No.87687

魔術士オーフェン異世界編④~キリランシェロの休日~

第四弾です。キリランシェロの一日について描きたいと思います。

2009-08-02 00:08:25 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:10804   閲覧ユーザー数:9187

「―――ふっ!」

「わぁぁぁぁ!?」

今日も今日とて機動六課の室内練習場に色気のない少女の悲鳴が響く。そして衝撃音。スターズ分隊に所属するスバル・ナガシマは格闘術指導教官として入局したキリランシェロを相手に組み手をしていたのだが、毎日のように衝撃を吸収するために敷かれたマットに投げ飛ばされているのである。

「これでスバルさんの0勝98敗・・・100敗まであと2つですね」

「エリオ・・・あんた数えてたの?」

壁際の2人―――オレンジの髪の毛をツインテールにしたティアナ・ランスターと赤毛の10歳くらいの少年、ライトニング分隊所属のエリオ・モンディアル三等陸士はのほほんとそんな会話を繰り広げていたが、2人はマットに寝転がっている。これは別にさぼっているわけではなく、2人もキリランシェロに挑んだのだが、あっさりと敗退し、ダメージが大きすぎて起き上がれないのだ。

「でもこれでキリランシェロさん、手加減してるんですもんねー」

そう、キリランシェロは思いっきり手加減をしている。はやてが格闘術指導教官として彼を任命する時、本局の人間が反対したのだ。曰く「こんな実績もない子供に教官が務まるのか」と。それならばということではやてはキリランシェロと本局が選んだ格闘術指導教官候補数名を対決させたところ、全員が開始3~5秒で戦闘不能に陥ってしまったのだ。

こうして本局の人間を黙らせたのだが、全力で戦闘訓練をさせるとメンバーが使い物にならなくなると判断したはやては、キリランシェロに力をセーブするよう命じたためキリランシェロは10%も力を発揮していないのである。そのキリランシェロはどこで自分の戦闘訓練をするのかというと―――

「はぁぁぁぁ!」

「くっ!」

エリオとキャロが所属するライトニング分隊を率いるシグナム副隊長を相手に深夜、屋外訓練場で行っている。

「はぁっ!」

「ぐっ!」

シグナムの素早い攻撃を懸命に回避しながら戦っていたキリランシェロだったが、彼女のひざ蹴りが鳩尾に直撃。もんどりうって倒れたキリランシェロに覆いかぶさり、シグナムは武器であるレヴァンテインを首筋に突きつける。

「これで私の4勝7敗、か」

「ごほっ、ごほっ・・・てゆーか、数えてたんですか・・・」

彼女に剣を突き付けられていても、とりあえず突っ込んだキリランシェロ。

「お前から勝ちを奪うのは難しいからな。5連敗のあとの初勝利の日からずっと数えているぞ」

よほどキリランシェロを抑え込んだのが嬉しかったのか、しばらくシグナムが彼を組みふせていると―――

「シ、シグナム!あなた何してるの!?」

「なのはこそなにをしているのだ?バスケットなど持って。御自慢の手料理で若奥様よろしく新人君の胃袋を鷲掴み、と言う訳か?」

現れたのはなのはだった。なにやら体の前にバスケットを下げている。

「ちちち、違うよ!若奥様なんて・・・私はただ、キリランシェロ君が戦闘訓練してお腹すいてるんじゃないかなーって思っただけで・・・!」

シグナムは悪戯っぽく笑い、あげ足を取り始める。

「おや?キリランシェロだけか?私にはくれないのかな~?」

ニヤニヤ笑うシグナムに、顔を真っ赤にしたなのはは「もうっ」と怒り、キリランシェロを助け起こしていたシグナムにバスケットを押しつけて走り去って行った。

「少々からかいすぎたかな」

「え?」

キリランシェロが機動六課に来て経過し、初めての休暇日となったこの日、彼はズボンにTシャツと夏(季節は夏という設定です)らしい服装で公園のベンチに腰掛けて散歩の途中にあった本屋で購入したイギリスという国の有名私立探偵が活躍する推理小説を読んでいた。

「ねぇねぇ、あの人かっこよくない?」

「うん、でもあんまりみないひとだよね~」

ティーンエイジャーの少女達がキリランシェロの前を通り過ぎながらささやき合う。

(そんなにカッコいい人がいるのかな?)

本から目を外さずにそんな事を思ってみるが、少女達の視線はキリランシェロに向けられていたのである。

実のところ、キリランシェロはモテる。『牙の塔』にいた時も、彼を慕う少女は少なからずいた。むしろ多かったとも言えるだろう。ただ恋する少女達に二の足を踏ませたのは『塔』の生徒の中で最強の称号を持つキリランシェロの姉―――アザリーとレティシャの存在である。

『キリランシェロ君と仲良くしたいけど、2人の姉が怖すぎる―――』

少女達の複雑な心情にキリランシェロ自身の鈍感具合も手伝って、彼が彼女らの感情に気がつく事は無かったのだ。

物語も中盤に差し掛かったころ、ベンチで読書にふけるキリランシェロの背後に忍び寄る人の気配。そして

「だ~れだ?」

手のひらで目をふさがれた。視界が閉ざされるなか、キリランシェロは冷静に呟いた。

「・・・はやて、本が見えないんだけど」

「え~ん、キリランシェロが冷たい~」

キリランシェロの背後に立って泣き真似をして見せるのはキリランシェロの雇い主である八神はやて。今日はいつもの茶色を基調とした制服ではなく、白を基調にした可愛らしいワンピースを着ており、周囲の男性達の視線を独り占めにしている。

「どしたの、はやて。そんなおしゃれして・・・」

(う~!キリランシェロのニブチン!誰の為にこんなカッコしとると思うとんねん!)

後輩の思わぬ鈍感ぶりに少し悲しくなるが、そこは持ち直す。

「キリランシェロが暇してるって聞いてな。買い物付き合ってくれへんかなーって思って探しとったんよ」

「ふーん・・・まぁいいよ。行こうか」

ポケットに小説をねじ込んだキリランシェロは立ち上がって歩きだす。はやては彼を追って小走りで駆けだし、腕をとる。

「ちょっと・・・」

抗議をしようとするキリランシェロを遮って、はやては楽しそうに言う。

「まぁいいやん。気にせんといこーや!」

「・・・まぁいいけどね」

腕を組んで仲睦まじく歩きだした2人を羨ましげに見つめていたが、それに気がついたのは腕を組んでいるはやてだけだった。

(ふふん、ウチらのキリランシェロをあんたらに渡せるかい!さてデートやデート♪)

上機嫌のはやてはスキップするようにキリランシェロをデパートへ引っ張って行った。


 
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