なら、この女性の住む地区の長老に面倒をみさせて終わりにする。実際そうされたでしょう。
この発想は一体どこから出たのかしら?
この案は施設や設備への出資を考えても、相当の魅力がある。
うまく行けば意欲のある者ならば誰でも働けるし、国庫も潤う。監督となる者の技術提供には相応の給金を出せば問題ないだろう。
「…いいわ、ではその次『荒れた土地を有効利用する方法』への回答、『牧草を育て、牛、馬、羊、豚等の家畜を飼育する。家畜の排泄した糞尿は捨てずに熟成させ、痩せた土地の土と混ぜ合わせ、作物を作る。その際の畑の形は全て均一化する』とあるわね?これも説明なさい」
「うん…。家畜を育てるって言っても広大な牧草地があれば、殆ど勝手に育ってくれると思う。猛獣なんかに襲われないように囲いだけ作ってやればね。家畜は乳が取れたり、食用になったり、毛皮を使った製品なんかも作れる。馬なら軍馬になるね。糞尿には栄養があるから、牧草も育つし、土に混ぜれば肥えた土壌が出来ると思うんだ。畑を均一化するのは収穫量を計算しやすくするためだよ」
「猛獣の来襲を囲いだけで防げるのかしら?それに、どのくらいの広さかは分からないけれど、囲うだけでも相当な重労働よ?費用もばかにならないわね」
「う~ん… そうだ、狩猟を生業としてる人達なら猛獣にも詳しいよね?その人達を警備隊として雇ったらどうかな?もっといい案が出るかもしれないし。囲うのは…囚人の労働としたらダメかな?兵士の訓練がわりとかでもいいかも。材料は開墾するときに伐採する木材をそのまま流用すれば安く上がりそうだし、人件費もかからないと思うんだけど」
興奮で震えてくる… この子の発想に今までの常識が壊されていく。
一体この子は何者なの?帝は天子というけれど、まさか本当に天の子なのでは?そう思わずにはいられないわ。
もっと話を聞きたいけれど、今はそれほど時間が取れない。日はとうに暮れている。
「正直驚かされたわね、こんな発想をするなんて。他の回答も気になるけれど、それはまた今度にしましょう。今は少し時間が惜しいわ」
「…なにかあるの?」
「ええ、朝陽、貴方に聞いておきたいことがあるの。正直に答えて頂戴。 …協様と会いたい?」
「…え? そ、そりゃまぁ、会えるものなら会いたいよ。でも…」
「そう… じゃあ会わせてあげる」
「ど、どうやって? とと様に頼んでも会わせてもらえないのに」
「簡単なことよ?普通にやってもダメなら、普通じゃない手を使うの。………今夜、協様を誘拐するわ」
「…へ? ……………えぇぇぇぇぇぇぇぇええええええええ!!!!!!」
ふふふ、驚いてる驚いてる。 目を見開いて驚く朝陽を見て満足し、私は一人ほくそ笑んだ。
続く
<あとがき>
うぅ…やっちゃいました。この後の展開決まってないのに書いてしまった…どうしよう?
勝手に動く手が恨めしい。
でもこういうとき、昔の人はいい言葉を遺してくれたものです。
──────三十六計逃げるに如かず──────
ε=ε=ε=ε=┌(;>ω<)┘ニゲロー
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北郷一刀が弁皇子に憑依転生する話です
今回は華琳視点でいってみました。